FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授
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第一次安部政権から足かけ7年続いている日豪EPA(経済連携協定)交渉が、合意に近づいていると報道されています。
(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130407/fnc13040721310003-n1.htm
(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXDASFS0601B_W3A400C1MM8000/
記事によると、オーストラリアは自動車の関税を維持、日本はコメの関税を維持しつつ牛肉などで低関税の輸入枠を設ける、という内容のようです。他の分野でどんな内容となっているか分かりませんが、TPPをにらんで急ぎ足に交渉をまとめようとしているのは間違いないところでしょう。TPP交渉参加には、オーストラリアの支持が必要だからです。
それにしても、この記事だけだと日本にどんなメリットがあるのか、よく分かりません。自動車関税が維持されてしまうと、TPP交渉でもやはり同様の主張を各国からされてしまうでしょう。日経新聞の記事には「資源国の豪州と連携し、燃料の石炭や液化天然ガス(LNG)の調達を確実にする」とありますが、オーストラリアは中国などともFTA交渉を進めており、日本だけが享受できるメリットではなさそうです。
また「豪州から安い農産物が流入すれば、パンや麺類、牛肉などで値下がりが期待できる」とありますが、これもおかしな話です。確かに、安い農産品の流入は消費者にとっては得かもしれませんが、日本の農業はどうなるのでしょう。それにもし、安い食料品だけを求めるなら、FTAやEPAといった面倒な交渉など抜きに、明日から関税をゼロにしてしまえばいいのです。これは日本政府の権限でできる話で、相手国の承認など必要ありません。
FTAで問題になるのは、自分のガードを下げるかわりに相手のガードの何を下げるのか、です。自分のガードを下げて得られるものは、交渉の成果ではありません。交渉の成果は、あくまで相手のガードをどこまで下げることができたかで、計られるべきものです。今回の交渉で得られるものが、ただ「TPP交渉参加のお墨付き」だけだとしたら、先が思いやられます。
仮に日本がTPP交渉に進んだとしても、自動車の関税撤廃のように日本の欲しいものは、相当高く売りつけられることになるでしょう。それでもTPPに突き進むのだとしたら、そこにどんな勝算があるのか、交渉によって何を得ようとしているのかを国民に説明する責任が、政府(や推進派)にはあります。
こうした交渉の現実を考えると、「自由貿易協定」という名前がいかにミスリーディングかが分かります。どの国も、本当の意味で自由貿易を求めてはいません。すこしでも自国に有利になるよう、手練手管を駆使しています。だからFTAの本質は自由主義ではなく、自由貿易の名を借りた重商主義です。
そして重商主義は、長期的にみて必ず国家間の対立を深める、というのが歴史の教訓です。今のFTAブームは、そのうち世界のあちこちで反動を生み出すことになるでしょう。重商主義を批判してやまなかったアダム・スミスなら、きっと今の状況を嘆いたに違いありません。
PS
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【柴山桂太】FTAの本質への1件のコメント
2013年4月13日 3:34 AM
>だからFTAの本質は自由主義ではなく、自由貿易の名を借りた重商主義です。この点は以前から疑問を感じていたのですが、TPPをはじめとした自由貿易協定は国境の壁をなくす、あるいは小さくするという意味ではグローバル化に見えますが本質はほとんど重商主義ですよね。しかも国境を越えるビッグビジネスによる国家の弱体化も同時に進んでいるように感じます。
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