アーカイブス

2013年4月12日

【柴山桂太】FTAの本質

FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授

————————————————————

●三橋経済塾が4月の新規塾生を募集します。

⇒ https://m-keizaijuku.com/

ただ今、無料仮登録を受付中。お申込みは、今すぐ!

————————————————————

第一次安部政権から足かけ7年続いている日豪EPA(経済連携協定)交渉が、合意に近づいていると報道されています。

(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130407/fnc13040721310003-n1.htm

(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXDASFS0601B_W3A400C1MM8000/

記事によると、オーストラリアは自動車の関税を維持、日本はコメの関税を維持しつつ牛肉などで低関税の輸入枠を設ける、という内容のようです。他の分野でどんな内容となっているか分かりませんが、TPPをにらんで急ぎ足に交渉をまとめようとしているのは間違いないところでしょう。TPP交渉参加には、オーストラリアの支持が必要だからです。

それにしても、この記事だけだと日本にどんなメリットがあるのか、よく分かりません。自動車関税が維持されてしまうと、TPP交渉でもやはり同様の主張を各国からされてしまうでしょう。日経新聞の記事には「資源国の豪州と連携し、燃料の石炭や液化天然ガス(LNG)の調達を確実にする」とありますが、オーストラリアは中国などともFTA交渉を進めており、日本だけが享受できるメリットではなさそうです。

また「豪州から安い農産物が流入すれば、パンや麺類、牛肉などで値下がりが期待できる」とありますが、これもおかしな話です。確かに、安い農産品の流入は消費者にとっては得かもしれませんが、日本の農業はどうなるのでしょう。それにもし、安い食料品だけを求めるなら、FTAやEPAといった面倒な交渉など抜きに、明日から関税をゼロにしてしまえばいいのです。これは日本政府の権限でできる話で、相手国の承認など必要ありません。

FTAで問題になるのは、自分のガードを下げるかわりに相手のガードの何を下げるのか、です。自分のガードを下げて得られるものは、交渉の成果ではありません。交渉の成果は、あくまで相手のガードをどこまで下げることができたかで、計られるべきものです。今回の交渉で得られるものが、ただ「TPP交渉参加のお墨付き」だけだとしたら、先が思いやられます。

仮に日本がTPP交渉に進んだとしても、自動車の関税撤廃のように日本の欲しいものは、相当高く売りつけられることになるでしょう。それでもTPPに突き進むのだとしたら、そこにどんな勝算があるのか、交渉によって何を得ようとしているのかを国民に説明する責任が、政府(や推進派)にはあります。

こうした交渉の現実を考えると、「自由貿易協定」という名前がいかにミスリーディングかが分かります。どの国も、本当の意味で自由貿易を求めてはいません。すこしでも自国に有利になるよう、手練手管を駆使しています。だからFTAの本質は自由主義ではなく、自由貿易の名を借りた重商主義です。
そして重商主義は、長期的にみて必ず国家間の対立を深める、というのが歴史の教訓です。今のFTAブームは、そのうち世界のあちこちで反動を生み出すことになるでしょう。重商主義を批判してやまなかったアダム・スミスなら、きっと今の状況を嘆いたに違いありません。

PS
今日の話をより突っ込んで知りたい方は、
柴山桂太「静かなる大恐慌」を参考にしてください。
大恐慌に突入した世界で、日本がどう生き残るべきかを解説しています。
amazonで星4.5個の評価がついています。
http://amzn.to/V42zOt

関連記事

アーカイブス

【三橋貴明】政策金利と国債金利

アーカイブス

【藤井聡】維新・改革は、緊縮を通して「災い」をもたらします。

アーカイブス

【三橋貴明】スウェーデン・ショック

アーカイブス

【三橋貴明】経済学者がとんでもなく「バカ」という話

アーカイブス

【三橋貴明】貨幣を理解していない二人の経済学部教授

【柴山桂太】FTAの本質への1件のコメント

  1. 名前はまだ無い より

    >だからFTAの本質は自由主義ではなく、自由貿易の名を借りた重商主義です。この点は以前から疑問を感じていたのですが、TPPをはじめとした自由貿易協定は国境の壁をなくす、あるいは小さくするという意味ではグローバル化に見えますが本質はほとんど重商主義ですよね。しかも国境を越えるビッグビジネスによる国家の弱体化も同時に進んでいるように感じます。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三宅隆介】お彼岸に思う_自国語が未来を形づくる力

  2. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】高市早苗氏、総裁選、出馬へ――「積極財政」か...

  3. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【偽善医療】 私達の暮らしにかかせない「医療...

  4. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】<石破が「ジリ貧」なら進次郎は「ドカ貧」総理...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】前代未聞の政治イベント

  6. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】石破は今、自身の延命のために「解散」や「総総...

  7. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】経済、安保、政治における現下の日本あらゆる問...

  8. 日本経済

    【三宅隆介】介護の市場化が招いた危機_デイサービス倒産...

  9. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】石破政権側の陰湿な「圧力」に対抗すべく、国民...

  10. 日本経済

    【三橋貴明】財務省の狂気

MORE

タグクラウド