政治

2018年5月15日

【竹村公太郎】定点観測、新人研修

From 竹村公太郎@元国土交通省/日本水フォーラム事務局長

国家公務員の新人研修

国家公務員に採用された新人たちは、
5月から2カ月近く長期の
新人研修を受ける。

この研修で私は講師を
15年以上続けている。

この場は私にとって、
若者の定点観測になっている。

面白いことに新人たちの雰囲気は、
年ごとに微妙に異なっている。

講師を担当した最初の数年は、
何となくその微妙な差を
感じていただけだった。

しかし、決定的にそれに
気が付かされたのが、
2011年の東日本大震災直後の
研修であった。

明らかに研修生たちは
自己抑制的であった。

意見表明も例年に比して
はるかに少なかった。

溌溂と自己を表現する以上に、
ともかく先輩の話に耳を傾けよう
という姿勢であった。

これから自分たちが出ていく
日本社会はどうなっていくのか、
という不安感に包まれていた
のだろう。

社会人になる大学生が、
社会の波に影響されることは
頭では理解していた。

しかし、これほど現実社会が
若者に影響を与えているとは
理解していなかった。

それ以降、この新人研修の講義は、
私にとっての日本社会の
定点観測になった。

定点観測の尺度

定点観測には観測のための
一定の尺度が必要となる。

実は、その尺度は私の講義の
主題そのものになっている。

その尺度を研修生に向けて投げつけ、
反応を見ていく。

それが定点観測である。

定点観測の尺度、
つまり主題は何点かある。

まず、最初の主題は

「行政は社会のインフラ
(下部構造)」

を認識してもらうことである。

下部構造は上部構造の活躍を
支える役目である。

政治、産業、経済、文化芸術、
スポーツなどが上部活動となる。

それらの活動を下支え
するのが行政となる。

行政が上部活動の
プレーヤーになるのではない。

ここに行政独特の課題が
存在している。

つまり、

「下部構造の行政は、
国民に見えにくい。
だから、常に国民に説明する
強い責任がある」

ことだ。

国民に情報を公開し、
行政の役割と現状を
わかりやすく説明する。

この説明責任に向き合わない行政は、
不作為の作為であり犯罪でもある。

国民に見えないことをいいことに、
安穏としてはいけない。

的確にこの社会の状況と
方向を国民に説明していく。

説明は単なるPRや広報ではない。

ましてや、行政の
プロパガンダでもない。

この説明は高度な知的作業
とならざるを得なく、それに
対応するため知的レベルを
向上させなければならない。

これらを踏まえて、
最後の問いかけは難しくなる。

「自分が所属した行政機関への
忠誠心と、社会に対してなすべき
最善のことが対立することがある。
この葛藤にいかに対応していくか」

という設問である。

これは難しい。

「国民への奉公」という建前の
言葉では解決できない。

問題点と状況に応じて
選択する道は異なってくる。

各人は家庭を持ち、
子供を育てていく責任もある。

行政に従事する各人が、
各人の人生として選択を
していかざるをえない。

最後は教養

新人への最後の問いかけは、
研修生への私からのお願いとなる。
「教養を高めてくれ」である。

大組織において困難な状況を
乗り切っていくには、
一人ひとりが教養豊かで
なければならない。

教養豊かとは、
物知りのことではない。

知能指数でもない。

故・福田恒存氏が表現した

「教養とは、どんな人とでも
馬を合わせることができる」

ことだ。

言い換えると、謙虚で、かつ、
優れたコミュニケーション能力を
持つことである。

新人は、必ず私に質問する。

「その教養を身に付けるには
どうしたらいいのですか?」

これに対する答えなどない。

だから答えにならない答えとなる。

「本を読むこと。そして、
どんな分野でもいいからNPO、
同好会、市民活動に所属すること」

要は、自分の組織に
閉じこもるのではなく、様々な人が
様々な人生を送っていることを
身近に知る。

その人たちとの関わり合いで、
教養とは何か考え続けていく。

これが苦し紛れの答えになる。

今年度も6月に
講義を予定している。

財務省の佐川前国税庁官と
福田前財務相事務次官の
問題を避けることはできない。

その話を避ければ、
不作為の作為になってしまう。

単に本事案を否定する
だけではすむ話ではない。

どういう言葉が、
新人にとって支えになり、
励みになるのか。

今だに模索が続いている。

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【竹村公太郎】定点観測、新人研修への3件のコメント

  1. たかゆき より

    教養

    福田恆存の書籍を調べてみましたら、、

    『私の幸福論』「教養について」

    なにかを知るということは、身軽に飛ぶことではなく、重荷を負って背をかがめることになるのです。

    まずそれに気付くことが涵養かと、、、

    >「その教養を身に付けるには
    どうしたらいいのですか?」<

    おちゃらけで 質問なさっているなら 大物新人

    返信

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  2. ぬこ より

    自分より立場の弱い人間を見つけ、安全な立場から悦に入って社会分析に勤しむ。
    こうした賎民思想のエリートが日本を蝕んでるんだと思います。

    個人的体験では、英国人や英米に洗脳されたジャップにこの手の手合いを多く感じます。

    返信

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  3. 神奈川県skatou より

    >要は、自分の組織に
    >閉じこもるのではなく、様々な人が
    >様々な人生を送っていることを
    >身近に知る。

    素晴らしい示唆だと感じました。

    願わくば、仕事以外の活動で、ぜひ、一人でやらない、
    つまり自分のただしさが根拠で活動しない、
    人と人とが協調してはじめて答えを見つけ、創りだす
    経験というのも、大事にしてもらいたいと思いました。

    誰かが正しいと決めたことをする。
    前例やステレオタイプが根拠?
    自分の論理的展開で仕事をする。
    自分とちがう考えを臨機応変に取り入れられる?

    産業界も、アジャイル開発等、柔軟になりつつあります。

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