From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)
ところで、10月26日(土曜日)に公開シンポジウムを企画しています。
「ポスト・グローバル化時代の可能性――よりよき世界秩序をどう構想するか」というものです。
https://drive.google.com/file/d/10foVcoBlZAMv1trxnNBf9qlsVuMW_mqo/view?usp=sharing
基調講演は中野剛志さんです!
「ナショナリズムと資本主義の精神――渋沢栄一の『論語と算盤』」
という題目でお話しくださいます!!
シンポジウムは、科学研究費を受けて、私と柴山桂太さん、私の大学院の卒業生でいまは福岡市の精華女子短期大学で専任講師を務めている佐藤慶治さんの三人で行っている共同研究「世界秩序構想としての「翻訳」の意義に関する政治社会学的研究」の一環です。
英米では1980年代から、日本では1990年年代半ばから本格化した新自由主義に基づくグローバル化は、もう終焉を迎えつつあります。グローバル化で各国の普通の人々の生活環境はボロボロになり、社会はすっかり疲弊してしまいました。
米国のトランプ大統領の選出、英国のEU離脱、フランスの黄色いベスト運動など、欧米では、もう数年前からグローバル化路線に対する反発が顕著です。
日本でも来年の東京オリンピックが終わったあたりから、社会の疲弊がますます顕著になるでしょう。我慢強い日本人もさすがに耐えかねて、現在のグローバル化路線に対する疑念があちこちで浮上してくることになると予想します。
今回の共同研究は、そうなるであろう近い将来を見据えて、ポスト・グローバル化(グローバル化以後)の日本の国づくりや世界秩序のありかたを考えていこうというものです。
その際、「翻訳」という理念に着目します。現在のグローバル化路線の欠陥を是正するのに必要なものが、「翻訳」という理念に含まれているのではないかと考えるからです。
現在のグローバル化の背景にある見方では、人間は、文化や言語から切り離されうる存在です。人間は、文化や言語を自由自在に選べるようになるし、そうなるべきだと考えます。
「自由な人間」とは、生まれ育った文化(母文化)や言語(母語)の拘束から離れ、より普遍的で合理的な世界に暮らす存在だと考えられます。グローバル化の見方では、グローバルな市場やグローバル・ガバナンスといったもので作られている合理的な世界で暮らすことこそ、人間にとっての自由の実現だと考えるのです。
しかし、グローバリズムの背後にあるこの人間観は、当然ながら間違っています。
人間は、母文化や母語から切り離されうる存在ではありません。むしろ、母文化や母語のなかで育ち、それらをきちんと身に着けることによってはじめて一人前になる存在です。
もちろん、文化的適応力や言語能力に優れた少数の人々は、母文化や母語から離れ、外国で暮らしてもどうにかやっていけるでしょう。しかし、外国語を母語並みに操れるようになるには、優れた資質と長年の鍛錬が必要なように、外国の文化や言語のなかで十分にやっていくのは、とても困難なのです。(よほど天才的な言語能力を持っていない限り、外国語で、すぐれた小説や詩を書くことはまず不可能です)。
ごく一握りの天才は別として、大多数の普通の人間は、やはり母語や母文化のなかでこそ、自分の能力を磨き、発揮し、いきいきと生きていける存在です。
私は、グローバリズムの思想的な誤りとは、根本的には人間観のこうした誤りだと考えています。人間を、文化や言語から切り離されうる存在だと非現実的に想定してしまったことです。
ですので、ポスト・グローバル化の新しい国づくりや世界秩序づくりの構想は、人間とは自分たちの文化や言語から簡単には切り離せない存在だとみる、より常識的な人間観のうえに立つものでなければなりません。
そういう常識的な見方では、ひとり一人を自由にするには、その人の母文化や母語をできる限り豊かに、充実したものにする必要があります。
日本人が、自由自在に、日常的なことからノーベル賞級の難しいことまで考えたり、話したりすることができるようになるには、日本語が充実していなければなりません。つまり、日本語が多様で豊かな語彙や表現を備えていなければなりません。
日本語だけでなく言語一般に言えることですが、ある言語が多様で豊かな語彙や表現を備えるためには、翻訳が大切です。さまざまな国のさまざまなモノや考え方を表す語彙や表現を、自分たちの言語という土台のうえに、適切に取り入れ、位置づけていくことが必要なのです。つまり、翻訳が必要なのです。
これは、言語にかぎったことではなく、文化一般にも言えます。(ごくごく少数の天才ではない)普通の人々が、多様な経験をし、自分自身を磨き、いきいきと生きていくためには、自分たちの文化という土台を基礎に、外来のさまざまなモノや考え方、生き方を取り込み、うまく位置づけ、自分たちの文化を充実し、豊かなものにしていくことが必要なのです。
つまり、広い意味での「翻訳」(文化の「翻訳」)が大切なのです。
幸いなことに、我々の先人である過去の日本人は、伝統的に「翻訳」が得意でした。近代以前は、中国やインドなどから、さまざまな文化を学び、それを巧みに日本化してきました。近代以降は、国をあげて、欧米から多様な事柄を学び、日本化し、日本の文化を豊かにしてきました。一握りのいわゆる特権階級だけではなく、日本の多くの普通の人々が享受できるようにしてきました
「翻訳」の作業を通じて、多くの普通の人々がアクセスしやすい多様性を作り出し、日本文化を充実させてきたのです。
グローバル化で疲弊しきってしまった日本や世界を立て直すために、日本のいわば伝統的な知恵でもあり特技でもある「翻訳」に注目する必要があると考えています。「翻訳」こそ、ポスト・グローバル化の秩序構想のカギ概念なのです。
気が付けば長くなってしまいました…
f(^_^; )ポリポリ
ということで、「世界秩序構想としての「翻訳」の意義に関する政治社会学的研究」という共同研究をはじめました。
今回は、第一回目の公開シンポジウムです。
福岡ですので、なかなかお越しになることは難しい方が多いかもしれませんが、お近くの方はぜひお越しください。大きなホールですので、事前申し込みなどは特に必要ございません。
一応、プログラムの概要を下記にもテキストで記します。
どうぞよろしくお願いいたしします。
<(_ _)>
*****
公開シンポジウム
「ポスト・グローバル化時代の可能性――よりよき世界秩序をどう構想するか」
●日時:令和元年(2019年)10月26日(土)(開場13:30) 14時~17時
●場所:精華学園記念館大ホール(精華女子短期大学内) JR南福岡駅/西鉄雑餉隈駅から徒歩約11分。駐車場に限りがあります。公共交通機関をご利用ください。
●参加費:無料(事前申し込みは必要ございません)。
●プログラム
趣旨説明 施 光恒(九州大学)
「ポスト・グローバル化時代の秩序構想――本研究のねらい」
基調講演 中野剛志(評論家)
「ナショナリズムと資本主義の精神――渋沢栄一の『論語と算盤』」
パネル・ディスカッション
発題 柴山桂太(京都大学)
「グローバル経済の混迷と次世代の課題」
討議
中野剛志、柴山桂太、施 光恒、佐藤慶治(精華女子短期大学)
話題
「新自由主義で没落する世界」/「ポスト・グローバル化は建設的なものになりうるか」/「「翻訳」の意義と可能性」/「近代日本の国づくりと翻訳」/「日本が活力を取り戻すには?」など
●問い合わせ先:九州大学大学院比較社会文化研究院 施 光恒(せ・てるひさ)
se@scs.kyushu-u.ac.jp
092-802-5624(電話)
(科学研究費「世界秩序構想としての「翻訳」の意義に関する政治社会学的研究」(基盤研究(C)課題番号19K01475 研究代表者:施 光恒(九州大学))
*****
【施 光恒】公開シンポジウムのお知らせ(中野剛志氏来る!)\(^_^)/への4件のコメント
2019年10月11日 4:59 PM
題名
お長う ございますね、、
「世界秩序構想としての「翻訳」の意義に関する政治社会学的研究」
ほとんど 文章(失礼)
題名が長ければ長いほど
科研費って おりやすいのか しら、、
それは さておき
ポスト・グローバル化
日本の場合 いつからが ポストになるのでせう
「新撰組」が「安 長州」の首を刎ねたときか
日本がG7から 外されたときか
それともシナの属州になったときか
ポストの先には どのような地平が
開けるのか
ワクワク ドキドキの
毎日を愉しんで おり マウス ♪
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2019年10月11日 10:49 PM
今の大学ってどこもかしかもグローバル人材だ
グローバル化だ~とかグローバル化する事が絶対良い事だみたいに
考えてる中、施先生のような考えや大学自体もそういう考えは間違ってるんじゃないかというのは大切な事だと思います。
グローバル化する事だけが正しいみたいな大学だけになるのは不幸な事です
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2019年10月12日 9:31 AM
率直に安倍政権の姿勢は、どこぞに忖度してへつらう朝日新聞と差ほど変わらない極めて愚劣な姿勢だから、その事もきちんと大衆に向けて何卒、講演で明らかにされますようお願いします。それに安倍政権のトップスリーが、とてつもなく貧しくて乏しいから事態が一向に進展しないわけです。まあ所詮、山内昌之レベルをブレーンにしてますから、はなしにもならないわけです。なので早急に安倍政権に代わる政権を模索するべきです。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2019年10月12日 12:50 PM
施先生のコラムは本当にいつも読み応えあって読んでいると嬉しくなってきます。「そうだ、うん、うん」という感じで。同じ反グローバリズムに関してでもそこいらの画一的ブロガーとはやはり一味違いますね。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
コメントを残す
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です