From 藤井聡@京都大学大学院教授
安倍総理は今月25日の官邸での記者会見で、改めて「解散」を宣言しました。そしてその中で、消費増税を予定通り行うこと、ならびに、その税収の「使途変更」を訴え、その是非を選挙を通して国民に問うという考えを示しました。
この点について、総理は次のように会見で発言しています。
「現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円あまりは、借金の返済に使うこととなっています。
・・・この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と、社会保障の安定化にバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求して、増税分を借金の返済ではなく、少子化対策などの算出により多くまわすことで、3年前の8パーセントに引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます。」
http://logmi.jp/237319
この総理発言から、
1)全額を支出に回すわけではない、
2)教育と社会保障以外に回すわけではない、
3)この使途変更をしたところで、景気への悪影響がなくなるわけではない(と総理が考えている)
という三点が明確に理解できます。
では、実際、どの程度を「謝金返済」に回し、どの程度を「支出」に回すのかといえば、以下の総理発言から、「五分五分」であるということが分かります。
「消費税率を引き上げた際に、いわゆる『借金返し』と、少子化対策や子育て支援に使うのをおおむね半々にする」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170925/k10011155941000.html
前回、本紙で、増税するなら、次の三つのオプションがあること、
A.増収分で借金返済
B.増収分を教育・社会保障のみに支出
C.増収分でワイズスペンディング
を指摘しました。そして、これらの中で、景気に対して最悪なのがA.で、少しマシなのがB.、一番マシなのがC.だと指摘しました。
https://38news.jp/economy/11094
だとすると、今回の総理方針は、「最悪のA.」と「少しマシなB.」を足してちょうど2で割った、「最悪に近い折衷案」ということになります。仮に、Aを0点、Bを30点、Cを50点とするなら(もちろん、満点は100点を想定しています)、その折衷案はわずか「15点」に過ぎないということになります。
とは言え、15点といえども「0点」よりはマシなので、当方としては、以下のように「一定の評価はできる」と言わざるを得ないものと考えています。
https://jp.reuters.com/article/focus-tax-fiscal-discipline-idJPKCN1C011A
しかし恐るべきことに、この「15点」の内容でも「過剰な積極財政だ」と批判し、「全額を借金返済に回すべし」という「0点の答案」を声高に叫ぶ方もおられます。
『政府の財政制度審議会で会長代理を務める池尾和人・慶應義塾大経済学部教授は、増収分の使途変更によって財政健全化が遅れ、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、社会保障サービスのカットを迫られるなど、財政問題がさらに深刻化しかねないと警鐘を鳴らす。」
このご主張は、これほどの「木を見て森を見ず」の議論は珍しい、という水準のご主張だといわざるを得ません。
そもそも「増税して借金返済に回す」ことを繰り返したことで、デフレが深刻化し、
税収が大幅に縮小したというダイナミズム(実証的理論的な詳細はコチラをご参照ください→https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323)を、
学者であり、かつ政府の審議会会長代理のお立場であるにも関わらず全く理解しておられないご様子には、少なくとも筆者としては、ただただ閉口するしかありません。
(※ もし、尾池教授が筆者のこの指摘に対して「学者」として理論的かつ実証的に
ご反論されたいのなら、当方もしっかりと勉強したいと考えますので、私信、公言問
わず、ご指摘いただきたいと思います。)。
しかも、日本経済新聞の「隅田川」氏に至っては、ご自身が大学教授にでもなられた想定で、「0点の回答」を「100点」とする一方で、「100点の回答」を「0点」と断罪するという、恐るべき記事を配信しておられます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21270070Z10C17A9EN2000/
つまり、この記事も上述の尾池教授も、筆者がこれまで様々な記事や書籍で主張してきた「実証データ」(例えば、https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323)や、クルーグマン教授やスティグリッツ教授の議論(https://goo.gl/QNEQkd)が示す「積極財政こそが財政再建をもたらす」という理論的・実証的主張を、学者やエコノミストとして何ら反論することなく完全に無視し、ただただ「積極財政は財政を悪化させる」というイメージ論とも言い得る主張を繰り返しているに過ぎない───と判断せざるを得ないのです。
その結果、「15点」にしか過ぎない「半分を借金返済に回す」という対策が「政府の財政を悪化させる不条理な財政拡大主義」のように喧伝され、「0点と15点の戦い」という恐るべき低レベルの戦いが、メディア上で繰り広げられている、というのが我が国の悲しき現実です。
───このままでは、日本のデフレは永遠に終わることはないでしょう。
そして、我が国は、過去20年間継続させてきた「断トツの世界最低の成長率」を将来にわたって継続させ、小国化、後進国化していく他ないでしょう(下記グラフを、改めてじっくりとご覧になってください)。
───そんな中、筆者が「不条理な炎上」を繰り返してきたことについて様々に批判を差し向けてきた小池氏(https://www.amazon.co.jp/dp/4166611283)が新党の代表となり、そして、筆者が主張し続けてきた「デフレ脱却までの増税凍結」を声高に主張するに至っています。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFB25HKJ_V20C17A9L83000/
もしも政府と国会で、実証データに整合する理性的議論が重ねられてきたのならば、(理性的ポピュリズムあらざる)安易かつ不条理なポピュリズムの流れの中で「積極財政」が叫ばれ始めることもなかった筈なのです───こうした事態が無批判に繰り返されるのなら、日本は国政における理性をあらかた失ってしまうことになるでしょう。
政府と国会における「理性」が再び活性化されんことを、そしてそれを支える国民世論がいくばくかでも広がりを見せんことを、祈念したいと思います。
追伸:この最悪の議論状況の中で、具体的に実行可能なデフレ脱却に向けた細い一筋の道は、「大型財政政策の数か年の継続的断行」の他にありません。下記記事を是非、ご一読ください。
https://jp.reuters.com/article/fujii-tax-japan-idJPKCN1BX0VO
https://38news.jp/economy/11094
【藤井聡】続「消費増税解散」 増税をめぐる「超低レベル論争」と「炎上政治の台頭」への7件のコメント
2017年9月26日 10:11 PM
「新」経世済民新聞や月間三橋での勉強を始めてから約1ヶ月になります。通勤電車の中で、まず日経電子版を読んでから「新」経世済民新聞や月間三橋で学ぶ毎日ですが、この1ヶ月で日経の読み方がガラッと変わりました。今日、藤井先生が「恐るべき記事」と断じられた日経・隅田川氏の大機小機、2ヶ月前の私であれば間違いなく賛同していたはずですが、先週読んだ瞬間「これって三橋先生が仰っていることと間逆では?」と即座に反応できました。と同時に、これまで一定の信頼を置いて毎朝読み続けてきた日経新聞でもこうなのか、と意識を改めさせられました。経済に関してこれほどまでにスッと腹落ちできる説明を毎日聞く/読ませていただき、自分の中に浸透してきているのを実感しています。今後ともよろしくお願いいたします。
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2017年9月26日 11:03 PM
消費税が害悪でしかないことはもっと簡単に説明できる。
1.法人税と二重課税になっていることにより法人税収を削るだけであって財源にはならない。
2.仮に財源になっていたとしても財政健全性の指標に「分母分子から同値を引く」消費税課税の操作をすればわかるように「GDP<債務残高」の状況ではお題目あるいはイイワケに反して財政を不健全化する。日本の消費税は消費税はGDP税であるから単純計算できるし回避の余地もない。記事のA,B,Cとも全てはマイナス点のうちのものだ。
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2017年9月26日 11:05 PM
小池氏がにわかに人気取りで語り始めた増税凍結を本当に実行できるならば現政権よりまともだと考えざるを得ません。
しかし安倍総理も1年目までは公約どおり財政拡大していたんですよね。それが消費増税と緊縮財政にいつの間にか変節してしまった。それでデフレ続行失われた30年目ですよ。だから少なくとも政権に就いて積極財政と増税阻止を実行してデフレ完全脱却するまではとうてい同じ轍を踏まないとは思えない。この20年ものデフレは生半可な積極財政の決心では人気取りだけでは実行継続できないでしょう。どの隣国も日本が再び息を吹き返すことを望んでいないでしょうし。
それでも現政権が消費増税を勝手に決めて失われた30年が確定してしまうより、どんな形であれ時間稼ぎでもひとまず増税阻止できる方が状況がマシなのは確かでしょうね。
我が国は、過去20年間継続させてきた「断トツの世界最低の成長率」を将来にわたって継続させ、小国化、後進国化していく他ないでしょう(下記グラフを、改めてじっくりとご覧になってください)。
この恐るべきグラフをすべての国民が見るのならこの国の異常すぎる20年のデフレという狂った病状に気づかないわけはないでしょうに。気狂いの国家、自殺志願国家という状態です。
将来の日本人を正気に戻すため何が出来るでしょう。
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2017年9月27日 6:26 AM
藤井先生の言うことも分かりますが結局こういう事態
招いたのは、安倍総理自身じゃないじゃないでしょうか
プライマリーバランス亡国論の本に安倍総理はコメント寄せてますが結局安倍総理は実際の政治には反映してこなかった
就任当初の政策から大幅にずれてしまったし、デフレ脱却も財政出動も中途半端、今回の増税も増税分全額使わずに
やっぱり借金に半分返すという中途半端っぷり
正直安倍総理の限界を見た感じがします。
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2017年9月27日 7:29 AM
藤井先生の指摘する増税をめぐる超低レベル論争はその通りだと思います、日経の記事も含めて。ただ安倍総理はその論争に乗ってしまいました。
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2017年9月28日 12:21 AM
恒常風も季節風も、どちらも風だ。
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2017年10月16日 5:59 AM
藤井聡さんの主張には殆ど賛同するんですが、安倍政権の経済政策が15点というのが納得いきません。
増税した分をそのまま全額財政支出してもそれでやっとプラスマイナスゼロではないですか?
そこで緊縮も行われたらマイナスにしかならない。
それに財政支出されたとしても増税は全国民が同じ負担をしても
財政の恩恵は全国民が受けるわけではなく、格差拡大する
可能性があると感じます。
さらに増税されてその後減税の話が過去政権から出た事がほぼないのも気がかりです。
増税&緊縮の可能性の高い安倍政権より、増税凍結&緊縮の希望の党の方がまだ経済悪化の原因の特定が容易で増税に歯止めが
かかる分マシな可能性すらないでしょうか。
希望が0点だとして、安倍政権が15点もあるようには思えません。
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