政治

2017年6月27日

【藤井聡】「週刊新潮」で訴えた「PB亡国論」 ~動き始めたPB撤廃シナリオ~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

今週号の週刊新潮に寄稿した原稿が、

【特別読物】
借金1000兆円なんて恐れるな!
「プライマリーバランス」が国民の息の根を止める!!
あえて言う「赤字国債増発」こそが日本を救う
(内閣官房参与・京都大学大学院教授 藤井 聡)

という見出しで、4ページにわたって掲載されました。

本記事は、いままで書籍や各メディア上の記事にて主張してきた内容を、改めて、経済財政の事を十分ご存じない一般の方にお伝えすべくまとめたものですが、その一部を改めて、本メルマガでもご紹介差し上げたいと思います。

『あえて言う、赤字国債増発こそが日本を救う』(週刊新潮 2017年6月29日号より抜粋)
http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/

「緊縮」のせいでダメになる日本
日本の未来を決定づける「政府」の予算──その基本方針が、去る6月9日に「骨太の方針」という形で閣議決定された。この決定にあたって筆者は内閣官房参与(内閣への特別アドヴァイザー)として、これまでの政府方針は予算の「規律」が厳しすぎ、増税と予算カットが過剰が進められ、結果としてデフレ不況が続き、結局、国民も政府も共に貧しくなっている──と政府等に対して繰り返し主張し続けてきた。

結果、今回の「骨太」にはそんな筆者の主張が一部採用された。

そして、「単なる増税と予算カット(つまり、緊縮)でなく、経済を成長させて、借金の重荷を減らす」という財政目標(「債務対GDP比目標」というもの)が明記された。この目標なら日本人が豊かになることを通して財政問題を改善できるのであり、大きな「前進」となったのだが──その最新の「骨太」においてさえ「プライマリーバランス目標」(PB目標)という不条理極まりない規律は解除されなかった。

このままでは「政府は増税を繰り返しつつ予算を切り詰め、結果、日本のデフレは深刻化する」という悪夢が訪れるのは必至だ。実際、最新の統計では、各種経済指標は最悪の状況を示している(名目成長率とデフレ─タが同時に今期ほど大きくマイナスを記録したのは、安倍内閣始まって以来)。つまり、我が国は今、最悪のデフレ状況に再び舞い戻ろうとしているのである。

ついては、政府の「骨太」の決定直後の今、あえて内閣官房参与として「プライマリーバランス目標という、菅直人政権時に日本に打ち込まれた毒矢を『完全』に抜き去ることが必要だ」という真実を一人でも多くの国民に告発すべく、本誌に寄稿することを思い立った(本寄稿を採用いただいた週刊新潮には、心から深謝したい)。

ついては以下、筆者のこの主張をできるだけわかりやすく解説しよう。

まず、誰でも一度くらいは「日本の借金は途轍もない量。1000兆円を越えている。1人当たり845万円!このままだと破綻だ!」という専門家達の話を新聞やテレビ等で見聞きしたことがあるだろう。そして「だからこそ消費増税が必要で、政府支出を切り詰める『緊縮』が必要だ」と感じている人も多いと思う。

確かに政府は「赤字」で、借金総額が1000兆円を超えている。

しかしだからと言って「増税」や「支出カット」を過剰に進める必要なんてない、むしろそんな「緊縮」を進め過ぎたせいでかえって借金が膨れ上がる、という悪循環に陥っているのが実態だ。もしも筆者のこの見立てが間違っているのなら、筆者は京大教授や内閣官房参与といった職を「辞」しても構わない──と断定できる程に筆者は強くこのことを確信している。以下、この筆者の確信を「3つのステップ」に分けて一つずつ解説しよう。

 

ステップ1:「政府の借金」を、過剰に怯える必要などない
そもそも巷で1千兆円を越えているという「国の借金」とは、正確には国民の借金でなく「政府」の借金だ。つまり、「あなた」が借金をしているのでは「ない」。国民はカネを借りている側ではなく「貸している側」なのだ。

そしてメディア上では、そんな「政府の財政」を、一般家庭の「家計」を例にとって次のように説明する──今の日本は「旦那の稼ぎが月給62万円」なのに「毎月73万円」の出費している様な世帯。だから、毎月11万円ずつ借金している税収62兆円に借金11兆円を追加して、年間73兆円支出している)。こんな不健全な暮らしはダメ。支出は稼ぎの範囲にして、借金をゼロにすべきだ──こう聞けば誰だって「そりゃそうだ!」と思うだろう。

筆者だってそう思う。

ただしそれはあくまでも、「政府と家計が同じような存在なら」という前提あっての話。

ところが政府と家計はまったく「違う」。おおよそ「家計」では「支出」を増減させても「収入」は変わらない。だから給料が62万なら、緊縮を通して支出もそれ以下にするのが当前だ。だけど政府の「収入」は「支出」に大きく依存する。その点において、政府は「家計」よりは「企業」に似た存在なのである。

そもそも企業というものは、上手に支出を増やせばビジネスチャンスが拡大し、収入が増える。逆に支出を切り詰め過ぎれば儲けが減る。だから企業の収支改善には、単なる「緊縮」ではダメなのだ。それでは確実に自滅する。あらゆる企業は仕入れしたり新しい店を出したり、カネを借りて、使う」事を通してビジネスを拡大する。当たり前のことだ。

だからこそ「政府」は、家計の主婦感覚で支出を切り詰めれば収入は確実に減少し、かえって借金が膨らむ。これこそ、緊縮に縛られた我が国の憐れな実状なのである。

──とはいえ「企業だって借金を増やしすぎれば倒産するじゃ無いか」と思う読者もおられよう。

仰る通り。しかし、日本政府に限ってはそれはあり得ない。日本政府は破綻しない。

「なんて無責任な事を言うんだ! 夕張やギリシャは破綻したじゃないか!」──と思う前に、少し筆者の話を冷静に聞いて頂きたい

そもそも「破綻」とは「借りたカネが返せなくなる」こと。1万円の借金でも返せなければ破綻する一方、1000兆円の借金があっても返せるなら破綻しない。

では企業はいつ借金を返せなくなるのかと言えば──最後に誰もカネを貸してくれ無くなる時だ。どれだけ借金があっても返済時に誰かがカネを貸してくれるなら返済できる。だから破綻しない。例えば「超大型銀行」がバックについている企業なら、破綻リスクは限りなくゼロに近い。

そして、「日本政府」には、「通貨を発行する権限」という途轍もない力を持った、国内最強の銀行である「日本銀行」(日銀)がバックついている(そもそも日銀の大株主が政府だ)。だから、その日銀が「最後の貸し手」として存在している政府は、破綻の可能性が実質的にゼロなのである(もちろん、如何に日銀と言えど、どんな時でもカネをたっぷりと貸してくれるわけではない。これはあくまでも政府の破綻が危惧されるような「緊急事態」での話だ)。

そもそもギリシャが借りていたのは自分たちで発行することができない「ユーロ」だったし、夕張市だって自分たちで発行できない「円」を借りていた。だから、ギリシャや夕張は破綻状態に至ったのだ。一方、通貨を発行できる日銀がバックについている日本政府は、「円」の借金をしている以上、おいそれと破綻しない。

実際、今の日本の様に「自国のカネを借りている政府が、破綻した事例」というのは、世界中で存在しない。だから、「円」での借金をしている今の日本では、「借金による破綻」に怯え、「緊縮」に走る必要などどこにもないのである。

ステップ2:「プライマリーバランス目標」のせいでデフレ不況が続く

にも関わらず、「緊縮」主義が政府を支配しているのが、今の日本だ。

その象徴が「プライマリーバランス目標」という政府目標。これは、「政府の収入と支出の差」である「プライマリーバランス」の「赤字」を毎年減らし、2020年度には黒字化しようというもの。言うまでも無く、この目標を掲げている以上、政府は緊縮(増税と予算カット)を余儀なくされる。

実際、2014年には、「消費増税」が断行されたが、それもこれもこのプライマリーバランス目標を政府が掲げていたからだ。そして政府は実際に、この増税を通して「政府の赤字」(プライマリーバランス赤字)を10兆円以上も減らした。つまり政府は、自分の赤字を減らすために、私たち国民の財布から10兆円を巻き上げたのである。

そんな事をされれば当然、庶民の家計は苦しくなる。実際、増税後、一世帯当たりで年34万円も消費が減ってしまった。

こうやって皆がカネを使わなくなれば、あらゆる商売の調子が悪くなる。結果、労働者の給料は下がり、人々はさらに出費を削るようになる。そうなればあらゆる商売の調子がさらに悪くなって──最悪の悪循環が始まる。

しかも、こうやって景気が悪くなると、結局「政府の税収」も減ってしまう。所得が減れば所得税が減るし、企業利益が減れば法人税も減るからだ。

今、安倍内閣は「デフレ脱却」を果たすための「アベノミクス」を行っている。たしかにアベノミクスは一定の成功を収め、デフレ不況は随分と緩和した──が、それでも未だデフレは脱却できていない。それもこれも2014年に消費増税を行ったからだ。あの増税さえ無ければアベノミクスによって不況は終わっていたに違いないのだ。

さらに言うなら、97年の3%から5%への消費増税の時、アベノミクスの様な景気対策が行われていなかったからそのダメージは凄まじいものとなった。この消費増税の翌年から、我が国はまさに「デフレ不況」に突入し、私たちの所得は激減。そして翌年には総税収が翌年に「5兆円」も減ってしまった!つまり、消費増税で不況になったせいで、国民が貧困化しただけでなく、政府も収入を失ったのだ。増税したのに税収が減る」──これほど馬鹿馬鹿しい話はなかろう。

なお、以上に述べた「プライマリーバランス目標」のために「緊縮」を続ければ景気も財政も最悪になっていく──という議論を、筆者は「プライマリーバランス亡国論」と呼んでいる。その正当性は、種々の実証データによって明らかに確証されている。詳細については是非、拙著『プライマリーバランス亡国論』をお読み頂きたい。

・・・

以上が、週刊新潮に寄稿した、筆者の寄稿文の抜粋です。全文は是非、新潮本誌でご覧頂ければ幸いです。

いずれにせよ、これからの一年間が、日本を救う最も重要な一年となる──と言っても何ら過言ではありません。なぜならもし、来年にこの「PB毒矢」を抜き去ることができず、当面PB制約の「くびき」が日本に残りつづければ、日本の後進国化は決定的となるからです。そうなれば、格差問題や防災対策のみならず、国防問題においても深刻な危機に直面し、日本の独立そのものが危うい状況にすら立ち至るでしょう。

そうした事態を回避するために、与党の中でもようやく「PB撤回」を政府に申し入れる動きが少しずつ出始めました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H0K_V20C17A6PE8000/

こうした政治におけるリアルな動きを後押しするためにも、是非、一人でも多くの方に本稿、ならびに、拙著『プライマリーバランス亡国論』をご紹介差し上げてください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

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【藤井聡】「週刊新潮」で訴えた「PB亡国論」 ~動き始めたPB撤廃シナリオ~への6件のコメント

  1. 西願寺靖雄 より

    島倉原さんの、明治維新以降の債務残高推移のグラフを、どうして援用されないのか、理解に苦しみます。
    返済不要なことは、一目両全ではないですか、一番判りやすい情報ですよ!

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  2. 西願寺靖雄 より

    2017年6月27日 2:59 PM

    島倉原さんの、明治維新以降の債務残高推移のグラフを、どうして援用されないのか、理解に苦しみます。
    返済不要なことは、一目両全ではないですか、一番判りやすい情報ですよ!

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  3. 通りすがり より

    プライマリーバランス目標の削除は非常に重要だと思います。
    しかし、経済成長を阻害する世論は大きく3つあると思います。

    1つ目は日経新聞を代表とするアホなマスコミです。
    これはあまり説明の必要はないと思いますが、
    主張が単純であればあるほど、国民を納得させる力があるので困りものです。

    2つ目はいわゆるサヨクの中でもプライドの高い方です。
    彼らはこう考えることでしょう。
    「政府が我々に恩恵を与えることなどあり得ない!政府は我々に圧力と束縛を与えるに決まっている!
    我々が政府から恩恵を受けるなんて、屈辱的で死にたくなる」
    こういう人には「じゃああなただけ恩恵を受けないようにすればよい」と言いたくなるのですが、ひとまず脇に置きましょう。

    ところで、こういう方々も、「円」そのものの価値については認めているんですよね。日本に住んでいることですし。
    しかし、円の価値を担保している「政府」もしくは「日本国」については、これを認めないわけです。
    これは電化製品を認めて製造会社を認めないようなもので、かなりの矛盾を感じるのですが…。

    さてここからです。
    3つ目は佐伯啓思さんや水野和夫さんを代表とする知識人です。
    最終的にはこの方々との折衝が最も難しいと思うのです。
    彼らの主張も分かるところは有るようで、分からないところもあるので、
    ここをどう折り合っていくかが、これから重要だと思うのですが…。

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  4. あまき より

    化粧だけでは「隠しきれない」今の私は豊洲の女(三沢カヅチカ)

    安倍総理「隠しきれない」深刻病状(週刊新潮)

    藤井さんの論考が、逼塞の論壇誌や部数272万部の日経などでなく、いま何かと衆目を集める45万部の週刊新潮に掲載された意味は、かなり大きいのではないか。

    日経だと吉川、小黒といった鼻持ちならない常連の御用連中に挟まれて、せっかくの玉稿が跨ぎ越される恐れがある。カネとおんなと事件の週刊新潮ならその恐れは少ない。

    しかも藤井聡は「豊洲の女」の立役者で時の人。中には藤井聡太四段、あるいは内閣参与とみて都民ファースト潰しの自民御用学者のひとりと早合点して手に取る人もあるかも知れない。いずれにせよ面白いほど時宜に適っている。個人的好みから離れて週刊新潮の部数増をお祈りする。

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  5. よとえ より

    いつも勉強させていただいております。ありがとうございます。

    【藤井聡】「週刊新潮」で訴えた「PB亡国論」 ~動き始めたPB撤廃シナリオ~ の記事の中で、
    「夕張市だって自分たちで発行できない「円」を借りていた。だから破綻状態になった。」とありますが、地方債財源の1つに国債があるのに、なぜ地方自治体に破綻の概念があるのですか?
    そもそもありえない日本の財政破綻論が、夕張市の破綻という概念を産んだのでしょうか?
    地方財政のあるべき姿についてお聞きしたいので、機会があればよろしくお願いいたします。

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  6. YO-ma より

    今こそ藤井聡先生の学説を全日本国民が真剣に受け止め、将来の日本を背負う子供達の為に、政府の間違ったかじ取り政策に強烈なくさびを打ち込まなければならないと思う。藤井先生を全面的に支持します。頑張って下さい。未来に希望のある日本を創るためにも

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