政治

2018年6月29日

【上島嘉郎】何のための「改革」か

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

政府が6月15日の閣議で決定した
経済財政運営の指針である
「骨太方針」に、
来年10月の消費税率10%引き上げと
平成37年度の基礎的財政収支
(PB)の黒字化目標が
明記されました。

駆け込み需要・反動減を
抑えるため31、32年度当初予算で
大型景気対策を実施する
方針が掲げられ、
これまであった予算拡大の枠も
外されましたが、
結果的に財務省の緊縮路線に
屈したものと判ぜざるを得ません。

デフレからの脱却が進まず、
日本経済が「構造改革」と「規制緩和」
の名のもとに一層グローバリズムに
傾斜していくとどうなるか。

外国人の就労拡大のための
新たな在留資格の創設など、
移民・難民問題で苦境に立つ
欧州諸国を一周遅れで
追いかけるような政策を
進めることへの強い危機感を
国民は持ち始めています。

この三十年余りの経済政策を眺めると、
日本は何一つとして主体的な
選択をしてこなかった
のではないかと思います。

平成5年(1993)に
「55年体制」が崩壊し、
その後曲折あって自民党、民主党
という二大政党の時代を迎えました。

自民党も民主党も
「日本は変わらなければならない」
と主張し、両党の競い合いは、
どちらが「改革」の担い手に
ふさわしいかというものでした。

伝統的価値観に基づく
日本社会の守護という視点は
「時代に合わない」として
弊履を棄つるがごとくで、
1980年代からそうした
「改革」を主導してきたのは
明らかに保守の側でした。

1986年、中曽根康弘首相(当時)の
私的諮問機関
「国際協調のための経済構造調整研究会」
(座長・前川春雄元日銀総裁)
が発表し、
「内需拡大」「規制緩和」「国際化」
の掛け声のもとバブル経済の
淵源となった「前川リポート」を、
はっきり日本がアメリカの要求を
受け入れたものだと
指摘したのは故江藤淳氏でした。

1989年の日米首脳会談で
ブッシュ大統領(当時)が
提案して始まった「日米構造協議」は、
85年9月のプラザ合意以降も
年間500億ドルに上る
アメリカの対日貿易赤字が
減らなかったために提起された協議で、
90年6月の最終報告書では、
日本が91年からの10年間で
公共投資を430兆円に拡大すること、
大規模小売店舗法の
規制緩和などが盛り込まれました。

また91年5月には、
アメリカは日本市場の閉鎖性を
訴えて商法の改正なども要求。

こうした要求の積み重ねの中、
93年7月に日本の構造問題と
個別の産業交渉を組み合わせた
「日米包括経済協議」が創設され、
日米交渉の場はさらに増え、
やがて「年次改革要望書」
という形になって
続くことになりました。

こうした「改革」の流れは
小泉政権でピークを迎え、
郵政民営化に象徴される変化を
我が国にもたらしました。

その継承者の立場で
首相の座に就いたのが安倍氏です。

平成19年(2007)7月、
首相として初めてのぞんだ
国政選挙(第21回参議院選挙)
で安倍氏は大敗しました。

敗因としては、朝日新聞など
左派メディアの異様な
安倍叩きが続いたこと。

「いざなぎ景気」越えと言われても
国民の多くがそれを実感できず
「格差」を拡大させた
経済政策への不信感。

「消えた年金」問題。

複数の閣僚による不祥事と
お粗末発言などが挙げられました。

それらに加え、
国民の意識の底流には、
一連の小泉「構造改革」に対する
不信感があったと思います。

実際、安倍氏も

「地方では改革の痛みが現れた。
改革の陰の部分に光を
当てなければならない」

と述べていました。

安倍氏は小泉政権の後継として
スタートしたときから、
「改革」の負の面が大きい
ことを承知していたはずです。

参議院選挙前の6月に発表された
政権発足後初の
「骨太の方針二〇〇七」に
「構造改革」という文字は
ありませんでした。

「『構造改革』の旗が消えた」(朝日)、

「参院選を控えて
骨太方針の改革色は後退した」(日経)、

「改革の指針たり得るのか」(産経)

などと各紙が批判したように、
「構造改革」やグローバリズム
に対する考え方は、
朝日から産経まで
どこもそう変わりません。

「構造改革」を進めれば進めるほど、
日本の「国柄」が希薄になり、
日本人の性質や人情も
変わってしまうのではないか。

「格差」論の背後にあるのは、
経済的得失の問題よりも
日本人と日本社会の変質
そのものに対する危惧ではないか。

「構造改革」は、日本が
グローバル・スタンダード(世界標準)
に向けて歩むことだと
言われてきましたが、
世界標準といっても、
公明正大な競争が行われた結果、
世界的に通用するに至った
基準ということではなく、
むしろ政治力や外交力に勝る国が
少しでも自国に有利なルールを
他国に適用させるための方途です。

グローバル・スタンダード
=アメリカン・スタンダード
として、その基準の多くが
日本人の価値観や慣習を
異質なものとして
「変革」を求めてきました。

明治以後の急速な西欧近代化は、
苛烈な帝国主義の荒波の中で、
「夷の術を以て夷を制する」ために、
日本国の「独立」をまっとう
するために必要でしたが、
同時に日本人らしさを
自ら削いでいくことでした。

明治人が直面したその苦悩を、
平成の終わりの日本人は
どれほど意識し、共有しているか。

1980年代から称揚されてきた
「構造改革」なるものは、
本当に日本人にとって
守るべきものを守るための
「改革」なのか。

日本という国の歴史の縦軸は
意識されているか。

ただ今限りの強欲
(それも一部富裕層の)
を追求しているだけではないのか。

こうした問題意識が、
与野党を問わず政治家の頭から
すっぽり抜け落ちている
ように感じます。

戦後の日本は敗戦国として
戦勝国のつくった秩序、
ルールに従ってきました。

「従わないと孤立するぞ」
といわれると、慌ててそれに対応し、
そして必死に追いつき
寄り添おうとしてきた。

政治家も官僚もそうです。

約めていえば、
「構造改革」も「グローバリズム」も、
そうした心理の中で
受け入れてきたと言えるでしょう。

確かに、アメリカの要求であっても
日本国民の利益になるのなら
受け入れたらよいではないか、
という意見は一定の説得力を持ちます。

外圧活用論ですが、
戦後日本の国家としての
枠組を規定した現行憲法こそが、
アメリカから「強要された改革」の
嚆矢であることを忘れてはなりません。

「構造改革」に内包された
アメリカの対日要求が
占領政策の延長線上にあることを
(あるいは江藤淳氏のいう
日米の持久戦の一つの
現れであることを)
捨象して「改革」を論じることは、
事の本質を見失うものです。

当時安倍氏が掲げた
「戦後レジームからの脱却」こそ、
実は根幹において「構造改革」に
相反するものだったわけです。

その意味で安倍氏は
初志をまっとうすることに努め、
倒れることを恐れないか、
あるいは心ならずもの妥協を
重ねて中途半端な存在に終るのか、
長期政権となったいまこそ
政治家としての真価が
問われています。

取り留めのない話に
なってしまいましたが、
日本国民が安倍批判を展開するならば、
「モリカケ」問題のような
空騒ぎではなく、
「より真っ当な論点」
のあることに気づき、
それを与野党の政治家、
メディアにぶつけていく
必要があります。

むしろ安倍首相は
それを望んでいるのではないか
という気がします。

〈上島嘉郎からのお知らせ〉
●慰安婦問題、徴用工問題、
日韓併合、竹島…
日本人としてこれだけは知っておきたい
『韓国には言うべきことをキッチリ言おう!』
(ワニブックスPLUS新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/484706092X

●大東亜戦争は無謀な戦争だったのか。
定説や既成概念とは異なる
発想、視点から再考する
『優位戦思考に学ぶ―大東亜戦争「失敗の本質」』
(PHP研究所)
http://www.amazon.co.jp/dp/4569827268

●日本文化チャンネル桜
【Front Japan 桜】に出演しました。

(6月22日
〈安倍政権へのあるべき批判
/「内憂外患」の習近平政権
/米・不法移民 親子分離を撤回
~人道と「壁」、本来のあり方〉)
https://www.youtube.com/watch?v=mNdr7nrobW8

(6月27日
〈国境なき世界はユートピアか
/日本に防衛大臣は必要か
/IWC総会で商業捕鯨再開を提案へ
~堂々たる主張を〉)
https://www.youtube.com/watch?v=QidG6_FPA3Y

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【上島嘉郎】何のための「改革」かへの6件のコメント

  1. たけちゃん より

    何で今更 アベシンゾーが初志を貫くか真価が問われる等とあたかも擁護としか思えない科白が出てくるのか不明だが最初からウソをつき続けて国民を騙し続けてきたと解釈するのが普通の感性でしょ。
    アベシンゾーはもう足掛け6年も総理大臣やってますよ。
    その間、庶民を散々虐げ続け、やって来た事といえば外資外国人、経団連大企業その他お友達優先の売国政策しか思いつきませんが?

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      1. デオキシリボ核さん より

        私も「たけちゃん」さんに全く同感ですね。

        >「より真っ当な論点」
        のあることに気づき、
        それを与野党の政治家、
        メディアにぶつけていく
        必要があります。

        確かにそれも必要でしょうが、その前に、上島さんは、自らに批判をぶつけられてはいかがですか?

        安倍総理に対する「期待の忖度」が過ぎたことに関して。
        或いは、「遠慮」が過ぎたことに関して。

        もう、結果は既に見えてるじゃありませんか。何を今更。そしてその結末に対する予見も、中野剛志さんや佐藤健志さんらは、最初から明らかにされてますよね。

        それとも、まだ望みがあるとでも?
        私は予め断言しておきます。No hope. ですよ。いかがですか?安倍擁護派や中立派?の保守諸氏にも、私は是非聞いてみたいです。

        我々の暮しと未来は、お試しや実験が可能な玩具じゃない。政治って、それほど重いものじゃないんですか?

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  2. 日本晴れ より

    上島さんはこのコラムでもチャンネル桜でも安倍政権のやってる事政策のおかしい所を的確に批判してて好感を持ちますし上島さんの意見や考えにほとんど同感です。それが保守だと思います
    自分もモリカケ問題はどうでもいいですが、移民政策や増税やPB黒字化やそっちの本質的な物で問題視する言論があまり無いのが残念ですし。おかしい所だなと思います。
    やっぱり保守側が起こしていくしかないと思います。

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  3. たかゆき より

    何のための??

    日本を破壊しつくし二度と立ち上がれなくするための

    「改革」かと。。。

    これぞまさに戦後レジームからの「脱却」

    明治憲法を奪われたときから 日本は

    流れに浮かぶ ウタカタ
    風にそよぐ葦

    アメリカ様の機嫌を損ねると どうなるか、、、

    まさか 忘れたわけではあるまい 知らなければ 教えてあげよう

    タナカやナカガワのようになるのだ ぞ

    と 金髪君に耳元で囁かれたのか しら ん♪

    返信

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  4. とすくん より

    次の時代になれば潮目も変わるのでしょうか?それとも平成自虐観の更なる進化により日本は消滅してしまうのでしょうか?正直、後者の光景のほうが鮮明に想像できてしまい途方に暮れます。しかし米中貿易戦争が新たな世界秩序を構築しないかと希望も…何が起こるのかは誰にも解りませんよね。

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