政治

2016年3月18日

【施 光恒】グローバル化は中世化

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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2016年2月、日本銀行は史上初の「マイナス金利」を導入した。

今回、日銀が導入したマイナス金利とは、市中銀行が持っている日銀当座預金の一部の金利をマイナスにするというものだ。これまで年利0.1%の金利がついていた日銀当座預金だったが、逆に年0.1%の金利を支払う(手数料を取られる)ことになる。

当然、銀行の収益を圧迫する要因となるのだが、その狙いはどこにあるのか。また、狙いどおりに事が運ぶのか。

三橋貴明は「家計と銀行の負担が増え、国債の金利が今以上に下がるだけ」と断じる。また、「円高はいっそう進むだろう」と予測する。

その根拠は? 今後への影響は?

そもそも「マイナス金利」政策を正当化する理論自体に問題があり、その奥にはお決まりのいわゆる「国の借金問題」があるという。

マイナス金利の解説からその影響、導入の背景、さらには経済成長の問題、そしてアメリカ大統領選挙にまでつながっていく一連のストーリーを、三橋貴明が詳述する。

『月刊三橋』最新号
「マイナス金利の嘘〜マスコミが報じない緊縮財政という本当の大問題」
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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おっはようございま〜す(^_^)/

拙著『英語化は愚民化』(集英社新書)で述べたことの一つに、グローバル化やその文化面での表れとしての英語化は、なぜか一般的には「進歩」とか「歴史の必然的流れ」とか思われていますが、その実、全く逆で、中世的世界への逆戻りと考えたほうがいいのではないかということがありました。

中世ヨーロッパでは、ラテン語を話す聖職者や貴族などの各地の特権階級が一種の「グローバル・エリート」層を形成していました。そして、各地の未発達の土着語(英語やフランス語、ドイツ語などの元になった語)しか話せない庶民を、社会の中心から排除していたのです。

近代社会とは、この状態が変わることを通じて成立しました。宗教改革における聖書の翻訳は大きなきっかけでした。ラテン語で書かれていた聖書を、ルターやティンダルらの宗教改革者が、ラテン語(あるいはギリシア語やヘブライ語など)から庶民の日常語である土着の言葉に聖書を翻訳していきました。ラテン語などからの知的な用語が、各地の土着語に移植され、それによって、庶民の日常語が知的なものとなっていきました。

これに伴い、ラテン語ではなく日常の言語に根差した社会空間が各地に成立します。ここでは、多くの普通の人々は、社会の中心から排除されることなく、自分たちの知的能力を磨き、発揮し、社会参加できるようになります。こういう状態が生じてはじめて、多くの人々の力が結集され、活力ある近代社会が登場してきたわけです。

しかし、現在の世界で進む英語化は、英語をかつてのラテン語のような「グローバル・エリート」の言葉とし、英語が不得手な者を、社会の中心から排除していきます。

日本のような英語国ではない国では、「英語階級」と「非英語階級」(日本では「日本語階級」)といった形に国民が分断されます。そして、おそらく大多数を占める「非英語階級」は、政治や経済の中心から排除されるわけです。ちょうど、中世のヨーロッパのような社会になってしまいます。

拙著『英語化は愚民化』では、こんな感じで、グローバル化や英語化は、実は、社会が良くなる「進歩」などではまったくなく、逆に、中世のような社会への逆戻り現象だととらえたほうがいいのではないかと書きました。

なんか前置きが長くなってしまいましたf(^_^)

今回のメルマガで何が言いたいかといいますと、最近、やはり「グローバル化は、進歩どころではなく、中世化に過ぎないのではないか」とよく考えます。そう考えられる現象が多々あるのではないかということです。

この点で一つ興味深かったのは、郭洋春氏の『国家戦略特区の正体――外資に売られる日本』(集英社新書、2016年)という本のなかの農業改革についての記述です。

国家戦略特区のなかには、新潟市や兵庫県の養父(やぶ)市や秋田県の仙北市のように、農業改革を主眼として指定されたものがあります。これらの農業改革の試みで規制緩和のテーマとして挙げられているものの一つは、「農地の集積・集約、企業参入の拡大などによる経営基盤の強化」です。

つまり、米国のような大規模農業を日本にも導入して効率化を図り、日本の農業の国際競争力の強化を狙うものです。

こうした「農業の大規模化」について、著者の郭氏は、「世界史的に見ても、農地解放運動の歴史に逆行する行為」(107頁)だと指摘しています。

確かに、日本を含む多くの国では、農地解放、つまり大規模な土地を所有する地主の下で働かざるをえなかった小作農に土地を分け与え、自作農にすることこそ、農業の近代化であり、民主主義の社会にふさわしいものだと考えられてきました。

国家戦略特区構想などで進む農業改革は、株式会社の農業への参入が一つのテーマです。大企業が参入することによって、農業は大規模化し、効率化されます。

そこではもちろん、土地所有者ではない人々が、低賃金で働くことになるのでしょう。昔の「地主」と「小作人」の復活とも見て取れます。

郭氏は、「効率化が目的とはいえ、日本の農業を再び大規模化するというのは、農地解放運動さらには民主主義の歴史に対する挑戦といってもいいだろう」(同頁)と記しています。

このように、TPPなどグローバル化の中で進む日本の農業改革も、一種の中世化かもしれません。中世ヨーロッパで見られたような、大地主と農奴の再現といったら少々言い過ぎでしょうか。

こういう「中世化」というか、歴史の逆行のようなものは、他のところでもいろいろと見られます。

国家戦略特区でいえば、例えば「解雇規制の緩和」や「労働時間規制の緩和」(残業代ゼロ)などの労働規制の緩和の流れもそうでしょう。

高校生のころ、「現代社会」や「世界史」の時間に、労働者の権利や社会保障受給権などを総称して「社会権的基本権」ということを習いました。また、社会権的基本権は、20世紀になって定められたということで、「20世紀的人権」ともいうと学びました。

私の高校時代は、1980年代後半でまだ20世紀でしたので、「なるほど、社会権的基本権とは、新しい、現代的人権なのだな」と思っていました。

しかしこれ、21世紀になった今あらためて考えてみると、「20世紀に徐々に認められてきたが、21世紀になるとだんだんと削減され、なくなっていく」という意味で、労働者の権利などの社会権的基本権は「20世紀的人権」と呼ばれているのだと理解したほうがいいかもしれません。

経済のグローバル化が進み、資本の国際的移動が自由になると、各国政府は、資本の海外流出を避けるために、あるいは外資を呼び込んでくるために、グローバル企業が「ビジネスしやすい」環境を作ろうとします。つまり、グローバル企業に都合のいい環境を作っていきます。そこで、各国は、労働者の権利や社会保障を徐々に削っていくのですね。人件費も削減されますので、労働条件は、悪くなっていきます。

これも、「中世化」への流れの一つとみることができるでしょう。

こう考えてくると、最近、自民党が、「移民受け入れの議論を始めるべきだ」と言い始めているのも、この流れのもう一つの現れといえそうです。

近代社会とは、一般庶民が、社会の中心メンバーとなり、自分たちの言語や文化のうえに国を作り、民主主義の下、国を運営していく社会です。つまり、各国では、人々が「我々は同じ国民だ」という連帯意識を持ち、「自分たちこそ社会の主人公だ」と考え、政治を動かしていくわけです。

しかし、経済のグローバル化の名のもと、移民を大規模に導入すれば、こうはいきません。一般的に、国民の連帯意識は薄れ、団結が難しくなります。人々はバラバラになり、政府に意志を伝えにくくなります。

移民受け入れを推進する側の狙いの一つは、このように、移民を受け入れることによって、国民を分断し、連帯しにくくすることだともいえるでしょう。国民の連帯を分断すれば、政治に文句がつけられることが減りますので、労働者の権利や福祉の削減、人件費の引き下げ、移民のいっそうの受け入れなど、国民に不人気な政策が、その後、やりやすくなります。

また、各種の社会保障などの福祉は、おおもとでは、国民の相互扶助意識に根差しています。つまり、人々のもつ「同じ国民だから、助け合おう」という意識こそが、福祉の基本にあるものです。

移民を大規模に導入することによって、国民の連帯意識を壊してしまえば、社会保障を減らしていくことは、ますます容易になっていきます。

実際、近代社会の成立の一つの前提は、国民意識の確立でした。国民の連帯があってはじめて、民主主義や福祉(平等)も成り立つのです。

以上のようにみてくると、やはり、「グローバル化は中世化」と言えるでしょう。

一方には、英語を操り、土地に縛られず、愛国心も持たず、世界を飛び回って大金を稼ぐごく少数の「グローバル・エリート」がおり、他方には、社会の中心から排除され、(英語で構築された)知的な世界から切り離されて自信を失い、低賃金でこき使われ、打ちひしがれ、バラバラの大多数の一般庶民がいるという世界です。

「グローバル化」って言葉、本当に最近、ますますいやになってきました…

どうにかしないといかんですね(>_<)

長々と失礼しますた<(_ _)>

—メルマガ発行者より

「国の借金が1000兆円を超えた」「一人当たり817万円」
「次世代にツケを払わせるのか」「このままだと日本は破綻する」

きっとあなたはこんなニュースを見たことがあるはずです。一人の日本国民として、あなたは罪悪感と不安感を植え付けられてきました。そうしているうちに、痛みに耐える消費税増税が推し進められ、国民は豊かにはならず、不景気のムードが漂い続けています。本当に増税は必要だったのか? そもそも「国の借金」とは何なのか?

その正体とは、、、
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

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【施 光恒】グローバル化は中世化への7件のコメント

  1. 稲美弥彦 より

    最近、そう思うのはロシアの指導者であるプーチン大統領だけはグローバリズムに対して愕然と対抗している事だと思います。そのロシアも最近はAIIB(中国主導ではなく英語圏主導で中身はTPPと殆ど同じ。TPPの銀行版でこの銀行も英語教育推進)でおかしくなっておりブラジルも同様です。因みに橋下徹はTPPとAIIBを両方推進しており、竹中平蔵も同様です。TPPとAIIBの行きつく先は中世欧州化だと思うのは同感です。

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  2. 學天測 より

    センチネル族です。すいません。センチネル族はバリバリの超鎖国、攘夷主義者の皆さんですよw迂闊に近づくと、余裕で殺されるそうですw

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  3. 學天測 より

    論点が違うかもしれませんが、ぶっちゃけた話、翻訳はIBMのワトソンみたいな膨大なデーターから人間では思いつかない新料理メニューを生み出したりするAIが近い将来、英米から、センチネンタル族の言葉まで通訳してくれると思います。既にディープラーニング技術を使ってると思いますが囲碁で世界最強のセオル5段がほぼ完敗し、東ロボというAIが東大受験に合格寸前です。グローバリゼーションよりも恐ろしい物が迫っています。言語何処どころか全ての意思決定をAIに奪われかねないと言う事です。まあ人口減の日本にはロボットと合わせて究極の設備ではありますが。

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  4. 関澤 より

    西ローマ帝国は傭兵として流入した異民族により滅亡し、東ローマ帝国は宗教と文化を維持し、バルカン半島の地域国家として生き残ったと、高校の世界史で習った記憶があります。歴史は繰り返すのでしょうか

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  5. 反孫・フォード より

    >大企業が参入することによって、農業は大規模化し、効率化されます。 昔の日本のようなほのぼのとした企業意識ではないですもんね。窮屈で息苦しい近代です。完全にアメちゃん(安倍ちゃん)式の効率、合理化意識、しかも、デフレ下ですから、のさばるのはミッキー・谷やヤナイやサントリー・ローソンの誰だか忘れたのネオリベ信仰経団連集団や南部・竹中・橋下派遣集団?・・・・・・企業自体の考え方が根本的に今の政府は昔とは逆転していますからこのままでは本当にマルクス主義が全盛の時代に戻っていくような気がします。 超極マクロ的にも歴史や言葉や意識などリサイクルしていくしかないんですね。

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  6. 神奈川県skatou より

    さいきんとある古いドラマのDVD-BOXを買いました。なんど観ても笑い、泣き、こころを洗い、満たしてくれます。貧乏が嫌で、お金持ちが幸せとしか信じられない主人公が、お金で買えない、たったひとつの大切なもの、それがなにか見えてしまったとき、そして同時に、それを失う選択をしてしまってもう後戻りできないことが決まってしまった、夜のバス停のシーン、自分は何度見ても熱い涙を流してしまいます。「私は、うまくやったのよ」「お金より心が大事なんてみんな言うけど、私、そんなの信じない。」「たったひとつの大切なものなんて、、、私には分からない、」このドラマの、別のシーンでこんなセリフが主人公にかけられました。「身近にあるときにはわからない。失ったときに初めてその大切さに気付く。しかもそれが、その人にとって一番大切なものだったりするから、始末におえないんですよ」

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  7. たかゆき より

    資本と労働マルクスが 存命でしたらば、、どのような 資本論を著してくれたの かしら。。。 とぼんやりと 思案しているのだ♪

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