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2024年8月14日

【藤井聡】『南海トラフ地震・注意』への行政・国民対応は『コロナ自粛』と瓜二つ.前回の失敗を踏まえ,今度こそ我々は愚かなる「過剰自粛」を避け理性的対応を目指さねばならない.

南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発令されました.

これはいわば,南海トラフ地震“予報”における“注意報”と言うべきものです.

気象庁は今,南海トラフ地震が発生する確率が普段よりも非常に高くなっているので「注意しながら,日乗の生活を続けて下さい」という主旨のメッセージを発信しています.

この“注意報”を受けて,例えば東海道新幹線は特定区間にて「速度を落として運行」という対応を図っています.

JRとしては,一応政府が「南トラ注意報」を出してるのだから,何もしないわけにはいかず,一応対応をとっておこう…ということなのだと思いますが,果たしてこの対応が合理的かどうかというと全くそうではありません.

もしホントに南トラが起こってしまったのなら,特定区間だけ速度を落としていたところで,その区間以外でも激しい揺れが起これば何ら効果などないからです.そして,(トンネル部以外の)東海道新幹線はほとんどの区間で決して小さくはない揺れが想定されているのです.

とはいえ,注意報がでてるからっていうことで,全区間で遅くしたり,全線運休にするっていうのもやり過ぎだし,かといって(先にも申し上げたように)何もしないのもマズいかも,っていうことで,こういう運用に落ち着いたのでしょう.

極めて日本的な「過剰反応」の一つだと言えそうです.

そんな風に感じながら,この注意に関するニュースをあれこれ見ていますと,なんと愚かなんだろう…という違和感をそこかしこで感じてしまいます.

想定被災地エリアでは,海水浴場が閉鎖されたり,特急が運休したり,花火大会等のイベントが中止になったりしているとのこと.

そして自治体によっては旅行自粛を要請しているところもでてきていますし,実際に多くの国民が旅行を自粛してしまっているとのこと.

これは明らかな「やり過ぎ」の対応です.

そもそも政府の指針もこの「注意」においては,「注意をしながら,日常生活を続けて下さい」というものですから,こうした対応は明らかに指針で政府が想定するもの以上の過剰な対応だという事になっています.無論政府の指針如きどうでもいいじゃないか,と無視するとしても少なくとも以下の三つの 理由で,この対応は明らかに「過剰」です.

第一に,例え亜海水浴中に実際に南トラが起こっても,第一波の津波が三分で来るようなところでも,大きなものが来るまでの時間はそれよりもずっと長いのもの.だから,どこに逃げるかをあらかじめ決めておき,地震が来た瞬間に逃げると決めておけば(海水浴場には津波フラッグもあります),逃げることは可能なのです.仮にそうできる自身がないのなら,ビーチに行かなければいいのです.それは今でも海で溺れるリスクを恐れる人が海で泳がないのと同じです.だからそれを踏まえればビーチ閉鎖が必要だとは到底言えないのです.

第二に,この注意期間の南トラ発生確率は「0.5%」と想定されています.この確率は自動車事故で言うなら,「自動車を日常的に利用していてて数ヶ月から半年程度の間で交通事故を起こしてしまう確率」と同水準.その程度のリスクなら,そのリスクの存在を知った上で,日々自動車を使っている,というのが我々の平均的なリスク対応です.だから,自動車に普通に乗りながら,南トラだけ過剰に恐れて「自粛」するなんていう振る舞いは,愚挙そのものなのです.

第三に、それでももちろん,今の南トラ発生確率が確かに「5倍程度」にはなっていると言われています.しかしそれは逆に言うなら,平常時でも現時点の「五分の一」ものリスクがあるわけで,それにも関わらず閉鎖はおろか何の警戒もしてなかったんですから,現時点においてだけ閉鎖するなんて「やり過ぎ」と言う他有りません.もしも,この一週間,自粛するという対応を図るとするのなら,それ以後もずっと,まさに南海トラフ地震が来るまで自粛し続け無ければならない,という事になってしまいます.が,そんな対応を国民の大勢が是認する事等あり得ないでしょう.

…というようなことを考えると,この「南トラ注意」に対する反応は,「過剰自粛」と言わざるを得ないものなのです.

こうした点を鑑みると,この南トラ対応は,あの日本中を数年にわたって席巻した「コロナに対する過剰自粛」と全く同様の構図がある,ということが見えてきます.

この点については,当方の友人のリスク心理学者は次のように語っていました.

まず第1に,(各種自粛に)哲学や理性的な判断あってのことならまだしも、「保身動機」や「変なコンプラ意識」だけに基づく自粛・規制は、やめてもらいたい.
そして第2に,そもそも我々はそれが如何に不条理なのかということを,コロナで経験し、学習したはずである.

当方も全く同感です.そしてその上で最後に彼は,「感染拡大(南トラ地震)に留意しつつ、社会経済活動(日常生活)を動かす…というこの両者のこの穏当なバランス=二刀流=両にらみを社会全体として実現していかねばならない」とお話しされていました.これについても全く同意する他有りません.

そもそもリスクがある以上自粛する,というのなら,我々は人生を辞める以外の選択肢はなくなるのです.なぜなら,論理的に考えれば「生きている」限りにおいて「死ぬ」リスクに晒され続けるからです.

…おそらくは国民は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」とばかりに,(そして,今やもう,ほとんど誰もコロナを恐れていないように)しばらくすれば南海トラフ地震の事等綺麗さっぱり忘れ去ってしまうことでしょう.

誠にもって悲しい限りです.南海トラフ地震はいつ起こるか分からないものであると同時に,それに対する強靱化対策を加速すればその被害を確実に減らすことができるからです.

せめて…本メルマガをご一読頂いた読者の皆様だけでも,理性的に地震リスクに向き合って頂きたいと思います.

追伸1:こうした「過剰自粛」が起こってしまう心理学的メカニズムについて,下記にて詳しく解説いたしました.ご関心の方はご一読下さい.
【南海トラフ地震「注意」発令】私達はこの「注意」についてどう反応すべきか?(その2)~下らない「自粛」をしている暇があるなら合理的な「強靱化投資」を徹底的に加速せよ~
https://foomii.com/publisher/delivery/00178/toarticle/id/127834

追伸2:国民は,地震リスクに対して「過剰自粛」している暇があるなら,既に起こった大地震の被災者達を見殺しにするような政府の態度を徹底批判せねばなりません.是非下記記事通して,今の政府の非人道性をご理解頂きたいと思います.
【政府の棄民思想に徹底抗議する】「過疎地の復興は無駄,移住を考えよ」と能登半島地震の被災者に提言する財務省・財政審提言は許し難い暴言である

https://foomii.com/00178/20240810115926127779

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【藤井聡】『南海トラフ地震・注意』への行政・国民対応は『コロナ自粛』と瓜二つ.前回の失敗を踏まえ,今度こそ我々は愚かなる「過剰自粛」を避け理性的対応を目指さねばならない.への2件のコメント

  1. 取り敢えず 警報 より

    命根性の汚い もとい
    命を大切になさる

    大多数(多分)の国民からの
    お叱り に 備えての ご用心かと、、

    「過剰自粛」を望んでいるのは
    命を大切になさる 大多数の 国民

    ちなみに コロナワクチン接種大好きで

    ワクチン接種しない方々を非国民呼ばわりなさっていた
    命を大切になさる 輩 もとい 愛国者は

    いまだに コロナワクチンの接種をなさって いる
    のか しらん。。。

    御身お大切に ♪

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  2. 大変申し訳ありませんが・・ より

    新型感染症と地震を一緒くたにされるとは、
    冷静な科学者(笑)のご発言とはとても思えませぬ。
    これ以上恥の上塗りはおよしになられたほうが
    ご自身のためでは・・

    それと、情弱のインテリ崩れの高齢者の方。
    何でも屋の大先生は、SNSで接種されたことを公表
    (のちになぜか削除)されておられます。念のため。
    それとも、
    大先生にケンカ売っておられます?

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