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2024年5月11日

【藤井聡】北陸新幹線の「小浜ルート」が政治決定された合理的・学術的・経済学的理由 ~「米原ルート」は国益増進効果において圧倒的に劣る「安物買いの銭失い」案である~

本年3月、北陸新幹線が福井県の「敦賀」まで接続され、東京と敦賀が新幹線で行き来できるようになりました。

そしてこの敦賀接続を受けて、敦賀から大阪・京都に向けて整備を急ぎ、北陸新幹線を「完了」させることが重要だ、という議論が盛り上がってきています。

北陸新幹線を敦賀と新大阪をどのように繋ぐかについては、自由民主党と公明党の与党が設置した「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム」(いわゆる「与党PT」)が検討を行い、下の図にある小浜ルート、湖西ルート、米原ルートの3つの案を学識経験者や中央政府の技術者達のサポートを受けながら様々な技術的側面を検討し、2016年に小浜ルートを採用することが決定されました。

 

 

この決定を受けて、政府は具体的な建設に向けた準備を開始し、国土交通省が建設主体として指名している鉄道・運輸機構が、環境影響評価法に基づく計画段階環境配慮書を2019年に公表する等、具体的手続きが進められているところです。

こうした経緯の中、敦賀までの北陸新幹線が完成した事を受け、与党・政府で正式に決定し、国交省の調査も既に開始されている小浜ルートの建設の準備を急ピッチで進めなければならない状況にまさに今、立ち至っているのですが…昨今のニュースでしばしば取り上げられるようになったのが、「米原ルート」で北陸新幹線を作るべきだという「声」が一部から起こっているというお話し。

京都ルートでは建設費も建設時間もかかる一方、米原ルートは(地図に示したとおり)、建設する延長が短く、簡単に北陸新幹線が完成するじゃないか、ということから、政治的には採択されなかった米原ルートを再度「復活」して検討を始めればいいではないかという声が一部にでている、という次第です。

勿論、米原ルートは建設費が政治的に決定された小浜ルートよりも安価であることは事実ではありますが、どちらが国益に資するのかと言う点で考えれば、小浜ルートが米原ルートを圧倒的に凌駕しているのです。だからこそ、与党PTでの検討を通して、建設費が安い米原ルートが採択されず、建設費が相対的に高い小浜ルートが選択されたのです。

では、小浜ルートにどのようなメリットがあるのか、逆に言うと今、一部において主張されている米原ルートにはどのような本質的問題があるのか、という点について、以下にご紹介いたします。

■■米原ルートは「乗り換え」が必要■■
まず、最大の米原ルートの問題は、米原での「乗り換え」が必須となってしまうという点です。

乗り換えが必須であるのは、東海道新幹線と北陸新幹線は信号システムが異なるという技術的問題があるからです。

で、乗り換えがあれば、何よりまず、乗り換え無しのルートよりも移動時間それ自体が圧倒的に伸びてしまう事になります。

さらには、従来の交通行動分析の研究から、一回の乗り換えは(仮にトータルの所要時間が全く同じであったとしても)所要時間が30分延びてしまうことと同程度の「心理的抵抗感」をもたらすことが知られています。

これらのことは、東京―京都・大阪間の北陸新幹線のアクセス性が、時間的にも心理的にも米原ルートは小浜・京都ルートよりも圧倒的に低いものとなることを意味しています。
■■米原ルートの経済効果は圧倒的に低い■■
そして、東京―京都・大阪間の北陸新幹線のアクセス性が小浜ルートにおいて劣るということはつまり、京都・大阪、そして北陸における(所得拡大効果、投資拡大効果等の)新幹線の経済効果が、小浜ルートにおいて劣る、つまり、京都小浜ルートの方が遙かに勝るということを意味しています。

■■米原ルートの「関西・北陸の一体化効果」が圧倒的に低い■■
とりわけ、京都と北陸三県、大阪と北陸三県の「一体性」は、乗り換えがなく所要時間も短い小浜・京都ルートの方が圧倒的に高くなることから、京都・大阪・北陸三県に及ぼす経済成長効果は、小浜・京都ルートの方が圧倒的に高くなるわけです。

■■米原ルートでは米原―関西で十分な数の便を設置できない■■
また、米原ルートの場合は、現状の東海道新幹線で運行されている便に加えて、米原に停車する「こだま」や「ひかり」の増発をすることが前提となりますが、その余地が必ずしも十分確保できないリスクが懸念されます。その結果、十分な頻度で東海道新幹線区間でひかり・こだま運行ができず、その結果、乗り換え時間を十分短くすることができず、そのせいでさらに、米原ルートでの所要時間が長くなってしまい、利便性がさらに低下することが危惧されます。

■■米原ルートは、災害・事故に対する強靱性が低い■■
さらには、米原・京都・大阪間は東海道新幹線と北陸新幹線が共有する事になりますから、その区間に災害・事故等があって不通となった場合、一気に両親幹線が運行不能になります。小浜・京都ルートの場合は、一つが不通になっても、もう一方が生き残ることから、災害や事故に対する強靱性は、米原ルートは小浜・京都ルートに比して低いという問題があります。

■■米原ルートは、京都・大阪の都市活性化効果が圧倒的に低い■■
その他、小浜・京都ルートの場合は、「北陸新幹線・京都駅」や「北陸新幹線・新大阪駅」の交通結節点としての価値が抜本的に向上することから、それらの駅を中心とした民間投資が進み、京都、大阪の都市規模をそれぞれ発展させる効果が期待できるが、小浜ルートにはそうした効果は基本的にゼロとなります。

■■米原ルートは小浜ルートに比して「山陰新幹線」構想へのメリットが皆無■■
さらには、小浜・京都ルートの場合は、小浜から西側の舞鶴・豊岡・鳥取に向けて新幹線を整備することで「山陰新幹線」を極めて低いコストで整備することが可能となります。すなわち、小浜ルートの場合は、その小浜ー京都ー大阪区間を、北陸新幹線に活用するのみならず、大阪と鳥取・島根を接続する山陰新幹線の一部として活用することが可能となります。米原ルートにはこうした効果は全く存在しません。

■米原ルートは北陸、関西、山陰地方への民間投資拡大効果、経済効果、人口増効果が圧倒的に低い■■
…以上をまとめますと、長期的に考えれば、小浜ルートは、米原ルートに比べて、北陸、関西、そして山陰地方への民間投資拡大効果、経済効果、人口増効果が圧倒的に高いと考えられます。

■■米原ルートは「大阪・関西の地盤沈下」を食い止める力が無い■■
東京と大阪、首都圏と関西圏の格差は近年拡大する一方ですが、その主要な原因が、首都圏には東海道・東北・上越・北陸の4本の新幹線が接続していますが、関西圏には(相互乗り入れしている東海道と山陽を一つの新幹線と見なせば)東海道山陽の一本の新幹線しか接続していない、という事実にあります。

つまり、この新幹線の整備格差が、東京と大阪、首都圏と関西圏の経済格差をもたらしているわけです。そんな中、北陸新幹線が関西に接続されれば、東西格差を産んでいる原因が緩和されることになり、経済格差が大きく縮小することが期待されるわけです。

さらに、この北陸新幹線は、四国新幹線へと「延伸」することが今、議論されています。その四国新幹線は関空が通ることが想定されていることから、「関空新幹線」としても機能するものです。この整備が関西の国際戦略、ならびにそれを通した発展・成長において極めて重要な意義を持ちます。

また、北陸新幹線の大阪ー小浜間の区間を山陰新幹線として活用しつつ、舞鶴・天橋立・豊岡・鳥取方面への新幹線を整備すれば、大阪・京都は、これまでは
 東海道・山陽方面
しか新幹線で連結されていなかった一方で、
 北陸方面
 山陰方面 
 四国方面
へも新幹線で連結されることとなります。こうなれば、首都圏と関西圏の新幹線のサービス水準格差が無くなり、関西が、首都圏に並ぶ程のより大きな都市圏へと成長し、「関西の地盤沈下」を抜本的に終わらせることが可能となります。

北陸新幹線にはこれだけのポテンシャルがあるにも関わらず、それは全て小浜ルートで整備することが前提となっている話し。ところが米原ルートを採択してしまえば、乗り換えで時間も長くなるし、十分な便数を確保することもできないし、山陰新幹線、さらには関空新幹線/四国新幹線の整備も遠のくと同時に、関西地方への直接投資も行われない事になってしまい、関西の地盤沈下を食い止める力の大半が削がれる事になってしまうのです。

以上様々に為てきましたが、米原ルートは小浜ルートに比して、投資金額自体は安価ではあるものの、「投資効果」の視点でいうと圧倒的に「劣っている」のルートであり、したがってそれはいわば「安物買いの銭失い」案と見なすことができるわけです。だからこそ、与党PTで米原ルートが否定され、小浜ルートが政治決定されるに至ったわけです。

ちなみに、財源についていうなら、新幹線整備のために国費を発行するという方針が(もちろん、現状の政府方針の下では困難である可能性も考えられますが)採択されるのなら、十分な財源が確保できることとなります。

ただしやはり、十分な国債発行ができないという状況であったとしても、2030年以降の「新幹線の貸付料」を投入することを政治決定すれば、十分な予算を確保することが可能となると考えられます。いまのところ、2030年までの「新幹線の貸付料」(新幹線はJR各社に“貸し付けて”いるのであり、その貸付料が毎年毎年、JR各社から政府に支払われ続けているのです)は新幹線の整備に投入されているのですが、2030年以降については、その使途が定められていないのです。

したがって、この2030年以降の貸付料が、整備財源として直接的に活用可能であると考えられるわけです。そして、北陸新幹線は多くの旅客数が確保できる優良な収益事業ですから、その貸付料を原資とした、さらに多くの「融資」を受けることも期待できます。

以上より、財源は十分確保できる見通しが十分立てられるのであり、したがって、米原ルートではなく、圧倒的に国益増進効果が大きな小浜ルートでの可及的速やかな整備推進が今、求められているわけです。

追伸1:
浄土と呼ばれた聖地・紀伊山地の山深い熊野三山の「本宮」に参拝。その主祭神・熊野坐大神(くまのにいますおおかみ)は、あらゆる俗世・宗教を超越した文字通りの「カミ」でした。
https://foomii.com/00178/20240506103232123771

追伸2:
「群衆はバイキンだ」と断じた社会思想家・社会心理学者ル・ボン『群集心理』から考える「岸田文雄とは何者か?」論
https://foomii.com/00178/20240503121601123685

追伸3:
当方の処女作『社会的ジレンマの処方箋』が復刻!「公共心」こそがあらゆる社会問題の解決の鍵である事を明らかにした当方三十代の心理学書。是非ご一読下さい。
https://38news.jp/economy/28142

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