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2014年2月28日

【古谷経衡】クールジャパンの嘘

From 古谷経衡(評論家/著述家 月刊三橋ナビゲーター)

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今回は私が2月27日に刊行いたしました、『クールジャパンの嘘』(総和社)について、その内容をかいつまんでご紹介させて頂きます。

現在の日本における「クールジャパン」の議論は、常に以下の文脈の中で語られることが多いです。すなわち「クールジャパン」をアニメや漫画などの「ソフトパワー」と規定した上で、それらが日本の外交や、国際発言力に繋がるという考え方を採用しております。

こういった文脈の中で、「アニメ文化外交」とか「ソフトパワー戦略」といったような議論が常に、政官に限らず交わされております。この「ソフトパワーが日本の外交力になる」という、良くありがちな言説は、実は日本特有の全く奇形的な議論であるということを指摘しなければなりません。

「ソフトパワー」という言葉を最初に提唱したのは、アメリカの政治学者、ジョセフ・S・ナイ(ハーバード大)です。彼が『不滅の帝国アメリカ』(1990年)という本の中で初めて使用した言葉です。ナイは、「ソフトパワー」をハリウッド映画などに代表されるコンテンツによる影響力等と定義し、この「ソフトパワー」を覇権国家(ヘゲモニー)を構成する上で、欠かせない要素と定義しました。

また、続く2004年にはその名もズバリ『ソフトパワー』という本の中で、アメリカのイラク戦争の失敗は、「ソフトパワーの欠如」にその原因があると主張しております。

しかしナイは、「ソフトパワー」は、「軍事力を前提とした上の、両輪としてのパワーである」と定義しているのです。つまり、軍事力の背景があって初めて、文化力=ソフトパワーが存在し、その力を発揮すると一貫して提唱しているのです。

このようなナイの原典を踏まえますと、現在の日本における「ソフトパワー=クールジャパン」の議論は極めて倒錯しているといえます。日本のアニメや漫画やアイドルの力が、なにか外交力になりうる、力になりうるという論調が支配的ですが、そもそも、元々のナイの「ソフトパワー」議論は、前提条件として軍事力の存在が必須だったのです。

ところが日本で文化力、「クールジャパン」を語る中に、軍事力についての言及は存在しているのでしょうか。軍事力なき文化外交、軍事力の価値観なき「クールジャパン」を巡る議論というのは、全く空疎空論であり、この言葉を最初に唱えたナイ自身が唱えた言葉の定義と、日本における「ソフトパワー」の認識は、実は全くかけ離れたものになっているのです。

思えば、ディズニー映画も、ハリウッドも、それが単独で世界に浸透しているのではなく、「パクスアメリカーナ」(アメリカの覇権)の中で、世界中に拡散されていったものであることを忘れてはなりません。アメリカが弱小国であれば、ディズニー映画は世界の娯楽にはなりえませんでした。文化の背景には、常に圧倒的な軍事力が存在しているのです。

文化力は、時として軍事力と対比(対立)の関係にあるかのように日本では言われております。日本では文化というと、なにか平和的で、非軍事の、非常に良いもののように言われております。

その結果が、つまり「エコロジー」などと同じように、横文字で口当たりの良い、軍事や戦争とは遠いところにある、正しく戦後民主主義的な理想としての「クールジャパン=ソフトパワー」であり、この言葉が、本来の意味での「軍事力の両輪としての」という部分を抜かし、あたかもそれ単体で力を行使できると誤用し使われ続けたのは、正しく軍事力や軍事議論を忌避してきた戦後日本の空間そのものが生んだ歪みの象徴だったのです。

本書ではこのように、「クールジャパン=ソフトパワー」の概念そのものが、日本ではそもそも間違った展開をなされているという大前提的な指摘から始まり、政府による「クールジャパン推進会議(2013年春)」で交わされた議論の内容が、余りにも杜撰で幼稚なものであるかを厳しく指摘したものです。

一例を上げますと、政府の「クールジャパン推進会議」で話されたことは、アニメや漫画のことではなく、日本酒と日本産スイーツに集中していました。
「クールジャパン」と言っておきながら、議長を始め会議の構成員は、アニメやポップカルチャーについて全くの無知で、目に見える「食べ物」の事しか理解できない、というお粗末な議論に終始していたのです。
唯物論的な、目に見えるものしか信じられない会議の内容は、目を覆う低レベルなものです。「クールジャパン推進会議」と言っておきながら、その実態は『美味しんぼ』の「美食倶楽部」以上でも以下でもありません。
これが、政府の推進する「文化戦略」の中枢に存在していたのです。

日本はアニメ大国、漫画大国、と言われます。その作品は世界でも高い評価を受けていることは知られています。しかし、その「クールジャパン」を国家として世に広めていこうというその国策会議の内容が、余りにも酷過ぎるという現実は、あまり知られていません。ある評議員は、「私はアニメに興味がないから、そういった話はしないで欲しい」とまで会議の中で言っているのです。素直で結構とも思いますが、彼らのレベルの低さには、私も頭を抱えます。

日本が文化大国として世界に雄していく時に、このような政府のお粗末な内容に、私は疑問と怒りを感じます。「J-POP」のことを「J-LOP」と書いて憚らない程度の民間議員が、「若者に受けているから」という理由で、なんの臆面もなく「クールジャパンを推進しよう」と言ってしまう。安倍内閣による、文化戦略は明らかに大失敗と言って良いと思います。ぜひぜひ、詳細は本書をお手に取ってお読みになっていただければ幸いです。

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【古谷経衡】クールジャパンの嘘への7件のコメント

  1. kanun より

    文化力は軍事力との両輪というところを読んで、戦国時代の武将たちが文武両道であった事に思い至りました。戦国武将たちは、軍事力だけでなく、「嗜み」を大切にしていました。独自の陶芸様式を生み出した古田織部のような武将もいたわけです。安土桃山時代の文物は特に緊張感があって素晴らしいとされています。

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  2. ヌコ より

    クソハンドラーのナイに関しては、伊藤貫先生が「自滅するアメリカ帝国」において酷評なさっておいでどした。

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  3. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    文化の訴求力の後背に軍事的な覇権が求められる、というのは、少し、理解に苦しみます。「仮令、第三帝国が露と消えても、ドイツのオペラは世界一イィィ」なんて話もあるではないですか。

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  5. 平松禎史 より

    海外への文化の浸透と軍事力を含む国力の影響に正の相関がある。さすがに鋭い指摘ですね。我々が良いと思う外国文化は、その民族性の発現としての文化を感じ取っています。日本人の好みに合わせたものは、やはりウソっぽいと分かってしまいますね。日本文化を海外展開する場合も同じことでしょう。たとえば対象がアメリカの場合。日本人が思うアメリカ風は「日本人のアメリカ観」の域を出ず、言うなれば偽物になってしまうし、日本人が思う「こういうの好きでしょ?」も先方からすれば傲慢にも映りかねません。売り先のことを考えるのは日本的な美徳でもありますが、それは日本人同士でしか通用しないわけです。まずもって、自分たちが心底良いと思えるものでなければ海外でも評価されはしないでしょう。心底良いと思う「何か」には日本人に共有されている民族性が根底にあるはずで、それでこそ海外で評価されるのだろうと思います。作り手が日本独自の文化、その良さを堂々と示すある種の強さが「クール・ジャパン」なるものの基本になければ画餅に帰すでしょう。

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  7. しきしま より

    「軍事力との両輪」はなるほど、と思います。ところで・・・「J-LOP」はこれのことではないでしょうか。http://j-lop.jp/

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