FROM 東田剛
二○○二年、ベン・バーナンキ現FRB議長(当時は理事)は、
ミルトン・フリードマンの九十歳の誕生日パーティーで、
「世界恐慌に関して、あなたが正しい。我々(FRB)が間違っていた。
あなたのおかげで、もう二度と過ちは犯さない」と言いました。
フリードマンは、世界恐慌は基本的には金融政策の失敗が原因であり、
FRBが通貨供給の落ち込みを防いでさえいれば容易に回避できたと
唱えました。
バーナンキ議長は、世界恐慌の原因は中央銀行の失敗にあるのであり、
仮に金融危機が起きても、FRBが資金供給を増やせば恐慌は防げる
と考えていたわけです。
ところが、○八年、リーマン・ショックが起きてしまいました。
その後、FRBは三度も量的緩和を行いましたが、アメリカ経済
および世界経済は、依然として厳しい状況が続いています。
バーナンキ議長は、フリードマンの教えに従ったのに、
過ちを犯してしまったのです。
世界恐慌や現下の世界大不況は、中央銀行が適切に仕事をすれば
解決できるといったような簡単なものではない。もっと複合的な
解決策を必要とするものである。そのことが、アメリカの経済学者
の間でも、だんだん認識されるようになってきているようです。
十月四日の日本経済新聞の経済教室に、アメリカの著名な
経済学者のアラン・ブラインダーが寄稿していましたが、
あれはなかなか良かったですね。
ブラインダーによれば、世界恐慌と現下の世界大不況は、
「ラインハート・ロゴフ・ミンスキー」型の不況だとのことです。
すなわち、中央銀行がインフレ退治のために金利を引き上げた
ことで起きる不況ではなく、家計や企業の負債が積み上がる一方で、
低インフレ(デフレ)のために、家計や企業が負債の返済と支出の
削減を優先する悪循環が発生しているというのです。
こうなると、金融政策は必要でしょうが、その効果は非常に
限定的になってしまいます。要するに、フリードマンの説は
間違っていたということです。
日本の「失われた二十年」は
この「ラインハート・ロゴフ・ミンスキー」型の不況ですが、
今は、欧米もそうなっているとブラインダーは言っています
(三橋貴明氏の読者であれば、おなじみの話でしょうが)。
では、財政出動については、どうでしょうか。
多くの国が財政赤字で財政出動の余地もなくなりつつあるが、
日米独は国債の金利が非常に低いので余地は残っている。
ところが、政治と間違ったイデオロギーが、それを妨げていると
ブラインダーは主張しています。(どれだけ影響力があるのか
分かりませんが、この論調が日経新聞に載ったのは、日本における
レジーム・チェンジの予兆だと思いたいですね。)
ところが、バーナンキ議長は、十月一日の講演で、九月の
量的緩和第三弾を擁護する発言を行った際、「フリードマンが
生きていたら、われわれのしていることを支持しただろう」
と述べたとのことです。
これは、市場に期待を持たせることを狙った
FRB議長としての立場からの発言なのでしょうか。
それともまだ、分かっていないのでしょうか。
PS
東田剛とは無関係ですが、中野剛志さんの評論集
『反官反民:中野剛志評論集』が骨太の評論集として話題です。
ちょっと分厚いですが、面白くて、読み出したら止まりません。
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