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2023年12月26日

【室伏謙一】令和6年度予算政府案は金貨銀貨の世界の危機感なき緊縮予算案

 先週22日金曜日、令和6年度予算の政府案が閣議決定されました。正式名称は「令和6年度一般会計歳出歳入概算」です。

 さて、この来年度予算政府案、端的に言って緊縮予算案です。それが証拠に対前年度で2兆3千億円も減額になっています。その理由として挙げられているのは「平時」だから。財務省は財政制度等審議会の建議等を通じてしきりに「平時に戻せ」と主張してきました。(形式的には建議においてそう提言され、それを踏まえたということになっていますが、ご想像どおり、建議を書いているのは財務省です。)

 しかし、よほど異常な感覚をお持ちか、全く別の世界にでも生きていない限り、現下の日本の置かれた状況を「平時」などと考える人はいないでしょう。ウクライナ紛争はいまだ継続中ですし、中東ではハマス・イスラエル戦争が始まって全く収束する兆しが見えないどころか、戦線の拡大まで懸念されています。その一環なのか、紅海では親イランとされるテロ組織のフーシによる大型貨物船やタンカーを標的としたシージャック等の攻撃が始まり、米国を始め英国、カナダ等が海軍の艦船を派遣して警戒にあたるにまで至っています。

 紅海が海運に使えなくなるということは、スエズ運河経由の物流が止まるということであり、BBCの特集報道によれば、そうなれば、アフリカ大陸をぐるっと回って、南アフリカの先、喜望峰経由の物流に切り替えざるをえなくなるし、その場合、当然のことながら距離が長くなるので、物流コストは上がり、それが商品価格やサービス価格に反映されて物価の更なる上昇を招くことが懸念されているとのこと。

 日本は自由貿易大好き、輸入大好きの、奇妙奇天烈頓珍漢な政策を進めてきた日本は、思いっきりこの影響を受けることになります。

 ただでさえ、コストプッシュインフレによる物価上昇の影響をもろに受けて、国民も事業者も苦しみ、その結果、実質所得の下落傾向に拍車がかかっているというのに、です。

 財務省さん、これでも平時と言えますか?

 更にこの予算政府案、令和5年度よりも1兆7千億円以上も多い27兆円以上を国債費として計上し、債務償還費も約17兆円と、令和5年度よりも5千億円以上も増えています。そもそも国債の償還は借換債によればよく、端的に言って償還費は不要であり、そのことを自民党政調の特命委において認めたにも関わらず、性懲りも無く償還費を、しかも増額して計上しているのです。

 そして、もう使えなくなったはずのインチキトンチキなポンチ絵である「ワニの口」が、政府案の説明資料として再び登場しています。このポンチ絵、別名は「ワニの虐待の図」。不要な費用を歳出に計上して上顎を無理矢理開かせていますし、そもそも下顎は一般会計税収と、確定もしていないし、そもそも同年度で対になっていない皮算用の税収で下顎も無理矢理開かせているからです。実務上、歳入、すなわち財源は国債ですから、下顎と上顎が開くと考えること自体がおかしな話。(ちなみに、実物のワニは普段口は固く閉じているそうです。)

 この手の嘘や誤魔化しは既にバレてきているのに、なぜこんなことを財務省は続けようとするのかと言えば、彼らの頭がおかしいから、ということもありますが、そもそも「お金とは何か」を理解していないし、理解しようとしていないから。彼らは商品貨幣論の世界、金貨・銀貨の世界に生きているからです。信用創造や信用貨幣すら理解できていないから、貨幣とは政府の負債、IOUであることを理解していないからです。

 財務省の皆さん、早く鎌倉・室町の時代から現代に来てください。

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【室伏謙一】令和6年度予算政府案は金貨銀貨の世界の危機感なき緊縮予算案への2件のコメント

  1. 世の中に より

    寝るほど 楽は なかりけり
    浮世の  バカは 起きて働く。。

    70過ぎまで 牛馬のごとく 一年中働かされる
    この国が

    昼飯時に 酒飲んで ロクに仕事もしない
    あの国に 一人当たりの GDPで
    追い抜かれる なんて

    開いた口が塞がらない

    それこそ バカは死ななきゃ 治らない ♪

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  2. 利根川 より

     日本人は非常に勤勉で、20年以上も実質賃金が下がり続けていても多くの人が日々、真面目に働いている。それだけ懸命に働いても内戦をやっている国と同程度の経済成長しかできていないというのが悲しいところ。サボっててコレならまだ分かりますが、懸命にやってコレだと本当にマズイ状況だと思います。

    戦略(全体計画)の失敗を戦術(現場の行動)で覆すことはできない

    第二次大戦(大東亜戦争)で日本が経験した貴重な学びがコレだったはずです。
     日本は長らく緊縮増税戦略を行ってきたわけですが、そのせいで日本国民の年収(中央値)は1995年の545万円から2022年には399万円にまで低下しました。(厚労省・毎月勤労統計調査参照)

    ”大半の人は貧乏になったということです”

     これを言うとだいたい次のような反応が返ってきます。

    「これから更に厳しい生活になるのが分かっているなら、老後に備えて節約生活をすればいい」

    「年をとっても働き続ければいい」

    「地方自治体の予算が足りないならふるさと納税で他所の自治体から予算を奪えばいい」

     一見すると正しいことを言っているように聞こえますが、老後に備えてお金を使わない生活をする人が増えると、商品やサービスの売れ行きが悪くなるので、回りまわって貴方の首も絞まります。
     定年後も働き続ける人が増えるということは、その分、若い人のチャンスも減るということ。回りまわって貴方の首も絞まります。
     ふるさと納税で他所の自治体から予算を奪うと、奪った方は助かっても奪われた方は衰退するので、全体でみるとマイナスです。
     つまり、未だに日本は第二次大戦の時と同様に戦略の失敗を戦術で覆そうとしてドツボにはまっているわけです。まるで成長していない。
     努力をするということであれば、まずは政府に緊縮・増税をやめさせてからでないと何をやっても自分の首を絞める結果になるということです。
     日本は民主制国家(ということになっている)ので、選挙によって政策を転換することは可能です。幸いなことに、室伏謙一さんをはじめ、多くの(まともな)有識者が最低限必要な情報は動画や記事にしてくれているので、知識を仕入れて投票所に足を運んでいただきたい。
     こんな下の方のコメント欄、しかも、長文。三橋さんチェッカーの財務官僚や御用記者がついでに見るくらいかと思っていましたが、意外と見に来てくれる人も多いようで…しかも、緊縮派まで。
     
    エリートはエリートの意見になら耳を傾ける

    以前、こういった話を聞いたことがあります。これを聞いて思ったのが

    エリートはエリートに間違いを指摘されてもあまり腹が立たない

    のではないかと。三橋さんや中野さん、元官僚の室伏謙一さんが長年活動していても、ここまで10年以上かかったのは「あまり腹が立たない」からスルーされていたところもあるのではないかと。
     ところが、私のようなアホに己の間違いを指摘されえると腹が立ってしかたがないわけだ。だからスルーできない。目が離せない。過剰な反応をして自失点まで犯す者まで出てくるわけだ。(小黒正一先生が消費税が間接税ではなく直接税であることをお認めになられましたん)
     これがホントの「馬鹿と鋏は使いよう」というやつなのかもしれません。

     全然別の話になりますが、「ザイム真理教」を上梓された森永卓郎さんが第四ステージの癌であることを公表されたそうで…思えば、森永卓郎さんが地上波(朝まで生テレビ)で「財務官僚が悪い」とキッパリ発言したあたりから流れが変わってきたところがあります。どうにか体に合う治療が受けられるといいのですが…

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