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2023年9月6日

【藤井聡】日本に高度成長をもたらした「黒部ダム」(くろよん)建設という世紀の大プロジェクトから考える、昭和日本の偉大な力(その1)

この週末、関西電力が整備した「黒部ダム」を中心とした黒部第四発電所の建設のためのインフラ群である「くろよん」に視察に行って参りました。

この「くろよん」の整備事業は、「黒部の太陽」という、石原裕次郎と三船敏郎という昭和の二大スーパースターが初共演した空前の大ヒット映画の題材となった大土木事業ですので、年配の方を中心によくご存じの方も多いのではないかと思います。

ちなみにこの映画は、その後も何度もリメイクされておりましたし、また、そのプロジェクトを巡っては、平成期には、中島みゆきの「地上の星」をテーマ曲としたNHKの人気番組「プロジェクトX」でも大きく取り上げられたことで、「くろよん」は幅広く知られているところではないかと思います。

当方も、「くろよん」には、大学生の頃に講義で耳にして以来、是非行ってみたいと長年思っていたのですが、なかなか機会に恵まれず、行けずじまいになっておりました。日本有数の険しいアルプスの山岳地帯の奥深くの黒部渓谷まで行くには、それなりの時間が必要だったからです。

ですが、この度ようやく、関西電力さんに特別にご対応頂く形で、視察に行くことが叶いました(ご対応頂いた、関西電力のU部長、本当にありがとうございました!)。

今回のルートはおおまかにいって、富山の「北陸本線」から出発し、「くろよん」のある黒部峡谷に入り、最後は、長野の「大糸線」にまで抜ける、という「通り抜け」ルートです。

まず、富山の宇奈月温泉で一泊し、そこから「黒部渓谷鉄道」で、北アルプスの山中に分け入ります。

この黒部峡谷鉄道はもともと関西電力(ならびに、その前身企業)が、黒部川に第一、第二、第三のダムと発電所等を作り上げるために整備したもの。ダムや発電所をつくるためには資材を運ばねばならず、そのための輸送路として、黒部川沿いに創られたのです。

今は、関西電力から独立した鉄道会社となり、観光目的で運用されているものですが、もともとが発電所建設のための鉄道だったということで、80分の黒部峡谷の道中、素晴らしい黒部峡谷の雄大な自然の中に、数々の発電所やダムを見ていくことができます。

そもそも、黒部川は日本の中心部にそびえ立つ北アルプスから一気に日本海に向けて流れ出る川ですから、もの凄い高低差があるのです。そして、北アルプスには冬期、数十メーターという雪が積もる大豪雪地帯ですから、春から夏に向けて、凄まじい量の雪解け水が流れ出ます。膨大な水が一気に高い山から流れ落ちていくということで、「水力発電にうってつけの川」だったのです。

そうした地理的条件が整っているということから、大正時代から、官民合わせた様々な人々の手によって水力発電所をつくる大土木プロジェクトが進行していったのです。

さて、そんな土木プロジェクトの痕跡を一つ一つに思いを馳せておりますと、電車は終点の欅平という駅に到着しました。

一般供用された鉄道はここまでですが、そこからは関西電力の施設である鉄道でさらに、黒部側を上流へと、「第三発電所」のための第三のダムである千人谷ダムに進みました。

この第三発電から千人谷ダムまでのトンネルが、「高熱隧道」と呼ばれる有名なトンネル。

昭和初期に行われたこのトンネル工事の史上希に見る難工事でした。

何が難しかったのかというと、この山体の地熱が異常に高く、岩盤の温度は166度を記録するほどに過酷な工事環境だったのです。そのため、(今で言うところの)熱中症で亡くなる方が続出するのみならず、岩盤の温度によってダイナマイトが自然発火・暴発を起こしたり、巨大な雪崩で鉄筋コンクリート造の宿舎が根こそぎ飛ばされるなどの事故が多発し300人を超える犠牲者が出たのです。

こうした凄まじい犠牲を出しながら1940年、大東亜戦争開戦前夜にようやく、第三発電所が完成する事になります。

その高熱隧道を電車で移動したのですが、トンネル内部の高温対策が十分施された今日でもなお、その高熱地帯を通る時には、車中の中にさえ強い硫黄の匂いと熱気が充満し、当時の工事現場の過酷さが偲ばれました。

さて、鉄道は、そんな高熱隧道を経て第三番目のダム(千人谷ダム)で終点となります。

この地点には、これから訪れる「黒部ダム」の水を使って発電を行う「黒部第四発電所」があり、その大規模な発電所を視察した後、いよいよここから掘られた長いトンネルを、ケーブルカー(インクライン)とバスを使って通り抜け、「黒部ダム」にたどり着きました。

朝、宇奈月温泉を出発して電車、インクライン、バスと乗り継いでここまでの道のりが4時間以上。移動するだけのこれだけの時間がかかる道を、大正、昭和の先人達は、足を踏み外せば命を必ず落とすような深い渓谷と大雪、そして高熱という過酷な環境の中で山を削り、鉄道をひきトンネルを掘り、何百人もの尊い犠牲を出しながらつくり上げたのです。

ちなみに、以上に紹介した第四番目の発電所までを含めた、黒部川全体を通して発電している最大出力は、合計で約 97 万 kW。これは、原発一個分の出力に相当します。

大正、昭和の原発技術の無い時代に原発を一つ作り上げたのと同じだけの電気を、日本人は黒部川の過酷な電源開発事業を行うことで、手に入れることができたのです。これが日本当時の国力、国勢の維持発展にとって、どれだけの力を発揮したのかは、計り知れぬものがあります。

そして今日でもなお、原発一基分に相当する電気を、極めてクリーンで安全な「自然エネルギー」の形で、資源を外国から一切輸入することなく提供し続けているのが、この黒部川水系の発電所群なのであり、その電力をわたしたちは日々、使い続けているのです。

この先人の努力に、心からの深謝の意を持たざるを得ません。

しかし…この黒部川水系の発電群の中でも最大の発電量を誇るのはもちろん、この水系最大のダムである、最上流に位置する「黒部ダム」です。

しかし、この「黒部ダム」は、凄まじい発電ポテンシャルがあることを知りながら、関西電力はその建設工事を行うことを躊躇しつづけていたのです。

なぜなら、その建設工事は、上述した高熱隧道の整備を上回る凄まじい難工事であることが分かっており、場合によっては、建設すること自体が、到底無理であり不可能である可能性すら考えられるものだったからです。

なぜそれ程までに、つまり、実現すること自体が土台無理であるリスクさえ考えられる程に、その工事が難しいものであったのか…それについてはまた明日、解説いたしたいと思います。

追伸:本記事は、当方のメルマガ
『表現者クライテリオン編集長日記』(https://foomii.com/00178
からの抜粋です。この記事の続きにご関心の方は、是非下記ご一読ください。
『日本に高度成長をもたらした「黒部ダム」(くろよん)建設という世紀の大プロジェクトから考える、昭和日本の偉大な力(その2)』
https://foomii.com/00178/20230905140022113701

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【藤井聡】日本に高度成長をもたらした「黒部ダム」(くろよん)建設という世紀の大プロジェクトから考える、昭和日本の偉大な力(その1)への3件のコメント

  1. 利根川 より

    >>この第三発電から千人谷ダムまでのトンネルが、「高熱隧道」と呼ばれる有名なトンネル。
    昭和初期に行われたこのトンネル工事の史上希に見る難工事でした。
    何が難しかったのかというと、この山体の地熱が異常に高く、岩盤の温度は166度を記録するほどに過酷な工事環境だったのです。そのため、(今で言うところの)熱中症で亡くなる方が続出するのみならず、岩盤の温度によってダイナマイトが自然発火・暴発を起こしたり、巨大な雪崩で鉄筋コンクリート造の宿舎が根こそぎ飛ばされるなどの事故が多発し300人を超える犠牲者が出たのです。>>

     ダムに限らず、先人たちの努力のおかげで今の我々の暮らしがあるわけで、我々が生きていくための道具(インフラ)を今に残してくれた人たちへの感謝は重要だと思います。ただ、ちょいちょい思うのが、

    戦前~昭和初期にかけて、なんか人の命がやたら軽くない?

    ということなんですよね。「列強の仲間入り」なんて言っていた割には資本集約的じゃないというか人命集約的というか…そういえば昭和のお笑いも「体張りすぎ」な感じがありましたしね(苦笑い
     お偉い人たちがどう思っていたのかは知りませんが、安全性を考慮してもらえずに死地に向かわされた人達はたまったものじゃなかったでしょうね。現代で同じことをやるのは難しいんじゃないでしょうか。安全性を無視した計画なんて、スマホの普及も手伝って内部告発で速攻でバレそうです。
     どうにも偉くなると鈍感になる傾向にあるらしく、ロシアでも「兵士の母の会」と面会したプーチン大統領は

    プーチン大統領「問題はどう生きたかだ。ウォッカが原因で死ぬ人もいて、生きた意味が不透明だ。しかしあなた方の息子は生きた意味があったのだ。目標を達成したからだ」

    なんて言っています。

    母親の会「プーチン大統領、あなたは本当に男ですか?あなたの周辺から選んだ女性ではなく、あなたに会うためにさまざまな都市から来た私たち本物の女性を直視する勇気はありますか?」

    ロシアのオカーちゃん達は強いですね。国家の危機に協力することは否定しないけれど、だからといって自分の大切な家族が雑に使われて黙ってなんていられるかと。
     亡くなった安倍総理が生前、トランプ大統領に自分の身内も「特攻隊に志願したんだ」と自慢げに話したのをトランプ大統領に馬鹿にされたというエピソードがあるそうですが、そりゃあ馬鹿にされるでしょう。国のため誰かのために自らを犠牲にした人達はその行動を誇っていいと思いますが、それをやらせた政治家や学者は反省しないといけないところです。美談にしていい話じゃない。
     それから、最近では「子ども食堂」の数が増えていることを美談のように語る議員がいるそうで…子ども食堂をやっている現場の人がそれを誇るのは悪くないと思いますが、そこまで「子ども食堂」が必要なほど国民を貧乏にしている国会議員は反省しなければいけないところです。美談で済ませていい話ではない。どうも偉くなると皆似通ってくるらしい(苦笑い
     
     「人類はクリーンエネルギーなんていまだ手にしていない」

    なんて言いましたが、水力発電は外国の鉱山を荒らして充電池の材料をほじくり返しているわけではないのでクリーンと言えますね。失礼しました。まあ、川の水を堰き止められた下流域の国では農業ができなくなるくらいの渇水に見舞われたり、外交国防で劣勢に立たされたりで揉め事になったりしているようですが、日本ではそういったデメリットもありませんしね。現在、水不足に悩まされている日本ですが、ダムやため池のありがたみが身に沁みます。ため池は農業従事者減少に伴い「管理者不明のため池」が増えて洪水の原因にもなってしまっているみたいですけど…
     インフラ整備は自分たちのために必要なことではあるけれど、なるべく人命集約的なやり方ではなく資本集約的なやり方でお願いしたいところです。資本集約的にするためにも政府にはこういったところでケチったりしないでもらいたいところですが、

    頭の中身が金貨銀貨の時代で止まってしまっている人達

    には難しいのかな~

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  2. 利根川 より

     ついでにロシアーウクライナ戦争について。 
     戦争が始まって1年以上が経ち、双方ともに多くの犠牲者がでています。伊藤貫さんのお話では、ロシアを戦争に駆り立てた原因はアメリカがロシアとの約束(NATO勢力を拡大しない)を守らないので、国防上、NATOが今以上に拡大することを阻止するためだったとのことですが、実際のところはどうなのでしょうか?
     ”日本のニュースを見ている限りでは”戦争が続けば続くほど周辺諸国はNATOに加入していく流れができているように見えますし、力押しで戦争を終結させるにはどちらの国もかなりの時間を要するように思います。本当に今回の戦争の目的がNATO勢力の拡大阻止であるならば、戦争継続は逆効果になってしまっているのでやり方を変えなくてはならない局面だと思うのですが、相変わらずの力押し。目的が何なのかがわからない。
     アメリカや欧州全体の生産能力とロシアは一国で対峙して崩れていないのだから確かにロシアは強かった。しかし、力押しで欧州全体の生産能力を相手に短期間にウクライナを占領できるほど隔絶した強さがあったわけではなかった(核兵器除く)
     NATO勢力の拡大阻止が目的なら戦争以外のやり方にシフトしなければならない状況だと思うわけですが、そうなっていない。伊藤先生にそこら辺のお話も聞いてみたいなあと。はやく終わってもらいたい
     

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