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日本経済

2023年6月29日

【藤井聡】インボイス制度の導入によって、財務省が国民から吸い上げる税金が増える。それをあらゆる国民が負担する…しかしそれを知る国民はほぼ皆無である。

 今年10月から導入予定のインボイス。その内容を正確に知る国民は(政治家、経済学者は言うに及ばず、税理士さん達も含めて!)、事実上ほぼ「皆無」です。

 が…せめて本メルマガの読者の皆様だけでも、しっかりとご理解いただきたく、下記に簡潔にご紹介差し上げます。

(1)インボイス制度のデメリット

 まず、インボイス制度のデメリットについて、ですが、それを利用するには、インボイスとは一体どういう制度か、について理解する必要があります。

 一言で言うと今まで消費税を納税していなかった全ての(売り上げ1000万円以下の)零細業者の「粗利」(=総売上から仕入れ費用を差し引いた額)の9.1%(=1/11)に相当する金額を、誰かが負担しなければならなくなる、というものです。

ただし、それを負担するのは、零細業者だけではありません。彼らを含めて、負担者は以下の三種類があるのです。

1)零細業者
2)零細業者を下請け業者として取引している業者
3)消費者

この三者の負担割合がどうなるかは状況によって変化しますが、最も大きな負担を強いられるであろうと考えられるのはやはり、「1)零細業者」です。

 例えば、500万円の粗利を上げていた零細業者がインボイス登録したとすれば、彼はこれ以後、500万円の9.1%の45万円を納税しなくてはいけなくなります。この45万円は純然たる増税になりますから、耐えきれずに廃業する零細業者が続発することは確実です。

 ちなみに、「2)零細業者を下請け業者として取引している業者」が、この下請けにインボイス登録しないでもかまわないと言った場合には、上記の45万円を今度は、「2)零細業者を下請け業者として取引している業者」が、税務署に納税しなければならなくなります。

その場合は、この業者における納税額が45万円増える、というかたちの増税が生ずる事になります。

さらに、そうした業者が、その税負担増分を、最終的な消費者への販売において「価格転嫁」すれば、インボイス制度が導入されたことによって、物価が45万円高騰する事になります。

その場合、その45万円を負担するのは「3)消費者」という事になります。

実際は、特定主体だけが増税分を負担するのではなく、様々な割合で負担していくことになりますので、この三者が同時に負担することになると考えられます。

ただしその中でもやはり、「1)零細業者」が負担するという割合が一番高くなると想定されます。

そもそも、「インボイス登録しなくてもいいですよ」と、下請けに対して言う業者が多数を占めるとは考えがたいからです。

(2)税理士の事務量の肥大化、というデメリット

なお、以上に加えて、税理士における事務処理量が膨大になる点もデメリットです。

インボイス制度が導入されれば、税理士さん達は基本的に、

「全ての領収書のインボイス番号の入力と照合」

という、今までは全くやらなくても良かった仕事をやらなければならなくなります。

ちなみに「照合」というのは、入力したインボイス番号が、その領収書に書かれてあるその領収書発行者のものであるかどうかを、何らかのシステムを使って、逐一確認していく、という超絶に面倒な作業です。

領収書なんて、一つの個人でも法人でも、一日あたり数枚から数十枚あります。

したがって、インボイス制度が導入されれば、税理士さんにしてみれば、一つのクライアント(顧客)に対して、年間で数百から数千枚の領収書について「インボイス番号の入力と照合」というとんでもない仕事をすることが本来的に求められる事になるのです。

はっきり言って、その結果、税理士業は立派な「ブラック業」と化してしまうでしょう。

(もちろん、その分の対価をクライアントが払えばいいのでしょうが、払えないクライアントは多数に及ぶでしょう。その結果、税理士に仕事を頼むことを辞めて…その結果、顧客が大幅に減少する事になるでしょう。仮に、インボイス番号の入力、照合を顧客に依頼するとしても、そんなの無理だ、という顧客も続発し、結局、客離れ、が進む事になるでしょう。…税理士にしてみれば、インボイス制度なんて踏んだり蹴ったりの最悪の話なのです…)

(3)インボイス制度のメリットは?

 公益上のメリットは一切ありません。

 一方で、私益上のメリットとして考えられるのが、このインボイス制度の導入に貢献した役人が、財務省内で高い評価を得ることができ、より出世する可能性が高まるというものです。

ただしそんなこと、一般の国民にしてみりゃ、知ったこっちゃない、っていう話ですね。

(4)インボイス制度についての理解度は?

まず、インボイスという言葉を聞いたことがない国民が大多数です。

次に、インボイスという言葉を聞いた事がある人でも、その中身を理解していない人が大半だと考えられます。

さらに、インボイスの中身を理解している人でも、以下の(a)~(c)の「三つの真実」を理解している人は極めて少数です。

(a)「消費税が預かり金ではない」
(b)「消費税の納税者は消費者でなく、事業者である」
(c)「消費税を含めた価格が、マーケットメカニズムの中で決定されるのであって、消費税を抜いた価格がマーケットメカニズムで決定されてその価格に税率10%が加算された金額が販売価格となっているのではない」

したがって、インボイスの中身を正確に理解している人は、一般国民においてはほぼ皆無であると同時に、政治家においても限定的で、あろうことか、税理士でさえ極めて少数派であるという状況です(例えば上記の(a)すら理解していない税理士が多くいると同時に、(c)を理解している税理士はほぼいないという状況にある)。

…ということで、インボイス制度は、政治家や学者は言うに及ばず、税理士さえも殆ど何も理解しないまま、導入されてしまい、カネを知らず知らずの内に財務省に吸い上げられるようになり、日本人の貧困化と日本国家の衰退が加速する事になるのです。

…以上が、インボイスについての真実なのですが…できるだけこうした「真実」を幅広く喧伝して、インボイス制度が延期、凍結、廃止される世論の形成にご貢献いただけると大変ありがたく存じます。

どうぞ、よろしくお願い致します。

追伸1:以上の記事は、「クライテリオン編集長日記」https://foomii.com/00178)の記事からの抜粋です。より詳しくインボイスについて理解したい方は是非、下記、ご一読下さい。

財務省は「零細業者は消費税をネコババしてない」事を知っているのにあえて説明せず、「零細業者はネコババする悪い奴」という印象操作を行い、インボイス導入を目指しています
https://foomii.com/00178/20230621103411110542

税理士業界は「インボイスになっても、何とかなるだろう…」という空気な様ですが、それは100パー間違い。政府は杓子定規に運用し、税理士業界・大打撃は必至中の必至です。
https://foomii.com/00178/20230626162634110747

【我が国の政府・国会に正義はないのか!?】この状況下で大消費増税である「インボイス」導入に反対しない政治家には、「正義」のかけらをすら見いだすことができない
https://foomii.com/00178/20230618141026110422

 

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【藤井聡】インボイス制度の導入によって、財務省が国民から吸い上げる税金が増える。それをあらゆる国民が負担する…しかしそれを知る国民はほぼ皆無である。への4件のコメント

  1. 要らぬもの は 要らぬ より

    払えぬもの は 払えぬ
    出来ぬもの は 出来ぬ

    最近は すっかりと とーとーろじー です
    が、、、

    無理なものは 無理 

    とりあえず インボイスに 登録しておいて
    開始直前に 全員で取り下げる とか、、

    取り下げは 郵送で可能とのこと

    コロナワクチンに 始まり
    マイナカード   インボイス 等々

    どこまで 下々(道連れ御免)を 舐めれば
    気が済むのか

    そろそろ 堪忍袋の緒が切れる 時期が
    迫りつつ ある かも。。。

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  2. 利根川 より

     私は、積極財政議連の中村裕之議員や城内実議員は応援していますし、立憲の落合貴之議員や「MMTを知ってほしい会」の公明党・松田智臣議員も応援しています。れいわ新選組は党として「需要不足の時は政府が積極的に支出をすべき」という立場を打ち出しているので所謂「箱推し」というやつですね。
     選挙の際に自分の選挙区に中村裕之議員や城内実議員が居れば彼らの名前を書くことはあるかもしれませんが、比例で自民党と維新の会の名前を書くことは今後絶対にないでしょう。
     
    「内部から変える」

    それができるのであれば、その方法が最も効率がいいのだと思いますが、口に出すことさえできない(議論さえできない)のに内部から変えるなんて不可能でしょう(苦笑い
     自民党では消費税やインボイス制度の話題は話すことができないそうで…もし口に出してしまえば安藤裕前衆議院議員のように党から放逐されてしまうという。議論すら許されないとか、どこの中華人民共和国だよ。
     
    三橋「抜本的改革をやるためには権力を集中させなければならない、と」

    三橋「これで思い出すのが90年代後半以降の日本の政治改革って『決められる政治をめざそう』とか言ってたじゃない」

    三橋「それまでの『決められない政治が問題だ』と。で、実際に決められる政治になりましたと」

    三橋「自民党で言えば総理大臣とか総裁のリーダーシップがやたら強くなったと」

    三橋「小選挙区制と政党助成金によってね」

    三橋「で、その『決められるリーダー』の所に改革とか既得権益を壊したい人たちが入り込んでって、実際に構造改革が行われた。小泉内閣が典型的でしたけども」

    三橋「構造改革をやりたかったから権力を集中させた、これが日本の歴史なんじゃないか」

    中野「そうです。決める政治と言うのを喜ぶというの自体が自由主義的じゃないというか独裁を求めてる」

    中野「何を決めるのかを議論するのが自由なので、正しいことを決めるのが問題なのに『決める』こと自体に重きを置いてしまっている」

    中野「”議論をすると言うことは当然、方針がブレるということ”で、方針がブレないと言うことは『議論やりません』ということで、議論しないと言うことは自由も民主主義もへったくれもないってこと」

    中野「方針がブレないで議論聞かないで決めるんだったら、今度は『強権的だ』って文句言ってたのは誰だって話で」

    中野「結局、政治を誰かに権力を集中させて独裁的にバシッと決めさせないようにすると、皆でワイワイガヤガヤ話をして議論するので決断は当然遅くなるし、間を取ったような案になるからあいまいになるんですよ」

    中野「それを『あいまいだからおかしい』とか不愉快だとか言うのであれば、じゃあもう自由なんか諦めなさいって話なんですよね」

    三橋「元々、過去の歴史を見ると議会があって民主制で物事がなかなか決まらない、そう言う国が発展してったんですよね」

    三橋「つまり、政治改革の前の日本であったり、初期のアメリカですね。あるいは産業革命後のイギリス」

    三橋「その議会制民主主義を考えた時に我々は主権者だけど、個人の主権なんてホントにちっぽけなもので、そのちっぽけな主権を束ねる中間団体(地域団体・職業組合など)があって、その中間団体がさらに束ねられてって形で最終的に権力につながるんですけど」

    三橋「色んなところで議論が起こるわけですから物事が簡単に決まるわけがない」

    三橋「それでよかったんですよ」

    中野「それでよかったんです。簡単に物事が決まらなくてあいまいな結果になるとか根回しをやるとか、そういうやり方が自由で民主主義だったのに」

    中野「どういうわけかこれを『日本的だ』とかディスられてね…これ日本関係ないから、民主的なだけだから」

    三橋「アメリカだってそうだろ(笑)」

    中野「(民主制の国は)どこの国だってそうだろ(笑)」

    民主制国家である以上、バシッと決められずに玉虫色の回答になるのはある程度仕方がないとは思っていますが、議論すらできない雰囲気というのはもう駄目でしょう。解散ですよ、そんな政党。

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      1. 利根川 より

        ・厚生労働省は特許が切れた医薬品の自己負担に関する議論を始める(薬代の自己負担増)

        ・退職所得控除縮小(増税)

        ・サラリーマンの給与所得控除縮小(増税)

        ・タワーマンション高層階の固定資産税を引き上げ(増税)

        インボイス(消費税)以外のところでも続々と増税が決まっていってますね。
         

        一人親方「インボイス困る」

        サラリーマン「お前らは俺達が払った消費税を懐に入れてたのに今まで優遇されてきたんだからむくいを受けろ」

        財務省「素晴らしいお考えです、サラリーマンの皆さま。では、税制上、かなり優遇されているサラリーマンの給与所得控除も縮小しましょうね」

        『ナチスが共産主義者を連れさったとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。
         彼らが社会民主主義者を牢獄に入れたとき、私は声をあげなかった。社会民主主義者ではなかったから。
         彼らが労働組合員らを連れさったとき、私は声をあげなかった。労働組合員ではなかったから。
         彼らが私を連れさったとき、私のために声をあげる者は誰一人残っていなかった。』

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        1. 利根川 より

          財務省は法律に従って仕事をしているだけで悪くない。財務省悪玉論なんてもう古い。
          そんな話を見かけるたびにコイツを書いていこうと思います。

          ・森友学園問題の国有地売却をめぐる財務省の「文書改ざん問題」「虚偽答弁」

          ・特定の政策に選挙期間中に官僚が反対をする国家公務員法第102条違反(矢野論文)

          ※国家公務員法第102条
          職員は、政党又は政治目的のために寄付金その他の利益を求め、もしくは受領し、又は何らかの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない
          人事院規則:多数の人に接し得る場所で政治的目的を有する意見を述べることを禁ずる。政治的目的を有する文書の発行・提示・配布等を禁ず。

          ・2022年10月26日物価高や円安などに対応するための総合経済対策をテーマにした会議でまだ結論が出ていないにもかかわらず、財務官僚が総理に「決まった」と報告し、萩生田光一政調会長を激怒させた事件(財政民主主義完全否定事件)

          ・98年、大蔵省金融検査部汚職事件、同省過剰接待事件(ノーパンシャブシャブ接待:大蔵省の職員らが銀行から接待を受けた際に、中国人女性が経営する東京都新宿区歌舞伎町のノーパンしゃぶしゃぶ店「楼蘭」を頻繁に使っていた事が発覚)

          ・95年、旧大蔵省(現財務省)の事務次官の有力候補だった元主計局次長と東京税関長の2人が過剰接待、金銭疑惑などで辞職

          …法律がなんだって?
          申し訳ないけれど、客観的に見てとてもじゃないけれど財務官僚が法律に従って仕事をしてきたとは思えない。

          財務官僚「馬鹿な政治家に財政主権を握らせたらバカスカ金を使って財政破綻させるに違いない。賢い我々がしっかりたずなを握らねば」

          財政民主主義を完全否定してるじゃないですか、ヤダーーーー!
          というかな、政治家だって30年近く経済成長してないのに何もおかしいと感じてこなかったアホな官僚に馬鹿にされたくはなかろうよ。

          返信

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