From 藤井聡@京都大学大学院教授
みなさん、こんにちは。表現者クライテリオン、編集長の藤井聡です。
皆様も既にご存じかと思いますが、甘利元自民党幹事長の発言には、誠に驚きましたですね。日本を救うためには消費減税が必要だと議論しているこの大不況状況にある現在の日本の状況の中で、甘利さんは、少子化対策のためには15%の消費増税が必要だと示唆する発言を行ったわけです。
理性ある人、常識ある人にしてみれば、こんなことを言う甘利という男は完全なる基地の外の人なんじゃないかとすら感ずるかと思いますが、彼にしてみれば至って真面目にそういう発言をしているのです。彼は本当に、日本の為に消費税15%が必要だと思っているのです。
甘利氏はなぜ、そんな事を考えているのでしょうか?
この問題について、当方のメルマガ『表現者クライテリオン・編集長日記』(https://foomii.com/00178)にて、数回にわたって詳しく解説差し上げましたので、その冒頭部分を下記にご紹介差し上げます。
まず……繰り返しますが、理性があれば、完全に基地の外としか解釈できない狂った信念ですが、
(基本認識1)今、日本の借金は凄まじく多く、このまま借金が膨らみ続ければ、日本は破綻して、日本が沈没する。
(基本認識2)だから、政府支出は削らなきゃならん。
(基本認識3)にもかかわらず政府支出を増やしたいなら、増税するしかない。
という三つの基本認識から構成される「緊縮思想」という思想を信じ込んだ人々にとっては、甘利発言というのは至って当たり前の理性的なものだと感じているわけです。
しかし、これらの3認識は完全に間違い。
日本政府は円建て債券では破綻しないし、したがって、政府支出カットも増税も要らないのです。しかも、こうして緊縮思想が蔓延すれば、日本は確実に滅び去る、ということも真実です。
したがって、こんな緊縮思想を蔓延させている財務省というのは、メチャクチャに悪い悪の組織であり、その職員たちも、超悪人達だ……という風に思えてくるのも当然だと思います。
しかし、そういう認識は半分正当ではありますが、半分間違っています。
まず、財務省は、「組織」としては、学者まで使って真実を歪め、メディアの論調まで支配して世論を歪め、それらを通して日本の政治を歪め、日本経済に深刻なダメージを与えているわけですから、「悪の組織」と言わざるをえません。
しかし、そこで働く財務省の職員は決して、反社会勢力の極悪人の様な人々とは決して言えない人々ばかりなのです。
かれらは概して優秀で、真面目で、日本を潰そうというよりはむしろ、日本にとって良いことをしたいという気分を僅かなりとも持っていることは間違いありません。一人一人とつきあえば、決して悪の権化の様な人格をしているのではなく、どこにでもいるような、普通の人間、むしろ、普通に優秀な人間達です。
しかし、彼らは、財務省という組織の中の「組織人」であることに相違はありません。彼らは東京大学をはじめとした難関大学に入れる程に優秀な人々です。そうした難関大学に入ろうとすれば、大人社会が用意した「問題」に何の疑問も挟まずに取り組み、同じく何の疑問も挟まずに、大人社会が用意したその問題の「答え」に辿り着こうと必死で努力し、より効率的、効果的にその「答え」に辿り着くための競争に、幼少期、青春期の貴重な時間を十年以上も費やして取り組み、そして勝ち残った方々です。
したがって彼らが優秀なのはあくまでも「大人社会が用意した問題に取り組み、大人社会が用意した答えに辿り着く」という〝ゲーム〟なのです。このゲームにおいて重要なのは、「真実」や「真理」を見いだす能力ではありません。あくまでも「大人が用意した答え」を見いだす能力なのです。したがって、彼らは、理性を働かせて実態を読み解く能力が秀でているとは限らないのです。彼らが秀でているのは、「大人社会が用意した答えは何かを〝忖度〟する能力」だけなのです。
そしてそんな「大人社会への〝忖度〟能力」なんてものは、「社会を救う」だの「社会をよくする」だの「幸せになる」「人を幸せにする」だのといった、正解のない問題を乗り越える能力とは全く別のものです。もちろん、両者が重なる部分というのはあるでしょうが、重なるとは限らないのです。というより、難関大学になればなる程、その両者の重なりは少なくなっていき、現実問題の対処能力とは無関係の能力が鍛え上げる様になっていくのです。
まさに日本の戦後教育の歪みそのものを体現している若者達が財務省にこぞって入ってくる、というわけなのですが、兎に角彼らは、財務省に入れば、まず最初に、
「この財務省では、どういう風に振る舞うことが正しい振る舞いなのでしょう?」
という忖度を必死になって行うのです。つまり、彼らは決して、「日本のために、時に上司や組織とも対立しながら戦う存在」になろうとは一切考えず、あくまでも、「善き、善良な財務省の役人」になろうと考えるのです(繰り返しますが、そういう風に20年以上の時間を費やして育て上げられてきたのが彼らなのです)。
そんな財務省の中に蔓延しているのは、言うまでも無く「緊縮思想」です。
そんな「緊縮思想」に徹底的に染め上げられた頭脳を持ち、ありとあらゆる言動を緊縮思想と整合させることができる役人こそが、「理想的な善き財務役人」であり、そうでない役人、つまり、緊縮思想に疑いを持ったり、そんな緊縮思想と調和しない言動をしてしまうような役人こそ「出来損ないの二流品の財務役人」と見なされる事になります。
こういう特定の思想が支配する組織に属する人々の精神は、オウム真理教や統一教会などの新興宗教のそれと何ら変わりません。したがって、こうした財務省における緊縮思想を巡る思想的共同体は、しばしば『ザイム真理教』と揶揄されています。
もちろん、ザイム真理教に染まりきらない役人も一定数程度は財務省には入省してくる筈ですが、残念ながら、そういう役人が役所の中で出世していく可能性は決して高くありません。やはり、敬虔なる『ザイム真理教』信者としてふる舞い続ける役人の方が出世していく可能性が高くなります。
その結果、財務省という組織は、より強固な「ザイム真理教」教団となっていくわけです。
……誠に恐ろしいメカニズムですが、このザイム真理教があるからこそ、甘利発言があるのであり、そして近未来においてホントに岸田総理によって消費税は15%にまで上げられてしまうのです。
何とかこのメカニズムを止める手立てを考えねばならないのです。
我々が直面している最大の問題はまさに、ここにあるのです。
追伸:本稿に続く続編記事として、下記を配信しています。
『ザイム真理教』の社会心理学分析 ~矢野康治氏は〝どうやって〟事務次官にまで上り詰め、〝なぜ〟文藝春秋でバラマキ批判せねばならなかったのか?~
https://foomii.com/00178/20230108100000104101
さらに、こうした議論の学術的な根拠についても、下記にて論じています。
財務省が、マスメディア・政治家にどれだけ強大な影響を持ち、情報を歪めて来たのかについての客観的な〝学術研究〟をご紹介します。
https://foomii.com/00178/20230110105636104195
是非、ご一読下さい!
【藤井聡】甘利さんに「15%消費増税」発言をさせた「ザイム真理教」の「緊縮思想」。その社会心理学的メカニズムとは何か?への3件のコメント
2023年1月12日 12:34 AM
西洋哲学の真・善・美はもはや行き詰った。
真善美では経世済民は達成できない。
利・善・美の必要性を問う。
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2023年1月12日 1:31 PM
優秀な バカは掃いて捨てるほどいます
コロナヒステリー 増税ヒステリー等々
ヒステリー症状を 呈する方々は
きっと 優秀なのでせう
が、、
一言で申せば バカ(失礼)
財政の ザの字もご存じない
お上が 政を為す この国が
地球上に 未だに存在すること
それ自体 奇跡 なのだ ♪
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2023年1月14日 2:25 AM
新年初の書き込みと言うことで、あけましておめでとうございます。
税は財源ではない
今年は流行るといいですね。
藤井教授は今年もさっそく「朝まで生テレビ」にご出演されたとのことで、ありがとうございました。聞けば若い論客の方にも「政府は貨幣を発行する能力がある」という事実が広がってきているそうで、藤井教授らの10年に渡る努力が実ってきている証かと思われます。やはり、TVの影響力は未だに大きいと言うことなのでしょうね。
話は変わりますが、慶応大学の岩尾俊兵教授が次のようなコメントをしています。
岩尾教授「京大のある先生、まあ、経済学者なんですけど…自分も経済学者なのにそれ言っちゃうんだと思いましたが」
岩尾教授「『経済学者はサロンがあるから意図した売国奴』」
岩尾教授「経営学者はアメリカで流行ったものを日本にもってきて、日本のものをアメリカにもっていってみたいなことをやるので意図せざる売国奴だ、と」
岩尾教授「経営学者はアホなだけだと」
岩尾教授「経済学者はそのサロンの中で評価されるために意図的に売国奴になっちゃってるのかもしれない」
どういった人を売国奴というのかあいまいなところがありますが、「失われた20年」という日本弱体化を招いた政策を推し進めてきた者達は売国奴と呼んで差し支えないかと思います。つまり、私を含め日本のほとんどの人は売国奴というわけですね、なにせ小泉竹中政権の支持率は7割超えでしたから(苦笑い
岩尾教授の言う「サロン」についてもう少し補足しておこうかと思います。
経済学者は主流派経済学の理論体系に則って論文を書かなければ論文審査の段階で却下されてしまいます。それでは経済学者としての業績を重ねることはできず、研究者としての職を得ることもできません。経済学者として生きていくには主流派経済学の理論体系を受け入れるしかない仕組みになっているのです。
こうして、主流派経済学の理論体系に忠実な経済学者だけが経済学会に残ることになります。
主流派経済学の理論体系は「一般均衡理論」を基礎としています。「一般均衡理論」とは、経済全体における市場の需要と供給が価格メカニズムを通じて常に一致するといった理論です。どうして需要と供給が常に一致するのかといえば、この理論は
「供給は、常に需要を生み出す」
つまりは、
「作った物は必ず買ってもらえる」
という法則を前提としているからです。この法則を「セーの法則」といいます。
現場の人なら分かると思いますが、「作った物が必ず買ってもらえる」ならだれも苦労しないわけでね。机上の空論とはまさにコレのことなんですが、主流派経済学はセーの法則を前提としてしまうのです。
日本の政治家に経済対策をやらせると、需要がなくて困っている時にすら供給を増やそうとしますが、これはセーの法則に呪縛されているからです(政治家「職業訓練を施しましょう」=供給増加)
需要がない時に商品の製造を増やしても(=供給を増やしても)買ってもらえないので値段を下げるしかなくなるし、値段を下げても買ってもらえなければフードロスというわけですね。
このように、主流派経済学の理論に則って行う成長戦略は物の値段の低下、つまりはデフレを引き起こします。デフレは実質賃金も低下させます。
デフレとは物の値段や労働の値段が下がることを指しますが、それは貨幣の価値が上昇するということでもあります。貨幣の価値が上昇することはお金持ちや債権者には良いことです。
実質賃金が下がることは労働者にとってはつらいことですが、投資家や企業経営者にとってはコスト(賃金)を抑制するため良いことです。
富裕層、投資家、そして企業経営者は主流派経済学者の意見をよく聞き、主流派経済学が提案する政策を実現するよう政治家に働きかけるでしょう。一般的に、富裕層、投資家、そして企業経営者は政治に対し強い影響力を持ちます。
さらに、富裕層は、大学、研究機関、シンクタンクに対して多額の寄付を行い自分達に都合がいいように政策提言を発信させたり世論を形成させたりするようなこともするでしょう。
こうして、政治家、経済界、学界、マスメディアは主流派経済学と同じ見解に染まっていきます。これが岩尾教授のいう「サロン」というやつですね。
しかも、富裕層、投資家、企業経営者たちはグローバルに活動しており、海外に取引先や友人を沢山持っています。そうなると、この「サロン」はグローバルに展開していきます。また、彼らの子弟は海外の大学に留学して、そこで主流派経済学やそれに類する考えを学び友人を作ります。こうして「サロン」への仲間入りを果たせば彼らの将来は約束されるというわけです。
官僚も同じです。主流派経済学の「サロン」に入って「ムチ型」成長戦略を実行すれば政治家からも産業界からも経済学会からも高く評価されます。それだけでなく、海外のエリート達からも高く評価されます。
自分の考えが国内外のエリートたちから高く評価されれば、それが間違っているとはなかなか思わないでしょう。仮に間違っていると思ったとしても、それを口に出してしまったら周囲からの評価を下げるだけです。こうして主流派経済学の「サロン」は富裕層、投資家、企業経営者、政治家、官僚、マスメディアを巻き込んで形成され、しかもグローバルに広がっていきました。
つまるところ、世間でエリートと呼ばれている者達は頭がいいのではなく、エライ人のケツを舐めるのが大変上手いだけのポンコツだったと。そんなポンコツたちに導かれるようにして日本は「失われた20年」という長期停滞に陥ってしまったわけだ。
因みに、「失敗の本質ー日本軍の組織論的研究」では日本軍参謀本部の最大の欠陥として『異なる意見を排除する独善性と閉鎖性』が指摘されていますが、どうしてそんな強力なサロンが形成されてしまうのかは岩尾教授の言う「サロン」がどうやって形成されるのかを読んでいただけば分かって頂けるかと思います。まあ、一筋縄じゃ行かないですよね。ここまで来るのに10年以上かかるわけだ。
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