政治

日本経済

2022年11月2日

【藤井聡】徹底解説・インボイス ~何がそんなにヤバイのか~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

岸田内閣は今、来年(2023年)10月に消費税についての「インボイス」制度を導入すべく、準備を進めています。この件について、当方のメルマガ『クライテリオン編集長日記』https://foomii.com/00178にて解説差し上げたところ、大きな反響がありましたので、より多くの皆様にご理解頂くべく以下にご紹介差し上げます。是非、ご一読下さい!

インボイス、と言えば、一般の国民にしてみれば、聞き慣れない、何のことだか分からない制度ですから、特に賛成も反対もないという方が大半だと思います。が、一言でいって、これは単なる「消費増税」。結果、中小零細企業の多くが倒産し、大企業においても収益が減少し、一般の消費者にとってはさらに物価が高くなる……という最悪の帰結をもたらします。

このインボイスなる制度によってなぜそんなことになってしまうのか、を、順をおって分かり易く、簡潔に解説いたしたいと思います。

【ステップ1:売り上げの1/11を業者が納税している】
消費税を納めているのは、「業者」です。「売り上げ」には、私達消費者が支払った10%分の消費税が含まれていますから、それを年に一回、まとめてその消費税分を税務署に納めているのです。具体的に言うなら、消費税率が10%ですから、売り上げの1/11(=9.1%)という事になります。例えば、1100万円の売り上げがある商店は、100万円もの消費税を納めているのです!

【ステップ2:ただし、仕入れ分の消費税は、払わなくてもいい】
ただし、そんな「業者」さんも「仕入れ」の時には、仕入れ業者さん(以下「下請け」さん、と呼びましょう)に消費税を払って癒える事になります。だから、仕入れ分の消費税は「下請け」さんに既に払っている、ということで、その分は税務署に払わなくてもいい、という事になっています。つまり、仕入れ分の消費税は、業者さんは払わなくてもいいのです。別の言い方をすると、業者さんは、

「売り上げから仕入れ分を差し引いた利益(一般に粗利、といいます)」の1/11

を税務署に払っているのです(つまり、消費税というのはこう考えると「粗利にかかる法人税」というのが真の姿なのです)。

【ステップ3:ただし、零細業者は、消費税が免税となっている】
しかし、この「粗利の1/11」を、売り上げ1000万円以下の零細業者(個人事業主含む)は、今、払わなくてもいいのです!零細業者さんと言えば、小さな商店や個人タクシー、フリーランスのデザイナーやタレントさんやエンジニアさん、一人親方さん達です。で、こうした「免税制度」は、そんな小さな零細業者さん達に対する「保護」の主旨で、諸外国でも頻繁に採用されている一般な制度です。

【ステップ4:インボイス制度が導入されれば、『仕入れ分差し引くには、インボイスが必要だ!』となる】
 以上が、インボイスとは何か、を理解するための基礎知識。
 以上の話が国民には全く浸透していないので、「インボイスの恐怖」が全く国民に伝わっていない……というのが実態です。
 ではいよいよ、インボイス制度とは何か、の説明に入りましょう。
 インボイス制度、というのは、次の様な仕組みです。

1)業者は「ステップ2」で解説した通り、「下請けに支払った消費税を免税できる」のですが、その「免税」を受けるには、「下請け」さんから、「インボイス」(=何円、消費税を祓ったか、の書類)もらわないといけない。
2)で、「下請け」さんは、インボイスを発行するには、「インボイス業者」として、税務署に登録しなければならない。
3)「インボイス業者」に登録されれば、インボイスを発行した分の消費税を、税務署に納税しなければならなくなる。

ややこしいですが、この制度は要するに、「下請けにきっちりと、消費税納めさせる制度」なわけです。
 そんなの「当たり前だよな」と思う方もいるかも知れませんが、これは当たり前でも何でも有りません。「ステップ3」で説明したように、零細の「下請け」さん達はこれまで消費税の納税義務がなかったのに、インボイスに登録したら、売り上げの1/11を納税する義務がでてしまうからです!
 だから、インボイスの導入は、零細な下請けの「救済」措置として導入されていた、ステップ3に説明した「免税」措置が受けられなくなる事を意味しているのです!つまり、インボイスに登録すれば、彼らは今まで消費税の納税が0円だったのに、売り上げの1/11ものオカネを税務署に払うことになるのです!
 つまり、インボイス導入は、事実上の「消費増税」を意味していることになる、第一の理由です。

【ステップ5:「業者」はインボイスに登録しない下請けからモノを買わなくなる】
 じゃぁ、「零細業者はインボイス登録なんてしなきゃいいじゃないか」と思う方もいるでしょう。しかし、そうはいかないのです……。
 「ステップ4」で説明したように、「業者」は、「下請けに払った消費税分は、税務署に納めなくて良い」ということにするためには、下請けさん達から「インボイス」をもらう必要があるのです。
 だから、インボイスが導入されれば、あらゆる業者が、インボイスに登録しない零細企業からはモノを買わなくなって、インボイス登録業者からだけモノを買うようになってしまうのです!
 そうなってしまえば、零細の下請けさん達は、売り上げを確保するために渋々、インボイスに登録せざるを得なくなってしまうのです。
 もちろん、インボイスに登録しなくてもいい、という事にはなっているのですが、登録しなければ、客が逃げてしまう……という事になります。
 つまり、零細の下請けさん達は、インボイス登録をして税務署に納税するようにするか、登録しないで客を減らすか……という最悪の選択を迫られることになるわけです。
 インボイスは要するに、零細にとっては、百害あって一利無しの最悪の制度なのです。
 その結果、零細企業の多くが業績悪化となり、倒産・廃業に追い込まれるケースが続発することは確実なのです。

【ステップ6:零細ではない「業者」の納税額も増えてしまう】
 このように、下請けさん達はインボイスで大打撃、ですが、「業者」のみなさんもまた、インボイスのダメージから免れることは出来ません。
 理由は二つ。
 第一に、「インボイス登録していない下請けからモノを買うケース」は、どうしても出てきます。その場合、納税額の控除が受けられなくなり、税務署に払う納税額が増えてしまうのです。
 しかも、インボイス登録している下請けからの購入金額も「値上げ」されるケースが続発することになるでしょう。そもそも、これまでは、零細の下請けさん達は納税義務ない、ということで、納税分を価格に上乗せしない価格を設定することが多くあったのです。ところが、これからはインボイス登録をすれば納税義務がでてくるわけですから、消費税分をしっかりと上乗せし、価格を引き上げる下請けさんも出てくるのです。
 その結果、あらゆる「業者」に、「仕入れ価格の値上げダメージ」のリスクが生ずる事になるのです。
 以上の二点故に、あらゆる業者にとって「減収」のリスクがもたらされるのです。

【ステップ7:その結果、消費者にとっての物価も上がる】
 そうなれば、消費者が支払う価格そのものも値上がりする事になります。なんといっても、インボイスのせいで平均的な仕入れ価格が上がるのですから、その一部が価格転嫁することは必然なのです。つまり消費者にとっても、インボイスの導入は「消費増税」と同様の効果がもたらされる事になるのです。

……

以上、いろいろと細かいメカニズムについて説明しましたが、この問題は次の様に考えるとシンプルにご理解頂けるようになるのではないかと思います。

そもそも、売り上げ1000万円以下の零細業者には、消費税についての納税義務がなかったところ、インボイス制度が入れば、その分もガッツリ財務省が「巻き上げる」ことができるようになる。
 で、そうした財務省が吸い上げる「増税分」を、零細業者、業者、そして消費者の三者でそれぞれに負担する、という事になるのであり、したがって、あらゆる業者と消費者全員が、インボイスによってダメージを受けるのです。

「零細業者」は、これまで払っていなかった10%分の消費税を払う事を通して、
「業者」は、これまで減免されていた零細業者からの消費税分を(納税、あるいは、零細業者への支払いいて)負担する事を通して、
「消費者」は、これまで価格に上乗せされていなかった、零細業者が納税する消費税分の一部を負担する事を通して……。

こうして、インボイスが来年10月に導入されると、零細企業の経営が苦しくなり、その多くが倒産・廃業に追い込まれると同時に、あらゆる業者さん達の利益が損なわれ、挙げ句に消費者が支払う物価もさらに高騰するということになるのです。

すなわち、インボイス制度とは、インボイスという分かりにくい言葉でコーティングされた、特殊な形態の「消費増税」なのです。

そんなことを、岸田内閣は今、一年後に導入しようと、着々と準備を進めているのです。

これで日本経済がさらに傷付くことになるのは必至……だから今、求められているのは、インボイス導入の「中止」を国会の力で実現して頂くか、それともインボイスの弊害を限りなくゼロに近づける対策を実現するかのいずれかなのです。

そうした、インボイス導入を通した「岸田内閣による日本国民への経済政策」をなんとか辞めさせるためにも、まずは、本記事で解説した、インボイス制度のヤバさを、しっかりとご理解下さい。

どうぞ、よろしくお願い致します。

追伸1:こうした記事を連日配信している『表現者クライテリオン編集長日記』https://foomii.com/00178。ここ一週間では下記のような記事を配信しました。是非、ご一読下さい。
「岸田文雄」「麻生太郎」らの緊縮政治で、中国・ロシアの「日本略奪」が確実化する。
https://foomii.com/00178/20221031182812101348

リニア工事が静岡で止められている“根本”原因 ~なぜ、JR東海は、地域の人達に嫌われるのか?~
https://foomii.com/00178/20221030111325101280

今の日本で国土強靱化を進めない政府は(間接的な)「日本国民大虐殺者」である。
https://foomii.com/00178/20221029161617101265

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トラス首相を辞任に追い込んだのは、消費税減税ではなく「法人税減税」である。
https://foomii.com/00178/20221026081442101130

追伸2:今週土曜日、MMT・現代貨幣理論の創始者の一人、ビルミッチェルをスペシャルゲストに招いた『三沢カヅチカwith friends』のライブを、京都の老舗・ライブハウス「拾得」で緊急開催。是非、ご参加下さい!
https://the-criterion.jp/mail-magazine/221025/

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【藤井聡】徹底解説・インボイス ~何がそんなにヤバイのか~への6件のコメント

  1. ひぃ より

    インボイスとはなんぞや、初めて読みました。インボイスとは、今まで消費税納税を免除されていた零細企業の免税を無くす制度なんですね。で、その分は結局小売価格に転嫁され、給料は上がらないのにますます物価だけ上がることに繋がっているのですね。

    この制度が導入されるのなら、今頃零細企業はどうしているのでしょうか?取引先に身売りとか考えているかもしれません。インボイスに登録すれば納税、登録しなければ取引先が無くなる…意地悪にも程があります。財政破綻などしないことを政府も財務省も知っているはずなのに。

    複雑な制度の解説、わかりやすく本当にありがとうございます。周りにも説明します。

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  2. 趙子竜 より

    日本の債務1450兆円。国債(円)買いオペで、円は暴落。ドル売りしても円は買うな、と日銀と財務省に言いたい。円を増やした分、ドルも買いオペしないと円安になって当然。円とドル両方買ってこそ通貨価値はバランスする。ドルも買うべきだ。ドルを買えば資産も増える。

    売れないETFを毎月1兆円もアホみたいに増やした結果、永久債になっちまったw政府官僚は経済のド素人だらけ。日本人でノーベル経済学賞出ないのも当たり前だよw大卒全員、経済の白痴だからw近々アジア通貨危機第2章でしょw

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  3. 利根川 より

    デービット・アトキンソン「私は緊縮増税派ではない。ワイズスペンディング派(賢い支出派)なのだ」(森永康平のビズアップチャンネルより抜粋)

    では、どうやって「賢い支出」であるのかを判定するのかというと

    B/C(費用便益比)が1を上回るものであれば賢い支出

    であると言うことで、民主党政権下の事業仕分けでもこの計算がもてはやされたりしたわけです。室伏謙一さんの霞が関リークスに以前、藤井教授と共同で本を出版された大石久和さんが出演されてB/Cについて解説していましたが

    このB/Cの計算、便益に災害対策による減災効果が計上されていない

    ということで、意図的に便益が小さくなるように調整されているのだそう。また、地方のインフラ整備による東京一極集中の解消、それによる国防力アップ(東京一極集中だとミサイルを撃ち込まれた際の被害が大きくなる)も便益に含まれていないのだそう。
     総務省による「東京都以外への移住を考える上で重視するポイント」の調査では

    ・買い物への利便性

    ・交通への利便性

    ・医療福祉施設の充実

    の3つが上位5つに入っているのだそうで、皆さん不便な所への移住は嫌なのだそうですよ(苦笑い
     「超インフラ論」によれば、高速道路までの所要時間別の「商業年間販売額」過去25年間の平均増加率(1980年~2005年)は以下のようになっている。

    高速道路まで10分未満の店 年間販売額平均増加率92%

    高速道路まで10~20分未満の店 年間販売額平均増加率82%

    高速道路まで20~30分未満の店 年間販売額平均増加率34%

    高速道路まで30分以上の店 年間販売額平均増加率8%

    国防や減災を持ち出さなくても東京一極集中の解消に地方へのインフラの整備が重要なことなど誰にでも分かりそうなものですが、財務省や政商達は政府による支出をなるべく減らしたいのでB/Cがわざと小さくなるようにして

    「こんな公共事業は無駄。なぜならB/Cが1を下回ってる」

    ということにしたいのでしょうね。
     因みに、藤井教授が内閣官房参与として参画し、防災減災について口を酸っぱくして訴えたおかげで現在は「補正予算」から災害対策費(国土強靭化予算)が出るようになったそうですが、相変わらず「当初予算」では出ないそうで、「やってるフリ」であることがうかがえます。
     こんなことを言うと

    「財源はどうするんだ!」

    という声が返ってきそうですが、そんな方に問題です

    問一、金本位制と管理通貨制の違いについて説明せよ

    問二、信用について説明せよ

    せめてこの問題が解けるようになってから議論をしましょう。いつまで金本位制を引きずってるのかと。知識をアップデートしましょう。

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      1. 利根川 より

        乙事主「ワシの一族を見ろ!みんな小さくバカになりつつある。このままではワシらはただの肉として人間に狩られるようになるだろう」(もののけ姫より)

         日本ではエリート層の劣化がささやかれるようになってきていますが、どうやらエリート層の劣化は日本に限ったことではなかったようです。
         詳しくは三橋貴明さんと森永康平さんの対談を見ていただきたいのですが、日本が延々と需要不足に悩まされているのは

        アクセルとブレーキを同時にべた踏みしているから

        ということで、国会でも当時の野党から

        野党「安倍総理、あなたはデフレ脱却するといいながら緊縮増税を繰り返し、その一方で日銀に金融緩和をさせてきました。ブレーキとアクセルを同時に押してあなたは何がしたいのですか」

        などと非難されたりしていたわけです。
         需要不足を埋めるためには誰かがお金を使う必要があるわけですが、20年以上も実質賃金が下がり続けている状況では個人はお金を使えません。個人が節約志向だと企業も売り上げが上がらないのでお金を使えません。だから、

        「アベノミクスは財政出動と金融緩和の両輪です(政府が金を使う)」

        という話だったはずなのですが、安倍政権期は民主党政権期以上の緊縮政権だったというオチになってしまいました。
         中央銀行(日銀)が金融緩和でお金(日銀当座預金)を発行しまくっていても、政府が財政支出を増やさなければ民間の銀行預金(民間の需要)は増えませんので需要不足の解消には全くならなかったわけです。

        くわしくは「奇跡の経済教室 KKベストセラーズ」

        にて貨幣発行のプロセスをご覧ください。
         さて、イギリスではファイターであるところのトラスさんが

        「財政出動をしたからポンド安になった、責任取れ」

        ということで辞めさせられたそうですが、

        森永康平さん「イギリスは財政出動したからポンド安になったと言われていますが、そうではなくて、財政出動したのに中央銀行が金融引き締めをしていたからポンド安になってしまったのではないかと」

        森永康平さん「日本とは丁度真逆のことをやったわけですがアクセルとブレーキを同時に押しているという点では同じです」

        ということでして…なんで日本を参考にしないのかと小一時間問い詰めたい。日本ほど優れた反面教師などいない。なにせ20年以上も経済成長していない国など世界に日本だけですからね(苦笑い

        日本と同じ間違いをしたらダメじゃないですかヤダーーーーー!

         因みに、どうして為替の変動で困ったことになるのかというと「需要にせよ供給にせよ過度に外国に寄りかかっているから」なわけですよ。国内生産していれば海外からモノが入ってこなくなっても困りませんし、国内のお客さんがメインであれば中国人観光客に爆買いしていただかなくても問題なかったわけだ。なので、政府が財政支出をしてLNGやレアメタルなどの国内の資源開発を行ったり、半導体や肥料・飼料の国産化を支援したりした方が為替変動で右往左往しなくて済むようになるわけです。

        「財源はどうするんだ!」

        しつこいわ!「奇跡の経済教室」でも「日本を100人の島に例えたら面白いほど経済がわかった!」でも読めばいいんじゃないですか(投げやり

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  4. イノウエトモミ より

    説明が難しくて、途中で読むのをやめました。
    もう少し分かりやすく書いていただけると有難いです。

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  5. 通りすがりのサカイ より

    説明が下手で、例えも下手。
    我慢して読み続けていても、財務省が「巻き上げる」とか、個人的な感情ベースで記載しているので、信憑性が全くない。

    免税されていた個人事業主が真っ当に消費税を納税するだけの話ですよね。

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