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2022年10月6日

【藤井聡】財政についての「バラマキ批判」、それは一見合理的に見えて実は合理的な財政(ワイズスペンディング)を破壊する「百害あって一利無し」な呪いの言葉です。

From 藤井聡@京都大学大学院教授

みなさん、こんにちは、表現者クライテリオン編集長、京都大学の藤井聡です。

今丁度、補正予算の議論がはじまっていますが、マスコミ各社で「バラマキ批判」がまたぞろ噴出しはじめています。これについて、当方のメルマガ

『藤井聡・クライテリオン編集長日記』
https://foomii.com/00178

にて記事を配信いたしましたので、以下にご紹介差し上げます。
是非、ご一読ください!

――――――――――――――――――――――――――――――――
『財政についての「バラマキ批判」、それは一見合理的に見えて実は合理的な財政(ワイズスペンディング)を破壊する「百害あって一利無し」な呪いの言葉です。』

岸田総理が、物価高を受けて経済対策のために経済対策を行う見通しと報道されています。岸田総理が所信表明で「日本経済の再生が最優先課題だ」と述べ、物価高・円安への対応や、賃上げを重点課題に挙げたからです。これについて30兆円規模でとの声もあると報道されていますが、産経新聞でも読売新聞でも、その支出が「バラマキであってはいけない!」という論調が強調されています。

曰く、

『バラマキに陥らず、苦境にある中小企業や、困窮した人への支援など必要』
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20221003-OYT1T50291/
『与党では編成前から巨額の財政出動を求める声が強まり、バラマキ型の対策が一層の財政悪化と市場の混乱につながる懸念もはらむ』
https://www.sankei.com/article/20221003-DQ2JDUFIFNPRXBS4HTWWRBONWY/

こういう主張は、一見、全くもって正しいように思います。

一方で、このバラマキ批判と似たものとして、財政には、いわゆる「ワイズスペンディング」という考え方があり、政府がオカネを使うならば、賢く使う方が良い、という考え方です。

当方はこの概念を、いろんな局面で好んで使用しています。

この両者は一見同じ事を言っているように見えますから、ワイズスペンディングを強調する当方は、バラマキ批判をしているのと同じだから、バラマキ批判という言葉も当方よく使うのかというと……全くそうでは有りません。

なぜなら、論理的には両者は同じに見えても、実質的には両者の間には天と地ほどの差があるのです。

そもそもワイズスペンディングの考え方は「どうせオカネをつかうなら」という前提があるのですが、「バラマキ批判」は、実は、「無駄だと思えるものにはカネを使うな」という緊縮的思想が明確に入っているのです。

つまり、ワイズスペンディングは「何に払うべきか」というポジティブな規範ですが、バラマキ批判は「何には払ってはならないか」というネガティブな規範なのです。

もちろん、世の中には、ポジティブとネガティブしかないのですから、両者は論理の構造としては全く同じ事を言っている、と言うことはできます。

しかし、世の中ものは言いよう。ポジティブな規範は人々を活性化しますが、ネガティブな規範は人々を抑圧していきます。教育学ではよく知られた現象ですし、何より、ノーベル賞を取った心理学者・ダニエルカーネマンが明らかにしたことでよく知られるフレーミング効果というものは、論理的には全く同じことでもポジティブに言うかとネガティブに言うかで、大半の人々の判断が「激しく逆」になるという現象です。

ですから、政府支出額に着目すれば、ワイズスペンディング奨励に比べて、バラマキ批判の場合は、圧倒的に縮小されてしまうのです。

だいたい、「バラマキやめろ!」と言われて、「分かりました、じゃぁ、賢く使うために、当初考えていた金額の二倍支出します!」なんて事にはおおよそなりそうにありません。「バラマキやめろ!」と言われれば、おおよそ「じゃぁ、当初考えていた金額には、バラマキ的予算が結構入ってたから、削って削って、おおよそ半分くらいにしますね…」となるにきまってるわけです。心理学的に言って。

……というか、バラマキ、って一体何なのでしょう?

一見、何も考えずにカネを使うことがバラマキだから、ダメなものに見えますが、一体誰が、それがバラマキでそれはバラマキでない、と決められるのでしょうか???

そんなもの、誰も決められないのです。

「困っている人がいて、その人が5万円分困っている」ということが「確定」しているなら、「5万円配るのは正しいが、6万円配ったら、1万円余分だから、その6万配布はバラマキだ」という事もできるでしょう。

しかし、5万円困っているってきっちり測定することなんて絶対出来ないのです。

だから、その人に1万円配っただけでも、「そいつは1万円も困ってはいない。せいぜい5000円程度しか困ってないんだから、配りすぎだ。それはバラマキじゃないか!!」という人が出てきても不思議ではないじゃないですか。

……つまり、バラマキ批判を一旦許容してしまえば、どんなオカネの給付でも、それは「バラマキだ!」とイチャモンを付けることが可能となってしまうのです!

それは、さながら古代人が、あらゆる病気について「それはご先祖様の祟りじゃぁぁぁ。先祖をもっと敬わなかったからそうなったんじゃぁぁぁ!!」と言うのと同じ話。

誰も、それが祟りじゃない、ということが証明できないから、全部祟りのせいにできてしまうように、誰もそれがバラマキじゃない、とは証明出来ないから、全部バラマキだと言えてしまう様になるのです。

……だ・か・ら……

(病因で祟りを持ち出しちゃいけないように)財政を語るにあたって、「バラマキ」という言葉を使ってはいけないのです!!

我々は、正負支出についてバラマキかどうかで批判するのではなく、

1)政府が達成すべき目標を定める事を求め(例えば、実質賃金の上昇率目標や貧困層を何%以下目標(理想的にはゼロ%)、そして、名目成長率3%、実質成長率4%など)
2)その目標に向けた”マクロな支出額”と”ミクロな支出項目”の双方についての合理的な戦略の検討と推進する事を政府に求め(これこそ、ワイズスペンディングを求める態度です)、
3)その1)で立てた目標が達成されているかどうかの確認を政府に求める、

という態度が必要なのです。

こういう理性的な政府監視と政府批判を続けていれば、国民の実質賃金が上がり(そのためには、物価下落と名目賃金の上昇が必要であるが、その双方が進められる事になるのです)、それと同時に、貧困層が最小化/撲滅され、そして、国家全体の経済規模も実際的に拡大していくことになるのです。

こうした合理的な財政において、バラマキ批判は百害あって一利無し、なのです。

なぜなら、バラマキ批判ばかり繰り返していれば、1)の目標が見失われてしまうからであり、2)のマクロな支出額の達成が不可能となるからです。

さらに言うなら、2)におけるミクロな支出項目の合理性の議論においてすら、バラマキ批判は害悪となり得ます。第一に、あらゆる支出項目が、それが少々金額が高ければ「それはバラマキじゃないか!」という批判に晒されがちとなるからであり、第二に、あらゆる支出項目が、それがどれだけワイズスペンディングの視点から不合理であっても、それが安ければ、バラマキ批判されずに”お目こぼし”にあって、支出が許容されてしまう事になるからです(実際、そうやって、構造改革のための会議の運営費や担当官の設置などが、安いから、という理由でお目こぼしにあって、進められてきたのです!)。

つまり結局は、バラマキ批判はあらゆる項目について差し向けられるものである以上、実態は、高い支出項目が阻止され、安い支出項目が許容される、という馬鹿丸出しの財政が展開されるようになってしまっているのです!!!!(これこそ、当方が10年間内閣官房の仕事をしてきたことで深く理解した、非ワイズスペンディングな今の政府の実態です。そうです。完全に、政府は、馬鹿なのです)。

……ということで、バラマキを語る人間は、一見合理的で正しそうに見えても、百害あって一利無しの態度なんだ、ってことを、少なくともこのメルマガ読者だけでもご理解いただきたいと思います。

まぁ、祟りをまるっぽ信じてる村社会で、祟り批判をすれば基地外扱いされますから、バラマキ批判も慎重にやらないと、基地外扱いされて、迫害される事になりますから、当方も慎重にやって参りはいたしますが、ホントのホントに、それは百害あって一利無し、なのです。

追伸1
当方のKBS京都「あるがままラジオ」のスタジオ動画が、「新経世済民チャンネル」から「表現者クライテリオンチャンネル」にお引っ越しいたしました。この機会に是非、下記より「表現者クライテリオンチャンネル」にご登録ください!
https://www.youtube.com/channel/UCE8qPb4i2vMjLlnRHJXmL1w

追伸2:
今週は、『藤井聡・クライテリオン編集長日記』にて、上記以外に下記メルマガを配信しています。ご関心のものがありましたら是非、ご登録・一読ください!
https://foomii.com/00178

追悼・アントニオ猪木 ~「猪木」とは一体何だったのか?~
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「安倍元総理・国葬儀」は一体、如何なるものだったのか? ~武道館からの一報告~
https://foomii.com/00178/2022092803193699965

追伸3:
表現者クライテリオンでは、「表現者塾」を毎年解説。今月から「下半期」が始まります。この機会に是非、ご参加検討下さい(一回体験制度<五百円>も是非ご活用下さい)。
https://the-criterion.jp/seminar/

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  1. 日本晴れ より

    藤井先生に全く同感です。そもそもバラマキという言葉自体
    非常に個人の主観の問題であって定義がある訳じゃない
    バラマキと言えば何でもバラマキといちゃもんを付ける事は可能になってしまう。そんな定義が決まってない曖昧な概念を連発する人は信用するに値しないと思います。 

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