政治

日本経済

2022年7月9日

【藤井聡】安倍晋三元総理のご冥福を祈念致します。そして我々は、日本を取り戻す、その思いを引き継がねばなりません。

From 藤井聡@京都大学大学院教授

安倍元総理が、奈良の路上で街頭演説中に散弾銃で撃たれ、息を引き取られました。

安倍元総理については、国内に様々な批判があったことは事実です。当方も、安倍さんの政治に、様々にご支援申し上げると同時に、批判を少なからず差し向けて参りました。

しかし「政治家・安倍晋三」を失った今、率直に申し上げまして、「安倍晋三」程に、「日本を真の独立に導き得る力」を持った政治家が、今の日本の中に誰一人見いだせないというのが、当方の偽らざる気持ちです。

どれくらいの日本人が気づいているのか検討がつきませんが、僕はこの損失は、「巨大な損失」であると感じています。

本当に、残念、としか言いようがありません……。

「日本を真の独立に導き得る力」とは、もちろん与党の最大派閥の長であるという要素も含まれてはいます。しかし、そんなもの如きでは、日本を真の独立に導くことなど絶対に出来ません。仮に総理大臣であろうが財務事務次官であろうが、そんな永田町・霞ヶ関における政治力学的権力を持っているだけでは、日本を真の独立に導き得る事など、絶対に無理だからです。

「日本を真の独立に導く」ためには、「思い」が必要なのです。

そして安倍さんには、その「思い」があったのです。

繰り返しますが、当方は、「安倍晋三」の政策の全てを支持しているわけでは全くありません。様々な新自由主義政策を進めたこと、とりわけ、消費税を2度引き上げた事について徹底的に批判して参りました。

しかしそれでもなお、安倍さんには、財務省が国内最強の政治権力を持ち、米国が日本に対して強大な外交的支配的影響力を持っているという状況の中で、なんとか「日本を真の独立」に導きたいという思いを込めた政治活動を続けられていたことを、ことある毎に感じて参りました。

そんなもの、全然信じられない、と思う方もおられるでしょう。

しかし、安倍さんは、当方がどれだけ政策論的批判を差し向けていても、当方から学者として提案申し上げれば、文字通り「必ず」その提案に耳を傾けて下さいました。

そして、当方が最も強烈に安倍さんを批判していた「財政政策」について、当方がホストを務める「東京ホンマもん教室」というテレビ番組の元旦スペシャルにて、自らのアベノミクスについて、

「財政政策において積極性をもつべきだった」

との反省の弁を、公共の電波に乗せる形ではっきりと言明されるということもありました。

当時、この一言に着目する報道はありませんでしたが、これは永田町の事情を知るものならば誰もが認識できる、極めて大きな意味を持つものだったのです。なぜなら、この反省の弁があれば、「次」のチャンスが訪れれば、かつてのアベノミクスとは異なる「異次元」の、デフレ脱却に足る十分な財政支出があり得たからです。

実際、ある時、安倍さんとの会話の中で、さらなる新たな「ご活躍」の場を大いに期待している旨を申し上げたところ、安倍さんは確かに「次は、絶対にやりますよ」と、驚く程に、力強く、おっしゃるということがありました。

それを耳にしたとき、我が耳を疑ったことを覚えています。

なぜなら、一旦宰相の座を退かれてからは、「今後」の話しに水を向ければ、様々な配慮から必ず言葉を濁されてこられたからです。にも関わらず、その時だけははっきりと、デフレ脱却のための意次元の財政政策を「次」は絶対にやるとの決意を口にされたのを耳にした時、政治家・安倍晋三の精神の内に、日本を救うための「闘志」が漲っていることをありありと感じたのでした。

そして事実、安倍さんはその後、積極財政の展開に向けた政治闘争を展開し、本年の「骨太の方針」の策定に照準を定め、最終的に(PB規律によって)『重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない』との文言を挿入することに成功されたのです。

関係者にしか分からない大変に地味な「一文」ではありますが、それは確実に、現代日本の政治を大きく転換させる歴史的な一歩となるものだったのです。何といっても、PB規律はあったとしても、それが「重要な政策なのだ」と政治的に決定できたのならば、その実施がPB規律によって排除されずに実行可能となるからです。

だからこそ安倍さんは、その「骨太方針」の内容が確定した日の夜、「これは我々の実質的勝利だよ」と口にされたのです。

……ですがもちろん、「緊縮財政派」は、そんな文言を無視することは必至。「PB規律があるんだから、できないものはできないんだよ」という政治圧力をかけてくることは火を見るよりも明らかでした。

だからこそ、日本をデフレから脱却させ、国力を増進し、真の独立を勝ち取っていく一歩を踏み出すためにも、この参院選挙後に、「PBを無視してもやらねばならない重要な政策とは何なのか?」を巡る大きな政治闘争を大きく展開せねばならぬと、安倍さんと共に密かに予期していたのでした。

安倍さんが凶弾に倒れたとの報道が舞い込んで来たのは、まさにその矢先だったのです……まさに晴天の霹靂……。

安倍さんに対して、いろんなことをおっしゃる方がおられることは事実ですし、繰り返しますが当方も安倍さんの政策に対して様々な批判を展開して参りました。

ですが私は、『安倍晋三』という一人の政治家を、最終的に、信頼していたのです。それは、安倍内閣が終わった時に、安倍さんが今一度総理大臣の座に返り咲くことを支援し続けた、我が師匠、西部邁と同じ思いだったのだと、思います。

そして、安倍さんは、西部先生の信頼を、そして当方の信頼を感じ取ってらっしゃったのです。

そうでなければ、今年の元旦スペシャルの対談収録が終わった後に、切々と「僕が最初に総理になって止めた後、西部さんはホントに僕を支援してくれたんだ。それには僕はね、凄く感謝してるんですよ」と口にされること等、あり得なかったに違いありません。

しかし、その「安倍晋三」はもう、この世にはいないのです……。

「日本の真の独立」を希求する国民の声に耳を傾け、国民の期待と信頼を感じ取りながら、「日本の真の独立」を実現するための個別具体的な実践をひとつひとつ重ねていかんとする実力をもった政治家が、我が国から消えて無くなったのです。

我々日本人は今、途轍もなく大きなものを失ったのです。

その代わりに我々の手元には、「日本の真の独立」という途轍もなく大きな宿題だけが、残されたのです。

……

我々は今、手元に残されたその宿題の大きさを噛みしめながら、ここまでひとつひとつの努力を重ね続けられた「安倍晋三」のその人生に深謝する他有りません。

そして、安倍さんのご冥福を心からお祈り申し上げたいと思います。

安倍さん、どうぞ、安らかに、お休み下さい。

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  1. 日本を トリモロス より

    現状が続く限り
    どこが与党になろうが
    だれが総理になろうが

    日本の独立など ありえない かと、、

    ヒトのやれることは
    祭 と 戦争 この二つしかない とのこと

    彼の死によって 戦後の マツリゴッコも
    終わりをつげ

    次に訪れるのは 戦争しかない かも。。。

    返信

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  2. とすくん より

    安倍さんの思い出はなんといっても2013年10月の消費税8%増税決断の記者会見ですね。あの時、正に天と地がひっくり返るほどの衝撃を受けました。「何で…?」という…そして恐るべき恐怖感に覆われたのをハッキリ覚えています。(第一回目の都構想住民投票で賛成反対が紙一重の僅差でかろうじて否決されたとき、あの時もものすごい恐怖に苛まれたのを覚えています。こんなアホなもんに住民の半分が賛成してるんや!と…)…さて、あれから10年、私は親から譲り受けた事業、商売を諦め店じまいすることを決断致しました。崖の上から転がり墜ちるような凄まじいアベノミクス効果でした。安倍さんの目指した光景は如何なるものだったのでしょう?

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