日本経済

2016年7月28日

【島倉原】ヘリコプターマネーは財政政策

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家

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6月23日(木)にイギリスで行われたEU離脱を問う国民投票。
大多数の予測を覆し、離脱賛成派が51.9%、反対派が48.1%と離脱派が上回った。

多くのマスコミはイギリスのEU離脱の判断を
「愚かな衆愚政治」「イギリス人はこの選択を後悔することになる」などと批判した。

しかし、三橋貴明は「そうではない」と断言する。

月刊三橋最新号
「イギリス激震〜英国の没落から日本が学ぶべきこと」
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日銀金融政策決定会合を控える中、「ヘリコプター・ベン」の異名を持つFRBの前議長であるベン・バーナンキ氏が先々週来日して黒田日銀総裁、安倍首相と相次いで会談したこともあり、いわゆる「ヘリコプターマネー(ヘリマネ)」を巡る論議が活発になっています。
今週発行された雑誌「週刊エコノミスト」2016年8月2日号も、「ヘリコプターマネーの正体」と題した特集記事を組んでいます。
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同記事では、ヘリマネの定義として、

「ヘリマネは、増税などにより政府に回収されることのないお金を人々に配る政策の総称と考えられている。バーナンキ氏は、デフレ脱却のためには、政府が家計や企業に対する減税などで財政出動し、中央銀行が国債を買い入れるなどしてその財源を賄うことを以前から提唱している。中銀が国債を保有し続ければ、政府は借金を返済する必要がなくなり、負債を抱えずに財政出動することが可能になる。このような方法について、バーナンキ氏はヘリマネの考え方と同じだと認めている。」(24ページ)

と述べられています。

ここでまず明らかにされているのは、「ヘリマネ=財政出動ありきの経済政策」であるということ。
ミルトン・フリードマンがヘリマネの概念を打ち出した際に提示した「ヘリコプターからドル紙幣をばらまく」という比喩にしても、単にお金をばら撒いているということ、あるいはヘリコプター「マネー」という名称が用いられていることから、金融政策と混同される向きもあるかもしれませんが、その本質は財政出動です。
例えば、景気対策として一時期行われた地域振興券や各種の給付金と比べてみれば、資金源が通貨発行に限定されている(民間への国債発行は手段として除外されている)こと以外は、まるで違いがないことは一目瞭然でしょう。

そもそも、金融政策の担い手である中央銀行は、金融機関以外の民間経済主体とは基本的に取引を行いません(一個人としての中央銀行職員に給与を渡す、といった例外はありますが)。
民間経済に資金を供給するのは、融資や投資を通じて預金通貨を創造する民間金融機関か、財政支出によって民間に所得をもたらす政府の役割です。
(このあたりは拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』第3章も参考になると思います)
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仮にフリードマンの比喩において、ドル紙幣をヘリコプターからばら撒いているのがFRBの関係者だとしても、政府の委託を受けて行っていると考えるのが、通常の両者の役割分担からすれば妥当です。

また、ヘリマネというとしばしば引き合いに出されるバーナンキにしても、上記の記事にもあるように、日本経済には財政出動が重要であることを一貫して述べてきました。
さらに言えば、自らがFRB議長として行ったのは住宅ローンバブル崩壊でダメージを受けた民間金融機関の貸出機能を補完する「信用緩和」であって、現在の日銀のようにマネタリーベースの拡大をひたすら追求する政策(量的緩和あるいは期待インフレ政策)とは別物である、という認識を示していたのです。
にもかかわらず、どういうわけか日本のリフレ派からはアイドルのように祭り上げられてしまったのが、今にして思えば不思議な現実です(もちろん、下記でも論じているように、彼にも責任の一端はあると思いますが…)。
http://asread.info/archives/448

私自身は繰り返し述べているように、様々なデータ分析を踏まえ、日本経済低迷の原因は、長期にわたる緊縮財政であると考えているので、経済対策として財政出動を行うことはもちろん適切だと思います。
https://twitter.com/sima9ra/status/719076491980439552
ただし、通貨にしても国債にしても政府の債務であることに本質的な違いはなく(だからこそ、以前ご紹介した「機能的財政論」も成立します)、敢えて資金源を通貨発行に限定するヘリマネの必然性は乏しいと思います。
しかも、既に過剰なまでに金融緩和が行われ、マイナス金利に代表される経済の歪みが生じていることからすれば、同じ財政出動でも、国債発行を資金源として行うべきでしょう。

とはいえ、バーナンキ氏が金融緩和一本やりのリフレ派のアイドルから、財政出動ありきのヘリマネのアイドルに格上げ(?)されたこと自体は、日本経済にとって明るい兆しなのかもしれません。
もちろん、GDPを直接押し上げる「真水」の財政支出額を巡る綱引きは続いているようですし、青木泰樹さんが本メルマガで憐みをかけておられたリフレ派の若田部昌澄氏などは、懲りずに(?)「財政政策は単独だと効果が弱く、世界的に金融政策に頼る状況が起きている(!)」(週刊エコノミスト2016年8月2日号83ページ)などと述べているくらいですから、まだまだ一筋縄では行かないのでしょうが…。

〈島倉原からのお知らせ〉
アメリカ株の史上最高値に続き、日経平均など日本の主要株価指数も、イギリスのEU離脱ショック前の水準を回復しました。
そんな状況とは裏腹に、アベノミクスによってもたらされた、日本経済が抱える重大なリスク要因について考察してみました。
↓「日本経済が抱える重大なリスク」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-182.html

イギリスの半導体企業アームを、3兆円を超える金額での買収すると発表してメディアを賑わせたソフトバンク。
買収が意味するところとその行方について、世界経済を動かす金融循環の観点も交えて考察しています。
↓「ソフトバンクと金融循環」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-183.html

7月30日(土)放送予定のチャンネル桜討論番組『闘論!倒論!討論!』に出演します。今回のテーマは「英国EU離脱後の安倍政権・経済政策」です。
http://www.ch-sakura.jp/topix/1589.html

↓ツイッター/フェイスブックページ/ブログでも情報発信しています。こちらも是非ご活用ください。
https://twitter.com/sima9ra
https://www.facebook.com/shimakurahajime
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/

————発行者より—————

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6月23日(木)にイギリスで行われたEU離脱を問う国民投票。
大多数の予測を覆し、離脱賛成派が51.9%、反対派が48.1%と離脱派が上回った。

多くのマスコミはイギリスのEU離脱の判断を
「愚かな衆愚政治」「イギリス人はこの選択を後悔することになる」などと批判した。

しかし、三橋貴明は「そうではない」と断言する。

月刊三橋最新号
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【島倉原】ヘリコプターマネーは財政政策への3件のコメント

  1. 學天測 より

    中小企業診断士の試験で組織論をやってる三橋さん以外は誤解を生じかねないので補則しときます。くしくも西部邁ゼミナールでも同じ日に同じ結論をいってますけど(笑)やはり行きつくのは組織論、狭義で言えば経営論や組織科学等ですが、戦略、兵站、戦術、そして作戦これを発案し、可能にし、実践たらしめるのは実態としての優れた組織でそれを鍛えるのが経営です。政府や日銀の財政や金融などその為の数多ある政策の一要素に過ぎない。政府は主ではなく、国民国家あるいはその価値観たる憲法秩序に共感する国民国家を超えた公式或は非公式の組織が主であり、政府はあくまで従である。財政や金融政策を含めてあらゆる政策はこの組織をきたえる為にある。我々は組織の実力でリヴァイアサンである人食い怪物である政府に人権を守る事を社会契約と言う形で契約させ組織の中で己の自由を守るのですから。縄文から弥生時代に移って、農耕社会になり何が異なり何が新たな常識となったのか?日本人は弥生の世を己から切り開いてないので、そこを未だに理解できないのでしょうね。今で言えば一言で言えば資本、もっと普遍的に言うなら余剰あるいは富ですかね。生産性を高めて自分の食い扶持以上を稼ぐから政府が存在できるし、分業も出来る。当然その帰結が都市化であり文明な訳です。少なくとも、自分が王として歴史の中で帝国や王国を経営する事を考えている王の視野を持って、物事を見ている方なら理解出来るはずです。だから皆、1次産業を赤字でも補助を出してもなるべく大切にするんですよ。わかっていただけますかね?食い物の余剰がなくなれば文明も糞もないでしょう。水と食料は根幹ですから。いくら得意な分野に集中と選択し、水と食料を他に任せ分業し、生産性を上げて余剰を得ても水と食料を獲得できなくなればお終いです。まあ、この辺が歴史的文脈から理解できないなら江戸時代までとは違い障壁が無くなったモラトリアムなガラパゴスが許されないフラットな世界で日本は滅びるしか道はないでしょう。24時間、365日1億人の面倒を見れる政府などない。デマゴーグの中、心理学的言えばパニックやモップといいますか、まあ端的に言えばファシズムで死にたい連中を支えるのにも限界がありますよ。東京都知事選を見てつくづく思います。かしこ

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  2. 學天測 より

    能書きはバブル崩壊以来、四半世紀でおなかいっぱいだから経済学はそろそろ結果出してくださいね。一般社会では論文は金になりませんから。私は経済学ごときでデフレが脱却できるとは思えませんがね。安く資金調達出来る様にして、お客さんに頭下げて営業して無理に仕事取って来て、従業員にボーナス出せば、会社が良くなるなんて経済学者の馬鹿みたいな発想はしてませんので、そんな話が簡単なら誰でも起業出来ますね(笑)。どうして経済学者は自分で会社を興して儲けないんでしょう。国家を儲けさせるなら自分がやる事なんて容易いでしょうに。しっかりとした組織論からなる組織の経営モデルが前提に無い経済学なんて屁理屈だけの役立たずの妄想学問だといい加減けりをつけてほしいものです。

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  3. 拓三 より

    フリードマンも気が付いたのでしょう。『財政出動せなあかん』って。そやけどプライドが邪魔して財政出動をリコプターマネーに名前だけ変えただけの話や。そやからヘリマネの定義がバラバラで解釈論になっとんねん。ただヘリマネは「借金が〜」連中に対しては効果的ではありますが。リフレ派さんってカネの意味を理解してないんとちゃうの?『なんで国債発行したら金利が上昇し円高になるのか』これをただ単に預けたら儲かるからと薄っぺらい解釈をするのか、それとも紙切れ(カネ)が物(技術)に変わりそれにより日本の価値が上昇(円高)し、なおかつ物(技術)の価値が上がることにより紙切れ(カネ)の価値が下がる(金利高)と解釈するかで金融政策の意味、考えが変わるんとちゃうかな。つまり金融政策はこの好循環を守るための守護神的存在と考えるべきやろ。*物の意味には技術以外に生命も含まれます。つまり日本人の価値です。もし国債発行し、円安になり金利が上昇すれば、意味が全く違うものになりますが。

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