政治

日本経済

2021年7月24日

【施 光恒】東京五輪と「上級国民」

 

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)

東京五輪・パラリンピックが始まりました。

しかし、様々な問題が重なり、残念ながら、五輪を国民一丸になって支えるという雰囲気にはなっていません。

もちろん、コロナ関連の様々な問題もありますし、小山田圭吾氏や小林賢太郎氏の不適格性が指摘され、辞任した最近の問題も影響しているでしょう。

これらの要因に加え、私は、東京五輪・パラリンピック組織委員会自体が、国民に真摯に今回の五輪の理念や意義を訴えかけ、国民からの支持を得る努力を十分にしてこなかったところにも原因があるのではないかと感じています。

たとえば、今回の五輪・パラリンピックの「モットー」は「united by emotion」(直訳すれば「感情で結ばれる」)ですが、これには公式には和訳がありません。

一応、組織委員会は「感動で、私たちは一つになる。」というものを「参考訳」として付けてはいるものの、組織委員会のHPをみると「大会モットーはあくまでも英語のみの表記であり、東京2020組織委員会が参考和訳を対外的に使用することはありません」とわざわざ注釈をつけ断っています。
(「「United by Emotion」東京2020大会モットーを発表」2020年2月17日)
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/news/news-20200217-01-ja

組織委員会の人々からすれば、オリンピックはグローバルなものだから日本語は不要だ、英語のわからない日本人のことなど知らん、ということなのでしょう。

ちなみに、このモットーを選んだ委員会のメンバーを見ると、例のデービッド・アトキンソン氏も入っています。
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/games/vision-motto/

同様に、今月になって組織委員会から発表された開閉会式の「コンセプト」(基本理念)も英語のみで和訳はありません。コンセプトとは、”Moving Forward”(「前進する」)、”Worlds we share”(「我々が共有するいくつかの世界」)といったものです。(公式の和訳がないので、訳は私が付けた直訳です)。
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/news/news-20210714-03-ja

「コンセプト」発表の会見では報道陣から「高齢者もいるので配慮したらどうか」と和訳を求める声も上がったとのことですが、「組織委員会の中村英正MOC(メイン・オペレーション・センター)チーフは『世界へ向けたメッセージということで、あえて和訳はつくっていない』」と回答したそうです。
(「組織委が五輪開閉会式の式典コンセプト発表 3つとも英語「あえて和訳はつけない」」『スポニチ・アネックス』2021年7月14日)
https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2021/07/14/kiji/20210714s00048000509000c.html

組織委員会幹部の日置貴之氏も、「コンセプト」に関して『日刊スポーツ』のインタビューに答えています。このインタビュー記事、組織委員会の体質が垣間見えるようでなかなか興味深いです。(ぜひリンク先で全文、ご覧ください)。
(「五輪パラ開閉会式統括、組織委日置貴之氏が共通コンセプトに込めた思いとは」『日刊スポーツ』2021年7月14日配信)。
https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/news/202107140001278.html

少し引用してみましょう。

*****
聞き手である『日刊スポーツ』の記者:「開閉会式で何を伝えたいか?」

日置氏:「大会の基本コンセプトに『ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と調和)』とある。この時代に『国民は』とか『世の中の人々は』という表現は完全な時代遅れだ。国民って誰?人々って誰?という時代。その人々とは日本人のこと?ということ。これを多様にイメージしていく。受け手の気持ちになって考えることが唯一、コミュニケーションの今後のあり方だ。それを考え開閉会式をつくってきた」。

聞き手:「コンセプトが全て英語だが高齢者の方も読むし、日本の新聞なので日本語表記がほしい」

日置氏:「コンセプトの日本語は用意していない。世界に分かってもらいたいということで英語のみになった」。
*****

要するに、日置氏は、グローバル化の時代だから「国民」など古いよ、世界に向けて発信するものだから日本語などいらない、というのです。

日置氏は、上記のインタビューのなかで、受け手の気持ちになって考えることが大切だという趣旨のことを語っているにもかかわらず、英語が得意ではない大多数の日本人のことは軽視してもかまわないということなのでしょう。

この日置氏のインタビュー記事、ほかのところもなかなか考えさせられます。

*****
聞き手:「東京五輪招致の起源だった「復興五輪」という言葉をコンセプトに盛り込まなかった意図は?」

日置氏:「省いたつもりはない。たまたま書いてないだけ。演出には復興の観点もあり、1ミリも忘れていない」

聞き手:「どのように岩手、宮城、福島の方々にメッセージを届けるのか?」

日置氏:「見てもらえば分かる」
*****

まさに木で鼻をくくったような対応ですね。
もう少し続けましょう。

*****
聞き手:「医療従事者への感謝を示す内容はあるか?」

日置氏:「受け取り方をこちらが定義してはいけない。医療従事者の代表としてとか、そういう考え方自体がこの時代にそぐわない。日本の人は、同じような生活をしてきちゃっている人たちの考え方と、世界のいろんな考え方を認めていくことが大事。まあ、皆さんは日本人しか読まないメディアかもしれないけど(笑)。僕自身、海外でずっと生活してるので、やっぱりすごく不思議に思うところも日本にはある(笑)」
*****

この日置氏なる人物のインタビュー、残念ながら、まさにこの御仁の「上級国民」意識がにじみ出ているように感じます。

「上級国民」「一般国民」という嫌な言葉が生まれたのは、東京五輪の公式エンブレムに関してデザイナーの佐野研二郎氏の盗用疑惑が騒ぎになったときだと言われていますが、本当に組織委員会委員やその関係者の一部は、普通の日本国民を軽視する特権階級意識を持っているのかもしれません。

また、このインタビューから感じるのは、日置氏などが「今はグローバル化の時代だから、国民国家など時代遅れだ」という陳腐な(今となっては逆に古い)想定に毒されているのではないかということです。

しかし、組織委員会のこの想定は大間違いですね。今回、それを実感したのではないでしょうか。東京五輪は、多くの日本国民が心から支え、成功に導くぞという気にならなければなかなかうまく行きません。組織委員会や関係者は、もっと真摯に五輪に対する国民の様々な声や思いを汲み取る努力をし、国民からの支持をもっと広く得るよう努めるべきだったのではないでしょうか。

東京五輪を取り巻く一連のごたごた騒ぎの背景として、欧米諸国で深刻化している国民の分断現象が日本でも生じつつあるということが指摘できるのかもしれません。つまり、いわゆる「グローバル・エリート」を自任する少数の鼻持ちならない人々と、大多数の普通の人々との間の分断です。

五輪はその時代を映す鏡の役割を果たすということが時折、指摘されますが、今回の五輪が映し出すものがそういう現代的な国民の分断現象なのであれば大変残念です。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

関連記事

政治

日本経済

【三橋貴明】消費税ゼロ提言の安藤議員に直撃してみた

政治

日本経済

【藤井聡】元経済学会会長と元日銀副総裁による「フェイクレポート」の疑義

政治

日本経済

【藤井聡】増税&中国ショックを乗り越えるために、10兆円の補正予算が必要です。

政治

日本経済

【三橋号外】目を背けてはならない危機

政治

日本経済

【三橋貴明】トリニティに支配された安倍政権

【施 光恒】東京五輪と「上級国民」への7件のコメント

  1. 大和魂 より

    的外れになりますが上級国民【意識高い系】を端的に表現したのが、先日裁判で判決が下された池袋の殺人事故で有罪になった年配者でした。

    つまり彼は一連の裁判を通して私の眼に映し出されたものは、日本社会に於いては数々の輝かしい功績を残され尽力された方との見解に至りましたが、しかし人間性についての認識不足と物事についての因果の道理すらも弁えることが出来なかった人で、その分彼の家族も他の時間に追われたある意味可哀想で複雑な心境と、何ともやるせない感情とが混ざり合う不思議な感覚でした。

    少し脱線しましたが、今回の東京五輪は誘致の段階からして色々と海外からケチが付けられていまして、そもそもが五輪の本質が認識できれば、国際政治から視線を逸らす合理的な意味合いですから、私個人はハッキリ言って藤井先生と同じ解釈で、むしろ我々が深刻に直面している現実の社会問題の方が重大かつ重要だから常に模索し続けているところです。

    ちなみに昨日の東京五輪開会式の天皇陛下のお言葉の際に、総理大臣と都知事の振る舞いを拝見していて、どちらもメディアが作り上げた苦労知らずのカスが露呈されましたから、苦労人で師匠の池田勇人の墓参りをやり続け亡くなられた田中角さんならば結果は違っていた筈ですよ。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. ts より

    グローバル・エリートたちによって日本がどんどん落ちぶれて行ってることがよく分かります。
    前回の東京五輪は気高かった。もう、あのような五輪はできないでしょうね。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  3. ユリ子とスガはさくらと一郎 より

    国際化だグローバルエリート養成だと号令かけてる連中がこのザマ。陛下が立たれたら即座に起立は国際常識中の常識。こんな簡単な基本すら守れないのなら以下、推して知るべし。

    単に高学歴がエリートだと我々が考えているようじゃあ他国と互角に闘えるエリートなんて出て来やしないよな。五輪外交だって。笑わせる。開会式の時点ですでに敗北してるだろ。徳がないことを暴露しちまってる点で。

    それではお聴きください。世界を巣食う新自由主義者たちを代表してユリ子とスガが歌いあげます。令和枯れすゝきです。と曲紹介を受けてもしばらく気づかなかった老歌手。あれは実にそういう立ち上がり方だった。我々はあの愚鈍ぶりを我が事として重大に考える必要がある。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  4. 日本晴れ より

    ほんと日置とかいう人嫌な感じの人種ですね
    ここでいう人種というのは国籍というよりもグローバルエリート
    の人を指しますが。こういう軽薄な人や文化人が偉そうにしたり
    公的な物に関わらないで欲しいなと思います。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  5. 日本晴れ より

    日置みたいな人が嫌味っぽい上級国民なのに
    それには批判は行かないんですよね 馬鹿なネット民も
    池袋の事故の飯塚を上級国民だ上級国民だとか言ってる始末(
    全然意味合いが違うと思うが)
    それに国民国家を否定するならそれこそオリンピックそのものを否定しないといけなくなるのではと思いました
    そこの矛盾に気づてない時点でこの人軽薄ですね

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  6. うたか より

    このままグローバル路線が続き
    日本がどんどん小さくなって
    失われていく象徴となる五輪って感じですなあ

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 政治

    日本経済

    【藤井聡】日本再生のためには『プライマリーバランス規律...

  2. 政治

    日本経済

    【藤井聡】政治家・河野太郎氏を客観的に評価する:緊縮・...

  3. 政治

    日本経済

    【室伏謙一】自民党総裁選―大手メディアの「河野推し」に...

  4. 日本経済

    【三橋貴明】日本の潜在成長率を高める第一歩

  5. 日本経済

    【三橋貴明】「財政出動への競争」への王道

  6. コラム

    【竹村公太郎】江戸湾、東京湾の謎―利根川の地下水の奇跡...

  7. 政治

    日本経済

    【小浜逸郎】ワクチンによる世界制覇 その2

  8. 政治

    日本経済

    【藤井聡】我々は今、多少の思想信条の相違を超えて「経済...

  9. 日本経済

    【三橋貴明】財政出動への競争「高市 対 岸田」(後編)

  10. 日本経済

    【三橋貴明】財政出動への競争「高市 対 岸田」(前編)

MORE

タグクラウド