From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)
ローカルな話題で恐縮ですが、今朝の『産経新聞』の地元版のニュースに、ボウリング場の営業終了のニュースが出ていました。「西新パレスボール」という福岡市にあるボウリング場です。
https://www.sankei.com/article/20210625-4W6BGKFZ25MPXDFRLM5YJOZKWE/
私がかつて通っていた中学校や高校の近くにあるボウリング場で、当時、よく利用していたので残念です。
日本ボウリング場協会によると、ボウリング場は昭和40年代のボーリング・ブーム時は、全国に3697か所(昭和47年)もあったそうですが、最近は758か所(2018年)ということですので、約8割も減りました。昭和40年代の空前の大ブーム時と比べても仕方がないですが、ブームが去って25年以上たった1998年にはまだ1174か所もあったので、そのときから比べても約35%減っています。
ボウリングだけではなく、日本では近年、スポーツをする人の割合自体が減っています。特に、若年層でスポーツ離れが顕著です。
仁科幸一氏のレポートによると、1986年と2016年を比べた場合、男性についてはスポーツに参加する人の割合は50歳代以下のすべての年代で下落幅が5ポイントを超えており、特に、20歳代から40歳代では10ポイントを上回る大幅下落になっています。
(仁科幸一「国民の余暇生活はどう変化したか――社会生活基本調査にみる30年の余暇活動の変化」『みずほ情報総研レポート』vol. 19, 2020)。
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2020/pdf/mhir19_life.pdf
女性のスポーツ参加率も、あまり変わらず、1986年と2016年を比べた場合、50歳代は微増ですが、40歳代以下の年齢層ではやはり大幅に減少しています。
この傾向は、スポーツだけではなく、他の趣味や娯楽一般にも当てはまるようです。
三矢正浩氏の以下の記事によると、ここ約20年の日本人の趣味や娯楽の活動を調査してみると、もっとも明確に見て取れるのは、やはり日本人の「趣味離れ」の傾向だそうです。
三矢正浩「『無趣味になっていく日本人』の実態と背景事情」(『東洋経済オンライン』2019年2月19日配信)
https://toyokeizai.net/articles/-/265582
三矢氏は、博報堂生活総合研究所(生活総研)の時系列調査の結果などを参照しながら、1998年~2018年の20年間の日本人の趣味の変化について語っています。
その結果、時系列調査で扱っている50種類の趣味・スポーツのうち、「2018年にスコアが過去最低を更新したものは、なんと29項目。全体の6割にも」及ぶと述べています。
具体的には次のような数値が挙げられています。
●「1年を通じて、楽しんでいる趣味がある」
1998年60.2% → 2018年49.1%(-11.1ポイント、過去最低)
●「1年を通じて、何かスポーツをしている」
1998年33.3% → 2018年24.5%(-8.8ポイント、過去最低)
三矢氏はこの原因として、可処分所得の低下などに見て取れるように、この20年間、日本人の生活が貧しくなり、趣味に余裕をもって取り組むことが難しくなったことをあげています。つまり、経済状況の悪化が、日本人の趣味離れを招いたと指摘しています。
要するに、日本では、1990年代後半から続く経済の停滞のため、スポーツにしても、その他の趣味や娯楽にしても、人々が安心して取り組める環境が徐々に失われていったのです。
(´・ω・`)ショボーン
昨日、大学で、中国人留学生と話したとき聞いたのですが、中国の都市部の若者の間では、「ブラインド・ボックス」とか「盲盒」と呼ばれるものが流行しているそうです。(「盲盒」は日本語読みだと「モウゴウ」でしょうか。「盒」はキャンプで使う飯盒の「盒」ですよね)
「盲盒」とは、日本でいうところの「ガチャガチャ」に似ており、何が入っているかわからない小さな箱やカプセルを買い、中身のフィギュアやマスコットを集めるものです。日本のガチャガチャだと、一つのカプセルはせいぜい300円ぐらいですが、「盲盒」はだいたい800円~900円ぐらいと少々高価です。また主な購入層も20代~30代ということなので、ガチャガチャの購入者層よりも少し上の年代です。また女性の購入者も多いそうです。
(日本語でもいくつか紹介記事がありました)。
「「盲盒」とは何ぞや?」(『人民網日本語版』2021年3月18日付け)
http://j.people.com.cn/n3/2021/0318/c94476-9830259.html
「中国の若者熱狂 1日200万個売れたおもちゃ「盲盒」とは?」(『日経XTREND』2020年3月4日)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00052/00019/
昨今、中国では、この「盲盒」に取りつかれ、中身のフィギュアやマスコットをコレクションしたり、仲間と交換したりでとんでもない額のお金を浪費する若者がたくさんおり、社会問題化しているそうです。
中国人学生からこの話を聞いた時、「変なものが流行るんだね~」と思ったのですが、正直なところ、少々うらやましくも感じました。
活発な大衆消費社会というのは、だいたい変なブームが巻き起こるものです。また、その変な流行の中から、ときとして独創的で長く残る面白いものが生み出されてきます。
逆に言えば、活発な消費社会のもとで、企業がバカなものを含め多様な商品開発の試行錯誤を行わなければ、独創的商品というのはほとんど生まれてこないのです。哲学者カール・ポパーがかつて述べたように、生物の進化も、理論や商品の進歩も、「ランダムな変異と選択的保持」(random variation and selective retention)の過程からしか生じないのです。つまり、おバカなものを含む様々な仮説や商品の提案、およびそれを皆で吟味したり、市場に出して消費者の反応を検討したりしていく繰り返しのなかでしか、いい理論もヒット商品も出てきません。
経済が元気で、消費が活発だった1990年代半ばごろまでの日本では、定期的に変な流行がありました。1996年発売で今年25周年になるという「たまごっち」もその一例でしょう。そのころまでの日本の製造業は、世界を驚かす新製品を数多く発表していました。
このところ常に、日本の政府や経済界は「イノベーション」や「起業家精神」の必要性を喧伝し、最近の日本人の「クリエイティビティ」のなさを嘆いています。そして、「IT教育が遅れているからだ」とか「若者が内向きになったからだ」などと的外れな原因探しをしています。
思うに、日本人が余暇や趣味、スポーツなどに、あまり安心してお金を使えなくなった現状では、イノベーションが滞るのも当然です。
(同様に、日本のサブ・カルチャーの元気がなくなっていくのも間違いないでしょう。以下の拙稿もご覧ください
施「大衆文化が栄える条件」(『「表現者クライテリオン」メールマガジン』2019年3月17日)
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190317/
緊縮財政路線を改め、特に若年層の雇用の安定化を図り、また消費減税など可処分所得向上の政策をとり、日本人が安心してお金を使える活発な経済社会を取り戻さない限り、日本人の創造性もかつてのようにはなかなか開花しないでしょう。
長々と失礼しますた…
<(_ _)>
【施 光恒からのお知らせ】
2021年7月3日(土曜日)の午後に、九州大学で、柴山桂太氏(京都大学)や木下敏之氏(福岡大学教授、元・佐賀市長)などを招いて「地方創生」に関するシンポジウムを開催いたします。
「地方創生」を目指して――ポスト・グローバリズム、ポスト・コロナの秩序構想」というシンポジウムです。
コロナの状況によって少々流動的な部分もあるのですが、現在のところ、一般の方々も、九州大学の会場、およびオンライン(zoom使用)でご参加可能です。入場は無料です。
詳しくは、下記のサイトをご覧ください。(サイトの下のほうからチラシやポスターをダウンロードできます。詳細はそちらをご覧ください)。
https://gipad.kyushu-u.ac.jp/event/detail.php?nid=12
どうぞよろしくお願い申し上げます。
【施 光恒】「趣味離れ」と日本の停滞への4件のコメント
2021年6月26日 7:41 PM
ガチャガチャ
小生の生息していた 地域では
ガチャポン と 言ってたかと
値段は 百円と 記憶
モノにもよるでせうけど
今は 三百円ですか、、
なんと このご時世で
ガチャポン インフレーション ♪
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2021年6月28日 6:03 AM
可処分所得でなく、
可処分時間と推察するでござる。
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2021年6月28日 10:20 AM
宇野常寛
自分の物語とネットワークの世紀
縄文土器のように、
ジジババが多くなった、じゃね、笑笑
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2021年7月2日 5:42 PM
施先生の言う通りなんですが
それプラス最近ニヒリズムでミニマムリストみたいな
そういう趣味にお金かけるのは持ったないとか
変な思想が流行ってるのも変だと思います
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