政治

日本経済

2021年2月2日

【室伏謙一】新たな給付金や協力金をめぐる言説が更なる国民の分断を生む

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 国民への新たな給付金の給付の是非や在り方を巡って、様々な意見が出されています。そもそも麻生財務大臣はこの話が出るたびに否定的な見解というか、否定してきていますが、徐々に新たな定額給付金を給付すべきという意見が、声が大きくなってきています。

 しかし、そうした意見の中には、「困窮者に絞って支給しろ」といったものや、一律ではなく特定の属性の対象に対して30万円支給しろ(これは野党某議員です。)といったものが見られます。いずれもその心は、財源が限られているから、ということ。お金のプール論と言いますか、商品貨幣論と言いますか、物々交換の発想と言いますか、いずれにせよ誤った財政観、貨幣観に基づいており、お話にならないのですが、「財源が限られている」とか「限られた財源の中で」と言っておいた方が良識的な意見と見られるということなのか、給付はすべきだが限られた財源の範囲内で、という方向に収斂していきそうな雰囲気になっています。

 その方向で給付されることとなった場合に、最も懸念されるのが、給付されるべきはずの対象に給付されない可能性があるということと、国民の分断、対立が生まれる可能性があるということです。

 前者は、財務省等は「困窮者」の範囲をできる限り狭くしようとするでしょうから、そこからこぼれ落ちる「困窮者」が出てくる可能性があるという話ですが、そもそも範囲の捉え方、設定の仕方に正当性を持たせることができるのかといえば、極めて困難であり、はっきり言えば不可能。そうなると、こぼれ落ちた側から国への批判だけでなく、給付を受けられた側への非難、誹謗中傷、攻撃が始まることになるでしょう。「あいつは困窮者なんかじゃない!」といった攻撃も起きてくるでしょう。つまり前者は真に「困窮者」救済にならないということ、とともに後者、つまり国民の分断・対立を生むという面をも持っているわけです。

 しかし、国民の分断はそれだけに収まらないでしょう。そこまで困窮はしていないが、新型コロナショックによって減収等を余儀なくされてしまった人たち、したがって給付金の給付を受けられなかった人たちは、「あいつらばかりもらいやがって」といういわゆるルサンチマン (ressentiment) を募らせていくでしょう。つまり、「困窮者」同士の足の引っ張り合い、叩き合いとは別に、「困窮者」叩きも起こりうるということです。

 そうすれば政府としては批判の矛先を自らではなく国民同士に向けられるので、統治はしやすくなるということなのでしょうけれど、それでは旧植民地の分断統治と同じ。

 いい加減国民も気付いてくれと言いたいところですが、まだまだ騙され乗せられている国民の方が多いようです。しかし、そんなことをさせないためにも、そんなことを続けさせないためにも、正しい貨幣観、財政観を広めるとともに、国民への一律給付を求める声を強めていきましょう。

 それから「定額給付金は貯蓄を増やしただけ」などと麻生財務大臣は批判していますが、給付金給付によって国民の貯蓄が増えるのは当たり前。そのための給付なのですから。誰かが給付金10万円を使えば、モノやサービスを買ってもらった側、売った側の貯蓄は10万円増えるわけですが、一律10万円の総計は、それが海外に流出するでもしなければ、一定であり、単に誰かの口座から他の誰かの口座に移ったに過ぎないのですし。

 そんな話を含め解説した、公認会計士の森井じゅんさんとの対談動画第二弾が近日中に公開されますので是非ご覧ください。

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【室伏謙一】新たな給付金や協力金をめぐる言説が更なる国民の分断を生むへの7件のコメント

  1. たかゆき より

    大和の乗員臼淵大尉の言

    「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ
    日本ハ進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ 私的ナ潔癖ヤ徳義ニコダワッテ、
    本当ノ進歩ヲ忘レテイタ 敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ
    救ワレルカ 今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ
    日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ」

    吉田満著「戦艦大和ノ最期」より 抜粋

    今の日本も

    落ちる所まで落ちて

    底まで沈まなければ

    けっして浮かばれない

    かな

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  2. 利根川 より

    >> 国民への新たな給付金の給付の是非や在り方を巡って、様々な意見が出されています。そもそも麻生財務大臣はこの話が出るたびに否定的な見解というか、否定してきています>>

     麻生財務大臣にかぎらず与党系の議員や関係者は、財務省の顔色をうかがって政治をやっているところがあるので、財政支出は増やしたくないのでしょうね。
     少し前に緊縮派の重鎮と目される竹中平蔵さんがTVに出ていたので見てみましたが、番組の一番最後に

    竹中平蔵さん「中小企業の『定義』を変えましょう」

    そんなことを言っていました。
     聞いた当初は「なんのこっちゃ?」と?マークが頭上を踊っていましたが、おそらくこういうことなのではないかと。
     番組では、中小企業を救うべきという論調が優勢でしたが、要は『中小企業の定義』を変更して『中小企業ではない』ということにしてしまえば助けなくてもいいよね、ということなのではないでしょうか。
     
    スタンド名 レントシーカー

    スタンド能力 定義の変更

    なかなか強力なスタンドのようです。
     因みに、1999年に「潜在GDP」の定義が変更されていて、実は、現在発表されているデフレギャップは本来よりも少なく出ているのだそうです。だから

    安倍前首相「官僚からはもうデフレじゃないって聞いてるよ」

    などという寝言が飛び出てしまうわけですね。
     日本は1998年から本格的なデフレ不況に陥りましたが、不況をいつまでもほったらかしにしていては「政治家はなにをやっているのだ」ということになりかねませんので、「定義」を変更して「デフレではない」ということにしてしまったわけですね。
     恐ろしいことに、この定義の変更については”わざと”最大概念の潜在GDPと平均概念の潜在GDPをあいまいにしているそうで、専門家でも気がついていない人も居るのだとか。
     この潜在GDPの定義の変更にも竹中平蔵さんは携わっていたそうです。くわしいことは三橋TV第283回をチェックしてください。要チェック
     そんな竹中さんですが、現在は

    竹中平蔵「日本は100兆円財政支出を増やしたって財政破綻なんてしません」

    とおっしゃっております。MMTの知識が浸透してきたのでしょうか、わかりません。
     おそらく、だれか悪い奴がいて、その人のせいでメタメタになっているということではなくて、間違った情報(財政破綻論)が浸透してしまったがために

    状況的に間違った政策を全員が正しいと錯覚してしまっている

    ことが事の本質なんじゃないでしょうか。
     MMTの本も色々出ていますが、入門書として最も分かりやすいのは

    マンガでわかる日本経済入門 漫画:山田一喜

    これだと思います。
     あまりゴリ押しするとかえって引かれそうですが、マンガ部分だけ読んでも十分わかる内容になっていますし、1時間ほどで全部読めてしまう内容なので、ほんとうにオススメの一冊です。
     林千勝さんによると、日本は近衛文麿の頃からすでに欧州のお金持ちの影響が色濃かったとのことですが、そういった内政干渉に簡単に転がされないためにも有権者である国民が知識を持っておくというのは重要なのだなあと改めて思いました。
     
     
     

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  3. チャンドラボース より

    マスクして…便所紙買い占めて…うがい薬買い占めて…死因に関わらずPCR陽性者が死亡すると統計に加算される仕組みをしらずにウィルスを恐れる。足掻くだけ足掻きますが、いい加減笑けてきますよ。貨幣の現実を受け入れてもらえるかヤツらに。。。

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  4. うたか より

    財源が限られているに対抗するには
    限界額をちゃんと説明しろ
    でいい気がする
    今年度は90兆円の財政出動ができた理由と矛盾しない内容を
    緊縮財政論で説明できないんだろうな

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  6. 日本晴れ より

    室伏さんの言う通り今ネット界隈でわざと
    そういう事言って分断を煽ってる勢力にはげんなりです

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  7. 通りすがり より

    新たな給付金や協力金をめぐる言説が既にあった国民の分断を白日のもとにさらす。
    アメリカのように。

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