政治

2020年12月23日

【藤井聡】「感染症対策」を強靱化せよ ~「医療崩壊」回避のためにコロナ対応病院への徹底的な政府補償を~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

連日報道されるコロナ感染症拡大。その中で今、とりわけ強く言われているのが「医療崩壊の危機」。

例えば、日本医師会など医療9団体が、今、まさに「医療崩壊」が生じつつある。これを避けるためには、新たな感染者を増やさないことが必要だと主張し、その上で「医療緊急事態宣言」を発表しています。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70367

朝のワイドショー始め、多くのメディアはこれをセンセーショナルに取り上げ、やはり「自粛」が必要なのだという論調を拡大しつつあります。

多くの国民も今、強烈な自粛が必要なのだろうと考えているようですが、医療界にはそれとは全く異なる声もあります。

筆者は、そうした声を踏まえて、医学博士で環境衛生学教授である高野裕久教授と

『感染列島強靱化論』

https://www.amazon.co.jp/dp/479497244X

を出版いたしました。この書籍の重要なメッセージは、「日本の感染症対策が極めて脆弱であり、対策のあり方そのものを強靱化せねばならない」というもの。

今の日本の世論や医療業界の多くの人々がイメージしている感染症対策は、あっさり言うなら、

「できるだけ検査して感染者を隔離する」(クラスター対策)
「病院が一杯になってきたら、自粛を要請する」(時短等の自粛要請)

という二本立ての極めてシンプルなもの。しかし、この単純な感染症対策は極めて脆弱で、すぐに国民被害が拡大します。

第一に、コロナ対応供給力を増やそうという話が含まれていません。その結果、医療崩壊がスグに生じてしまいますし、自粛要請も一瞬で出されてしまうことになります。

第二に、スグに自粛だという話になるので、経済が激しく傷つきます

したがって、この二本立てで感染症対策を図ろうとする限り、コロナで死ぬ方も、経済不況で死ぬ方も、どんどん増えてしまうのです

何とも愚かな状況にあるわけですが、筆者は高野教授とこの現状を打開することを企図し、様々な議論を重ねた上で

「医療システム」の強靱化
「感染症対策」の強靱化

の方途をとりまとめ、これを「感染列島強靱化論」として出版いたした次第です。

https://www.amazon.co.jp/dp/479497244X

詳細は本書に譲りますが、本書において主張している最も重要な論点の一つが、

「医療供給力を抜本的に引き上げること」

実を言いますと、今、日本が持つ豊富な医療資源のわずか2パーセント程度しか、コロナ対応に活用されていないのです。何とも驚くべき低水準ですが、この状況を打開すれば、つまり、残りの98%をコロナ対応に有効に活用すれば、医療崩壊が容易く生じる筈などないのです。

例えば、医師でありまた法学者でもある米村滋人教授は、医療の逼迫を理由に大規模な自粛要請をすることを強く反対しておられます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/69ad2d59b74bbc490c31879348c7bc6fe7071da3

そもそも現状では、コロナ対応を図るか否かは民間病院の判断に委ねられており、政府が直接コントロールできません。だから、今、コロナ対応を図っている病院は、強制はされなくても「義侠心や使命感」(米村氏)からコロナ患者の受け入れを決めた一握りの医療機関だけ、となっているのです。

その結果、その一握りの病院に「コロナ感染者が集中」してしまい、そこでだけ医療崩壊の危機が起きているのです。一方で、コロナ患者を受け入れない病院では、病床も医療従事者も余りまくっているという状況があるわけです。

だから、この問題構造を何も知らずに「わぁ!!医療崩壊の危機だぁ! 自粛だぁ!!」なんて言うのは実に愚か極まりない話なのです。

当方ももちろん、状況によっては行動抑制が必要な局面があり得ることまでは否定はしませんが、コロナ以外の医療供給力が余りまくっている我が国日本では、その有効活用を考えることが最も重要な取り組みとなっていることは、何人たりとも否定できない話なのです。

・・・

では、この状況下で、コロナ以外の医療供給力をコロナ対応に「活用」していくために何が必要かといえば言うまでも無く、

「オカネ」

です。

つまり、コロナ対応をしてくれた病院、医療従事者に、通常以上の補償を徹底的に支給することにすればそれでいいのです

そうすれば(医療現場のヒアリングを様々に行いましたが、彼等の声を踏まえれば)、医療供給力も医療従事者も確実に強化可能なのです。

そもそも、総医療供給力の2%程度しかコロナ対応していない状況の中では、1%が増えるだけで1.5倍、2%増えれば2倍になるわけですから、その程度の抜本増強はスグに可能となるでしょう。

日本の仕組みにおいては、こうした対応は全国の知事に委ねられていますが、コロナ対応に関して政府が補償金を配布するという仕組みをつくれば、全国一律にコロナ対応力を増やすことも可能となるでしょう。

要するに、今の菅内閣は、カネがもったい無いからといってカネを出す事を渋り、その結果コロナ対応力が全く増えず「医療崩壊」の危機を導いているのです。そして慌てふためいて行動自粛をさせ、今度は「経済崩壊」まで導こうとしている訳です。

何という愚劣かつ不埒な「緊縮」政府なのでしょう・・・

・・・兎に角・・・

感染症対策は自粛だけではないのです。医療供給力の拡大、そしてそれを支えるための徹底的な政府補償が、感染症対策「行政」の王道なのです。それを忘れて自粛するかGoToを続けるかなんていう議論ばかり繰り返しても、愚か極まりない不毛なものにしかならないのです。

我が国の政府が緊縮思想の呪縛から解き放たれ、我が国の感染症対策が抜本的に強靱化されることを、心から祈念いたします。

そのためにも是非「感染列島強靱化論」をご一読いただきたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/dp/479497244X

追申1:
この問題は結局、菅内閣問題、ひいては菅義偉問題です。この問題を下記原稿にて徹底的に論じました。是非、ご一読下さい。
『支持率が一気に下がった決定的原因は、菅義偉の「ショボさ」にある ~ウェーバーが理論化した「政治的カリスマ性」の総理にとって重要性~』
Foomii:https://foomii.com/00178/2020121912244374412
まぐまぐ!:https://mypage.mag2.com/ui/view/magazine/162593766?share=1

追申2:
こうした議論は何も筆者のみの特殊な議論ではありません。驚くべき事に、実に多くの論者が異口同音に菅義偉氏の深刻な問題を指摘しています。是非、ご一読ください。
表現者クライテリオン『菅義偉論 ~改革者か、破壊者か~』
https://www.amazon.co.jp/dp/B08NMGJDNG/

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【藤井聡】「感染症対策」を強靱化せよ ~「医療崩壊」回避のためにコロナ対応病院への徹底的な政府補償を~への2件のコメント

  1. dr/dt より

    ・はじめまして。毎回思うんですけど、左右問わず誰も指定感染症の扱い見直し(外すと言うわけではありません。5類相当に変えるということ)を言わなかったり、医師会の実態を語らなかったりするのがすごく疑問です。

    ・>>日本の仕組みにおいては、こうした対応は全国の知事に委ねられていますが、コロナ対応に関して政府が補償金を配布するという仕組みをつくれば、全国一律にコロナ対応力を増やすことも可能となるでしょう。
    と仰せのように、国で費用を持つことに触れたのはよかったと思います。はっきり言ってコロナに関しては、広域自治体(都道府県)は財源や権限が少ない割に負担や責任が余りにも多いですし、政府の支援もなく割に合わないリソースを割かせて枠を確保させる責任が全てのしかかるならそりゃいずれ首長は自粛の呼び掛けしかできなくなるのは目に見えていたはず。

    ・いずれにしても、国の財政支出拡大や指定感染症の扱い見直し、因果関係が立証されるなら入国制限など審議することは山ほどあるのにやる気のない与党や関係のない質疑しかできない野党(とくに某破防法の調査対象)しかいないのはどうすればよいやら。強いて言えば国民民主かと一瞬思いかけたが緊急事態宣言派だし….

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  2. 麦粒 より

    皮肉にも医療供給能力の低さが、感染者数、死亡者数を抑制する大きな要因になっていますね。活動抑制に非協力的だと、いくら医療供給能力を引き上げても、その分、感染者が増えて、感染拡大の速度を考えると、結局あっという間に逼迫するんじゃないですかね。その分、死者も増えるし。感染拡大後の困難を勘案すると、経済的にプラスかどうかも疑わしい。

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