日本経済

2019年4月24日

【藤井聡】政府の支出拡大が財政を健全化することを「数学的に証明」します。

From 藤井聡(京都大学大学院教授)

世間では、財政健全化のためには、政府支出をカットしていくことが必要だ、消費増税などをして緊縮を進めることが必要だ―――と信じ込まれています。

しかし、今日の日本では実は、そんな風にして緊縮を進めれば進めるほど、財政が悪化しているのです。

そのためにいろいろな論者が、経済成長の視点を加味しつつ、様々な説明を試みてきましたが、今日はそれとは全く違う観点から、政府の支出拡大が財政を健全化する、というお話しをいたしたいと思います。

今日のお話は、極めてシンプルかつ画期的、なものです。

何が画期的かと言えば、仮に、政府の支出拡大による経済刺激効果がさして大きくなく、乗数効果が「1」程度であったとしても、政府支出拡大は財政健全化を導く、という点を数学的に明らかにした、というところです。

まず、日本政府は今、G20の「サンクトペテルブルク文書」や「骨太の方針」などの公式文書で、プライマリーバランス(PB)と同等、あるいはそれ以上に重視している財政規律が、「債務対GDP比」の安定化・引き下げです。

この「債務対GDP比」について数学的、実証的に分析したところ次のようなことが明らかとなりました。

まず、下記グラフをご覧ください。これは、2017年度において、もしももっと多くの政府支出をしていた場合、債務対GDP比はどうなっていたのか・・・を分析したものです。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1773575732743362&set=a.236228089811475&type=3&theater

ご覧の様に、政府支出を拡大しておけばしておくほど、債務対GDP比は「小さく」なっていただろう、ということが明らかに示されています(このグラフの詳細は、本メルマガの文末にて解説しています)。

ちなみに、2016年度の債務対GDP比の実績値は197%で、2017年度のそれは199%と2%程「悪化」していましたが、もしも政府が追加的に13.7兆円以上の支出を(補正予算等の形で)拡大していれば、2017年度の債務対GDP比は悪化せず「改善」していたであろう、ということが分かります。

(ちなみに、以上は、乗数効果が、政府がしばしば使用する1の場合の結論です。乗数効果が2の場合なら、4.6兆円以上の追加支出があれば、債務対GDPは改善していた、という結論になります)

つまり、債務対GDP比が200%程度にある状況では、政府支出を拡大すれば(10兆円程度の支出によって、金融政策を徹底的に進めている今日の日本で金利が大きく変化することもあり得ませんから)、分母も分子も同じだけ拡大し、結果、その比率は「縮小」することになるのです。

つまり、債務対GDP比の視点から言うなら、簡単な数式から「政府支出の拡大が財政を改善する」ということが数学的に証明できるのです。

極めて単純な「分数」のお話しです。

以上は、2017年の日本と言う一ケースについてのお話ですが、以上のお話は、数学的に網羅的に証明することができます。

詳細にご関心の方は、是非、以下の【政府支出の拡大が債務対GDP比を改善する事の数理的証明と実証分析】をご一読ください(今日のメルマガにて、この数理展開は初めて公表するものですが、今後、別途学術的な媒体で公表したいと思います)。

なお、さらに言うならこの分析結果をさらに別の角度から考えれば、債務対GDP比が200%程度の今日の日本なら、(借金返済のために)消費増税を行えば、かえって債務対GDP比が「悪化」するであろうということも理論的に予測されることになります。

なぜなら、消費税を行って政府支出を拡大しなければ、債務対GDP比の分母も分子も縮小しますが、それによってその比率は「悪化」することになるからです。

・・・

いずれにせよ、今の日本では、「政府支出を拡大するほうが、債務対GDP比という視点から財政は改善していく」、そして逆に「緊縮を重ねる程に、債務対GDP比は悪化していく」という数学的かつ実証的な「真実」をしっかりとご理解いただきたいと思います。

【政府支出の拡大が債務対GDP比を改善する事の数理的証明と実証分析】

今、ある年次tの累積債務をR、GDPをGと定義する。

そして、その翌年t+1年次の累積債務、GDPをそれぞれR’、G’とし、かつ、それらとR, Gとの関係が以下のものであると考える。

R’=pR (t+1年次の累積債務について)
G’=qG (t+1年次のGDPについて)

ここに、p, qは累積債務とGDPの前年比のパラメータである(例えば3%増えたら1.03、5%減ったら0.95等)。

ここで、もし仮にt+1年次に政府がXの財政支出を行った場合の累積債務とGDPをそれぞれR’’, G’’と表記すると、その場合の乗数がaだとすれば、

R’’=R’+X (t+1年次の累積債務について)
G’’=G’+aX (t+1年次のGDPについて)

したがって、

R’’=pR+X (t+1年次の累積債務について)
G’’=qG+aX (t+1年次のGDPについて)

以上を前提とすると、債務対GDP比の引き下げ、という「債務対GDP比制約」というものは、

R/G > R’’/G’’

であり、以上の式を代入すると次のように整理できる。

R/G > (pR+X)/(qG+aX)

これをさらに整理すると、

X > (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) > 0

X < (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) < 0

これはつまり、「 (aR-G) > 0」の場合、政府の追加支出が(p –q)RG/(aR-G)「以上」であれば、債務対GDP比が前年以下となり、一方、もしも「 (aR-G) < 0」の場合には、政府の追加支出が(p –q)RG/(aR-G)以下であれば、債務対GDP比が前年以下となる、ということを意味している。

ここで具体的なケースとして、2016年から2017年の債務対GDP比の変化について確認してみよう。

2016年、2017年のGDP(名目値・暦年)と累積債務は次のようになっている。

年次    GDP     累積債務   債務対GDP比
2016年  536兆円   1056兆円   197.0%
2017年  545兆円   1087兆円   199.4%

つまり、2016年から2017年にかけては、債務対GDP比は実績として、「197.0%」から「199.4%」へと「悪化」したわけである。

一方で、もし2017年にX円の追加支出を行っていたとすれば、GDPは(乗数効果が仮に1であったとしても)、GDPは(545+X)兆円になると同時に、累積債務は(1087+X)兆円になり、債務対GDP比は(1087+X)/(545+X)となる。

この(1087+X)/(545+X)とXの関係をグラフ化すると以下のようになる。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1773575732743362&set=a.236228089811475&type=3&theater

ご覧の様に、追加的な政府支出(X)が増えれば増える程、債務対GDP比(つまり、(1087+X)/(545+X))は減少、していくことになる。

そして、もしも政府が13.7兆円以上の政府支出の拡大を行っていれば、2017年の債務対GDP比は、2016年のその水準であった197.0%「以下」となっていたことが分かる。

ちなみに、この13.7兆円という数字は、先ほど誘導した、

X > (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) > 0
X < (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) < 0

という、「債務対GDP比が改善していく条件式」から求めることができる。

まず、2016年のR,Gの値から「aR-G」を求めると(仮に乗数効果を、政府がよく使用する「1」という水準にしておけば)520兆円という値になる。これは明らかに正であるから、債務対GDP比を改善する政府追加支出額の条件は、

X > (p –q)RG/(aR-G)

となる。そして、「(p –q)RG/(aR-G)」の値を、2016年のGDPと累積債務の実績値、ならびに、それぞれの2017年度に対する比率であるp、qの実績値(それぞれ、1.029、1.017)を挿入すれば、13.7兆円という数字が得られることとなる。

なお、以上の分析における乗数効果を1ではなく、2であると想定すると、政府支出はさらに少なくても、債務対GDP比を改善することができる。その場合、4.6兆円以上の追加支出があれば債務対GDP比は改善することとなる。

つまり、乗数効果が多ければ、債務対GDP比の分母であるGDPがより効率的に拡大していくため、政府支出の拡大は、より効率的に債務対GDP比を改善していくのである。

なお、もしも政府支出の拡大が「金利の上昇」を導くなら、以上の結論に調整を加えることが必要となる。しかし、金融緩和が強力に進められている今日の日本において、5兆円や10兆円規模の追加の政府支出の拡大が、上記の論理展開に影響を及ぼす程の金利拡大をもたらすとは現実的には考えがたい。

実際、実証的な分析からは、1兆円の赤字拡大は長期金利を約0.15〜0.25bps(=0.0015%~0.0025%)上げるという分析結果も報告されているが、これは実質的にほとんど影響しない、と判断できる水準である。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110007149554

しかも、政府支出の拡大の金利への影響については、上記のように、「金利上昇をもたらす」という指摘以外に、かえって「下落」させるという指摘もある。というよりむしろ、今日の日本では、実際に、累積債務の拡大に伴って金利は下落し続けているのが実態である。ついては今後はこうした理論的可能性を踏まえつつ、金利の変動を加味して以上の数学的証明を拡張していくという展開が考えられる。

ただし繰り返すが、「金融緩和が強力に進められている今日の日本において、5兆円や10兆円規模の追加の政府支出の拡大が、上記の論理展開に影響を及ぼす程の金利拡大をもたらすとは現実的には考えがたい」ため、以上の数学的論証および実証分析は、今日の日本経済に十分以上に妥当するものである考えられる。

以上

追伸:
以上の数学的証明が難しくとも、下記の『私立Z学園の憂鬱』なら、小学生でもわかると思います。特に「第二話」は圧倒的に分かりやすいです! 是非、いろんな方に紹介・拡散差し上げてください!
https://indies.mangabox.me/amp/manga/14526/

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【藤井聡】政府の支出拡大が財政を健全化することを「数学的に証明」します。への9件のコメント

  1. たかゆき より

    「政府の支出拡大が財政を健全化すること」

    これは 小生 耳タコ (失礼)

    数学的に証明 って
    数式は 一次の方程式 不等式

    これは 算数 (またまた 失礼)

    たしかに 小学生でも 解る
    ガキわか です

    が、、、

    何度教えても 解ろうとしない
    てか

    馬耳東風 暖簾に腕押し 糠に釘

    馬やら暖簾やら 糠床には 
    事欠かない 素敵な国 日本

    カリバー旅行記の 馬の国
    お馬さんは とっても
    お利口さん なのに

    この国の 「お利口さん」って
    馬の骨 ばっかり、、、

    なので 
    馬の耳に 何度でも念仏 するべ

    南無南無 ♪

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  2. 日本のGDPをいち早く1000兆円にする会 より

    藤井先生や三橋さんの理論はMMTを超えてます
    藤井先生が物理の運動量の話をされてますが
    まさに財政出動はその物理学の運動量のエネルギーと一緒だと思います。

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  3. たかゆき より

    ちなみに

    「ジョジョの奇妙な冒険」

    承太郎が
    「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

    DIOが
    「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

    と戦うシーン

    MTMと 主流派ケイザイガクの
    格闘を 彷彿とさせ

    クスッとするので ございます。。 

    負けるのは どっちか、、

    「無駄」が 口癖の方だと思うけど

    詳細は
    原作を お読みください ませ 

    小生 荒木さんとも 出版社とも
    なんの 利害関係も ございません

    YouTube でも御覧になれるようです

    念のため。。。

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  4. 汎損・フォード より

     政府諮問会議トップダウンは即決すべきです!!

    公共事業、介護福祉業関係の所得還元の為の財政支出を!!

    IMF、FRBのスパイだらけの日本の政財メディア界じゃ在り得ませんね!!

    スパイ政治家が悪い!!

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  5. 拓三 より

    まず全ての数式の分母は社会(人間)である。

    それを踏まえて考えるなら現日本においてデフレ脱却を成し遂げるだけの財政拡大を吸収出来る産業はない。公共事業においては移民拡大が必要不可欠になる。6年前ならなんとかなったかも知れないが今や手遅れ。公共事業=移民拡大、これでは国民の信頼が得られない。また技術、教育、福祉、などを足したところで15-20兆吸収出来るだけの懐はない。消費税減税はプラマイの関係性であり効果は短期で終わる。具体的に言えば減税分の値引き合戦が続くだけ。しかし全ての上積み(プラス)になる事はしなければならない。

    私はカネ=信頼と考えています。ならば歴史を振り返りどの時点から国民と国家の信頼が薄れたかを考えればいい。やはり敗戦です。敗戦で大きく国民と国家の信頼は薄れる事になったがしかし復興と言う未来がそこに存在する事によりそのおかげで信頼の「分断」まで逝くことなかった。公共事業をはじめ戦後復興を成し遂げそれにより信頼が回復した事で経済が成長したのです。(経済が成長したから信頼が生まれたのではない) しかしながらジャップ.comは経済が成長すれば信頼が生まれると勘違いし、改革を煽り効率を求め信頼を分断してきたのがこの30年。

    ならどうすれば良いか。本来なら国土強靭化が災害大国において信頼をもたらす政策であったが今や移民政策により信頼は愚か反感をもたらす物に改革が進められてしまった。ならば敗戦直後に立ち返り国家と国民の信頼を薄めた物を見つけそれを中心に国家を考えれば良いのではないか。そうです、自立です。

    自立 ! となると「軍事費拡大」「9条改正」「日米安保見直し」など色々有りますが、その前にやる事が有ります。まず敗戦は日本が負けたのではありません。日本の男が負けただけです。そして日本の男は米国の奴隷を選び神は米国と崇め日本女性を見下す様になった戦後社会。ならば自立をする前に日本女性に土下座すること。 そしてもう一度守らせて頂ける様に信頼をかちとる事であります。

    その一貫としてまずする事は前にも書きましたが一回の出産に付き女性に300万円の功労金、今現状で年3兆円、初年度は過去の出産に対しての功労金を含むので300万円は無理として20兆を分割りでお渡しする。財源はすべて建設国債で賄う事。出産は事前に分かるので補正予算が組みやすい。これはカネで信頼を買う行為ではなく、まず「当たり前」の事をするだけの話。そこから始めれば日本は再生出来ると思います。長いですけど。

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  6. 大変失礼致します。

    藤井先生の本文中の数式について

    X > (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) > 0
    X 0

    は,if文の不等号が誤っていて下記が
    正しいと思います。

    X > (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) > 0
    X < (p –q)RG/(aR-G) if (aR-G) < 0

    すぐに訂正されるものと思っていましたが
    未だにそのままになっていたので
    発信させていただきました。

    御確認後,小生のこのコメントは削除して
    いただきますよう希望いたします。

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      1. 藤井聡 より

        ご指摘ありがとうございました!確かに誤記でありました、修正手配させていただきました。ありがとうございました。

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        メールアドレスが公開されることはありません。
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  7. […] 実際、日本(ならびに、現在のアメリカ)の様に債務対GDP比が少なくとも100%を超えている場合(仮に乗数効果が1にしか過ぎなかったとしても)、「債務対GDP比制約」は、事実上、現実的な水準では存在していないことが数理的に明らかにされている(https://38news.jp/economy/13526)。 (※ なお先週の上記記事は、クルーグマン氏のMMT批判に数理的に改めて反論するための下準備として公表したものです) […]

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