日本経済

2018年9月25日

【三橋貴明】いわゆる「国の借金」と戦争(後編)

From 三橋貴明@ブログ

以前、日銀か財務省
(どちらか忘れました)
の官僚と話した際に、

「政府の国債発行はまかりならない。
戦争になる。

実際、高橋是清の国債増発が
戦争を引き起こし、
【ハイパーインフレーション】
を引き起こした」

と力説され、

「はあ?
高橋是清は1936年の
226事件で暗殺され、
支那事変(1937年)が
始まったのはその翌年で、
インフレ率は1944年までは
大したことがなく、
45年でも50%
(物価が一年間で1.5倍になる)
程度で、46年の600%のインフレは、
米軍の爆撃で供給能力を
破壊しつくされたためで、
しかもハイパーインフレ
(インフレ率年利13000%)
でも何でもなかった
じゃないですか」

と、反論したわけですが、その際に、

「何で国債発行と戦争を
結び付けているんだ?
アホか、こいつ?」

と、思いました。

もう一つ。

以前からの疑問なのですが、
共産党を初めとする、
いわゆる「左派勢力」は、
口では「社会保障!社会保障!」
と言っておきながら、
なぜ国債発行に反対する?
しかも、共産党は「労働者」が
潤う公共事業にまで反対するって、
バカじゃないの?
と、疑問を抱き続けてきました。

ちなみに、昨日の
エントリーの末尾に書いた、

「そして二つ目。
こちらも戦争に
関わっているわけですが、
こちらの方がより深刻です。」

について、「経済学」ではないかと
思った方が少なくないでしょうが、
ハズレです。

経済学は、
確かに財政均衡主義ですが、
それは「国王公債」の
延長線上にある話です。

それでは、日本の財政拡大、
国債発行を阻む「二つ目の理由」は
何なのでしょうか。

答えは、こちら。

佐藤 健志 (著)
「平和主義は貧困への道
または対米従属の爽快な末路」

(※表紙の女性って、モデルはナナオ?)

佐藤先生の「平和主義は・・・」
の内容を日本で最も早く知ったのは、
恐らく我々(三橋経済塾生)
だと思います。

今年の7月に、
佐藤先生に経済塾の
ゲスト講師として
ご登壇頂いたのです。
http://members7.mitsuhashi-keizaijuku.jp/?p=2544

講演後に、衝撃的な光景を
わたくしは目にしました。

何と、三橋経済塾史上初めて、
ゲスト講師に対する
「質問」が出なかったのです。

佐藤先生の講演内容がおかしかった、
といった話ではなく、
あまりにも衝撃的な
「真実」を知らされ、
誰もが愕然として
しまったのでございます。

9月14日の「Front Japan 桜」でも、
佐藤先生が本書(の前半部)
について語っています。

【Front Japan 桜】
平和主義は貧困への道
~緊縮財政の真の原因 (他)
https://youtu.be/gFAIpOQDoIE

財政法の第4条に、
以下の文章があります。

『第四条 国の歳出は、
公債又は借入金以外の歳入を以て、
その財源としなければならない。

但し、公共事業費、出資金
及び貸付金の財源については、
国会の議決を経た金額の範囲内で、
公債を発行し又は
借入金をなすことができる。』

公共事業費の話は
今日は脇に置き、
問題は前半部です。

『国の歳出は、
公債又は借入金以外の歳入を以て、
その財源としなければならない』

つまりは、
プライマリーバランスを維持せよ、
という話でございますな。

上記の財政法第4条は、
実は日本国憲法と
不整合になっています。

日本国憲法の第85条には、
以下の条文があるのです。

『第八十五条
国費を支出し、
又は国が債務を負担するには、
国会の議決に基くことを
必要とする。』

憲法では、政府は
「国会の議決」があれば
債務を負担することが
可能になっている。

ところが、財政法では
「公債や借入金禁止」となっている。

なぜ?
憲法は法律の
上位法のはずなのですが・・・・。

実は、財政法の上位法は
憲法第85条ではないのです。

憲法9条です。

『日本国憲法 第九条

日本国民は、正義と秩序を
基調とする国際平和を誠実に希求し、
国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、
永久にこれを放棄する。

○2

前項の目的を達するため、
陸海空軍その他の戦力は、
これを保持しない。

国の交戦権は、これを認めない。』

財政法の条文は、
日本政府に憲法9条を
守らせるためにこそ、
上記の通りとなっている
のでございます。

「そんな、バカな!」

と、言いたい方がいるでしょうが、
昨日のエントリーで解説した通り、
戦争には「公債(国債)発行」
が必須です。

特に、軍事革命を経た以降の世界は、
戦争遂行のためには政府が
借り入れをしてでも軍事力を強化し、
敵と戦わなければならないのです。

戦争が勃発したとして、

「あ、ちょっと待って。
おカネが貯まっていないから、
攻めるの待ってくれないかな」

などといったところで、
敵国は聞いてくれません。

公債を発行してでも資金を調達し、
軍備を揃えなければ、
自国は蹂躙されるだけです。

というわけで、戦争のためには
公債発行が不可欠なのです。

ということは、逆に公債発行を
「不可能」にしてしまえば、
国家が戦争に突入することは
なくなるのでは?

もう一度、

「そんな、バカな!」

と、思われた方が多いでしょうが、

「平和主義は貧困への道
または対米従属の爽快な末路」

から引用します。

『(P44)大蔵省(現・財務省)
主計局法規課長として、
この法律(※三橋注、財政法)の
直接的な起案者となった平井平治も、
第四条の意義について、
以下のように解説したとか。

「戦争と公債がいかに
密接不離(=密接不可分)の
関係にあるかは、
各国の歴史をひもとくまでもなく、
わが国の歴史を見ても
公債なくして戦争の計画遂行の
不可能であったことを
考察すれば明らかである。

公債のないところに戦争はない
と断言しうるのである。

従って、本条はまた、
憲法の戦争放棄の規定を
裏書き保証せんと
するものとも言いうる」』

お分かりでしょう。

日本の「クニノシャッキンガー」
の根底には、

「とにかく戦争はしたくない!
そのためには政府の
公債発行を不可能にすればいい」

という「平和主義(≠平和)」
の発想があるのです。

となると、いわゆる「左派勢力」が
国債発行を嫌悪する理由も
理解できます。

あるいは、
冒頭の官僚のレトリックも、
「財政法の精神」からしてみれば、
むしろ当然という
話になるわけです。

しかも、厄介なことに、
いわゆる「左派勢力」の
反対側の人々
(いわゆる「保守勢力」
としておきましょう)
は、対米従属主義です。

アメリカに寄り添うことこそが、
日本を繁栄に導くと信じています。

アメリカから押し付けられた
「グローバリズム」に
疑問を持つことなく、
日本に導入しようとします。

グローバリズムは
「小さな政府路線」であるため、
当然ながら財政均衡主義です。

右も左も、緊縮財政。

あ、こりゃ、困ったな。

という感じですが、
これが日本の現実というわけです。

ちなみに、

「平和主義は貧困への道
または対米従属の爽快な末路」

では、

「なぜ、このような事態に至ったのか?」

「ならば、どうするべきなのか?」

についても、
後半できちんと語られています。

といいますか、
後半部が本書の真骨頂
のような気がしますが、
いずれにしても日本の
財政均衡主義の根っこには
「平和主義」があるという真実を、
我々は理解する必要があるのです。

わたくしは、あまり
他の方の著作を批評したりは
しないのですが、
あえて断言します。

本書は日本国民「必読の書」です。

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【三橋貴明】いわゆる「国の借金」と戦争(後編)への28件のコメント

  1. komiyet より

    フロントジャパン桜の佐藤さんの話を聞いて、頭ぶっ飛びました。

    その先が知りたくて、気になって、気になって

    近所の本屋で買いました。

    返信

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  2. たかゆき より

    現行憲法は 毒薬

    処方どおりに 服用すれば 間違いなく 死ねます。。

    小生の回りにも 掃いて捨てるほど いらっしゃいます

    悪徳医師の処方する毒薬を

    有り難がって 頂戴する 患者さん ♪

    返信

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  3. ぬこ より

    財務官僚もある種、憲法に忠実な模範的な公務員ちゅう事なのでっしゃろかいなん?
    人間としては終わってますが。。。

    返信

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  4. 三橋先生の記事にコメントを書くのは、恐らく初めてのことなのですが、余りの出来事に、居ても立ってもいられず、コメントします。

    佐藤健志先生のご指摘(例のご著書、私は、予定を返上して、先日、全てを読みました)は、今後長く日本に影響を与えるべく、決定的な著として、日本の論壇(だけでなく行末に)影響を与え続ける書だと、確信します。

    多少なりとも、私の持ち得る総ての知識等を動員して、この本を擁護したい。まず、財政法第四条の、「日本に戦争を起させないために、戦時公債を禁ずる意味合いで、この条項が整備された」という件については、憲法(要するに、現行憲法のことです)を正面から(財政面含む)大学で勉強した面々(私含む)にとっては、必ず習うであろう、謂わば「定石」に過ぎない事項であるということです。

    要は、まともに大学でそれを習った者にとっては、「皆知ってる」ことなのです。

    将棋の好きな人には解るでありましょうが、定石として、将棋の「矢倉」や、「美濃囲い」のように、必ず習う事項として、「当り前」のことなのです。

    そして、東京五輪(昭和39年開催)後の、昭和40年の不況(山一証券に日銀特融が為された等)に際し、当時の日本社会党などが、「赤字国債は、戦争への道」として、(赤字)国債発行に対し、強硬に反対したことも、実は、歴史や法律を学んだ者として、これしきなことは、実は、テンプレなくらい、当り前に学ぶことでもあるのです。

    でも、佐藤先生は、この「テンプレ」に、現在に続く、一種の「渡り廊下」を与えました。なぜ、それがなぜ、今に引続く「緊縮財政」の元凶になっているのかという説明を。

    (続く)

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  5. このお話に、佐藤先生と『チャンネル桜』でご一緒のキャスター、「saya」さんは言いました。「日本は、「大きな買い物」をしてはならないのですか?」

    そう、「大きな買い物」とは、一つには、戦争のことです。しかし、戦争も、公共事業も、防衛費も、教育費も、他の何がしかの借金(国債発行)を伴う大型支出も、日本を強くする「買い物」(経済的には、「投資」というべきもの)を貫徹すれば、「それによって、日本は国力を増してしまい、戦争に突入し易くなるから」、絶対に行うべきものではないらしいのです。

    あぁ、恐ろしいことです。『日本国憲法』は、実は、日本に対する『滅びの呪文』だったのです。そんなことは、実は「誰しも」解ってはいましたが、どういう訳だか、少なくとも経済的には、今まで、「実証」を拒まれていました。

    否、佐藤先生によれば、ある特殊環境、主として「冷戦の勃発」によって、奇跡的に、「平和主義」を保ったまま、「経世済民」が実現する約四十年間が実現してしまい、つまり「滅びの呪文」と「経世済民」が両立してしまっていたので、経済面での「実証」が阻まれていたのです。(当然、この両立の終りは、「冷戦の終結」が原因です。なのでその後は、「滅びの呪文」が順調に作動し、今を迎えています)

    アメリカを主とする連合国は、日本に「バルス!」(「天空の城ラピュタ」より)と、滅びの呪文を唱えたのです。臣民がいないのに、王だけ玉座の間に座らせて。

    元々、連合国は、敗戦した日本に、良くてごく最低限度の生存権しか与える気がなく、例えば、日本には、軽工業はあっても仕方ないが、重工業は許す気がなく、それは航空産業の徹底抑制等に、如実に表れていたのです。現行憲法もその文脈で用意したものですから、憲法は、当然「滅びの呪文」なのです。

    日本が家族であることを否定し、家制度も、日本共同体を強くするものであるから否定し、だから、最近ドラマやアニメなどに出てくる祖父母は大抵、母方の祖父母で、父方の祖父母ではなく(例:朝ドラの『あまちゃん』)、『下町ロケット』のような父方の祖(父)母が出てくる作品もありますが、結局一人孫娘が後継者?なので、「佃製作所」は先々「佃」製作所で在り続けるか不明という事情があるなど、家制度や家父長制を徹底的に排除した作品が作られ続けるのです。腑に落ちました。

    となると、当然、今後目指すべき「茨の道」は、滅びの呪文(現行憲法)の徹底的な否定です。決して、「自衛隊加憲論」ではありません。

    申し訳ない?が、財務省の皆さんには、日本を生かしたいならば、国債をドシドシ発行できる路線に転換してもらわなければなりませんし、左翼の皆さんには申し訳ない?が、日本は家族として再生しなければなりませんし、大和撫子でなくなった現代日本女性の皆さんには申し訳ない?が、家制度、家系主義、家父長制は、復活させねばならないのです。

    戦後の混迷について、かくも明快な著書が、これまであったでしょうか。恐ろしい警世の書です。小生の母とも話し合いましたが、この著、本当に我々の身近でも、余りにも腑に落ちることが在り過ぎて、恐ろしい『預言の書』となっています。

    佐藤健志先生に拍手です。

    保守人士と称する方々は、よくよくこの書を拳々服膺し、次代に備えるべきと思います。

    嘗て理系の学徒は出陣することなく温存され、その後の日本の経済発展を支えましたが、特攻などで死に絶えた文系の真のエリート(優秀な奴ほど死んだ)は、佐藤先生のように、戦後七十年以上経って漸やく再生され、日本の針路、戦略などを誤りなく指し示して下さっています。

    これから先の日本の再建は、この『預言の書』が道標です。我々はそのくらい、重要な瞬間に立ち会ったのです。

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      1. 拓三 より

        日本は家父長政ではない !
        それは表向きであり現実は家母長政である。
        他国を支配するには金融を支配するのと同じように家族も女が支配するべきです。女が財布を握るべきなんです !

        よく勘違いされていますが、男は講釈を垂れますが度胸はありません。不動産関係の人達なんか解っていると思いますが家などの大きな買い物を決断するのは最後は女性です。男は短期的な損得勘定の投資は出来ますが長期を見据えた投資は出来ませんので容易く騙す事は可能です。ここが日本社会の一番の原因です。

        つまり、今の日本の現状こそが男社会 !
        男の思考が幅を利かせているんです。女は子供(未来)の為なら投資は惜しみません。それが子供(未来)の命にかかわる事案であればなおさらです。それを国家に置き換え女性に語れば必ず理解するでしょう。しかしヘタレ男が己の優位性を誇示する為に女性の思考を屁理屈(学問)で押さえ込み女性を男性化しようとしているのが今の現状です。

        この状況で家父長政などの本質を欠いた論理を女性に語れば女性は反発するだけです。その態度こそ男性思考そのものなんです。
        家父長政を本質的に男が理解しなければ女は戻ってきません。

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        1. 拓三 より

          デオキシリボ核氏にたいしての批判では御座いません。

          ごもっとも !  のコメントだと思っております。

          ただ「家父長政」の個に対しての思いがあったまでの事です。

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  6. 追伸

    どうして、皇統存続の危機に、旧宮家の皇族復帰を軸とした真っ当な議論がちっとも為されず、女性宮家の創設やら、果ては「女系天皇」(この語はおかしい。天皇は男系のみなので、「女性ローマ法王」、「酸性のアルカリ性物質」、「-の+(電)極」のように完全な矛盾語である)やらばかりが主流として政府でも国会でもマスメディアでも俎上に上るのは、全く怪奇現象のようでしたが、これも佐藤健志先生のご著書で腑に落ちました。

    「旧宮家の皇族復帰」は、家制度、家系主義、家父長制といった、滅びの呪文(日本の「平和主義」)に抵触するコードが満載に並んでいる、つまり、日本を強くして戦争に向う事柄、であるから、主流の議論から徹底的に排除されるのですね。

    (保守派人士も、なぜ、女性宮家や女系天皇を、国体に違反している、つまり違憲であると誰も言わなかったのか、という答でもあるのではないでしょうか)

    それに引き換え、女性宮家や女系天皇やらは、滅びの呪文に誠に適う、というか、それそのものなのです。

    小室家の騒動も、そういうことなのだと、納得しました。

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