日本経済

2018年6月13日

【藤井聡】なぜ、南海トラフ地震の被害が1400兆円を超えるのか?〜「財政を守る」ための「強靭化投資」〜

From 藤井聡@京都大学大学院教授

この度土木学会が、南海トラフ地震がもたらす被害が、
「1400兆円以上」という試算を公表しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180607/k10011467571000.html

もともと、南海トラフ地震の被害として言われていたのは、
内閣府が公表していた、約200兆円という数字。

これだけでもかなりの数字ですが、今回の公表値は実にその7倍

だからこの数値を見て、
「ホントにこんなに大きな水準になるのか?」
と訝しがる方もいるかもしれません。

しかし、この週末、土木学会があったのですが、
そこで、災害被害について何人かの専門家に解説したところ、
「なるほど、確かに計算したらそれくらいになるよなぁ」
との反応。

ついては今回は、この数字について解説したいと思います。

(※ 詳細は、http://committees.jsce.or.jp/chair/node/21にて
公表しておりますので、そちらをご参照ください。
以下には、その報告書から抜粋した情報を解説します)

(1)阪神・淡路大震災の経済被害を改めて推計:約90兆円
まず、今回の推計にあたって、
大石久和土木学会会長の下に特別委員会をつくり、
「道路」「河川」「港湾」等の、
各領域の「日本の第一人者」と言われる先生方に、
分科会をつくっていただきました。

そして「一年」かけて政府公表の南海トラフ地震や首都直下地震の
「震度」や「津波高」データに基づいて計算しました。

この計算でまず行ったのが、
「阪神・淡路大震災」の経済被害の再推計。

そしてその再推計を通して、
阪神・淡路大震災の「後遺症」が
実に20年間残存していたことがわかりました。

まずは、こちらのグラフをご覧ください。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1369709679796638&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3

これは、阪神・淡路大震災の被災地の
(全国値を基準とした)GDP推移。

ご覧のように、被災地では震災直後にGDPが40%も縮小し、
その後徐々に回復していくのですが、
「完全回復」は災害から実に20年後。
つまり、完全回復はつい最近(2015年)だったことが、
今回の土木学会の分析で明らかになったのです。

そして以上分析に基づき、今回改めて、
阪神・淡路大震災の経済被害総額は約90兆円
だったことが分かりました。

(2)南海トラフ地震の震災直後のGDP水準を推計
以上の分析の次に行ったのが、
南海トラフ地震の震災直後のGDP水準。

そのためにまず、「東日本大震災」の時の
自動車交通のビッグデータを用いて、
どういう道路が破断したのかを解析。

この解析結果を用いて、
南海トラフ地震が起こった時に、
道路ネットワークがどの程度破壊されるのかを推計しました。

あわせて、経済モデル(SCGEモデル)を用いて、
阪神淡路大震災の直後に「生産施設」が何%程度、
それぞれのエリアで毀損しているのかを(逆)推計しました。

この推計結果に基づいて、
南海トラフ地震の際の「生産施設の毀損」を推定しました。

さらに、南海トラフ地震の際の津波での被害エリア推計が
内閣府から公表されていますから、
この浸水エリアでも生産施設が毀損すると想定。

こうして、土木学会では、
南海トラフ地震が起こった時に、
生産施設と道路ネットワークの破壊程度を推計したわけです。

こうして基礎データが求まり、
これを経済モデル(SCGEモデル)に入れて、
南海トラフ地震「直後」のGDP水準が推計しました。

(3)南海トラフ地震の「20年経済被害」を推計
ここまで来れば「ゴール」まで後もう少し(笑)。

まず、南海トラフ地震からの回復の推移は、
阪神・淡路大震災のそれと同じと想定します。

そしてその「大きさ」は、(2)で推計した
南海トラフ地震によるGDP毀損量で規定されると想定。

(つまり、GDPの回復曲線は、
阪神・淡路大震災のそれと「相似」すると想定したわけです)

以上を想定すると南海トラフ地震後、
20年間のGDP毀損量が求まります。

これをすべて足しあわせたところ・・・・
その水準は1000兆円を超える水準となったのです。

そしてこの数値に、
内閣府の公表値に基づいて推計された港湾破壊の経済被害と、
同じく内閣府が公表している資産被害をすべて足し合わせ、
1410兆円という数値が求まったのです!

(4)南海トラフ地震で財務省は131兆円を失う!
以上の「経済被害」の全容が今回初めて見えたことで、
初めて明らかになったものがあります。

それが、「財務省が失う税収総額」

その額は実に131兆円!

つまり、巨大地震は国民の生命と財産と所得を毀損するだけでなく、
財務省にとって命の綱である「税収基盤」を破壊するのです!

(5)だから防災対策は、税収を増やす対策である。
だから、防災対策は単に国民の生命と財産を守るだけでなく、
財務省が大切にしている「税収」を守るものでもあるのです!

今回の我々の試算では、
38兆円程度の防災対策を
15年程度かけて進めれば、
被害は約4割縮減し、
GDPの毀損が約509兆円縮小できることが示されました。

これはつまり、
防災対策で、政府の税収が54兆円増える
ことを意味します。

こうした以上の議論から明白なのは、
巨大地震対策は、政府の税収を守るものなのであり、
したがって、強靭化投資は財政を「傷つける」というよりむしろ、
「健全化」するために必須のものだ、ということなのです。

(6)「経済・財政の基盤強化投資」として強靭化投資を進めるべし!
おりしも今、政府は、2021年までの三か年、
経済・財政の基盤強化のための「投資」を拡充する方針を打ち出しています。
https://38news.jp/economy/12019

その投資には様々なものがあり得ますが、
上記の議論、および、計算結果は、
強靱化投資こそが経済と財政の「基盤強化」のために
必須であることを示しています。

政府が今回の土木学会の試算を冷静に受け止め、
理性的かつ合理的な財政政策を勇気をもって断行されんことを、
心から祈念したいと思います。

追伸1:
この度、「表現者クライテリオン」を表紙も内容も完全リニューアルし、今週金曜日に刊行されます。是非、下記ご一読ください。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/20180611/

追伸2:
今週の週刊ラジオ表現者は、「歴史の謎はインフラで解ける」是非一度、お聞きください。
https://www.youtube.com/watch?v=r0W00ZfUzHk

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【藤井聡】なぜ、南海トラフ地震の被害が1400兆円を超えるのか?〜「財政を守る」ための「強靭化投資」〜への5件のコメント

  1. たかゆき より

    倭憂

    倭国の人々は起こりもしない 財政破綻を憂えて

    確実に起こる断層破断に 何の対処もぜず滅び去りましたとさ。。 と

    故事として語られるように なるので せうか。。。

    しかる場合

    倭国 外伝には アホばかりや おまへんで と 藤井様の名こそ挙げらるる べけれ ♪

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  2. 神奈川県skatou より

    >それが、「財務省が失う税収総額」。
    >
    >その額は実に131兆円!
    >
    >つまり、巨大地震は国民の生命と財産と所得を毀損するだけでなく、
    >財務省にとって命の綱である「税収基盤」を破壊するのです!

    表現がとても素敵ですね。

    表現は考えると同等以上に大事と、
    成果を望むなら、
    五十を手前に、知りました。

    返信

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  3. とすくん より

    藤井先生のかような、財務省様目線の、財務省様の税収を確保するための財務省様の体裁を取り繕うための下からのへりくだったご提言、果して財務省様の心にどの程度突き刺さっているのでしょうか?

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  4. 反孫・フォード より

    >したがって、強靭化投資は財政を「傷つける」というよりむしろ、「健全化」するために必須のものだ、ということなのです。

     馬鹿な言葉かりのオイラの頭に、現馬鹿足れ政府等の隠蔽表現の緩々移民に対する書換版が浮かびました。
    “したがって、ヒトラーのユダヤ人迫害はドイツを「傷つける」というよりむしろ、「健全化」するために必須のものだった、ということなのです。”

    今のままの緩々好き好き政府が続くならもう抗いようがなく、多分あのアイヒマンのクローン(超アンドロイド)を造り強行的に隠蔽移民を送り返してしまい、国内外の批判はそのクローン(超アンドロイド)に罪を着せる隠蔽プロレタリアート戦略しかない気がしてなりません。もう待ったなしです。議会制フレンドリー民主主義の議論の中ではらちがアキマセン。強行総括あるのみです!

     馬鹿な言葉かりで脱線した話なのは認めます。お赦しください。

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