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2017年5月2日

【藤井聡】「プライマリー・バランス目標を撤回すれば、金利が急騰する」というデマ

From 藤井聡@京都大学大学院教授

拙著、「プライマリー・バランス亡国論」(https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323)の発売(5月14日)が近づいてまいりましたが、大変有り難い事に、この書籍の出版が、産経新聞さんの記事で紹介されました。
http://www.sankei.com/politics/news/170430/plt1704300005-n1.html

この記事では下記の様に、拙著「プライマリー亡国論」の骨子をご紹介いただいています。

「政府は、平成32年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化を目指す目標の撤回を含め、財政健全化計画を見直す検討を始めた。藤井聡内閣官房参与(京大大学院教授)は5月に出版する著書で、債務残高の対国内総生産(GDP)比率を減らすことを重視すべきだと提言。安倍晋三首相自身も国会答弁で同様の考えを示し始めた。

・・・無理に緊縮財政を進めれば、デフレ長期化や一層の財政悪化を招きかねないとの危惧がある。

こうした事情を踏まえ、藤井内閣官房参与は新著「プライマリー・バランス亡国論」(育鵬社)でPB目標撤回を主張する。

藤井氏はアルゼンチンやギリシャを例に、PB改善に向けて歳出削減や増税に踏み切れば、景気が冷えて税収が減り、かえって財政が悪化すると指摘。日本はPB赤字を許容して財政支出を増やし、経済成長を加速すべきだとしている。

その上で、目標として重視すべきは債務残高のGDP比を安定的に減らすことと指摘。日本は「国際公約」で「安定的な引き下げ」を財政再建の大目標に掲げており、「PB黒字化」は手段にすぎない。手段は柔軟に取り下げることが許されると唱える。」

詳しくは、拙著をご一読頂ければと思いますが、この記事の上記記述は、極めて簡潔、かつ、的確に拙著の内容をとりまとめていただいています。ご紹介いただいた産経新聞、ならびに記者の方に深謝いたしたいと思います。

ところが、この記事では、ひとつ気になる記述もございました。
http://www.sankei.com/politics/news/170430/plt1704300005-n1.html

「ただ、PB目標を撤回すれば財政規律の緩みが意識され、国債が売られて金利が急騰するリスクもある。」

この記述は、拙著の内容をご紹介頂いた一番最後に、文字通り「とってつけたように」追記されていたものです。

おそらく、この記事を書いた方は、拙著原稿をご一読いただいた上で書いておられると思われますので、当方が、この「PB延期で金利急騰!」という話が、単なる

「デマ」

であると、激しく批判している事をご存じだと思うのですが、どういうわけか、この一文が挿入されていたのに、少々驚きました。

ちなみに、先日拙著について自民党の先生方に解説差し上げた時も、某党幹部の方から、当方が話し終わった後に、「本日は藤井の持論をお話されたが、PB目標を撤回すると、金利が高騰するリスクもある。是非、多面的に考えて頂きたい」と、今回の産経新聞と全く同様の趣旨の発言がありました。「PB目標撤回で、金利高騰なんてデマだ」と何度も解説したのに、なぜ、それを今ここでおっしゃるのだろうか――と、その時もとても不思議に感じた次第です。

おそらく、日経新聞にせよ、上記発言をされた党幹部の方にせよ、何らかの「バランス」をとるためにご発言されたのだと、その時も感じましたが――そういうバランスは、

「意見A」と「意見B」が対立している場合

には重要な姿勢ですが

「真実」と「デマ」の対立の場合

には、大いに問題のある姿勢になろうかと思います。

そうなると、やはり一番大切なのは、 「PB目標撤回で金利上昇!」という話がデマなのか否か、という点なのですが――筆者はもちろん、そのご主張は、明確に「デマ」であると考えます。

詳しくは、「PB亡国論」で詳しくお話していますが、その一部をここにご紹介しましょう。
(※ 国債暴落Xデーとは、PB目標撤回などの何らかのきっかけで、皆が国債を投げ売りして、その価格が暴落する、つまり、金利が急騰する日が、その内必ず起こるだろう、と言う話です)

「 しかし、やはりこうした国債暴落Xデーが訪れる可能性もほとんど考えられない。
その理由もやはり、最後の貸し手である日銀が存在しているからだ。
日銀は、「円」の番人だ。
そんな円の番人が、「国債の投げ売り状況」「政府の破綻」を見知らぬ顔して無視することなどない。
上記の様な「国債の投げ売り」や「金利の高騰」の兆候が見られた瞬間に、経済の混乱を回避するために、日銀は国債の購入を始めるのである。そしてその時、「市場の安定化を果たすため、国債市場にて国債の購入を始めます」と宣言する。こうした宣言とそれに基づく実力行使を、市場関係者全員が見れば、彼らは皆「国債の暴落は起きないだろう」と予期することになる。そうなれば、誰も投げ売りしなくなるのである。
しかも、「国債を投げ売り」したところで、それを通して手にした大量の「マネー」の運用先など、そうやすやすとは存在しない。結局、国債市場で運用していくことが、やはり得策だと判断する関係者も数多くいることだろう。だから、しばしばまことしやかに語られている「国債投げ売り」になるものは、冷静に諸条件を考えれば、やはり、あり得ないとしか言えない。」

つまり、具体的に考えれば、日本政府が「円建て」の国債を発行している限り、「金利が高騰する」とは、到底考えられないのです(もちろん、飛行機のパイロットが飛行中に急に逆噴射をして墜落させるリスクがあるように、日銀総裁も急に滅茶苦茶なオペレーションをし始めるリスクもある、とは言えるのでしょうが――あったとしても、その程度の確率だ、という話ですね)。

もうこの一点で、「PB目標撤回で金利急騰!」という話が「デマ」であることの説明は終了――してもいいのですが、それ以前に、たかだか「財政再建目標」を変えたところで、国債の投げ売りが始まる、ということ自体がほとんど考えられません。

実際、財政規律を撤廃しても、金利は何も変わらない――と言う話は以前、イギリスやフランスの例を引用しつつ、ご紹介した通りです。
https://38news.jp/economy/10353

すなわち、イギリスやフランスは、財政規律として宣言していた、財政収支の「黒字化」目標や「均衡化」目標を、つい最近「撤廃」したにも拘わらず、金利の「高騰」という現象は全く見られなかったのです。
https://jp.investing.com/rates-bonds/france-10-year-bond-yield
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/uk10yt.html

あるいは、日本で「消費増税を延期すれば金利が高騰する!」という話が、様々な学者、エコノミストから「警告」されていたのですが――
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASGC2601Z_W3A820C1000000
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL270Q4_X20C13A8000000/
安倍内閣下での二度の消費増税延期の際に、金利の高騰は全く確認されませんでした(それどころか、皆さんご案内の通り、今や金利はゼロ、さらには「マイナス」となっています)。

つまり、「国債公約の消費増税を延期したら、国債市場が混乱するぞ!」という主張もまた、単なる「デマ」だったわけです。

そもそも、日本政府が財政について「国際公約をしている」とは、海外の人々は考えていないからです(下記分析はとても説得力のあるものでした)。
http://www.zakzak.co.jp/smp/society/domestic/news/20140928/dms1409280830005-s.htm

・・・・

以上いかがでしょうか?

それでもやはり、当方の「プライマリー亡国論」を、筆者にはデマとしか思えない「PB延期で金利急騰!」論と、「両論併記」させて、「バランス」を取る必要が、あるのでしょうか?

ご判断は皆様にお任せしたいと思います。

ご関心の方は是非、こちらをご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

追伸:「プライマリーバランス亡国論」について、三橋さんとたっぷりと対談いたしました!ご関心の方は是非、下記ページをご参照ください!
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php

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【藤井聡】「プライマリー・バランス目標を撤回すれば、金利が急騰する」というデマへの3件のコメント

  1. 私も産経の記事、読みましたよ。あーでも藤井先生、めっちゃ怒ってはるわー(笑)何とか怒りをこらえて、わなわなしながら書いてはる感じですね。産経の記者は結局わかってへんのとちゃいますか?おっしゃるように両論併記でバランスとったつもりで。ホンマ、しっかり勉強せんかい!と言いたいですね。

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  2. はっちゃん より

    いつも大変ありがたく読ませていただいております。真実とデマを「バランスを取って両論併記する」なんて言われると「バランスを取る」の意味が全くわからなくなります。あえて解釈すると「バランスを取る」=「デマも平等に尊重して書く」という馬鹿げたことになるのではないでしょうか?私が思うに、おそらく「金利上昇のリスクがある」などというのはだれか彼らにとって権威でもある人の口真似なのではないでしょうか?つまり「とりあえず誰々が言っているので安心。確実に自分は正しいことを言っている。」と思って口真似しているだけではないでしょうか?これは思考停止の工程の一種なのかもしれません。藤井教授の説明は非常にわかりやすいので真面目に聞いて理解できないわけがありません。もちろん私に産経の記述が書かれた経緯や政治家の発言の経緯がわかる由もありませんが、もし思考停止が原因だとしたら、思考停止した人にはほんと不思議なほど言葉が届かないものなのだと感じます。ところで、産経の記事は読むけども今回の書籍を読むには至らない人もいると思いますが(実際まだ出版されてはないですし)、そんな人たちからすると「藤井教授は金利上昇のリスクについて書いていないんだな」などと思わせることにつながり、結果的にとんでもないレッテルが張られてしまっていると思います。このレッテルは貼り替えが必要かもしれません。

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      1. 反孫・フォード より

        >デマも平等に尊重して書く

         私はPB至上主義者ではありません・・云々かんぬん・・でもPBをまったく無視をするわけではない(筆者の記憶で表現は不正確ですが)。

        と言った総理の国会答弁に似ていますね。
        だからっ結局どっちけじゃんっ!(方言)
        遺憾な答弁にしかならない煮えきれもしない考えでもあるんだろうなぁ。似非成長戦略=構造改革に拘る質疑をする議員もまだまだ居ますからね。
        何処まで行ってもデフレにはインフレ対策。

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