政治

日本経済

2017年4月13日

【小浜逸郎】カジノ法案――米中のはざまで亡びの道を歩む日本

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

 

政府は去る4日、カジノを含む統合型リゾート(IR)導入に向けた推進本部の初会合を首相官邸で開きました。
以下、日経新聞電子版4月4日付より、一部を引用します。

推進本部の本部長を務める安倍晋三首相は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と表明。政府はカジノの運営方法や入場規制について本格的な検討を進め、秋の臨時国会にIR実施法案の提出を目指す。ギャンブル依存症対策なども議論し、詳細なルール作りを急ぐ。
首相はIRについて「大規模な民間投資がおこなわれ、大きな経済効果・雇用創出効果をもたらすことが重要だ」と強調。カジノに関しては「国民の幅広い理解を得られるようクリーンなカジノを実現する」と述べ、法案提出へ向けた作業の加速を全閣僚に指示した。
(中略)
政府はIRを経済成長の起爆剤としたい考え。カジノ解禁を巡ってはマネーロンダリングなどの犯罪防止策や暴力団対策が重要課題となる。(以下略)

経済成長の起爆剤としてIR法とは!
何と愚かしい正当化とごまかしでしょう。
政府はデフレ脱却のためにやるべき財政政策をなんら打たず、「経済成長」を観光収入やカジノに依存しようとしています。

ちなみに、やるべき財政政策とは、言うまでもなく、まずは交通インフラ整備のための大規模な財政出動です。これによって大きな需要を作り出し、デフレのために疲弊しきっている地方に活力を甦らせること。

カジノについてですが、この法案に対しては、すでに米在日商工会議所が露骨な要求を押しつけてきています。「進出企業の税率を10%以下の低率にせよ、日本人の誰もが利用できるように高額の入場料検討はやめて無料とせよ。東京や大阪にはリゾート施設に複数併設せよ」等々。

カジノでの収入は当然、米国を中心とした進出企業の手に落ちるので、この要求を呑めば、低い税収以外には、何ら日本の経済成長には寄与しません。
また大都市圏に複数のカジノを併設すれば、いろいろな意味で都市と地方の格差はますます開きます。

しかしアメリカの属国化している今の日本の状況からして、この米在日商工会議所の要求を、政府は結局は呑むことになるのでしょう。
安倍首相は「最高水準の規制を導入する」などと言っていますが、全然信用が置けない。なぜなら、TPPでは農産品の関税率は死守すると言っておきながら、結果は軒並み大きく下げられてしまったからです。

これがアメリカ発グローバリズムの恐ろしさなのです。
もちろんアメリカは、TPPから離脱した今でも、個別の通商交渉でさらに厳しい条件を日本に突きつけてくるでしょう。トランプ大統領は、国益を最優先する生え抜きの「ビジネスマン」ですから。

いま日本は、従来のよき慣習を次々に捨て、悪い意味でアメリカ化しつつあります。
外国人メイドさんOK、非正規社員増大OK,複合診療OK,全農、農林中金潰しOK、国家戦略特区での英語使用強制、すべてはアメリカの思うツボです。
安全保障のためにアメリカに縋りつきたい安倍政権の気持ちはわからなくはありません。
衰えたとはいえ、アメリカはやはり超大国です。対ロシア外交で中露分断を狙っても、両国の相互依存関係は、容易には断ち切れません。
また、東南アジア諸国は中国と経済的な結びつきが強い上に、その軍事的脅威を恐れているので、対立をできるだけ避けようとします。現にフィリピンのドゥテルテ大統領が、中国に対して事実上の敗北宣言をしたことは記憶に新しいところです。ですからアジアの親日国はあまり当てにならないのです。頼みの綱はアメリカだけということになります。

しかし個別政策課題でアメリカに追従することが、必ずしもわが国の安全保障に貢献するとは限りません。アメリカの通商戦略関係者が日本のそういう意向を読み取って、ちゃっかりつけ込んでいるにすぎないのかもしれないのですから。いや、おそらくこの推測は当たっているしょう。
なるほどアメリカは、日本の完全な自立(たとえば核武装)をけっして許しません。日米同盟とは親分子分の関係ですから、日本の国家としての自立行動は、子分の分際を守る限りで、つまり監視付きで許されているのです。

けれども、軍事問題ではなく、個別の経済問題に関してだったら、交渉次第で断固たる抵抗を示すことは可能なはずです。要は、時の政権がどれだけ国民の利益に重きを置いて、毅然として交渉に当たるかなのです。
安倍政権は、この区別をせずに、経済交渉と安全保障とを一括して捉え、とにかくアメリカの意向に逆らうなという姿勢ですから、少しも「戦後レジームからの脱却」が果たせないのです。

じっさい、トランプ政権の対日姿勢は未知数です。いつ日本という「財布」を、中国と分け合おうという協定を結ばないとも限りません。この場合、「財布」とは、金融や実体経済の面だけを指すのではなく、領土・領海の意味も含みます。
先の安倍・トランプ会談では、安倍首相がワシントン行きの飛行機に乗っている最中に、トランプ・習近平電話会談が行われています。何を取引したやら。
政府は、安倍・トランプ会談で、トランプ氏が100%日本の側に立って尖閣を守ることを保証したような発表をしていました。
マスコミは右から左まで、これを聞いて、会談は大成功だったと浮かれていましたが、事実は異なります。

トランプ氏は、「The United States of America stands behind Japan , its great ally, 100%.」と言ったのです。「stands behind Japan」――つまり「日本の後方に立つ」、言い換えれば「後ろから支援する」と言ったにすぎません。(月刊Voice 四月号・中西輝政「米国は100%後方支援だけ」)

要するに、安保条約第五条を守るというこれまで何度も繰り返されてきた既定路線に、多少社交辞令としての粉飾を施して再確認を示しただけのことです。
自ら喜び、日本国民をぬか喜びさせるマスコミは、バカというかなんというか、じつに罪が深い。

先に当メルマガに投稿したように、中国は尖閣・沖縄を狙っているのみならず、わが日本列島の後頭部(あまり政治的経済的関心の対象にならない部分)に相当する北海道で、土地買収により着々と「実効支配」を実現しています。
https://38news.jp/economy/10151

また、安倍政権は、EUの悲惨な状況にもかかわらず、「技能実習生」「留学性」の名目で、率先して移民政策を進めています。この該当者のうち半数以上が中国人です。
グローバリズムをヒト、モノ、カネの自由な移動を積極的に進める考え方と定義するなら、いま日本は、ヒトとモノ(土地)の面において主として中国に、カネの面において主としてアメリカに浸食されつつあるわけです。

日本はグローバリズムの仕掛ける戦争にとっくに巻き込まれているのです。私たちは、現在のわが国がすでに戦争状態であることをしっかり認識して、あらゆる面で国を守る必要があります。
ドンパチだけが戦争ではありません。日本は経済戦、情報戦、歴史戦、領土・領海戦において、じわじわと敗北し続けている。この事実を国民がしっかり自覚しなければなりません。

(小浜逸郎からのお知らせ)
●小浜逸郎ブログ「ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo
●最近著
『13人の誤解された思想家』(PHP研究所)
『デタラメが世界動かしている』(PHP研究所)
●雑誌掲載原稿
「誤解された思想家たち(23) 鈴木正三」(『表現者』70号)
「誤解された思想家たち(24) 伊藤仁斎」(『表現者』71号)
「誤解された思想家たち(25) 山本定朝」(『表現者』72号・4月16日発売予定)
「プレミアム・フライデー狂想曲 働かなくてほんとにいいの」(『正論』2017年5月号)
「サイコパスは生まれつきか」(『Voice』2017年5月号)
●ネットテレビ
〇チャンネル桜「闘論!倒論!討論!」
「世界は今、そしてこれからー西部邁氏を囲んで」
https://www.youtube.com/watch?v=FHEalfD_4wc&t=1420s
〇Channel Ajer出演
「日本の民主主義が正しく機能していない」
http://ajer.jp/video/search?k=%E5%B0%8F%E6%B5%9C%E9%80%B8%E9%83%8E&x
「公共投資を増やさなければ日本は亡びる」
https://www.youtube.com/watch?v=1cjSk_5JePE&t=3s
「トランプ氏の難民政策は自由への裏切りではない」
https://www.youtube.com/watch?v=pA6Ij3d6uyk&t=351s

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【小浜逸郎】カジノ法案――米中のはざまで亡びの道を歩む日本への5件のコメント

  1. robin より

    旧アベノミクス第二の矢「機動的な財政政策」の中身が積極財政でなく緊縮財政だったことを思えば「世界最高水準のカジノ規制」もカジノに対する規制ではなく世界最高水準のカジノに主眼が置かれているのだろう、世界最高水準に規制の無いカジノ、規制とは従うべききまり、の意だから世界市民投資家達のルールに従うカジノという意味なのだろう、多分。元々外需を奪うためのカジノであって内需が外国に流出するだけのカジノに日本国民にとって何のメリットがあるか。入場料10万くらい吹っかけて3万くらいに落ち着いてほしいところだ、入場料無料とか日本国民の貯金が巻き上げる気満々では。賭博は胴元が確実に儲ける仕組みなのだから自発的、強制的な所得移転を促そうという政策なのか、格差拡大に拍車を掛けるだけで一般庶民に還元還流されるとは思えない、そもそも経済学は波及経路にいては始めから無視を決め込んでいるのだから当然なのか?、需要を奪う政策ではなく需要が増える環境を整えるのが政府の役割ではないのか。

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  2. 反孫・フォード より

    >安倍首相がワシントン行きの飛行機に乗っている最中に、トランプ・習近平電話会談が行われています。何を取引したやら。

     あぁこのとき既に、北朝鮮の悪餓鬼は米国(側)だけででも懲らしめてやる!

    と言う脚本、演出を構想していたのかもしれませんね。
    帝国安倍群を有頂天に舞い上がらせる為にも!

     それにつけても相変わらずの日本企業破綻の見て見ぬふり!
    ファンタスティック中央政府執行部っ!つくづく日々嫌になります。
    王っ!舞いっ!餓ぁーっ! このっ!くそったれ坊っちゃん!

     暴言、すみません。

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  3. 赤城 より

    日本は経済戦、情報戦、歴史戦、領土・領海戦において、じわじわと敗北し続けている。この事実を国民がしっかり自覚しなければなりません。

    敗北どころか戦う気すらないんだよね亡国の日本人は。
    奴隷になり切っている政治家エリートはもちろん国民のほとんどが戦って自立生存するという感覚すら持っていない。
    または大人の汚さを知らない無垢な子供のふりをつづけたい、ゆりかごの中にいたいとアメリカ様にあてつけも含めてすべて委ねて甘えたいんだろう。私たちはあなた様に言われたように赤子のままでいたいんだと。

    皆の頭にあるのは日々自分の仕事に存在を頼り、お金を社会で手に入れることだけであり、大企業にとっては世界の市場でお金の奪い合いに勝つことだけなんだろう。それが自立生存だと勘違いしているのかもしれない。

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  4. 拓三 より

    あーあ…..長く総理をやってるからメッキが剥がれるねん。
    保守ね……保守を履き違えた典型的『左派&事大主義者』でんな。

    未だに共産と資本、社会と自由などの誰かが意図して作った設計の枠の中でしか論ずる事が出来ないクソ右翼がウジャウジャ沸いていますが安倍も同じ部類で御座いますな。気持ち悪〜。
    別に打倒安倍!を掲げているのではありません。ただ単に気持ち悪いだけです。花を見て綺麗、ウンコを見て汚い、と思うのと一緒の事です。ただウンコを見て綺麗と思う人もいますので難しい話ではありますが…….。

    あと、インテリの中では『肉を切らして骨を断つ』理論を好んで作戦を立てる様ですが、いつになったら相手の骨を断つの? 
    今、日本は肉ばっかり切られ過ぎて痛みすら感じなくなってもうた不感症状態でっせ。それどころか切られた所からバイ菌が大量に入り骨腐っとるがな。又腐らす気でっか?安倍晋三さんよ!

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  5. 通りすがり より

    >敗北どころか戦う気すらないんだよね亡国の日本人は。

    とのことですが、戦う気がないのではなく、
    自ら進んで「日本」を止めようとしているのでしょうね。
    改革ってそういうことです。
    公共事業悪玉論、公務員悪玉論、消費増税賛成、軍縮、
    これらは全部「国を放棄する」運動とも言えるのです。

    要するに我々日本人が日本を放棄し、日本政府が日本人を放棄しているということで、もうワケワカラナイ状態でございます。

    最近佐藤健志さんの「僕たちは戦後史を知らない」を読んでいるのですが、日本人の思想がとてつもなくねじれていることがよく分かります。

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