アメリカ

コラム

2017年4月12日

【佐藤健志】戦後ニッポン三原則とは何か

From 佐藤健志

みなさん、「ロボット三原則」をご存じでしょうか。
アメリカSF界の巨匠、アイザック・アシモフが考案したもので、つまりはロボットが守るべき根本規範。
内容は以下の通りです。

1)ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また人間に危害が及びそうなときは、傍観せずに人間を守らなければならない。

2)ロボットは人間の命令に従わなければならない。
ただし、命令に従うことによって他の人間に危害が及びうる場合は例外とする。

3)ロボットは、以上二つの原則に反しないかぎり、みずからの身を守らなければならない。

この三原則がいかに大きな影響力を持っているかは、映画『ターミネーター2』を見ればよく分かる。

殺人兵器であるターミネーターは、むろん三原則を逸脱しまくっているのですが、これは人間によってプログラムされていないため。
ところが『2』では、人間によってプログラムされなおしたターミネーターが登場、未来の救世主となる少年ジョン・コナーを守ります。
このターミネーターの行動原理は、ほぼ完全に三原則を踏まえているのです!

ほぼ完全に、と書いたのは
「ロボットは人間に危害を加えてはならない」
という第一項が
「ロボットは人間を殺してはならない(=負傷させるだけなら良い)」
になっていたためですが、
そこはそれ、絶対平和主義のターミネーターなんて、見ていて面白くありませんからね。

・・・それはともかく。

最近、私のブログの読者より「戦後日本三大原則」なるものが提案されました。
アシモフの三原則を踏まえているのですが、具体的には以下の通り。

1)日本は世界(米国)に武力を行使、ないしは示威してはならない。
しかし、脅威が迫った場合、世界(米国)に損壊を与えてはならない。

2)日本は世界(米国)に与えられた命令に服従しなければならない。
そして、与えられた命令が第一条に反する可能性がある場合でも、世界(米国)を脅かさない範囲ではこの限りである。

3)日本は前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を防衛する義務がある。
(明らかな誤記を修正)

この三原則、
〈戦後日本(人)はアメリカ、ないし「平和を愛する諸国民」のロボットである〉
という真実を暴露した点では、じつに鋭いものがあります。

ただし失礼ながら、アメリカと世界を一緒くたにしてしまったため、内容がいささかこんがらがっている。
もっとスッキリさせる方法はないか?

あるんですよ、これが。
つまり上記の三原則を、タテマエとホンネに分けてしまうこと。
すると、こうなります。

\(^O^)/戦後ニッポン三原則(タテマエ版)\(^O^)/

1)日本は平和を愛する諸国民に危害を加えてはならない。
また本来は、平和を愛する諸国民に危害が及びそうな場合、傍観せずにそれら諸国民を守らなければならないのだが、
そんな不届きなことをする国が日本以外にあるわけはない。
よって、これについては気にしなくてよい。

2)日本は平和を愛する諸国民の命令に従わなければならない。
命令に従うことによって、平和を愛する諸国民に危害が及びうる場合は例外とするが、
例によって、そんな不届きな命令を下す国民が日本人以外にいるはずはない。
よって、これについても気にしなくてよい。

3)日本は、以上二つの原則に反しないかぎり、みずからの身を守らなければならない。
ただし戦争を放棄し、軍事力も持たず、交戦権も否認しているので、実際には守ることなどできないのだが、
そこはそれ、気にしなくてよい。

他方・・・

\(^O^)/戦後ニッポン三原則(ホンネ版)\(^O^)/

1)日本はアメリカの国益や世界戦略に危害を加えてはならない。
またアメリカの国益や世界戦略に危害が及びそうな場合は、傍観などせず、
構造改革を積極的に行ったり、タイコモチに徹したりすることで、それを守らなければならない。
憲法改正を行うなどして、安全保障面でも奉仕できるようになるとさらによい。

2)日本はアメリカの命令に従わなければならない。
命令に従うことによって、他国民に危害が及びうる場合は、とりあえず例外ということにしておくが、
これを真に受けるような人物を指導者に選んではならない。

3)日本は、以上二つの原則に反しないかぎり、みずからの身を守らなければならない。
ただしそのような自衛は、あくまでアメリカに依存する形で行うこと。

W(^_^)W\(^O^)/いやあ、真理だねえ!\(^O^)/W(^_^)W

お分かりとは思いますが、
タテマエ版の三原則は左翼・リベラルの行動原理であり、ホンネ版の三原則は保守の行動原理です。
これは何を意味するのか?

そうです。
保守の行動原理と、左翼・リベラルの行動原理は、表面的な細部が違うだけで、じつは同じなのです!!

ここで思い出していただきたいのが、先週の記事で詳細にご紹介した
「敵への心理的依存と思考停止に関する平松テーゼ」。

自分(たち)に対立する何らかの勢力を
〈自明に悪いもの〉
〈自明に劣っているもの〉
〈自明に間違っているもの〉
〈自明に否定・排除すべきもの〉
として位置づけ、批判・攻撃の対象とする者は
当該の勢力を〈自分(たち)の正しさを証明してくれる、世にもありがたい存在〉と見なすようになる。

このため口先では相手を否定しておきながら、
「心おきなく否定できる存在」として永遠に存在しつづけてくれることを、暗黙のうちに求めだす。
そして自分が陥っている矛盾については、思考停止によってごまかす。

・・・という、アレです。

これだけで、すでに十分厄介なのですが、戦後日本のイデオロギー対立に当てはめるとき、平松テーゼはいっそう厄介な性格を帯びる。

すなわち保守にとって、「敵」である左翼・リベラルは
〈自分たちも本当には否定できないタテマエ〉(※)を担っている存在であり、
左翼・リベラルにとって、「敵」である保守は
〈自分たちも本当は肯定しているホンネ〉を担っている存在なのです!

(※)タテマエ版の三原則を全否定することは、第二次大戦後の国際秩序に反旗をひるがえすことになるため、親米路線の否定につながってしまうのです。

かくして口先では
「あんなにお花畑な観念論に陶酔しているヤツらはダメだ!」
「あんなにアメリカの言いなりになっているヤツらはダメだ!」
と攻撃しつつ、
じつは〈そういう相手のおめでたさ〉〈そういう相手の奴隷根性〉にどっぷり依存する次第。

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

けれども朝鮮半島情勢が緊迫の度を深める現在、こんな状態でわが国は大丈夫なのでしょうか。
タテマエ版とホンネ版、どちらの三原則でも
〈日本が主体的に自国を守る能力を持つこと〉
は否定されているのですよ・・・
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20170405-00000512-fnn-int
http://www.asahi.com/articles/ASK487JYTK48UHBI02F.html
http://www.sankei.com/world/news/170409/wor1704090012-n1.html

なお来週、4/19はお休みします。
4/26にまたお会いしましょう。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)日本文化チャンネル桜の番組「闘論! 倒論! 討論!」に出ます。

テーマ:どこまで自立したか? 日本(仮)
4月15日(土)20:00〜23:00
http://www.ch-sakura.jp/topix/1589.html(番組表)

2)4月15日発売の雑誌『表現者』72号に、評論「失われた右手を求めて」が掲載されます。
アニメ映画版がヒットして話題となっている『この世界の片隅に』を題材に、戦後日本のあり方を分析します。

3)保守と左翼・リベラルが、互いに依存しあったままの状態で戦後脱却を試みると、どんな結末が待っているかをめぐる体系的分析です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

4)保守と左翼・リベラルの双方が、「平松テーゼ」に陥っていることについての詳細な考察はこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

5)過去70年あまり、わが国がいかなるタテマエとホンネのもとに行動してきたかの記録です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

6)「(革命派は)公共の利益となると、ほんとうはどうでもいいため、平気でバクチ同然の行動に出る」(193ページ)
エドマンド・バークの言葉です。改革をめぐるタテマエとホンネは、たいがいそんなものでしょう。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

7)「こちらのことを本当はどうでもいいと思っている、そんな政府の支配を受けつづけたら最後、われわれは一体どうなるか?」(151ページ)
トマス・ペインも、この点についてはバークと通じ合うようです。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

8)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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