日本経済

2016年4月26日

【藤井聡】「プライマリー・バランス」という不道徳

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授 

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プライマリーバランス黒字化はなぜ愚かな行為なのか・・・
なぜ政府債務1000兆円越えを騒ぐことが無意味なのか・・・

その答えはこちら
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

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今わが国において成すべき事は、たくさんありますが、中でも特に必要とされているのは「熊本地震による被害対応」であることは、論をまちません。

交通インフラ、ライフラインが徐々に復旧してきているとは言え、被災地復旧はまさに今、緒に就いたばかり。徹底的な政府支援が必要とされていることは論を待ちません。

そんな時に、「財政規律」に配慮して政府支援が限定されてしまうとすれば――適当な救護、救援となり、いい加減な復旧となり、復興など夢のまた夢となってしまう――という近未来が訪れる可能性を排除することが出来なくなってしまいます。

だから今は、財政赤字に対する配慮を一定如何に押さえつつ、徹底的な政府支援が求められているのは、論を待たないのです。
(※ その詳細は、下記書籍で詳らかに論じた通りです。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4829505710/hatena-b-22/ref=nosim

しかし――誠に恐るべき事に、上記の主張は、一部の「経済学者達」にしてみれば、不道徳の極みの様に語られてしまっているのが現実です。

例えば、佐藤一橋大学教授と宮崎明海大学講師の二人の経済学者が、「財務省財務総合政策研究所」で、東日本大震災の1年後に公表した論文『政府間リスク分担と東日本大震災の復興財政』には、次のような下りがあります。

『総じて,我が国の被災者支援は「国は財政破綻しない」ことを前提としてきた。しかし,大規模災害に際しては,国が無制限に財政負担を負うことは不可能な状態にある。従って,災害時に政府・自治体が救済する範囲(資格要件)と水準(支援金額など)を予め明確
にすることが必要となる。』
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list6/r108/r108_03.pdf

つまり、「日本は、国それ自体が破綻するかもしれないのだから、被災地への支援は、国が破綻しないように、慎ましやかなものにしなきゃ、いかんのだ」という主張です。

つまり、「子供が死にそうでも、家が破綻したら元の子もないのだから、医療費は、ぼちぼちにしておかねばならないのだ」という次第です。

まさに正論。

ただし、この正論を振りかざすにあたって、何よりも重要なのは、

   「国が破綻するというが、破綻するリスクは、どの程度なのか?」

という

   「理性的判断」

です。

万一、あなたが、たまたま交通事故にあい、死ぬかも知れない状況になったとしましょう。
その時、あなたは親に助けを求めた、そうすると、その親は次のような事を言った――としたら、皆さんはどう思われますか?

「私に助けて欲しいって?わたしじゃなきゃ、君を助けれないって?
なるほど、確かに。君を助けるのは、私しかいない。
でも、私は外出したら、『ウィルス』に感染して死んでしまう「かも」しれないんだよ?
君は、私が死んでいいというのか?
私が死んだら君、君が万一生き残ったとしても、君を助ける奴がいなくなるってことだよ?
だったら、ここは私が行かない方がいいと思うんだ。
なんとか、一人で生き残る道を考えてくれないか」

あなたは納得できるでしょうか?

『ウィルス』なんて――今の日本で、そんなことあり得るのか――?とまず思うのではないでしょうか?

もちろん、ウィルスの危機が本当なのなら、あなたは納得できるかもしれない――。でも、『ウィルス』の危機がほとんどあり得ないのなら――納得できるはずはないのではないでしょうか。

そして――日本が破綻するなんて、「ほとんど、あり得ない」のが実態です。

例えば、ノーベル経済学賞受賞教授、クルーグマン氏は、先月の官邸で開催された国際金融経済分析会合で、次の様に発言しています。

「もし、『日本もギリシャの様になる』と言う人がいたとしたら、その人には、そんな事が起こるなら、どうやって起こるのか、問い詰めてみればいい。どうせ答えられないに決まってる。そんなこと、起こりようないのだから。…兎に角、そんなことは何も心配するような事じゃないんだ。」
https://www.gc.cuny.edu/CUNY_GC/media/LISCenter/pkrugman/Meeting-minutes-Krugman.pdf

なぜ彼はここまで、「ギリシャのようになる=破綻する」なんてあり得ない、と言ったのかと言えば、その理由について、次のように言及しています。

「安定した先進国が自国通貨で借入をしたならば、財政危機に至るまでは非常に長い道のりがある」

「日本は自国の通貨を持っている。だから、最悪の事態が起こっても、円に安くなるだけだ。しかもそれは、日本にとってとても良いことですらある。だから心配なんてしなくていいんだ。」
https://www.gc.cuny.edu/CUNY_GC/media/LISCenter/pkrugman/Meeting-minutes-Krugman.pdf

つまり、「自国通貨」で政府が借金をしている場合、その政府が通貨発行権を持つ日本の様な国の場合は、中央銀行が「最後の貸し手」になるのだから、破綻することはない、万一、「破綻しかかる状況」(つまり、中央銀行が、破綻しかかっている政府に大量に貸し出すということ)があったとしても、超絶な金融緩和を通して円安になるのだから、輸出が増えて「日本にとってとても良いこと」が起きる、だから、「最悪のケース」ですら、その程度なんだから、クルーグマンは、

「心配なんてしなくていいんだ。」

と断定したのです。

つまり、先の「親」の例で言うなら、

「ウィルスで死ぬなんて、あるわけねぇだろ!!」

という状況です。

そんな状況の中で、

「日本は、国それ自体が破綻するかもしれないのだから、被災地への支援は、国が破綻しないように、慎ましやかなものにしなきゃ、いかんのだ!」

なんて言うのは――一見、道徳者ぶっているにも関わらず、結局は、凄まじい

「不道徳者」

としか言えないのではないかと――筆者は思います。

・・・・

いずれにしても、もしも、「破綻するかもしれんから、支援しない」というとするなら、その「破綻リスク」が、どんな批判にたいしても、完璧に反論できる場合に限って、「道徳的」となります。

だから、その破綻リスクを避けるために設けられているのが「プライマリーバランス」(PB)であるとするなら、PBは、「破綻リスクが十分ある」場合に限って、「道徳的」となるのです。

一方で、そんな「破綻リスク」がほとんどないなら、結局は「プライマリーバランス」なるものは「不道徳」のそしりを免れ得ないのではないか――と、筆者には思えるのですが――いかがでしょうか?

・・・・

なお、以上は、「震災復興」について述べたが、全く同じ事が、

「防災対策」
「デフレ脱却」

についても言えるのではないかと、筆者は思います。

もし、「国の破綻リスク」が、クルーグマン教授が言うように、「ほとんどあり得ない」とするなら、PBというものは、「被災者」に対する不道徳の象徴となることとなるでしょう。

同じく、巨大災害のリスクに怯える全ての日本国民にとっても、そして、デフレ不況によって苛まれ続けている日本国民にとっても、PBは災害やデフレによる被害を決定化させる不道徳な代物となってしまうのです。

繰り返しますが、もしも、PBが不道徳な代物でないという事を「証明」したいとするなら、どれほど「国家破綻」なるものが、クルーグマンの主張に反して、リアルに危惧されるべきものなのか――ということを、

「証明」

する道徳的責任があるのです。

筆者はその論理が合理的、理性的である限りにおいて、PBこそが道徳的だ、と主張する事を常に準備しています(これはホントです!)。

是非、その準備を具現化する論理を、ご呈示いただきたいと思います。

さもなければ、プライマリーバランスは、不道徳である、ということを認定したことに他ならないと、少なくとも筆者は判断したいと思います。

もちろん――読者各位の判断は、皆様にお任せしたいと思います。

以上!

PS 「道徳」「不道徳」と経済の関係にご関心の方は、是非、下記をご一読頂きたいと思います。
http://www.amazon.co.jp/dp/4779305004

ーーー発行者よりーーー

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【藤井聡】「プライマリー・バランス」という不道徳への3件のコメント

  1. たかゆき より

    徳 ♪徳にならないことばかりなさる悪徳政治家 官僚 学者で溢れかえってますね この国は。。。人間の行為には必ず 目的があるとのこと、、彼等は どうして悪行三昧するのか にぼくは とても興味があるのですが、、、彼等が ただの ウツケ者首から上の ハードなりソフトなりに支障をきたしている方々ならぼくの研究対象には 残念ながらならないのだ ♪ 

    返信

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  2. 拓三 より

    ある、アメリカかどっかのおっさんが言うとった話やけどハンバーガー1個を一瞬でこの世から分子レベルまで消し去る力は1つの街が破壊されるほどの力があるらしいわ。俺はこの話を座右の銘にしてんやけど、こらっ政府!ハンバーガー1個で街1個破壊できる力あんのに人間一人、どんなけのパワーあると思とんねん。しょうもない紙切ればかり数えやがって! 人が居ればなんとかなんねん。紙切れなんかケツ拭く事しか出来へん!金、金、金、って国民がおるから金があるんやろ! 国民がおらんかったらただの木の加工品や!ほんま、ええ加減にせいよ!コラっ 安倍、お前保守名乗るんやったら、今回の震災に対し、『私は本気で日本国民を守ろうと事前努力をしたであろうか』と己の中で自問自答したんか!100の被害に対し、0.1%でも防げた事があったのではないかと反省したんか! 後処理の始末は左派の仕事や。お前が保守やったら事が起こる前を考え、実行し、ほんで事が起きれば反省せえ!

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  3. bazooka砲 より

    よく所属する党が変わる(今は民進党の代表代行だったか…)江〇憲〇氏が前回(2012年)の衆議院選挙でとある議員の応援演説をしていたのをたまたま聴いていたら、「日本はギリシャのようになっちゃうんですよ!いいんですか皆さん!」っての給っておりました。その場にいたオバちゃん達は「江〇さ〜ん頑張って〜!」とイチコロでしたが、藤井先生や三橋貴明さんの話(やブログ)を聞いていなかったら正直、「自民はあかんな。維新(当時)に入れよう。」となっていたかもしれません。ただし、御自身の著書『財務省のマインドコントロール』において「日本はそうではない」(p.43)と言っていますから選挙用の方便なんでしょうね。そんな江〇氏は今年3月28日の記者会見でこんなことをの給っておりました。「公共事業、例年5兆円ですよ。橋本政権の時も5兆円、小泉政権の時も5兆円。安倍政権になってナンボになっていますか?10兆円になっているんですよ。震災(復興)とかありますから、多少増えるのはいいでしょう。しかし、毎年2兆、3兆円を使い残している。私がパネルを用いて質したのは、財務省資料です。」https://www.youtube.com/watch?v=s0v1xo-YumA(28:25頃〜)御自身が橋本政権下で政務担当秘書官として辣腕を揮われていた際の「公共事業関係費」(出所:財務省・財政制度分科会資料「社会資本整備」)はピーク時(1998年)で14.9兆円じゃないですか!それと比べて第二次安倍政権(同資料)では6〜7兆円に収まっているような気がするんですが(←読み違っていたらすいません)。江〇氏はどの財務省資料を参照したものか。はたまた御自身の公共事業悪玉論を押し通すための詭弁なのか。何れにしても選挙用の発言には気をつけなければと思いました。

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