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2019年3月5日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第五十四話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

 

日本の若手アニメーター 年収低く厳しい労働環境続く
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190223/k10011825831000.html《全体の平均年収はおよそ441万円で、前回、5年前に行った調査と比べ100万円余り増加しました。これは全産業の平均年収と比較しても9万円ほど上回っています。》皆さんは、この報道をご覧になって
「ほう、アニメスタッフってのは案外稼いでるじゃないか」
と思ったでしょうか。全産業平均より100万円余も上回っているのが事実なら、なぜアニメ業界の労働環境が劣悪だと騒がれるのか理解に苦しむでしょうね。

記事には続けてこうあります。

《しかし、20歳から24歳に限ると、平均年収はおよそ155万円で全産業の平均年収を100万円余り下回りました。調査を行った団体によりますと、アニメの制作現場では若手アニメーターが大量の絵を描く作業などを担当していて、引き続き厳しい労働環境に置かれていることが分かったとしています。》

どのようにして、このような調査結果になったのでしょう?

第五十四話:「『アニメーション制作者実態調査』から見えること」

NHKの報道は、「日本アニメーター・演出家協会」が発表したシンポジウムの資料に基づきます。
図表の引用もこちらから。
「アニメーション制作者実態調査2019 結果報告の概要」
http://www.janica.jp/survey/sympo2019_handout.pdf

実態調査の手法などに瑕疵はないと考えますが、上記報道のように調査結果は制作者全体の状況を掴むには、実態と乖離してしまっています。

結論から言えば

サンプル数に対する回答率が低すぎるのです。
再びNHKの報道から引用します。
《対象は、絵を描くアニメーターと呼ばれる職種を中心に監督やシナリオライターなどで、およそ1500人に調査票を配布したほか、インターネットでも協力を呼びかけ382人から回答がよせられました。》

回答率は 24.2% です。

これでは誤差が大きくなってしまいます。
しかも
前回2015年とサンプル内訳を比較すると、

今回では、仕事経験年数が15年以上…年齢で35歳以上…の層が著しく増えています。
前回調査との間隔は4年ですから、前回の回答で少なく、今回の調査で増えたわけです。


また、低収入が深刻な「動画」(平均年収125万円、平均勤続年数4年)は1pt減り、過酷な「制作進行」(同285万円、同6年)が16ptも減っている。
所得の多い「監督」「総作画監督」「作画監督」が前回より2倍前後増えています。
シナリオ(脚本家)の年収は回答がありませんが、こちらのサイト(https://heikinnenshu.jp/creative/kyakuhonka.html)によれば
脚本家の平均年収520万円。
アニメ脚本家:320万円~1000万円以上、とのことですから平均年収を上回る職種でして、回答者は3倍近くに増えています。
絶対数は少ないのですけどね…。


その結果(回答のない「シナリオ」を除いても)、前回比較で年収が全産業より100万円余も高く出たのでしょう。
所得格差の大きさは実態を反映していると考えられますが、平均的な所得水準はアニメ業界全体の状況を表しているのわからず、推移を見るには不適切です。

「調査概要の報告」はシンポジウム用の資料のためか、グラフや表しかなく解説がありません。
調査主体が適切に調査を行ったとしても、回答率が低いと不正と同様な歪みを生じる。

全体の回答率を上げていかないと、労働環境の改善に生かすことはできません。
アニメ業界の場合、調査結果そのものよりも、回答率の低さ、関心の低さが問題なのです。

2015年の調査では、制作関連以外の収入は(アルバイトなど「その他」を除いて)「ロイヤリティ(権利料収入)」が最も多い。
これを得られるのは脚本家以外では、監督です。
監督の年間所得総額は最大で1500万円を超える。(脚本家も同様)
どちらも権利収入を得られる職種だからです。

ボクは、原作の有無にかかわらず、アニメ制作会社が映像制作の創造的価値に基づいて権利料収入を得られるよう主張すべきだと考えています。
そこから、権利収入をキャラクターデザインや作画監督職にまで広げれば収入面で安定し、新人の意欲も、作品作りへの意欲も高まるでしょう。

それを実現するためには、経済全体が縮小するデフレ不況を脱し、経済成長する必要がある。

緊縮思考では、「何かを増やす代わりに他の何かを削る」となってしまい、内部で反発が起きて問題を改善することができなくなるのです。もう20年以上そうなっている。

たとえば、労働環境を改善できないのは「製作委員会の企業が収益を握って制作会社に流さないからだ」という意見があります。おおむねその通りなのですが、収益のパイが縮小するデフレ状況で、分前(権利収入)を渡す人を増やせば、すでに分前を得ていた人が多大な損をするからできません。
収益のパイが大きくなる状況…つまり経済成長…が続けば、分前を渡す人を増やせるのです。
アニメ産業の内部で対立を煽っても誰も得をしません。

日本動画協会のアニメ産業報告では(一部ですが)(http://animationbusiness.info/archives/6740)国内の市場規模(内需)が14年の消費増税後にボッキリと折れ下がっているのがわかります。入れ替わりに海外市場が増えてきて、今年には内需を抜いてしまう勢いに見えます。
(諸外国の景気も低迷してるので、18年以降アニメ産業全体の収益が減る可能性がある。)

アニメ業界の労働環境改善には、日本経済全体が改善しなくていけない。こう繰り返し書いているのはデータの裏付けがあってのことなのです。

さらに
今年4月から「働き方改革」の一環である「残業上限規制」が施行されます。
ほとんどが中小企業のアニメ業界は来年2020年施行と考えて良いでしょう。
月45時間以上の残業は年間6ヶ月(1日約2時間)まで、それ以上の残業は複数月平均80時間(1日約4時間)に制限されます。
2023年から、月60時間以上の残業手当50%以上割増の、中小企業への猶予が廃止されるとも。
これを破ると、労働基準法第36条第6項違反となり、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)

長時間労働を抑制する取組みには賛成ですが、アニメ業界の制作実態で実行できるのか心配だ。
上記のように、若者の離職率が高いため、中堅の制作・作画スタッフが慢性的人手不足状態にある。30~40歳の中堅スタッフが無理を重ねており(20代も同様ですが)、この年齢層の残業時間を削れば、制作が成り立たなくなる可能性がありますし、残業手当で生計を立てていた社員スタッフは貧困化します。
あるいは、労働時間を少なく見せかける不正が起こり得ます。
どちらにしても違反が発覚すれば信頼性が失われ、会社の存続が危うくなる。

業界団体は、企業や個人をどうサポートしいくのだろう?

+ + +

JAniCAや日本動画協会には、毎年実態調査を実行していただきたい。
毎年が無理なら隔年交代でどうでしょう。
広報に力入れ、実態調査を恒例事業にして回答率を高めましょう。
アニメ制作会社は、毎年の調査に対して社内プレゼンを行うなど、意識強化に努めてほしい。

国や調査会社の結果報告も合わせた分析や提言も必要です。

今回の調査に関してJAniCA関係者とTwitterでお話しました。
今回調査は文化庁の事業と連携することで可能になったそうです
その代り、調査期間が圧縮されて低回答率になってしまった、と。
毎年調査は予算と手間の関係で現実的ではないとのこと。
制作会社はアニメ制作業務に追われ、眼の前の仕事が進捗しないことに時間を割くのは消極的です。

まさに、こういうところで行政に支援してもらいたい。
予算を増やして、業界の労働環境改善に協力していただきたい。
会社とスタッフが適正な報酬を受け取れるように。
設備投資で生産性向上できるように。
しかし
緊縮財政を改めない限り、不可能なんですよ。

アニメ業界団体をあげて消費増税と緊縮財政を改めさせなくては、自分の首を確実に絞めます。

アニメスタッフの仕事意識、業界への関心、経済全体への関心を通して、自分たちに適正な報酬をもたらし、労働環境の改善を通して次世代へとつなげていく。

そのような意識が育ち増えていけば、一人ひとりの声の影響力も増していきます。

自分には関係ないと傍観せず、
どうせ変わらないと諦めず、
社会とのつながりを意識できるような環境作りが必要です。

誰かに依頼するのではなく、皆が問題の中身を考える。
アニメ業界に限らず、全産業に共通した問題意識ではないか、と思うのです。

◯コマーシャル

『ICE ADOLESCENCE ユーリ!!! on ICE劇場版』
https://youtu.be/-wjrCriMOO8

放送から20年、「彼氏彼女の事情」Blu-rayBOX 3月27日発売。
BOXイラストを描き下ろしました。
http://king-cr.jp/special/karekano_bdbox/

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
『エヴァンゲリオン』シリーズや『彼氏彼女の事情』などカラーイラストを多数収載。
http://amzn.asia/hetpEPD

画集第二弾『平松禎史 Sketch Book』発売中。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
http://amzn.asia/hUQoCkv

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

 

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第五十四話への3件のコメント

  1. 澤田俊文 より

    三橋貴明さんとの出会いはメールとTwitterでした。この人はどういう人かと思いました。俺は何でもよく知っている。俺の言うことを聞いていれば間違いない。えらそうなコメントでした。気が付いたらメモっていました。またお仲間も素晴らしい人たちですね。何も隠さず正直に話していただける人たちですね。今年何冊か購入しました。講演が聞けないのが残念です。私は生涯の2級-1種です。介護1級です。10メートルが歩けません。弱視で難聴でもあり1冊の本を読むのに2~3倍かかります。パソコンの画面より書籍の方がまだよく読めます。話の中身もよく残ります。多少頭でっかちになります。しかし私の宝物です

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      1. 澤田俊文 より

        障害者の字が間違っていました。時々誤字脱字があります。体のせいにはしたくないですが、細かくなると見えにくくなります。申し訳ございませんでした。

        返信

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  2. 赤城 より

    アニメ制作の労働環境については
    ずっとブラックな話を聞いていて
    作っている人たちは本当苦労してるだろうなと心配しています。
    とてつもない職人的技術の絵を気が遠くなるような量
    描かなくてはならないのに
    厳しい労働環境で所得もひどく少ない。
    アニメーターになるにはどれほどの
    情熱と才能と苦労が必要だろうと。
    現在はどんどん映像が大きくきれいになって求められる質も
    制作費の少ないTVアニメでさえ凄まじく上がっている。
    見る方としては本当に頭の下がる思いです。
    アニメ界で最も深くマクロ経済を理解しておられるだろう
    平松さんの解説で現状が少しよく分かりました。

    このままデフレでは他の日本の産業技術と同じように
    シナが投資して日本のアニメ技術を買収してしまうでしょう。
    もうすでにそうなっているかもしれませんが
    ソフトだけは日本人しか作れない作品世界が多いので
    日本が完全な属国になるまで奪われないかもしれませんね。

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