コラム

2021年8月28日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第七十八話:『現状維持から政策転換へ』

今回は、「これまでの失敗を繰り返さないこと」を中心に書いていきます。
とは言え、常にそう言う意識で書いているわけですけども。

東京で6月22日の週からはじまった感染拡大は、7月12日の週から全国的な感染拡大「第5波」を形成しています。

8月26日現在、過去最多を更新する県がまだ散発しており、10万人あたりの感染者数が25人以上のステージ4(最も深刻)になっているのは45都道府県。

増加率が1を切って減少傾向なのは東京都と4県しかありません。
第5波は依然拡大状況にあると言えます。

経済成長や地方の活性化にとって重要なインフラ整備には皮肉なことですが、ウイルスの伝播は新幹線や高速道路の整備率の高いところへと優先的に拡大していくのが特徴です。

石川県が象徴的で、新幹線の延伸でヒトやモノの移動が活発になって経済発展しましたが、ヒトといっしょにウイルスも活発に移動するため、北陸地方では石川県の感染者数が最多です。

第2波の時には気付かざるを得ない特徴でした。

これは、ウイルスが伝播する原理からすれば当然のことです。ウイルスは人と人が接近して飛沫・接触・エアロゾルで伝播・増殖するのですから、人の移動が活発であればそれだけ感染は広がるのです。

諸外国では去年から、人流と感染動向の遅延相関が研究により認められており、ロックダウン戦略の先行研究として活用されています。
悪いのは人でもインフラでもなく、感染を抑制しようとしない政府です。

デルタ株は感染力が強く、エアロゾル感染(空気感染の一種)も強いそうで、「すれ違い感染」も大げさではありません。

そんな報告はないと言われるでしょうが、感染経路の報告は主観ですので、完璧に特定することはできないのです。

人と人の接近があれば、感染し得るのです。こう言うと「じゃあ一歩も外出するなと言うのかー!」と反発が来そうですが、ウイルスが伝播する原理の話です。落ち着いてください。

また、縮小された検査で一層増えている「補足されない無症状または軽微な感染者」からの感染拡大で、子供を含む若年層が意図せず気付かずウイルスを運んでしまう状況や、後述しますが五輪開催も重なって、第5波は爆発的感染拡大になっていると考えられます。

特に東京都は「見かけの上で」感染状況が現象傾向に見えているだけ、という可能性が高いのです。感染拡大で保険機関がパンクして積極的疫学調査を縮小しているからです。

縮小を開始した8月1日から、東京都では増加率が頭打ちになり、実効再生産数は下降し始めました。実際の感染者数は(学者によって幅がありますが)数倍だと言われます。

重症者数の過去最多がこれを裏付けています。死亡者数の増加はこのあとに来る現象ですので、ワクチン効果とのせめぎ合いです。

増えないことを祈りますが、先週から顕著に増えはじめています。
検査の抑制は感染者の把握を遅らせ、感染拡大を見過ごしてしまう。これまでの失敗が繰り返されています。

・人流を止めず経済を回せば感染拡大が起こる。

・財政拡大で支えなければ実効的な対策はできない。

これまでの失敗は、この2点を軽視し改めなかったために繰り返されています。

これはヤバいことになる、という第1波前の直感は概ね的中しました。
全国的経験を教訓にできた第2波から言ってきたことが予想を超えて現実になっている。

これが一層強化されているのが変異株による感染拡大です。
政策転換しないなら、第6波は一層巨大になることを覚悟すべきです。

VOI(注目すべき変異株)は既に報道されているラムダ株の他、イータ、イオタ、カッパ株があります。
これまでの失敗を繰り返せば、日本発祥の変異株も生み出しかねません。

「新型コロナウイルス感染症の世界の状況報告 厚生労働省検疫所」
https://www.forth.go.jp/topics/20210815.html

期待されているワクチン接種ですが、非常に好調な滑り出しを見せたものの現在は供給が停滞しています。
ワクチン効果は感染した場合の発症や重症化の予防に効果がありますが、感染力は保ったままですので、他人に感染させる力は消えません。

さらに数ヶ月で効果が減退してしまうこともわかっている。ワクチン依存は諸外国で既に失敗例があります。

これまでの失敗に学べば、まず感染を抑止することが、全ての基本だと言えます。

大都市圏の感染状況を小さく抑えれば、半分以上の県は「ゼロ」にできます(できてました)。

+ + +

さて、感染拡大させてしまってからあーだこーだ言っても遅いわけですが、人の動きを止めなければ感染拡大は何度も繰り返されます。しかし我が日本政府はロックダウンなど対策と言える対策を実施しません。

「自粛要請」は対策の基礎的な心構えのようなもので、対策とは言えません。なぜなら、「自粛」は個々人によって程度に差があり、不確実性のスキマが必ずできてしまうからです。

法的拘束力のあるロックダウンを実施する時に、日本人が持つ常識観による「自粛力」が補助機能として発揮される。諸外国ほど厳格なロックダウンでなくとも効果が期待できるというものですが、例によって順序が逆になっているため、いつ終わるかわからない強制自粛によって「自粛力」は摩滅させられ、対策と言えない「自粛丸投げ」戦略は効果がなくなり、上記のような感染拡大しやすい状況下で第5波は過去最悪を更新しているのです。

対策と言えない緊急事態宣言をことさら批判することこそ無意味です。
これまでの失敗を繰り返さないためには、政策転換が必要です。

感染拡大させてしまってから、いくら「医療体制の補強を~~」と言っても遅すぎます。
病床は増やせても医師・看護師は簡単に増やせないと、第2波の時から言われてきた通りです。

個々人の「マスク手洗い、目鼻口を触らない」は効果なしとは言いませんが、全員が一様に完全にできるわけがないので、かならずスキマができ、そこから感染拡大が起こっています。

既に失敗が明らかな理論。これは、経済学の理論が実際の経済活動で通用しないのと同じことでして、本メルマガ読者様にはよく分かることだと思います。

重要なのは、まず第一に感染者数を増やさせないことです。
順序を間違えてはいけません。

くどいようですが、増えてしまってから医療の心配をしても手遅れです。
ですから、緊急事態宣言の発令・解除の基準を、重症者数と病床使用数に緩和したのは、最悪です。

感染拡大するまで何もしないと言っているわけですから、確実に手遅れになるでしょう。
言い換えれば、これまで「対策が遅い」と批判されたのをかわすためにゴールポストをずらしたわけです。

「五類格下げ論」に典型的な、「コロナを無いことにするゼロコロナ論」のゴールポストずらしと同根です。

医療崩壊を批判するなら、まず感染者数を抑えなかったことを批判しなければ話になりません。

安倍政権以来の批判ポイント、「順序が狂っている」が菅政権になっても全く変わっていないのです。

これまでの失敗を繰り返さないためには
臨時国会を開いて、感染対策の方針転換と法整備、財政支援の増強を決めるべきです。

法的なことは詳しくありませんが、経世済民を優先するなら総裁選や総選挙でゴチャゴチャ言ってる場合ではなく、延期すれば良いのです。

まとめると、1セット2項目です。

1:ウイルスが伝播する疫学的な原理を踏まえた人流抑制策。ロックダウン。

2:人流抑制による経済的な被害を、財政拡大で防ぐ生活・経営支援策。給付と補償。

2つはセットで、大前提の基本路線です。
優先順位が必要なこまかな議論はこの基本路線の上でやっていただきたいものです。

が、この基本路線とて完璧とは思いません。

しかし、やってもいないのに批判するのは、ただの逃げですよ。

「COVID-19を楽観した財政支援無き自粛丸投げ」の現状維持から
「COVID-19を危機と認識した徹底的な財政支援とロックダウン」への政策転換、です。

「令和の政策ピボット」呼びかけ人のひとりとして、去年より一貫して後者を推してきましたが、これまでの方法論が失敗だったことを踏まえて、基本的な政策転換がなされるべきです。

COVID-19災害で政策転換させないなら、今後の巨大自然災害でも何も変えられないでしょう。
この機会に財政拡大路線に転換できなければ、医療体制の強化もできませんので、災害時の脆弱性を何度も味わうことになります。

五輪開催について、感染拡大との関連が取り沙汰されますが、ボクとしては五輪以前からの人流増加が原因と考えます。五輪は緩和ムードを醸成して後押しした。

直接でなく、間接的な要因にはなりましたが、肝心なのは財政支援が足らず、感染対策と言える対策がやられていないことです。
現在パラリンピックが開催中ですが、おそらくオリ・パラあわせて「やって良かった」と思う人が過半になるのではないでしょうか。

スポーツ選手の活躍は称えたいのですが、心配するのは「やって良かった」からの「もうコロナを気にするのはやめよう」にスライドすることです。

「ロックダウンのような強い対策など必要ない。政治はもう何もせず、我々は自己防衛するしかないんだ」というあきらめの心理が強まる可能性が高い。すでにそんな言論も散見されます。

これも、これまでの失敗が繰り返された例です。

安倍政権時代にも、財政拡大のような大きな政策転換を忌避する心理が観察できましたが、危機に耐えられなくなると、楽な方向、慣れた道、つまり現状維持に向かいやすくなるのです。

財政拡大をほとんどやっていないのに「効果はない」と逃げ腰になってやられない。で、いつまで経っても景気は回復しない。

ロックダウンをやってないのに「効果はない」と逃げ腰になってやられない。で、いつまで経っても感染拡大を繰り返す。強い感染対策をしないので財政支援のインセンティブも高まりません。

これまでの失敗が繰り返されている。現状維持ではダメなのです。

これまでの失敗から学んだ政策転換が必要です。

最後にもうひとつ。
老婆心ながら記しておきますが、自民党総裁選について。
これまで失敗つづきだった安倍-菅政権をいまだに熱心に支持している言論人やそういう人たちが集まる(陰謀論やデマが多いことでも有名な)月刊誌がもてはやすような総裁候補は、危険、ということです。

○コマーシャル

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https://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第七十八話:『現状維持から政策転換へ』への9件のコメント

  1. この世は既にあの世 より

    こんにちは淀川長治こと高田純一郎です。

    スマホを開くと水分飛んで干からびたデコに、黒く塗った眉毛が高い高い高いところからテントを突き抜け、「きしょ」と思うと高市しぇんしぇ、

    「しぇんしぇ方におしらしぇします、しぇんしぇ方におしらしぇします」

    「しぇ」じゃない!「せ!」

    私めはワクワクチンチンに興味はなくてございまして、ボインちゃんとお尻にしか興味がございません。

    ということで、なんと恐いんですかねー、

    賃キン爆上げ!なんつって、

    夢の又三郎ですねー、

    いやーん、ツンツンと、かわい子ちゃんと自粛ちたい。高市化したキショい女房と自粛なんて嫌ですねー、恐いですねー、皆様右手をご覧くださいましぇ、聖子ちゃんカットの片山さつきしぇんしぇじゃお豆もできませんねー、優雅さがお顔に出てて恐いですねー、この世のものとは思えませんねー、

    こわいですねぇ、日本人の皆様おめでとうございます、恐い恐い恐い、それではコロナをお楽しみ下さい、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

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  2. より

    ほぼ全面的に同意です。

    結局、重傷者や死者は、感染者から一定の割合で発生するため
    感染者数(検査で判明しているのは氷山の一角)の総数を減らさなければ
    付随する重症や死者は減らせません。

    今が夏で本当に良かった。
    おそらく、感染者から重症や死者に至る割合は、冬の方が数倍に跳ね上がるはずです。今、夏だからこそ、こんなもんで済んでいると考えるべきですね。

    結局のところ、ワクチンが普及し、治療薬が開発されて普及するまでは
    医療の供給量を上回らないように、感染者の総数(需要)をコントロールするしか無いという、ごくごく当たり前の結論だと思います。

    戦う武器が無いのに「戦え!」と言われても無理なんですよね。

    最悪の想定としては、今の感染者数が全く下がることなく
    そのまま冬に突入するというシナリオも考慮にいれるべきだと思います
    その場合、医療は完全崩壊したまま冬を迎えることになり、地獄絵図になる可能性すらある。

    そうならないよう、全方面の手を打っていなかければならないのですが、選挙や総裁選もあって、下手したら何もしないまま冬に突入しかねないと危惧しています。

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  3. 名護幹太 より

    自民党やその周辺のネトウヨ系言論界では、ワクチン接種を増やせ、病床数を増やせといった主張は見られますが、人流制限しろ、ロックダウンしろという主張は全く目にしませんね。

    確かに、ワクチン接種は粛々と進めればいいし、病床数も多いほうがいいには違いありませんが、これらの対策は、結局のところ対処療法に過ぎません。
    感染者が倍々ゲームで増えていく感染症にあっては、感染者を減らすことが根本治療といえる。
    根本治療のためにも補償付きロックダウンなどの対策を講じて感染者を減らすことが必要なんですが、そのことを直視せず目をそらし続けているような言論人は、ちょっと思考回路が正常じゃないと思いますね。

    そのようなネトウヨ系言論人が、最近、今まで自民党の緊縮財政や新自由主義を一度も問題視してこなかった自民党の凡庸な政治家を祭り上げていますが、人を見る目がないなという思いしかありません。

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  4. ボワデジル より

    月刊Hanadaには中野剛志も出まくってたわけですが。

    あなたが中野剛志を批判しないのはなぜ?

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        1. ボワデジル より

          人をデマ呼ばわりする前に自分で調べたら?

          ◆月刊『Hanada』編集部
          @HANADA_asuka
          2017年1月25日

          【明日発売】月刊『Hanada』3月号、明日発売です!
          どどんと22ページ、中野剛志さん×松原隆一郎さん(@ryuimatsu
          )の「日本のメディアが完全に読み違えているトランプ大統領の真実」は必読です。
          ドルと元を巡る覇権争いから米中対立は激化すると予測。

          ◆月刊『Hanada』編集部
          @HANADA_asuka
          2017年4月26日

          【6月号発売!】月刊『Hanada』、中野剛志さん×松原隆一郎さん(@ryuimatsu
          )の対談「森友騒動 全く新しい視点」。
          いまなお新しい情報が飛び出してくる森友学園問題。
          現代政治行政の病理が見え隠れするこの問題。
          解くカギは「改革」だった! ぜひお読みください!

          ◆月刊『Hanada』編集部
          @HANADA_asuka
          2017年5月25日

          【26日発売!】月刊『Hanada』7月号、中野剛志さん×松原隆一郎さん(@ryuimatsu
          )の「国を滅ぼす東大改革の真相」。
          30年後には日本人ノーベル賞受賞者はいなくなる!?
          短期的な成果主義を大学に持ち込んだことで「学問」が揺らいでいます。
          ぜひお読みください。

          月刊『Hanada』編集部
          @HANADA_asuka
          2017年11月22日

          【25日発売】月刊『Hanada』2018年1月号、中野剛志さん×松原隆一郎さん(@ryuimatsu
          )の「今論ずべきは国防だ」。
          異様な国会のありさまに目を奪われている暇はない。
          「自分すら守れないみっともない国」であることを直視せよ!

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  6. うたか より

    データからは人流抑制の効果はよくわからない
    1月の感染拡大は逆算するとクリスマス付近の人流となるが実際には増えていないので人流で説明付いていない
    緊急事態宣言をやった地域とやっていない地域の差もデータでは殆どない
    これらと矛盾しないで人流抑制の効果がある場合、感染期間はあまり変わらないがピークの山の高さに差が出るとなる
    同時期に実行生産数が4波で大阪は1.8東京は1.1である、緊急事態宣言なしでこれだけの差がでる時点で人流抑制の効果があるとしてもそれを見つけるのはほぼ不可能である
    人流抑制は感染拡大をひっくり返すほどの効果はないと考えて良さそう

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  7. うたか より

    全国でトータルの感染者数は先週と比べて横ばい
    こうなったあと第三波はすぐに収束した
    第四波は4月末でこうなってから収束したの5月19日
    さて今回はどうなるかねえ

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