From 平松禎史@アニメーター/演出家
◯オープニング
前回お休みしてしまったので時間があいてしまいましたが、アメリカはテキサス州ダラスで行われたアニメイベントの様子を紹介しつつ、初のアメリカ本土で感じたことなど書いてみたい。
北朝鮮の核実験やミサイル威嚇発射。所信表明演説も行わずに解散総選挙へとなだれ込む政局。
2014年には喧々諤々大騒ぎになった消費税増税が、今回は「使途の変更」という唐突な争点(?)でちゃっかり既定路線となった。
民進党代表になった前原氏も増税論者なので、増税の是非はもはや議論される見込みも薄い。
自転車で転んだ谷垣元幹事長の引退が伝えられましたが、増税派の彼が安心して引退できる状況になった…ということなのかもしれませんね。
さっそくニュースでは各紙とも解散の名付けを行っていますよね。
ボクはさしあたり、Jアラートに文句を言ったホリエモンにあやかって「クソ解散」とでも名付けたいと思います。
当メルマガの読者様は朝のニュースにムカムカしておられることでしょうから、今回はアニメの話(?)でひとやすみ。
第丗七話:「ダラスでのアニメイベントと国民国家」
◯Aパート
7月にマレーシアのクアラルンプール近郊の街、シャアラムのイベントに参加しました。
8月にはテキサス州ダラスのイベントにお招きいただき、日本から15人のアニメスタッフが参加しました。
ボクは行くチャンスを逃しましたが、一緒に行った別のグループは自由時間にあの場所、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の現場を見てきたようです。
狙撃犯がいたとされる教科書倉庫が博物館になっているんですね。見てみたかった。
そんなイメージのダラスでしたが、新旧混在した意外な雰囲気の街でした。
オープニングセレモニーが行われた建物は1921年に建設されたマジェスティック劇場。
大きな建物ではありませんが、ボードビルの時代に栄えたバロック様式の建物は圧巻でした。
1973年に一時閉館。ブライアン・デ・パルマ監督の「ファントム・オブ・パラダイス」の舞台として使われ、営業再開後にはスピルバーグ監督の「E.T.」も上映されていたようです。代表的な演目のポスターが誇らしく掲示されていました。
そんな歴史ある舞台に立って挨拶したなんて30年前のボクは想像できなかったでしょう。…当たり前か。
ゲスト担当者の話を聞くと、ダラスには古くからの建物が多く残ったままなので、近年は再開発が活発なのだそう。
マレーシアは緑が豊かなところでしたが、ダラスは高い木が少なくて泊まっていた25階の部屋からは地平線が見える。
地平線ですよ!
日本では、どんなに高い建物に登っても地平線がサァーーーーッと一直線に広がる景色なんて北海道で見られるくらいではないでしょうか。いや、北海道でもゆるやかな起伏はあるでしょう。一直線なんですよ。
ダラスではずっと早起きだったんですが、日の出の地平線を見るのが楽しみでした。
やはりアメリカ、道が広い!
マレーシアは沿道に緑を活かした日本的な繊細さがありましたけど、アメリカは大味ですね(笑)
合理的ともいえますが、余計なものが一切ない印象でした。
ダラス・フォートワース空港からホテルへ向かう道に入ってまず目についたのは巨大な星条旗。
巨大なテキサス州の州旗もはためいていた。
大きさは、日本で言うと6階建てのテナントビルくらいですかね。とにかくデカイ。
沿道以外でも公共施設でもないのに国旗や州旗、市旗がはためくのは外国ならではです。
マレーシアでもそうでした。
日本の国旗文化は明治からで歴史が浅いのであまり定着していません。
ことさら国旗を掲げないのは、なにも左翼的な思想ではなく、日本人に国旗の意識が薄いからだと思います。
沿道にならぶ巨大スーパーや情報関連企業など新しいものと西部開拓史を思わせる建物。食文化はメキシコのものが多かった。
おそらく東西沿岸の都市とはまったく違う文化があるのでしょう。
アメリカ初訪問がメキシコに接するテキサス州なのはちょっとおもしろいな、と思った初日でした。
◯Bパート
イベント会場はシェラトン・ダラス・ホテル。
イベント会期は4日間。
毎日のスケジュールはけっこうタイトでテンションが異常に高まりました。
1日目は、インタビュー2件、サイン会(予定をオーバーして約2時間半!)、パネルディスカッションその1、オープニングセレモニー。
2日目は、インタビュー2件、サイン会(やはり2時間超え)、パネルディスカッションその2。
3日目は、ライブドローイングその1、サイン会(1時間半くらい)、英語版の声優さんたちとのパネルディスカッション。
みささんナイスガイでした。
最終日は、ライブドローイングその2、サイン会(1時間半くらい)。
マレーシアでもそうでしたが、こちらが日本語で話していると通訳が英語で話す前から反応する人が結構います。
日本語は意外と浸透しているんですね。
やはり、アニメで学んでる(馴染んでる)人もいるんだと思います。
開場には毎日タコスや何かのトラックが横付けしてアニメファンたちの胃袋を支えていた。
朝7時頃来て夜中0時近くまでいた。
食材はどうしていたんだろう? 空中給油のように追加されてたんだろうか??
メニューには「SPIN SUSHI」とあったり、トッピングに使うのか「かっぱえびせん」によく似たお菓子が並んでいました。
フレンチやイタリアンや中華のように、あるいは外国由来の食材をそれと意識せずに消費している私たちのように、日本食は当たり前に定着してる感じです。
アニメも、そういった日本文化と同様に、アメリカの若者たちに定着したコンテンツのひとつになっている。
◯Cパート
日本製アニメを買い付けて北米向けに販売している会社を見学しました。
もちろんですが、きちんとライセンス契約をして正規販売しています。
英語版の吹き替えや、アメリカ家庭で一般的な5.1チャンネル音響(日本では2チャンネルステレオが主流)に変換。オリジナルのパッケージデザインも含めて一手に制作しています。
スタッフはアメリカらしく様々な人種が共存していました。
ヨーロッパ系、南米系、中国、韓国、東南アジア。
みなさん、日本のアニメに愛着をもって、オリジナルのイメージを損なわないよう製品化してくれていて感激しました。
先日、三橋先生がブログで紹介していた中野剛志先生と柴山桂太先生の共著『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』刊行記念の対談を聞きました。
その中で中野先生が言っていた「ネイション=国民」の意味。
ダラスでの体験で思ったこと。
多様な人々が暮らしている空間の不思議さが、腑に落ちた感じがした。
「ネイション」「ナショナリズム」「国民」「国家」…の意味は、日本ではややもすると単一の民族が、単一であるからこそ共有できるものを持った人々が作る枠組み、のように考えがちです。
中野先生のお話は違っていた。
様々な人種が折り合いをつけ、ひとまとまりの共同体を形成するために作り出す意識が「ネイション=国民」であり、その枠組が「ネイション・ステイト=国民国家」なのだ、ということ。
外国では多様な人々がまとまる旗印が必要なのでしょう。
理屈ではなるほどと思いますが、移民国家であるアメリカの「国民国家」ぶりの一端を見て、これを日本で実現するのは相当無理があるなぁ…と思わざるを得ませんでした。
アメリカやヨーロッパで起こっている「グローバル化疲れ」や格差による分断も、日本人の感覚ではわからないことが多々ある。
幸か不幸か、ですけどね。
「不幸」側では、日本人はグローバル化に無防備で、欧米のような抑制が効かずに深刻な弊害が出るまで進んで受入れてしまう可能性が高い。もうなってますが。
周回遅れでグローバル化に邁進する安倍政権には危機感を感じます。
おそらく私たちは、「国民国家」をわかっているようでわかっていないのでしょう。
グローバル化をネガティブ面だけで見るのも間違いかもしれませんが、多様性というものに触れてきた経験が少ない日本は、よほど気をつけないと危ない。
沿道にはためく巨大な星条旗を見た時のある種の憧憬と違和感は、個々の付き合いはともかく国の付き合いとして、日本が外国との付き合いに苦心してきた歴史とつながっているのかもしれない。
◯エンディング
日本のアニメは「ANIME」という分野で定着しています。
ここまで浸透したのは7、80年台の日本のアニメブームで日本国内の需要が満たされていた時代の成果だろうと思います。
昔から海外売は意識されていましたが、必ずしも外国に向けに作られたものではありませんから。
まず、国内の需要を喚起し満たすこと。
その上で外国人にも受け入れられていく。
この優先順位が重要なのだと思います。
アニメに限らず、生活必需品から娯楽分野まで、基本はこれだと思うのです。
国内産業を日本国民が働きやすくすること。
ごくごく普通に生活しやすい国。
それができていてはじめて、国際社会で評価されていく。
消費税増税で消費を縮小させる愚行を繰り返すのでは、各分野で働く人の努力は水の泡になってしまうでしょう。
◯後CM
スタイル社『平松禎史 Sketch Book』を刊行。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
2017年夏のコミックマーケット92で発売開始です。
『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
http://amzn.asia/hetpEPD
2017年放送のTVアニメ『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版、制作決定!
2018年2月公開の映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』に参加しています。
http://sayoasa.jp/
ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/
【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第丗七話への1件のコメント
2017年9月23日 11:55 AM
平松様、始めまして。素晴しい見聞録、感動しました。誠にありがとうございました。
私も滞米当時、官公庁や学校でもないのに、民間施設のことごとくに翩翻と翻る一大星条旗の数々を見て、凄いと思いました。
私は、米国民ほど、愛国心旺盛な国民は、見たことがありません。
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