コラム

2017年7月29日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第丗六話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

◯オープニング

今月20日から5日間、マレーシアのアニメイベント企画「Visual Arts Expo 2017」のお招きでマレーシアはクアラルンプール近郊のシャーアラム(Shah Alam)に行ってきました。

毎年マレーシアの若者が集まって、日本のアニメ作品のグッズや原画の展示、コスプレイベントなどが行われます。
規模はアメリカなどに比べると小さいようですが、大変な熱量に驚きました。

当メルマガでは、資料で見たマレーシア経済と実際に目で見たクアラルンプール近郊の様子を主に書いていきます。

第丗六話:マレーシア紀行

◯Aパート

まずはマレーシアの基本情報から。
通貨は「Ringgid、リンギ(ット)」で現在1リンギは約26円。

ASEAN加盟国でマレー半島南部とボルネオ島北部にまたがる連邦立憲君主国。

総人口約3160万人で、人口密度は日本やインドネシアはもちろんタイよりも低い。
国旗を見れば明らかなように国教はイスラム教で、人口比率はマレー系67%、華僑系25%、インド系7%(外務省)の割合。
生産年齢人口(15歳から64歳)の占める割合は約65%、14歳までが約29%、65歳以上が5.5%(!)
(日本は生産年齢人口約60%、14歳以下約13%、65歳以上が約26%)
失業率は3.1%

経済規模は名目GDP(USドル)で190カ国中で38位。
基礎的財政収支は90年台より連続マイナス(赤字)で年約10億円積み上げている。
しかし(だから!)、経済成長率は約4%に達する。(緊縮財政日本の4倍!)

基礎的財政収支(プライマリーバランス)が赤字に転じた90年台から経済成長率が上昇し続けています。

世界の都市総合力ランキング2016年版では、クアラルンプールは世界第32位。東アジアで第3位の成長都市です。

「移民」に関してはどうでしょう。
マレーシアは多くの外国人労働者を受け入れてきましたが、同時に増え過ぎを抑制する政策を進めた。
外国人労働者は基本的に「有期」(単純労働の場合1年毎に許可更新を行い、最長5年)なので移民化が抑制される。
18歳から45歳に限定して、家族の同伴はできない。
10年の有効期間と更新資格を得るためには月収1万リンギ、所得水準の最上位10%に相当する稼ぎが必要、という具合にとても厳しい。
外国人労働者比率が高いにもかかわらず社会が不安定化しないのはインドネシアなど宗教や習慣に違いの少ない国からの受け入れが多いためで、ある意味、慣れているんですね。
外国人労働者を多く受け入れてきた歴史の教訓を活かした予防策がとられています。

ちなみに、日本は国家戦略特区を利用して逆の政策を進めようとしています。

人口の少なさと生産年齢人口の多さ、これから生産年齢に達する人の多さを考えると、設備投資やインフラ投資、外国人労働者を抑制しつつ生産性の向上、でまだまだ経済成長する可能性があると言えるでしょう。

× × ×

シャーアラムはクアラルンプールの南西、直線距離で約20kmの位置にある。
青いモザイクタイルが美しいスルタン・サラディン・アブドゥル・アジズ・モスクが有名で、近年は工業都市としても栄えているようです。
イベントが行われたコンベンションセンターはこのアジズ・モスクの南方に広がる公園の近くにありました。

ほとんどイベントスタッフの車で移動していたんですが、街を歩くとクアラルンプール近郊はビルが立ち並ぶ所でも樹々が豊かで、道が広く、電信柱がないので空がゆったり広がっていて心地良い環境でした。

Shah Alamはつづり準拠でシャー・アラムと表記されますが、耳で聞くとシャーラム、あるいはシャアラムくらいに聞こえます。中黒「・」は違和感があるのでシャアラムと書くことにしましょう。
シャアラムは「自然の王」という意味のようです。
モスクのまわりはみどり豊かで、まさに「自然の王」といった風格でした。

「自然」は単に多いだけではありません。
人の手で整備されています。
日差しが強いので散水車でしっかり水を与えられていました。
作業を目にすることはできませんでしたが、通行のジャマにならないように定期的に剪定されているのがわかります。

ゴミのポイ捨ては500リンギの罰金です。
ホテルや店舗の外には必ずゴミ箱と吸殻入れがあるのでゴミやタバコのポイ捨てが少なかった。
毎日キレイに片付けられているのでしっかり人の手で管理されてるのがわかります。

法が作られるのはその国のモラルの反映と言えますが、行政が人の手…つまり予算と手間をかけてモラルを維持させているわけですね。

1日めの滞在で経済成長率が日本の4倍というものを実感できました。
元気が良いんですよ。
途上国と言っても没落する日本とは大違いで、ヒトもモノも活かされている。
発展途上ゆえにヒトやインフラ、技術に投資できる余裕があるとすれば、日本の地方都市にも投資する余裕がじゅうぶんあると思う。
東京や都市部に取られた人を取り戻すチャンスはじゅうぶんあるはずです。

◯中CM

マレーシアの食事の話を少し。
イスラム教徒が多いので「ハラル」の店がとても多かった。
暑いので昼食にビールでも、と思っても出してくれる店を探すのは少し骨が折れました。

食事はいわゆる東南アジアのスパイシーなものでしたが辛い食べ物はそう多くない。
インド系の食事も多かった。
数年前に三橋さんとミャンマーへ行きましたが、似た感じ。
日本人の口にはおおむね合うんじゃないでしょうか。

印象的だったのは「ミロ」が愛飲されていること。
あの「強い子の~ミロ~~♪」です。
スーパーには「ミロコーナー」が必ずあるし、飲食店でも様々なミロドリンクが必ずありました。
甘いお菓子も多かったし、マレーシアの人は甘いもの好きなのかもしれません。

参ったのはドリアンです。
ショッピングモールには必ずと行ってよいほどドリアンがあります。加工食品やお菓子もたくさんある。

最強だったのは、生のドリアンを出す「Durian SS2」という巨大テントのお店。
収容人数は??100人を軽く超えるでしょう。
ドリアンとココナッツ、ライチに似た果物などをその場でさばいて出してくれるのです。
10種類くらいのドリアンメニューが壁にかかってるんですが、どれも同じものに見えます。
日本人で言ったら、たくさんあるナシやリンゴを(名前はともかく)見分けられるのと同じでしょうか??

行ったのは夜も遅い11時近くでしたが満員に近い盛況ぶりで、近づくと独特の匂いが体を包みます。
失礼ながら、生ゴミとウ◯チを混ぜたような匂いなんですが、現地の人々はまるでワインバーのようなカジュアルな様子でココナッツジュースを飲み、ドリアンをパクパク食べてます。

『ユーリ』スタッフにドリアンにハマった人がいて、マレーシアスタッフと一緒にご機嫌で食べてました。
でも、ボクと他の日本スタッフはかじっただけで白旗を上げました。

(とはいえ、想像よりはマシで、甘味と酸味に集中すればおいしいのかもしれない・・・・)

◯Bパート

交通インフラも日本(都心)より豊かでした。
みどりと同様、「豊か」というのは単に量が多いだけではなく質も合わせてのこと。

マレーシアの自動車はイギリス式の右ハンドル、道路は左側通行で、ラウンドアバウトがあちこちにあって信号機は少なめでした。
自動車が主な交通手段として発達したためか、鉄路はそれほど充実していません。
しかし、都市間を結ぶ高速道路は上下合わせて6車線がアタリマエで、8車線も少なくない。
高速道路から一般の幹線道に下りても気が付きません。道幅も速度もそんなに変わらないのです。
さすがに、幹線道から網の目の道路に入ると違いがありますが、それでも4車線が多くてスムーズです。
交通量はとても多かったのですが渋滞で動かないなんてことは一度もありませんでした。

現地スタッフの人がこう言ったことがあります。
「渋滞してるので少し時間がかかります。」
てっきり動かない区間があると思ったのですが、ややスピードが落ちただけでした。

中心街だけでなく、リトルインディアやチャイナタウン、下町の活気ある街…日本なら百人町か秋葉原、名古屋の大須のようなところ…の通りでも4車線が多い。
日本では高速道路ですら分離帯のない2車線がありますが、そんな貧弱な道路は住宅地の路地か道路間の誘導路くらいでした。

土地がかなり平坦で住居が密集してないので道路用地の確保に難がないのでしょう。
あるいは、途上国ならではの…今の日本の国家戦略特区のような…強権的なやりかたで道路インフラの基礎を形成したのかもしれませんが、道路インフラの充実度は数日間の滞在でも効果を実感できます。

時速100kmくらいでササッと移動できると経済圏が広がってるのがわかる。
クアラルンプールとシャアラムは品川と横浜とほぼ同じ距離です。
毎日、車で両市を往復しましたが、移動時間からして一つの経済圏と言って差し支えない感覚です。
東京都区内と横浜が一つの経済圏かというと、そう思う人は多くないでしょう。
地方都市の20km圏内にベッドタウンでなく衛星的に活発な街を持つところがどれだけあるでしょう。
札幌、仙台、新潟、富山、金沢、静岡、名古屋、岐阜、京都、大阪、奈良、神戸、米子、広島、下関、高松、松江、福岡、大分、熊本、鹿児島、沖縄・・・
目立つ街に(点で)集中してしまっていますよね。
道路に限らず鉄路でも、交通インフラの拡充で線から面となり、経済圏は大きくできるはずなのです。
クアラルンプール近郊を移動してそんな実感を持ちました。

車やバイクで道路を利用する移動手段が主流になってるので、鉄路はさほど発達していませんが、タイから直通する鉄道開発にともなってクアラルンプールではあちこちで槌音が響いておりました。

一方で、リトルインディアやチャイナタウンの人々はお世辞にも豊かには見えなかった。
日陰の道ばたで昼寝するのはマレーシアの習慣なのかわかりませんが、歩道でしゃがみこんでいる男たちなど見ると格差はかなりありそうで、中間層へと押し上げる政策が必要だと思いました。

街中のモニターに出てくるムービーや新しいビルに掲示されたイノベーション分野への誘い。先進国の技術を貪欲に取り込む活気があった。
ボクが幼かった頃の日本はこんな感じで元気だったのを思い出しました。

◯エンディング

日本は中間層が圧倒的に多くて際立った貧困が少ないのは良いのですが、デフレで全体的な貧困化が進み、閉塞感やルサンチマンが増大しています。

マレーシアには日本人が失ったものがある。

なぜ失ったのか。
成熟したから?
違いますよね。
特にここ20年、やればできることをやろうとしないからです。
特にここ20年、やらなくて良いことをやり続けてきたからです。

日本に財政破綻の可能性などなく、長期デフレでインフレ過剰の心配も当分ない。
堂々と政府が負債を拡大して国民に投資すれば良い。
生産人口比率の低下で人手不足が生じ、設備投資の絶好のチャンス。

しかし現実の政治は
デフレ不況にどっぷり浸かり、デフレに依存する政策(規制緩和・グローバリズム)にしがみつく。
プライマリーバランス黒字化目標に拘泥して財政拡大をやろうとしない。
人手不足や需要不足を外国人労働者や留学生、外国人観光客で埋めようとする。

情けないったらありゃしない。

たった5日間日本を離れていただけで、日本政治の愚かしさ、日本国民の根源的な情熱の冷え具合を痛感しました。

悲観しててもはじまりません。

やればできる、ということを思い出しましょう。

◯後CM

スタイル社『平松禎史 Sketch Book』を刊行。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
2017年夏のコミックマーケット92で発売開始です。

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
http://amzn.asia/hetpEPD

2017年放送のTVアニメ『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版、制作決定!

2017年7月29日土曜日、月刊三橋&三橋経済塾の夏のシンポジウムに参加します。
http://members6.mitsuhashi-keizaijuku.jp/?p=1989

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第丗六話への2件のコメント

  1. Komiyet より

    外国と日本を比べることに意味を感じない。

    他がこうだから、日本もこうしなければという手法で

    どれだけの悪行を実行してきたかご存じでしょう。

    問題は大衆の無知です。考えないという罪です。

    頭のいい連中は、新しいことをして失敗するより、

    バカな連中を騙して、俺たちだけ儲けようとするんです。

    絶望を伝える人がまともな人で、希望を伝える人が詐欺師だと

    大衆は知らないんです。希望は無いんです。

    何も知らないから希望を持てるんです。

    やらなきゃやられるって世界に住んでいると気が付いて

    戦うことを選んだ男だけが豊かな人生を送れるんです。

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  2. 赤城 より

    特にここ20年、やればできることをやろうとしないからです。
    特にここ20年、やらなくて良いことをやり続けてきたからです。

    日本に財政破綻の可能性などなく、長期デフレでインフレ過剰の心配も当分ない。
    堂々と政府が負債を拡大して国民に投資すれば良い。
    生産人口比率の低下で人手不足が生じ、設備投資の絶好のチャンス。

    しかし現実の政治は
    デフレ不況にどっぷり浸かり、デフレに依存する政策(規制緩和・グローバリズム)にしがみつく。
    プライマリーバランス黒字化目標に拘泥して財政拡大をやろうとしない。
    人手不足や需要不足を外国人労働者や留学生、外国人観光客で埋めようとする。

    情けないったらありゃしない。

    まったくそのとおりですね。
    国家が日本銀行が財務省が日本に日本人の未来にまったく投資しなくなったことがすべての原因です。
    つまりは日本の日本人の豊かな未来を勝手に切り捨て可能性を奪って捨てて未来の多くの日本人を殺している。日本民族の自主的な浄化をやっているんです。そのうちに本当に他民族に征服されて直接的に民族浄化をされることになるのでしょう。

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