コラム

2016年12月21日

【佐藤健志】国のために死ぬ? その前に勝て!

From 佐藤健志

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2016年もあとわずか。
次週、12/28はお休みいたしますので、
本年のメルマガはこれが最後となります。

さて。

前回記事の「お知らせ」でも触れましたが、
私の出演した日本文化チャンネル桜の番組
「闘論!倒論!討論!」の動画が公開されました。

こちらで全編、ご覧になれます。

討論のテーマは
「国のために死ぬこと〜再考 大東亜戦争」。

ご存じの通り、チャンネル桜は
敗戦を迎えた8月と、
真珠湾攻撃のあった12月には
「あの戦争」について何か言いたくなるのがお定まり。
何か言わずにはいられなくなる、としたほうが適切かも知れません。

で、「国のために死ぬ」と来たわけです。

とはいえ、今回のテーマ選定には
正直、引っかかるものがありました。
なぜか。

「国のために死ぬ」には
より大きなもののために自分を犠牲にする点で
潔く美しいイメージがあります。

チャンネル桜もポジティブな意味合いをこめて
このテーマを提起したに違いない。

「そんなことはない! 国家のために死ぬなんて悲惨なだけだ!!」

・・・と言いたがる方もいるかも知れませんが、
私の知るかぎり、そんな方ほど
憲法九条のためだったら
潔く美しい自己犠牲の覚悟ができているようにお見受けしますので
これには取り合いません。

その覚悟ができていないのであれば
九条が改正されようが
憲法から削除されようが
結局は受け入れて流されるという話になるでしょうしね。

だとしても。
祖国が命運を賭けた総力戦を遂行しているとき
国民がすべきことは何か。
本当に「死ぬ」ことか?

違うでしょうに。
まずもってすべきは「勝つ」ことです。

そのためでしょう、
米陸軍では新兵訓練の際
「死ぬことで国の役に立った兵士などいない!」
と教えると言われます。
兵士たるもの、勝つまで生き抜くことで国の役に立つのだと。

海兵隊になるともっとスゴくて、
「海兵隊員は政府の所有物だ、許可なくして死ぬ自由はない!」
と教えるとか。

そしてここには深い真理がある。
大変な戦いであればあるほど、「死ぬ」ほうが「勝つ」よりラク。
ついでに仲間がどんどん死んだら
自分だけ助かるのは申し訳ないという気になるでしょう。

けれども兵士がいくら死のうと、国が負けたら意味がない!!
だからこそ、「死の自己目的化」を阻止する必要があるのです。

むろん戦争ですから、
勝利のためには死なねばならないという状況もあるでしょう。
そのときには
「国のために死ぬ」ことが意味を持ってくる。

しかしそれは
「国のために勝つ」ことを、
とことんやり尽くしてからでなければならない。
死んだ後、なお戦える兵士はいないのです。

勝つまで生き抜け!
勝手に死ぬな!
米軍がそう教えるのも、もっともではありませんか。

関連して紹介したいのが、
アメリカの作家グスタフ・ハスフォードの小説
『短期除隊兵』(THE SHORT-TIMERS)。

ハスフォードは海兵隊員としてベトナム戦争に従軍、
その経験をもとに同作品を書きました。

これを原作としてつくられたのが
スタンリー・キューブリック監督の有名な戦争映画
「フルメタル・ジャケット」ですが、
新兵訓練の場面には、こんな記述があるのです。

「訓練教官たちは、
われわれ新兵が手に負えなくなってくると満足する。
海兵隊はロボットを求めているわけではないからだ。
海兵隊が求めているのは人を殺せる男たちだ。
海兵隊がつくりあげたがっているもの、
それは殺しても死なない人間であり、
恐れを知らぬ人間なのだ」
(拙訳)

ここにうかがわれる発想は、「国のために死ぬ」とはほとんど対極に近い。
考えてもみて下さい。
殺しても死なない人間、
恐れを知らぬ人間が
そんなに素直に死にますかね?

よしんば「国のため」という大義名分がついていたとしても、です。

安直に死ぬとか口にする者は
たとえ上官であろうと叩きのめして
勝つまでしぶとく生き抜く。
こちらの可能性のほうがずっと高い。

新兵が手に負えなくなってくることを
訓練教官たちが喜ぶという記述は
関連して意味深長です。
目的はあくまで「勝つ」ことであって、
「死ぬ」ことはおろか「命令への服従」すら、
そのための手段にすぎないのですよ。

ひきかえ先の戦争、
とくに負けがこんできた末期において
わが国に「死の自己目的化」の風潮があったのは否定しがたい。
潔く散ると言えば聞こえはいいものの、
これはひとつ間違えると、
「死ねば負けてもいい」ことになります。
すなわち一種の責任回避。

「とにかく勝たなきゃダメなんだ!」という冷徹な発想のもと
現実にたいして論理的、ないし合理的に対処すべきだったにもかかわらず、
「国のために死ぬ」という観念が持つ
道義的・美学的な潔さを絶対視してしまい、
自滅的な振る舞いをやらかすにいたったのです。

これではアジアの解放はおろか、
祖国の自存自衛もあったものではない。

し・か・し。

現実にたいする論理的・合理的な対処に貢献するどころか
むしろそれを阻害しているにもかかわらず、
妙に絶対視されている観念は
現在の日本にも多々見られます。

「構造改革路線だけが、さらなる発展と繁栄をもたらす」とか、
「国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去った」とか、
「このままでは『国の借金』で日本が破綻する」とか、
「公共事業はすでに多すぎるうえ、利権だらけなので望ましくない」とか。

そして、かつての日本人が
「国のために死ぬ」という観念にとらわれて
「死の自己目的化」の風潮に陥ってしまったのと同様、
現在のわれわれも
これらの観念にとらわれたあげく
「構造改革とグローバル化の自己目的化」
という風潮に陥っていることは否定できません。

けれども構造改革とグローバル化がいくら行われようと、
国民が貧しくなったら意味がない!!

2017年、
わが国を(少しでも)良い方向に持ってゆくのであれば
もうちょっと現実を直視することで
「観念の絶対化による自滅的な振る舞い」を脱却することから始めねばならないでしょう。

そのためには、昭和の戦争の安直な否定はむろんのこと、
あの戦争の安直な肯定も見直されねばならない気がしますね。

冒頭に書いたとおり、12/28はお休みします。
つづく1/4もお休みいたしますので、次は1/11にお会いしましょう。
みなさま、良いお年を!

ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)12月16日発売の『表現者』70号(MXエンターテインメント)に、評論「少女は歴史に筋を通せるか」が掲載されました。

2)「観念の絶対化による自滅的な振る舞い」に陥った状態で、戦後脱却を図ろうとすると、どんなことになるかという点をめぐる論考です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
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3)実際、現実を十分に直視しないと、保守がいつの間にか左翼になってしまうことも起こるのです。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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4)過去70年あまり、われわれはある種のファンタジー、つまり幻想の世界で生きていたのかも知れません。となると、日本の繁栄も幻想だったということに・・・

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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5)「フランス国民議会が改革と称して、既存の制度の廃止やら全面的破壊やらにうつつを抜かしているのも、困難に直面できないせいで現実逃避を図っているにすぎない」(196ページ)
おや、エドマンド・バークが構造改革を知っていたはずはないのですが・・・

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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6)「民衆の心情はなりゆきまかせ。明確な目標が掲げられていない以上、非現実的な夢に酔ったり、世間の風潮に煽られたりと、いくらでもブレかねない」(225ページ)
はて、トマス・ペインが日本の現状を知っているはずもないのですが・・・

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

—発行者より—

★★★★★:hiro様のレビュー

12月号で2点理解できました。

1点目は、この冬のボーナスは前年比減。
景気は向上というけどなぜか?もちろん業種的なものもあるが・・・
実質GDPは上がっても満足感がない。まさに的を得た解説でした。

2点目は、デフレ脱却妨害する人たちの思惑が理解できました。
私の周辺の多くは農協解体に大賛成のようですが、
食糧安全政策など知ったことじゃない。

農地の使用用途制限に対する反発から賛成の模様。
パソナやローソン、カーギルの思うつぼ。
このことについても周囲の人々に伝えたい。

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