コラム

2016年10月12日

【佐藤健志】自衛隊の活躍を不思議がる人々

From 佐藤健志

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財政赤字国のどこにそんな大金が?
TVが放送を自粛する意外な真実とは
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中曽根康弘元総理は在任中、新春インタビューにおいて
「終わりよければすべてよし」
ではなく
「始めよければすべてよし」
と、コメントしたことがあります。
_
新春インタビューということで、そうおっしゃったのでしょうが、世の中、始めがよくても終わりがダメということはしばしば起きる。
残念ながら、始めよければすべてよしとは言えません。

ただし、こうは言えるでしょう。
_
始めがダメだったら、終わりもたいていダメである。
_
議論では、とくにそうです。
的外れな主張をする人は、そもそも間違った前提から出発していることが多いのです。

たとえば前回の記事「2021年、日本の若者は海外で戦死する(らしい)!」で取り上げた、後藤弁護士なる人物の「アベ政権が続いたら」という主張。
http://blogs.yahoo.co.jp/honjyofag/66258277.html

これは以下の二点を前提としています。
1)安倍総理は在任中の憲法改正をめざしている。しかるに彼の自民党総裁としての任期は2018年9月までなので(※)、改憲はこれから猛スピードで進められるはずである。
(※)総裁任期延長の可能性については、後藤弁護士が触れていないので、脇に置くことにします。

2)安倍政権が存続したら、憲法改正後の日本は2020年代初頭に戦争を起こし、自衛隊(または改憲によって誕生する国防軍)に入隊した若者を死に追いやる。

さて、お立ち会い。

(1)の前提は、「安倍政権が2018年9月までしか存続しえない」と仮定しないかぎり成立しません。
でなければ、改憲を猛スピードで進める理由がなくなります。

ところが(2)の前提は、「安倍政権が2020年代初頭まで存続しうる」という仮定のうえに成立している!

え?
いったん改憲がなされたら最後、安倍政権でなくとも戦争は起きる?
だったら「アベ政権が続いたら」などと銘打つ意味はありません。

ついでに安倍政権が2018年9月以前に崩壊しさえすれば、憲法改正はなされないと言えるのか。

自民党は1955年の結党いらい、改憲を党の使命として掲げています。
文字通り、「党の使命」と題された文書でそう謳っているのです。
https://www.jimin.jp/aboutus/declaration/

2012年の改憲草案にしたところで、決定されたのは4月27日。
このときの党総裁は安倍晋三さんではありません。
谷垣禎一さんです。
https://www.jimin.jp/aboutus/history/prime_minister/

アベ政権が続いたら、いったい何だと言うんですかね?!

後藤弁護士の主張は、まったく支離滅裂な前提から出発しているのです。
そりゃ、結論もメチャクチャになりますわな。

しかし、この方も取り立てて恥じ入ることはありません。
同類が大勢いるからです。
というわけで、こちらをどうぞ!
朝日新聞の記事です。

映画の自衛隊、変化するキャラ 背景に防衛省の協力
http://digital.asahi.com/articles/ASJ9R0F88J9QUTIL01Q.html?rm=485

いわく。
_
リアルな戦闘シーンが話題になった映画『シン・ゴジラ』など、自衛隊が登場する映画の制作に、防衛省が協力を続けている。
自衛隊の活動を国民に理解してもらうのが目的だ。
シナリオに口を出すことはないというが、映画の中で描かれる自衛隊は、「模範的な姿」に近づいてきたとの指摘もある。
(改行のうえ、表記を一部変更)
_
要するに最近は、自衛隊が映画でカッコ良く描かれるようになってきたが、それは防衛省が協力しているからではないか、という話です。
いや、「シナリオに口を出すことはないというが」などと書いているところを見ると、
防衛省のひそかな圧力があるのではないか
と本当は言いたいのでしょう。

この記事が配信された10月6日の「朝日新聞デジタルヘッドライン」(当日の主要記事を紹介するメール)にも、ハッキリこう記されていました。

『シン・ゴジラ』など、多くの映画で描かれてきた自衛隊。昔は負ける役が多かったそうですが、近年は「強く優しい存在」として出てきます。その背景にあるものは。
(表記を一部変更)

で、こんなコメントが紹介される。

「防衛省が協力した映画では、自衛隊は善玉として描かれるのが前提。強くて優しく、法律を守るという模範的なイメージに少しずつ近づいてきた。シン・ゴジラはその路線の集大成」
(須藤遙子・筑紫女学園大学准教授)

「映画の中の(注:カッコよく活躍する)自衛隊は、国民意識の変化、それへの映画産業側の対応、自衛隊の存在意義を示したい防衛省の思惑が相互に作用した姿と言える」
(片山杜秀・慶応大学教授)

もうちょっとで
「これは全て防衛省のせいだ!!」
というフレーズが出てきそうな感がありますが・・・
_
冷静に考えてみましょう。
_
どこの世界に、自国の防衛を担う組織について、
悪玉だったり、
弱くて冷たかったり、
法律を破ってばかりいたりする存在として、
もっぱら描きたがる映画産業(※)があるんですかね?

(※)そのような内容の作品が皆無だと言っているのではありません。映画産業全体としての姿勢の話です。以下同様。

つづいて。
どこの世界に、自国の防衛を担う組織が
負けてばかりいる姿や、
冷たい悪玉として振る舞う姿や、
法律を破ってばかりいる姿を見て、
もっぱら喜ぶ観客がいるんですかね?!

つけくわえれば。
どこの世界に、自分たちの管理・運営する組織が「弱くて冷たい悪玉」として描かれることを望む省庁があるんですかね?!?

「その背景にあるものは」とヘッドラインで前置きしたうえで、「背景に防衛省の協力」と見出しに謳ったところを見ると、どうも朝日は問題提起をしたがっているようです。
けれども映画に登場する自衛隊が、自衛隊としてあるべき模範的な姿をしているのは、まったく当たり前の話にすぎません。

そうでなかったら、それこそ「その背景にあるもの」をさぐったほうがよろしい。

だいたい防衛省の協力を求めずに、自衛隊が登場する映画をつくったって構わないんですよ。
海外の例を挙げれば、スタンリー・キューブリック監督のベトナム戦争映画『フルメタル・ジャケット』(1987年)は、アメリカ国防総省の協力なしで製作されました。
どのみち協力は得られないだろうと判断して、最初から頼まなかったらしいのですが、しっかりヒットしましたからね。

そして、肝心かなめの点。
『シン・ゴジラ』の自衛隊は、本当に昔より強い存在として描かれていたか?
なんと答えはノーなのです。

1984年につくられたリブート版『ゴジラ』において、自衛隊は事実上、独力でゴジラを撃退しました。
1989年の『ゴジラVSビオランテ』にいたっては、防衛庁が国土庁(ともに当時の名称。現在なら防衛省と国土交通省になります)と共同で、四段階のゴジラ監視体制を敷いていたのですぞ。

1992年に読売新聞社から刊行されたムック本『ゴジラだ!!』など、『ゴジラ VS ビオランテ』について、こう評したほど。

「ゴジラ対自衛隊」といえるほど、自衛隊がゴジラと徹底的に戦った作品はほかにない。佐藤健志氏が、ゴジラの日本上陸はいまや不可能、と喝破したのもこの作品。
(89ページ)

27年前、ゴジラ映画の自衛隊はここまでやっていたのです!
ひきかえ『シン・ゴジラ』の自衛隊は、ゴジラ上陸を阻止できなかったのはもちろん、独力ではまったく歯が立たなかったではありませんか。
どこがどう強いんですかね?

すなわちこの記事は
1)最近の映画において、自衛隊は今までになく「強くカッコいい存在」として描かれているはずだ。
2)映画の中であろうと、自衛隊の活躍が喜ばれるのはおかしい。
という間違った前提から出発したせいで、
事実誤認に基づいて、当たり前のことの背景にあるものをわざわざさぐる
という的外れをやらかしているのですよ。

先に引用した須藤遙子・筑紫女学園大学准教授は、自衛隊が活躍する映画について
「メディアリテラシー(メディアの特性を理解して情報を見極める力)を持って楽しむ必要がある」
と述べています。
とはいえ須藤准教授のコメントは、『シン・ゴジラ』などより、この記事にこそ真っ先に適用されねばなりません。

ナンセンスな記事の背景にあるものは何か?
ずばり、間違った前提である!
みなさん、それを見極めるリテラシーを持って(笑いをこらえつつ)楽しく読もうではありませんか。

なお10/19と10/26は、都合によりお休みします。
11/2にまたお会いしましょう。

ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)10月16日発売の雑誌『表現者』69号(MXエンターテインメント)に、評論「少女と意気地のない神々」が掲載されます。

2)『シン・ゴジラ』にたいする、より突っ込んだコメントはこちらを。
シン・ゴジラから見えてくる日本の現在
https://www.youtube.com/watch?v=b0AUCpV0rCQ

3)戦後脱却も、間違った前提から出発すると目も当てられない結果に終わることでしょう。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

4)いわゆる保守勢力にしても、間違った前提を抱え込んでいるのではないかという点をめぐる体系的分析です。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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5)そもそも戦後日本が、間違った前提のもと、70年あまりやってきてしまったのかも知れません。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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6)「バカげた理念を、行き当たりばったりの実践でどうにか埋め合わせようとする過程について、いちいち追いかけて何になろう」(7〜8ページ)
まさしく「始めがダメだったら、終わりもたいていダメ」なのです。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

7)「よその国々は、本末転倒の方法で建国された。(中略)アメリカだけは真っ当な手順で建国されるべし!」(194ページ)
トマス・ペインも、出発点の正しさにこだわっていました。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
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8)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

ーーー発行者よりーーー

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