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2015年9月17日

【柴山桂太】イノベーションの陰に政府あり

From 柴山桂太@京都大学准教授

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●マスコミが語ることができない亡国への道

<無料>経済解説
「なぜ地方議員は党執行部に逆らえないのか?」
https://youtu.be/8GGn_ZgqiCA

もし、あなたが、子供や孫たちに安全で豊かな日本を引き継ぎたいなら、、、
この不都合な現実を知って声をあげてください。

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イノベーションという言葉は、経済・経営方面で盛んに使われています。しかし、この言葉が何を意味するかは、かなり曖昧です。

一般に、イノベーションという言葉は「(iPhoneのような)新商品が世に出ること」というイメージで使われています。こういう新商品が次々に世に出ることで、世の中便利になり、企業も儲かって経済も成長する。だからイノベーションはどんどん起こしたほうがいい、というわけですね。

しかし、イノベーションという言葉に秘められた含意は、もっと複雑なものがあります。まず、イノベーションは新商品の出現だけを意味しません。この言葉を最初に経済学に導入した(とされる)シュンペーターは、イノベーションには新商品の他にも、新販路、新生産方法、新組織、新原料など全部で五つのタイプがあるとしています。新しい市場を開拓したり、新しい生産方法を導入したり、企業組織の編成を変えたりと、他の事業者(企業)が行っていない新機軸を導入して利潤を上げる行為はすべてイノベーションです。

シュンペーターがこの概念を導入したのは、経済発展のメカニズムを説明するためでした。しかし、この人は皮肉屋ですから、手放しにイノベーションを賞賛したりはしていません。イノベーションのおかげで巨富を手にする人が出る一方で、失敗者や旧産業の従事者には厳しい現実がやってきます。新商品が出て生活が便利になるという面がある一方で、社会秩序を混乱させる面も確実にあります。新商品が犯罪に使われることもありますし、反社会勢力だって次々にイノベーションをやります(危険薬物の発明とか、販路の拡大とか)から、それによって物理的な被害を受ける人も出てきます。

つまり、イノベーションは人々を幸福にする部分がある一方で、不幸にする部分も少なからずあるという、実に両義的な現象なのです。それでも資本主義社会はイノベーションを続けざるをえない。そうしなければシステムが止まってしまうからです。シュンペーターがイノベーションの概念を用いて明らかにしようとしたのは、資本主義社会のそうした「宿命」とでもいうべき姿だったと、私は理解しています。

しかし個々の企業からすれば、新機軸の導入で利潤を上げ続けなければ倒産してしまうわけで、悠長に文明論を語っている場合ではないということになるでしょう。その現実を受け入れるとして、ではどうすればイノベーションが効果的に起きるのでしょうか。

一般には(ビジネスの展開にとって邪魔な)規制を緩和し、競争を活発にして、創造的な個人が活躍する場をつくるのが正解とされています。それが完全に間違っているというわけではないものの、産業の歴史を振り返ると、政府がイノベーションの創出に積極的な役割を果たしてきたという事実を無視できません。

以前、メルマガで産業政策の有効性を再評価する論文を紹介しました。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/03/19/shibayama-45/

ここで紹介した論文は、著者マッツカートが書いた本(”The Entreprenerial State”)の要約なのですが、最近、この本の邦訳が『企業家としての国家』という題で出ました。
http://www.amazon.co.jp/dp/4840813159
http://honto.jp/netstore/pd-book_27341327.html

この本は、特に新商品・新技術開発としてのイノベーションが、政府の産業政策によって生み出されてきたという事実を、豊富な事例で説明したものです。民間が手を出さないような事業に、政府が率先してリスクをとって投資をする。その成果を民間が利用することで、世に言う「イノベーティブ」な新商品が次々と生み出されていくメカニズムが、本書を読むとよくわかります。

一番わかりやすい事例がiPhoneです。アップル社の大成功で、スティーブ・ジョブスの偉大さはことあるごとに語られていますが、iPhoneに使われている技術のほぼすべてが、元は政府投資の産物でした。「アップル社の成功の大部分は政府が支援し、助成金を出して行った研究に基づく多くの技術に依存しているという事実は多くの場合、見過ごされている」というわけです。

問題は、こうした基礎技術が政府投資(すなわち税金を用いて行われた投資)の産物であるにもかかわらず、その見返りを政府が受け取っていないということ。アップル社が莫大な利益を上げたのは確かですが、「アップル社に使われている技術開発に投資した(政府)資金のいくらかでも回収できたかとなると疑問が残る。」リスクをとって政府も投資しているにもかかわらず、その対価を十分に受け取ることができない。ここに、著者が指摘する産業政策の難しさがあります。ではどうすればいいのか。著者の提案は、本書の後半に書かれています。

もちろん、政府が何でも主導権を持てばいい、というものではありません。本書には、ソ連の産業政策がなぜ失敗したのか、という話も書かれています。イノベーションは政府の力だけで起こせるものではなく、民間との(多くの場合無自覚な)共同作業の結果です。これは当然といえば当然のことですが、ともすれば規制緩和一辺倒に流れがちな政策論に風穴をあけるという意味でも、本書の意義は大きいといえます。

というわけでオススメなのですが、その一方で、先に述べた文明論的な視点がまったく見られないことに若干の不満がないでもありません。イノベーションは資本主義社会の「宿命」であり、民間だけでなく国家ぐるみでその創出を目指さなければならない現実がある一方で、次々に生み出される新機軸がわたしたちの生活を混乱させ続けるという現実もある。政策論として見ても、イノベーションがもたらす負の側面まで見ないと(その穴埋めに別の政策コストがかかるわけですから)、十分とは言えないのではないか。シュンペーターは、イノベーションの両義性に自覚的でした。21世紀のイノベーション論が引き継ぐべきなのも、そうした醒めた眼であるように思えてなりません。

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【柴山桂太】イノベーションの陰に政府ありへの5件のコメント

  1. エクサゾーン より

    〉イノベーションは新商品の出現だけを意味しません。 素人ですが最近の通信インフラについて思うのですが、デフレーション時代の(ソフトバンクによる)通信料金の低価格競争扇動により、公共事業費カットによる品質の劣化と同じ現象が、通信インフラにおいても起こされているのではないでしょうか。新商品は出るもののイノベーションなんか起こってはいない。しかも災害時に対して逆に貧弱、使えない代物になってきている。交通インフラのように人身事故は起こらないにしても万が一の時こそ、効力を発揮するような通信インフラでないといけないと思うのですが。 昨今政府は更なる電波料金の引き下げをするとか‥‥?(間違っていたらすみません)。何から何まで価格や投資が減る政策‥‥イノアベーション。

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  2. 學天測 より

    やらなきゃやられるそれがイノベーション。もちろん、やられるというのはイノベーションによる自滅も含めてです。だからイノベーションを語る時、前提に倫理や道徳が必要不可欠なんですよ。資本主義と言うよりも人類の宿命ですよ。

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  3. robin より

    イノベーションの起きやすい社会とは規制が少なくて自由だが生活は不安定な社会だろうか。アメリカンドリームって今日貧乏明日金持ち的な急激な落差の中に生き甲斐を感じるようなシンデレラストーリーを国民全体で共有している社会なのかな。そのためには多くの国民が貧しくなければ成り立たない。急先鋒の米国はもう自由疲れして生活を守る方向に向かっているのかも。ゾンビがサーフィンを楽しんでるみたいに見えてちょっと不気味だ。生活力や体力やルールの上に健全なイノベーションがあるのかな。

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  4. 神奈川県skatou より

    >イノベーションは政府の力だけで起こせるものではなく、>民間との(多くの場合無自覚な)共同作業の結果です。柴山先生のかっこ書き(無自覚のご指摘)がとてもリアリティを感じました。ケースで振り返るとおおよそそんなところが実情なのかなと。見込んで仕掛けて実現するほど「未知の変容の実現」は簡単ではないようです。(そういえば明日某学会で創造性について議論をするようですが・・)ところで、もしイノベーションが資本主義社会の宿命だとしたら、イノベーションの限界というのはあるのでしょうか。イノベーションとは科学(サイエンス)でも応用化学(テクノロジ)でもなく、社会、社会システムの変容を指すと理解しているのですが、もしその捉え方が適当だとすると、変化には循環もありうるわけで、服飾ファッションが永遠の続くかもしれないという期待からも、容易に限界はないのではと自分は考えたいです。(忘却は生命力の根源?)フォークナイフのように、キーボード配列のように、もう変わらない業界もあって、それも産業に参加してることを考えれば、さほどイノベーションと経済発展の関係はシリアスになるべきでなく、カネの分配と流れの保守作業こそが、資本主義の最大の宿題かなと自分には感じられました。

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  5. ぬこ より

    柴山大老仰る様に、アメのイノベーションって大体が五角形経由どすもんね。

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