アーカイブス

2015年7月1日

【佐藤健志】後ろから鉄砲を撃つ人々

From 佐藤健志

——————————————————-

●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

——————————————————-

6月10日の記事「〈九条の会〉と安倍政権」や、同17日の記事「自滅的な言動をもたらすもの」でも書いたとおり、現在のわが国では、〈右〉も〈左〉も自分の首を自分で絞めるような言動をする傾向が強い。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/06/10/sato-47/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/06/17/sato-48/

理由はむろん、どちらもみずからのあり方に重大なパラドックスを抱えており、しかもそれを自覚していないこと。
私はこれを、戦前の防空演習で行われた「バケツリレー」にちなんで「墓穴リレー」と名付け、どれだけみごとな自滅的言動がなされるかを注目しています。

最近、もっとも注目を集めた例はこれでしょう。
6月25日に開かれた自民党の議員による勉強会「文化芸術懇話会」。

ウィキペディアによれば、同会は「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得する」ことをめざしたものとか。
「政策芸術」とは、一体いかなる政策(ないし、いかなる芸術)を指すのか、私にはよく分からないのですが、それは不問としましょう。

問題はこの会合で、「マスコミをこらしめる」など、政府・与党に批判的なメディアへの弾圧肯定とも受け取れる発言がなされたこと。
安保法制を審議している衆議院の特別委員会の理事会では、野党側が看過できないと抗議、自民党の理事は「まことに不見識で申し訳ない」と陳謝するハメになりました。

さらに自民党の佐藤勉・国会対策委員長は、会合を主催した木原稔青年局長らを呼び、説明を受けたうえで「安倍政権の応援団が後ろから鉄砲を撃ってどうするのか。応援団だとしても、結果としてそうなっている。結果がすべてだ」などと述べたとか。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150626/k10010128671000.html

木原青年局長は結局、一年間の役職停止処分となり、他にも三人の議員が厳重注意を受けましたが、
「応援団が後ろから鉄砲を撃っている」
とは、まさに言い得て妙。

木原局長自身、記者団に「後ろから鉄砲(を撃った)と言われても仕方ない」と認めたそうです。
http://mainichi.jp/select/news/20150627k0000e010177000c.html
だから墓穴リレーだと言うのですよ。

しかし!
自滅的言動は、政府・与党の専売特許ではありません。
こちらのツイートをどうぞ。

戦後政治学は戦後民主主義とともにあった。戦後政治学を学んできた私たちは、こういう状況で民主主義を守る発言をするために政治学者としてべ供してきた。今この状況で態度表明ができない人は、政治学者という看板を下ろしてほしい。

政治学者・山口二郎さんが、6月26日付で送信したものです(6月27日と表示される場合もあります)。
https://twitter.com/260yamaguchi/status/614455634860228609

文中の「べ供」は、むろん「勉強」の打ち間違い。
何について、どのような態度を表明するのかも明示されていませんが、山口さんは安保法制反対の運動に積極的に関わっていますので、要するに〈現在の政局、または安倍政権にたいして抗議する〉ことと思われます。

ただし。
このツイートには看過しがたい論理のゴマカシがある。

1)戦後政治学は戦後民主主義とともにあった。
2)戦後政治学を学んできた私たちは、こういう状況で民主主義を守る発言をするために政治学者としてべ供してきた。
3)今この状況で態度表明ができない人は、政治学者という看板を下ろしてほしい。

「政治学」と「民主主義」が、(1)から(3)にいたるまで、どう変化するかにご注目。

政治学について言えば、(1)および(2)の前半では「戦後政治学」となっていたのが、(2)の後半と(3)では「政治学(者)」になります。
他方、民主主義はどうかと言うと、(1)では「戦後民主主義」となっていたのが、(2)で「民主主義」になっている。

山口さんは「政治学」と「民主主義」の両方について、〈どの程度、普遍的な意味合いで使っているのか〉を意図的にぼかしたと言われても仕方ない書き方をしているのです

だいたい「戦後政治学」とは何でしょう?
私の知る限り、そのような学問分野は存在しません。
「戦前政治学」や「ポスト戦後政治学」(※)の対立概念ですかね?

(※)どちらも思いつきでつくった言葉です。念のため。

ツイートによれば、「戦後政治学は戦後民主主義とともにあった」とのことなので、たぶん山口さんは「戦後民主主義を肯定し、これを擁護することを至上の目標とする政治学」を、独自に「戦後政治学」と名付けられたのでしょう。
戦後民主主義は政治的イデオロギーの一つですから、これは戦後政治学が「特定のイデオロギーに奉仕する種類の学問」であることを意味します。

それでは学問と呼べないのではないか? という疑問も生じるものの(だから「勉強」ではなく「べ供」なのかも知れません)、そういう特殊な考え方の学派が「政治学」の中にあっても、まあ、学問の自由のうち。

ただし「戦後政治学」は、決して「政治学」全体とイコールではない。
当たり前の話ですね。
政治学者であれば、誰でも戦後民主主義を肯定・擁護すべきだなどという、メチャクチャな論理は成立しません。

ついでに「戦後民主主義」も、「民主主義」全般とイコールであるはずがない。
ふたたび当たり前の話です。

さらに言えば、民主主義そのものさえ、絶対に肯定されるべきものとは限らない。
エドマンド・バークは「フランス革命の省察」で、「民主主義と独裁は、驚くほど多くの共通点を持つ」というアリストテレスの言葉を紹介していますが、民主主義を疑う、または民主主義を否定する政治学者というのも、政治学の発展のためには必要なのです。

詳細はこちらを。
「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj_(紙版)
http://amzn.to/19bYio8_(電子版)

ところが!

山口さんは(2)の文で、「戦後民主主義」を「民主主義」全般と同一視する。
戦後民主主義を守ることを、民主主義を守ることとイコールであるかのように扱っているのです
このような手法を、日本語では普通「すり替え」と申します。

そして(3)の文では、民主主義、いや戦後民主主義を守るような態度表明をできない者は「政治学者という看板を下ろしてほしい」とまで言いつのる。
今度は「戦後政治学者」が、政治学者全体とイコールであるかのようなふりをしているのです。
例によって、これもすり替え。

二つのすり替えによって、どういう印象がつくりだされるか。
これです。
〈現在、戦後民主主義を擁護しようとしない者に、政治学者を名乗る資格はない〉
もっとずばり言えば、こうでしょうね。
〈安保法制や安倍政権に反対しない者に、政治学者を名乗る資格はない〉

このような発想を、われわれは普通何と呼ぶでしょう?
そうです。
全体主義。

自由な思考よりイデオロギー信奉が優先され、みんなが勉強しているつもりで「べ供」している世界にようこそ!
反安倍政権の側の応援団も、しっかり後ろから鉄砲を撃っているという一席でありました。

山口さん、安保法制について「(政府・与党が)無理に無理を重ねれば、そのうちもっと大きなぼろが出る。自信を持って戦いましょう」ともツイートしていますが、〈人はしばしば、対立する相手に似てくる〉というのも、永遠不変の真理なのです。
https://twitter.com/260yamaguchi/status/614454323397853184

ではでは♪

PS
もしあなたが「豊かな日本」を未来に残したいなら、こちらをクリック!
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

<佐藤健志からのお知らせ>
1)7月5日(日)、日本テレビの「真相報道 バンキシャ!」(18:00〜18:55)に〈ご意見バン!〉として出演します。

2)7月31日(金)、表現者シンポジウム「戦後70年 隘路(あいろ)にはまるか、日米同盟」にパネリストとして登壇します。
詳細は以下の通り。

会場 四谷区民ホール(18:30開場、19:00開演、21:00終演)
他のパネリスト 佐伯啓思さん、白井聡さん、中島岳志さん、富岡幸一郎さん、西部邁さん。
会費 1500円

参加ご希望の方は、お名前、ご住所、お電話番号、参加人数などをご記入のうえ、郵送、ファックス、メールのいずれかにて西部邁事務所までお申し込み下さい。連絡先は以下の通りです。

郵送の場合 〒157-0072 東京都世田谷区祖師谷3-17-22-303
ファックスの場合 03-5490-7576
メールの場合 hyogensha@gaea.ocn.ne.jp

なおメールで申し込まれる場合は、スパムと混同されないため、件名に「表現者シンポジウム参加希望」と明記して下さい。

3)果てしなき「墓穴リレー」から、どうやって脱出するのか?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)民主主義を勉強したつもりで、じつは「べ供」しかしていなかった国民の物語です。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「数ヶ月前、ニューヨークの二つの新聞に、偽善の見本のごとき手紙が掲載された。(中略)世の中には、まともな判断力を持ち合わせていないか、でなければ誠実さをまるっきり欠いた人間がいることの証拠と言わねばならない」(226〜227ページ)
アメリカ独立前夜に発せられた言葉に、われわれも耳を傾けるべきではないでしょうか。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

6)「表現者」61号(MXエンターテインメント)に、評論「汝の右手がなすことを」が掲載されました。

7)「文藝春秋スペシャル 教養で勝つ大世界史講義」に掲載された評論「ウェストファリア条約〜『宗教戦争』の終わらせ方」が、以下でもご覧いただけるようになりました。
文藝春秋スペシャル公式サイト
http://hon.bunshun.jp/category/bungeishunju-special
BLOGOS
http://blogos.com/blogger/gekkan_bunshun_2015summer/article/

8)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

アーカイブス

【藤井聡】永遠に「ゼロ」?

アーカイブス

【藤井聡】「エコノミストの言説」の検証

アーカイブス

【小浜逸郎】もうすぐ「いざなぎ景気」だとよ!

アーカイブス

[三橋実況中継]過剰サービスの負担はどこにいく?

アーカイブス

【佐藤健志】安倍政権の「三段逆スライド」化

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】スラムに消えた情けない男の話

  2. 2

    2

    【三橋貴明】続 財務省が日本を滅ぼす

  3. 3

    3

    【三橋貴明】財務省主権国家

  4. 4

    4

    【島倉原】インドブームに思うこと

  5. 5

    5

    【三橋貴明】共犯者育成プロパガンダ

  6. 6

    6

    【佐藤健志】若者が政治に求めているのは「結果」だ

  7. 7

    7

    【上島嘉郎】〈朝日新聞、死ね〉はただの暴言か

  8. 8

    8

    【藤井聡】「日本が再び、被爆国となる」という、今そこに在る危...

  9. 9

    9

    【浅野久美】君のいない場所

  10. 10

    10

    【三橋貴明】三橋貴明の「人手不足解消合宿」

MORE

累計ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】大阪都構想:知っていてほしい7つの事実

  2. 2

    2

    【藤井聡】「公明党・大阪市議団が日本を破壊する」というリスク...

  3. 3

    3

    【藤井聡】「橋下入閣」は、日本に巨大被害をもたらします。

  4. 4

    4

    【藤井聡】「日本が再び、被爆国となる」という、今そこに在る危...

  5. 5

    5

    【三橋貴明】人間の屑たち

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】人手不足は利益拡大の絶好のチャンスだ!

  2. 日本経済

    【三橋貴明】三橋貴明の「人手不足解消合宿」

  3. コラム

    【浅野久美】君のいない場所

  4. メディア

    【上島嘉郎】〈朝日新聞、死ね〉はただの暴言か

  5. 日本経済

    【島倉原】インドブームに思うこと

  6. 政治

    【佐藤健志】若者が政治に求めているのは「結果」だ

  7. 政治

    【藤井聡】スラムに消えた情けない男の話

  8. 日本経済

    【三橋貴明】共犯者育成プロパガンダ

  9. 日本経済

    【三橋貴明】財務省主権国家

  10. 日本経済

    【青木泰樹】単位労働コストの見方

MORE

タグクラウド