From 島倉原@評論家
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●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
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おはようございます。
今週の金融市場は、EUによるギリシャ向け金融支援打ち切り決定のニュースを受け、不安定なスタートとなりました。
折しも、先週のチャンネルAJERでは、「金融市場から見た中国経済」というタイトルで、中国株式市場の動向を取り上げました。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-97.html
中国の株式市場といえば、国内の実体経済が弱い動きを示しているにもかかわらず、上海総合指数は1年前と比べて約2倍の水準です。
ロシア、ブラジル、トルコなど、他の主だった新興国の株式や通貨が値下がりする中で、その好調ぶりは際立っています(ちなみに、株式がピークから9割近く下落しているギリシャも、2年前から「新興国」に分類されています)。
他方で先週、先々週の2週間で18%強も値下がりし、「バブル崩壊では」という議論もあちこちで見かけるようになりました。
本メルマガでも何度か取り上げた景気循環論の観点も踏まえつつ、こうした状況をどう解釈することができるのか。
ということで、今回取り上げてみた次第です。
中国の株式市場で何が起こっていて、今後についてはどういった展開が考えられるか、詳しくは上記ブログ記事をご覧ください。
本メルマガでは、中国の株式市場という個別事例の分析を手がかりに導き出すことができそうな、いくつかの「知見」を述べてみたいと思います。
(1)株式市場の動向は、実体経済の動向を必ずしも反映しない
会社の事業利益が原資となる配当金を享受する権利や、株主総会での投票を通じた一定の会社経営権こそが、「株式」という有価証券が実体上有する価値の源泉です。
したがって、当該会社の利益が向上するという見通しが立てば、配当金の増額など、そうした権利から得られる経済的価値の増加が期待され、株式の価格は上昇に向かいます。
会社の営業利益は経済全体の所得を示す名目GDPの一部ですから、経済成長する局面では会社の利益も成長する期待が高まります。
これこそが、「株価は実体経済の鏡である」という表現が本来意味するところです。
他方で株式は、「銘柄」という表現が用いられることからも伺えるように、株式「市場」で取引される商品としての性格も持っています。
したがって、企業業績の動向とは無関係な、株式市場固有の需要と供給を変動させる要因が働けば、実体経済と乖離した値動きを示すことは決して珍しくありません。
また、権利を価値に換算する際の尺度となる「市場金利」すなわち利回りが変化すれば、利益の見通しが従来のままでも株価が変動する要因となります。
例えば、ある金融政策によって実体経済にはほとんど影響がないまま市場金利だけ変化すれば、これもまた株価と実体経済の乖離をもたらすのです。
中国では、実体経済の裏づけが乏しい不動産取引に地方政府の公的マネーが注ぎ込まれている構図が、資産市場全体をかさ上げする需給要因として働いています。
また、「国内投資家向け市場と外国投資家向け市場との分断」「自国通貨である人民元取引の規制」という制度的な需給要因によって、特に国内投資家向け市場である上海株式市場の、実体経済とは乖離した上昇が生じています。
他方で、中国人民銀行がここ1年で4回も利下げを行っていますが、実体経済の改善にはほとんどつながっていません。こうした金融要因もまた「株価と実体経済の乖離」をもたらしています。
さらにいえば、新興国経済特有の事情として、「自国通貨高が外国マネーをひきつけて株高につながりやすい一方で、実体経済の不振につながりやすい」という構造的な乖離要因が存在するのです。
最後の構造的要因はともかくとして、需給要因、金融要因については、現在の日本にも当てはまります。
金融要因はもちろん異次元の金融緩和による大幅な金利の低下。
そして、GPIF、日銀をはじめとした公的マネー、いわゆる「5頭のクジラ」がイレギュラーな形で株式市場に流入するという需給要因によって、実体経済と乖離した株価上昇、すなわち「官製相場」が実現しているのです。
(2)金融バブル崩壊と経済の崩壊や没落は別物
上記ブログ記事でも触れたとおり、人民元の実質実効為替レートは過去20年来の最高水準まで上昇し、株高の支えの1つとなっていますが、裏腹に生じている実体経済の不振を踏まえれば、このままの一方的な上昇を維持するのは困難といえそうです。
しかも、従来から述べている「先進国=新興国間の金融循環」を踏まえれば、トレンド転換のタイミングはそう遠くないのかもしれず、その場合、株式市場も少なからず影響を受ける可能性が濃厚です。
(ただし、18年前のアジア通貨危機時に生じた「国内投資家向け市場は上昇継続、外国投資家向け市場は暴落」のような、「分断された市場間の大幅な乖離」というシナリオも十分考えられます)
昨今一部で見られる嫌韓・嫌中ブームからすると、そうした事態が実現した暁には、「中国経済崩壊論」(ついでに「韓国経済崩壊論」)が各種メディアをにぎわす可能性が多分に考えられます。
しかしながら、そうした議論は決して鵜呑みにすべきではないでしょう。
なぜなら、上記で想定した金融市場の崩壊はあくまで「先進国=新興国間の金融循環」の一部であって、その意味では短期的な現象と考えられるからです。
もちろん、その後の対応を誤れば、実体経済の崩壊や長期的な没落につながる可能性もないわけではありませんが、そもそも、実体経済と乖離して生じている金融バブルなわけですから。
かつてのソ連、現在のロシアに、ニコライ・コンドラチェフという人物がいました。
彼は、金利・物価・技術革新の40〜60年に及ぶ長期的なサイクル(「コンドラチェフ循環」)を見出したことで著名な経済学者です。
そんな彼が生きていた1930年代、ニューヨーク株式市場の暴落をきっかけとしていわゆる世界恐慌が発生し、ソ連の関係者たちは「このまま資本主義社会は没落に向かう」と盛り上がっていました。
ところが、コンドラチェフは自らの研究に基づき、「これも景気の波がなせるわざであり、資本主義経済はいずれ再生する」と冷静な、文字通り水を差すような見解を唱えたため、全体主義体制を築いた独裁者スターリンににらまれて逮捕され、最終的には銃殺されてしまったのです。
その後の歴史をたどってみれば、いずれの見解が正しかったのかは明らかでしょう。
http://bit.ly/1CDKF9n
ソ連の事例でもわかるように、経済に対する誤ったものの見方は、そのまま不適切な政策運営をもたらします。
これは決して他人事ではありません。
何といっても、景気循環を軽視した誤った経済観が緊縮財政という誤った政策を定着させ、長期デフレ不況から未だに脱却できずにいるのが、我が日本経済なのです。
相対的な国力の隆盛を反映している側面もある実質実効為替レートにしても、仮に中国のそれが今後調整局面を迎えるにせよ、1990年代後半以降長期的に上昇トレンドである事実には変わりがないのに対し、我が国のそれは同時期から長期的な低下トレンドにあるのもまた現実なのですから…。
PS
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