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2015年4月16日

【柴山桂太】AIIB幻想

From 柴山桂太@京都大学准教授

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●●憲法9条は日本の誇りなのか? 国家の危機の原因か?
月刊三橋最新号のテーマは「激論!憲法9条〜国家の危機に備えるために」

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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アジアインフラ銀行(AIIB)への参加見送りに、野党の批判が高まっています。識者の中にも、「日本が取り残される」と、政府の慎重姿勢を批判する者が少なくないようです。

日経新聞が盛んに報じているところでは、政府は情報収集不足で、イギリスやドイツの参加を読めなかった、そのために参加判断が遅れたとのこと。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO85697430V10C15A4EA1000/

しかし、仮に情報収集がうまくいって、G7主要国の参加が読めたとして、「じゃあ日本も入ろうか」となったかと言えば、そう簡単にはいかなかったでしょう。「海のシルクロード」や「一帯一路」など、中国の地域覇権戦略と密接に結びついたAIIB構想に、日本がすぐに乗れるはずもありません。

アメリカでも、AIIBへの参加をめぐって賛否が分かれているようです。例えば、経済学者のジョセフ・スティグリッツはアメリカも参加すべきという立場で、「アジアのインフラ投資を援助することは、アメリカの貿易促進というオバマ政権の方針と合致するはずだ」とコメントしています。インフラの欠如は、関税よりもはるかに貿易上の障害となる、というのがその理由です。
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-aiib-us-opposition-by-joseph-e–stiglitz-2015-04

他方、ケネス・ロゴフは多国間の国際援助は失敗することが多く、AIIBも成功するかどうか定かではないと慎重な見方を示しています。世界銀行などの既存機関に問題が多いのは事実だとしても、中国式のインフラ投資モデルがそれを上回る成果を上げるとは思えない、と。私も同感です。
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-aiib-recommendations-by-kenneth-rogoff-2015-04

すでにアジア開発銀行(ADB)などで発言権を持つ日本は、AIIBが国際援助の仕組みとして本当に機能するものなのかどうか、中国の戦略的意図がどこにあるのかを見極めながら、慎重に判断すればいいと思います。

私が気になるのは、AIIBそのものというよりも、この手の議論になると必ず出てくる日本人の固定観念の方です。

例えば「人口が多いアジアはこれから発展する」という見方。確かに人口が多い国は、労働者も豊富で消費市場としても有望ですから、成長する可能性はあります。しかし、人口が多ければ発展するというほど資本主義のメカニズムは単純ではありません。もし人口大国の方が成長に有利なのだとしたら、なぜ資本主義はオランダやイギリスのような人口小国で誕生したのでしょう?

国際開発援助がこれまで必ずしもうまくいかなかった理由は、ロゴフも指摘するように、資金が足りなかったからではありません。融資を受ける側の国に、ガバナンスの欠如や官僚システムの腐敗、長期的な見通しの甘さなど、様々な問題があったためです。

つまり行政システムに未熟な部分があったり、国民国家としての統合がまだ十分ではないために、せっかくの融資が長期的な発展につながらなかった。この問題をクリアしないと、いくら援助資金の額を増やしても効果が薄いのです。

人口大国は、人口が多い分だけ国がまとまりを欠き、国家の秩序形成に時間がかかるという問題があります。言いかえると「国づくり」が容易ではない。本当に国際援助が必要になるのはこの部分です。いくら潜在的に市場が大きくても、よく機能する国家がないと長期的な経済発展は望めません。「これからは人口が多い国が発展する」というほど、経済発展の仕組みは単純なものではないのです。

したがってAIIBが出来ても、うまくいくという保証は全くありません。中国には中国の思惑(インフラ投資を自国の軍事戦略と結びつける、など)があるのでしょうが、国際的な緊張が高まる昨今の状況を考えれば、そう首尾良く進まないでしょう。日本が対応を考える時間は、まだ十分にあります。

それにしても、TPPといいAIIBといい、どうして日本はこうも他国からの仕掛けに弱いのでしょう? この手の議論になると、すぐに「バスに乗り遅れるな」という反応が出てきますが、そのバスが正しい行き先であるかを確かめなければ、飛び乗っても事故に遭うだけです。

ことAIIBに関しては、まだ中国が広げた大風呂敷の域を出ません。日本は慌てず騒がず、今後の動向を見ながら参加の是非を慎重に判断するということで良いのではないでしょうか。外国投資よりも、まずは国内投資を活性化する方が先のはずですから。

PS
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https://www.youtube.com/watch?v=4OQ4DnbgVS0&feature=youtu.be

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【柴山桂太】AIIB幻想への4件のコメント

  1. きらきら より

    有名なジョークを思い出しました。海に飛び込ませたいときに、各国の人にどのようにいうのが良いか?という、ジョークです。因みに日本人は、「あなた、飛び込まなくていいんですか?  ほかの男の人は、みんな飛び込みましたよ」

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  2. たかゆき より

    AIIBは悪質な賭場♪しかも賭場の胴元は支那ですよ支那!!自称中国などと大層な国名を名乗ってますけど実態は悪党の巣窟でございましょう。悪党の手先共が甘い言葉で誘ってなさるようですが、、素人さんが手慰みに行くような博打場ではございません。もし日本が手を出したらケツのケまで毟られる  に有り金全部賭けますとも。。。(3万5千円しかないですけど)

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  3. 匿各希望 より

    > どうして日本はこうも他国からの仕掛けに弱いのでしょう?上の「日本は」の部分を、強い弱いという観点ではなくて「誰が?」「なぜ?」というふうに掘り下げないと、単なる持論展開コラムだし、構図の分析にもならない。

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  4. 神奈川県skatou より

    >しかし、仮に情報収集がうまくいって、G7主要国の参加が読めたとして、>「じゃあ日本も入ろうか」となったかと言えば、そう簡単にはいかなかったでしょうもう一手先を考えてみれば、というのが、報道にはよくあるようですね。ステレオタイプな「バスに乗り遅れるな」で文末を飾れば記事の一丁上がりというところで記者の頭はオワッテルのではないでしょうか。魂のない官僚が引用山積みして最期に「グローバル化」と言えば仕事した気になるのと同じですね。構造改革も市場開放も、実は新聞テレビら報道業界にこそ必要だったということかもしれません。己の陳腐を日本全体に投射してカイカクと叫んでるのでなければよいですが。。>もし人口大国の方が成長に有利なのだとしたら、なぜ資本主義は>オランダやイギリスのような人口小国で誕生したのでしょう?先生のこのご指摘は「中国は大国で次世代のリーダー」という安直な固定観念、きっと100年前のアメリカもそうだった?、に対する極めて重要な気づきを与えるものですね。IT業界でシステムなぞ作っていますと、かならず障害とかバグとかに悩みますが、業界では規模と障害数は比例するという常識があります。よのなか、適度な規模というものがありそうですね。

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