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2015年3月27日

【上島嘉郎】安倍談話に望むこと(その三)

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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戦後70年の安倍談話に関する政府の有識者会議「21世紀構想懇談会」の第2回会合が3月13日に開催されました。
議事録の要旨は以下の総理官邸のホームページに公開されています
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/dai2/gijiyousi.pdf

座長代理の北岡伸一氏が、先の大戦を「侵略戦争」と位置付けたことに関し委員らの見解が分かれましたが、要旨を読んで気づくのは、先の大戦の原因を日本に求める視点ばかりで、当時の米英はじめ諸外国の思惑、敵意や悪意、憎悪や妬みといった要素にほとんど目配りのないことです。

日本以外の国がその国益を追求するのは咎めないが、日本が同様の道を歩むのは罪である、という感じです。「日本が周囲との協調に失敗し、国策を誤ったのだ」という基調が懇談会の現在の大勢です。

しかし、本当に日本のみが国際の平和と安寧の秩序を乱したのか。
有識者とされる人たちの見解は、結局、日本を「侵略国家」と断じた東京裁判史観に合理的な疑いを抱くことなく、その後の連合国軍総司令部(GHQ)による検閲下に、国を覆うようにつくられた“鏡張りの部屋”の中に居続ける人たちのもので、それを破って外に飛び出し、自由に思考の翼を広げたうえで省察したものとは言えない。

北岡氏はこう語ります。
「日本の1930年代から1945年にかけての戦争の結果、多くのアジアの国々が独立したが、日本がアジアの解放のために戦ったという事実は、あまり確認できない。

多くの意思決定において、日本は、自存自衛、日本の自衛のために──その自衛の感覚、方向は間違っていたのであるが–多くの決断をしたのであって、アジア解放のために、決断をしたことはほとんどない。

アジア解放のために戦った人は勿論いたし、結果としてアジアの脱植民地化は進んだが、日本がアジア解放のために戦ったということは、誤りだと考える」(議事録要旨より)

北岡氏や、先の大戦を「侵略戦争」と位置付けたい人たちは、「大東亜会議」の意味を汲む気はまったくないようです。

昭和18年11月に東京で開催された大東亜会議には、我が国の東條英機首相のほか張景恵(満洲国国務院総理)、汪兆銘(中華民国=南京国民政府=行政院院長)、ワンワイタヤコーン殿下(タイ王国首相代理)、ホセ・パシアノ・ラウレル(フィリピン第二共和国大統領)、バー・モウ(ビルマ共和国国家主席)、チャンドラ・ボース(自由インド仮政府首班)の6首脳が参加しました。

深田祐介氏の『大東亜会議の真実』(PHP新書)に詳述されていますが、第二次近衛内閣が唱えた「大東亜新秩序の建設」という方針を「大東亜共栄圏の確立」というスローガンに置き換えたのは松岡洋右でした。

「大東亜共栄圏」は、欧米の植民地勢力をアジアから駆逐し、アジア解放を果たし「共に栄えてゆこう」という理念で、日本国民の間に急速に浸透していきました。

米英を敵国とする戦争が「大東亜戦争」と正式呼称されたのも、こうした思想が背景にあったからです。

しかし、開戦の詔書にも明らかなように、大東亜共栄圏の確立は当初の戦争目的とは直接結び付いていません。北岡氏の述べるように、たしかに第一義は、日本の「自存自衛」でした。

大東亜戦争に公明正大な理念を掲げようと努めたのは重光葵でした

昭和16年8月、米大統領ルーズヴェルトと英首相チャーチルは大西洋憲章に署名しています。

憲章には、「領土不拡大」「通商・資源の均等開放」などと並んで「民族自決の原則」が謳われていましたが、チャーチルは当然のごとく、民族自決の原則はイギリスの植民地に対し適用されるものではない、インドやビルマは例外だとイギリス国会で答えました。ルーズヴェルトもそれに異を唱えるはずはなかった。

米英は、自らの手にあるケーキを手放すつもりはない、というわけです。(この大西洋憲章が戦後の国際連合憲章の基礎になっています)

昭和17年4月、外務大臣に就任した重光葵は、

「大戦争を闘う日本には、戦う目的について堂々たる主張がなければならぬ。自存自衛のために戦うというのは、戦う気分の問題で、主張の問題ではない」

「日本の戦争目的は、東亜の解放、アジアの復興であって、東亜民族が植民地的地位を脱して、各国平等の地位に立つことが、世界平和の基礎であり、その実現が即ち、戦争目的であり、この目的を達成することをもって日本は完全に満足する」

と訴え、それまで「自存自衛」のためとしてきた戦争目的に、「アジア解放」という理念を加えたのです。これには大西洋憲章に対抗する意味もありました。

重光のこの構想に東條英機も共感し、東條は積極的に共栄圏外交を展開したのです。

もちろん、遅きに失した感はぬぐえません。昭和18年8月1日にビルマを、10月14 日にフィリピンの独立を承認して同盟条約を結び、同23日に自由インド仮政府を承認、30日に中国の汪兆銘政権と同盟条約を結ぶという大急ぎの外交作業となったことは事実で、これを以て「アジア解放は結果であって、大東亜戦争の目的ではなかった」という見解も、「当初においては」否定できない。

しかし、ある時間の一点で決められたことが、その後も全体を規定し続けるものだという決めつけも出来ません。大東亜戦争は、歴史の大きな流れの中で、日本人が強く意識しようとしまいと、人種間の対立を背景にアジアにおける白人列強の積年の理不尽と対峙する性格を必然的に有していたのです。それを「宣言」するかどうか。

戦争を「他の手段をもってする政治の実行」と考え、その点からの反省を導き出すなら、日本にとって返す返すも残念なのは「大東亜会議」の開催が遅すぎたこと、そしてなぜその内容をもっと大々的に世界に向けて訴えなかったかのかということです。

白人列強を向こうに回してアジア解放を「軍事的」に達成し得るかどうかはともかく、「政治的」にはアジア解放という戦争目的を世界に向けてはっきり掲げておくべきでした。たとえ敗れても戦いに大義があったということ──それは一種のプロパガンダでもありますが──、こちらの「大義」を周囲に印象づけておくことは政治的に不可欠でした。

結果的に日本は敗れ、連合国側によって大東亜会議は「アジアの傀儡による茶番劇」とされ、参加国の存在だけでなく採択宣言もすべて否定されましたが、世界史的にみれば、大東亜宣言は、戦争目的とその背景にある理念において、日本が米英と対等に立ったことを意味するものだと私は考えます。

平成の御世に生きる日本人のどれほどが大東亜宣言の存在と内容を知っているか。

大東亜宣言(正式は「大東亜共同宣言」)は以下のとおりです。

抑も世界各国が各其の所を得寄倚り相扶けて万邦共栄の楽を偕にするは世界平和確立の根本要義なり

然るに米英は自国の繁栄の為には他国家他民族を抑圧し特に大東亜に対しては飽くなき侵略搾取を行い大東亜隷属化の野望を逞しうし遂には大東亜の安定を根底より覆さんとせり

大東亜戦争の原因茲に存す

大東亜各国は提携して大東亜戦争を完遂し大東亜を米英の桎梏より解放して其の自存自衛を全うし左の綱領に基づき大東亜を建設し以て世界平和の確立に寄与せんことを期す》

「左の綱領」とは、

一、大東亜各国は協同して大東亜の安定を確保し、道義に基く共存共榮の秩序を建設す

一、大東亜各国は相互に自主獨立を尊重し互助敦睦の實を擧げ、大東亜の親和を確立す

一、大東亜各国は相互に其の傳統を尊重し、各民族の創造性を伸暢し、大東亜の文化を昂揚す

一、大東亜各国は互惠の下緊密に提携し、其の經濟發展を圖り、大東亜の繁榮を?進す

一、大東亜各国は萬邦との交誼を篤うし、人種的差別を撤廢し、普く文化を交流し、進んで資源を開放し以て世界の進運に貢獻す

「共存共栄」「互助敦睦」「伝統尊重」「経済発展」「人種差別の撤廃」が主眼です。

昭和天皇も大東亜会議には強い関心を示され、その外交を支持されました。他国の人間は知らなくとも、日本人がこの宣言を知っておくことは、明治開国以後の父祖の苦悩苦闘を汲むうえで不可欠の一つでしょう

もう一つ。北岡氏は、「日本がアジアの解放のために戦ったという事実は、あまり確認できない」と述べ、「日本がアジア解放のために戦ったということは、誤りだと考える」と結論されましたが、当のアジアの指導者たちは何と語っているか。

「日本のおかげでアジアの諸国は全て独立した。日本というお母さんは難産して母体をそこなったが、生まれた子供はすくすくと育っている。今日、東南アジアの諸国民が米英と対等に話ができるのは、いったい誰のおかげであるのか。それは、身を殺して仁をなした日本というお母さんがあったためである。十二月八日は、我々にこの重大な思想を示してくれたお母さんが身を賭して重大決意をされた日である。我々は、この日を忘れてはならない」
(タイ元首相ククリックド・プラモード氏)

「あの戦争は我々の戦争であり、我々がやらなければならなかった。
それなのに全て日本に背負わせ、日本を壊滅寸前まで追い込んでしまった」(インドネシアの元首相ブン・トモ氏)

例示はこの二氏にとどめますが、東京裁判史観に沿わない“アジアの声”は日本国内ではあまりに聴くことがない。戦後70年経っても変わらぬ“鏡張りの部屋”の堅固なことを示しています。

PS
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【上島嘉郎】安倍談話に望むこと(その三)への5件のコメント

  1. 正直屋 より

     村山談話は「侵略戦争史観」に終始していますが、安倍談話は「自衛戦争史観」を追加できるかどうかも怪しいのであって、さらに「解放戦争史観」に言及することなどあり得ないでしょう。 そもそも日本はアジアとはとは異なる独自の文明を養ってきたのであって、日本がアジア解放を掲げたこと自体、自画像を見誤ったという意味において「国策の誤り」と言わざるをえません。中国と朝鮮の関係でもあるまいし、タイの首相に「日本というお母さん」などと言われる義理はありません。 戦後七〇年の節目にあたり総理大臣が談話を発表するというならば、我が国の長い歴史の中に先の大戦を位置づける機会とすべきですが、そうしてみれば、我が国が過去の一時期、アジア解放の使命感を抱いたことに、歴史的必然性あるいは民族的内発性が全く欠けていると気づくはずです。 そんなことよりも、わが国は占領期を除いて主権を保持したのだから、「自存自衛」の戦争目的をほぼ達したといってよい。安倍談話は、このことを積極的に評価したうえで、先人に倣い主権を保持しつづける決意を表明すべきです。 北岡氏はめでたくも「国際協調」のみによって我が国が「自存自衛」を貫徹できたと考えているようです。当時アジア・アフリカのほとんどの地域が植民地であったことすら忘れているのでしょう。しかし、北岡氏を批判する論者も、「解放戦争史観」というノイズに惑わされて、焦点を見誤っていると思います。

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  2. 竹下 より

    懇談会の内容見ましたが、発言主の具体者名は載ってませんでしたが、たぶん北岡氏の見解に抵抗してるのは、中西氏とあと一人二人だけっぽいですね北岡氏は、「偕行社も南京大虐殺を認めた」などと大嘘を吐いておりましたが偕行社は『南京戦史』発行当時でも不法虐殺なんて認めてませんし最近の刊行誌でも「戦時プロパガンダだった」と結論付けていますしかしいまだに北岡氏は見解の修正もしてません安倍さんがこの人を重用してる限り、70年談話もはっきりいって期待できませんあと、主張に明確な誤りがあるようで、インドネシアの独立を許さなかった等々書いてありましたが1945年9月の独立を日本政府は約束してましたよね?

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  3. amakkou より

    敗戦後の教育か? 日本は戦争前・中に悪いことを世界に向けてやったのだと教えたし、教えられる側も面白くないので日本に興味を持ちえなかった。 海外に出て日本の歴史・伝統の価値を語れない日本人のなんと多いこと、公的レベルでも私的レベルでも!  もったいないね。こういった学識経験者たちは今まで教えたとおりの事しか今も語れないのでしょう。 日本人としての誇りを捨てさせられた戦後の”常識”如何にとらわれず、その近代日本の歴史過程にも真っ直ぐな目を向けて事実を知るのは、特に現代の日本を担う国民の一人一人の義務・責任ではないだろうか。 世界に発信し異論にも議論できる情報をもてば米国での中国での韓国でのアノ砂上楼閣的現実に反論するのは常識となる。  しかしなあ、 この大東亜共栄圏構想における真実の精神をオバマ大統領はしらないであろうなぁ。  彼好みのアイデアではないかな。 

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  4. たかゆき より

    東京裁判は魔女裁判!日本人は魔女であるから原爆や焼夷弾で子供や女性までも生きたまま火炙りにしA級戦犯は絞首刑異教徒に対するキリスト教国の殺戮や収奪の方法は昔から首尾一貫してますね。そしていまだに日本人は魔女としての自白を強要されつづけている。傲慢不遜な彼等の所業にはふつふつと怒りがこみあげてまいります。

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  5. 大塚 学 より

    安倍談話に望むこと,同意です。しかし、良い事も、悪い事も過去の事は立証は難しくまた、談話は各国が受け入れられるものであるべきです。さりとて、北岡氏の結論にも同意はできないので、まったく別視点の第三の案とでもいうべきアイデアが必要だと思います。終戦時、政府に騙されて戦争をしたのだと、政府を責める国民の状況をみて伊丹万作氏は言っています、「騙すものも悪いが、騙される者がいなければこの戦争は起きなかった。今、反省することも無く騙されたと政府責める国民はまた、同じように騙されるのではないか、いや、もうすでに何者かに騙されているのかもしれない。」と、ルソーは言っています、「人間の腐敗の原因は人より優れていると認められたい欲望からなる。」と、まったく別の視点から未来を見据えた談話を作ってもらいたいものです。

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