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2014年12月26日

【施 光恒】年末愚考f(^_^)

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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おっはようございま〜す(^_^)/

あっという間に年末ですね。
年末ということで先日、大掃除をしておりました。私は普段、部屋を散らかし放題にしてしまうほうですので、大掃除は毎年、一大イベントです。

ですが、片づけの最中に手に取った本や雑誌の記事などを読みこんでしまい、いつもなかなかはかどりません。先日もだらだらと掃除しておりましたら、古い『文藝春秋』(2005年5月号)の巻頭の塩野七生氏の随筆が目に留まりました。

「成果主義のプラスとマイナス」というタイトルで、文字通り、成果主義の人事評価システムの悪影響を扱ったものです。(このエッセイは、塩野七生『日本人へ リーダー編』(文春新書、2010年)にも収録されています)。

このなかで塩野氏は、社会にはだいたい三種類の人々がいると述べています。

第一層は「刺激を与えるだけで能力を発揮する人」、
第二層は「安定を保証すれば能力を発揮するタイプ」、
第三層は「共同体が福祉を保証しなければならない層だが、刺激を与えても安定を保証しても成果を出すことのできない人」。

割合としては、だいたい第一層の人々が2割、第二層が7割、第三層が1割ぐらいではないかと塩野氏は書いています。

そして、戦後の日本経済の成功は、「他の国々が2割に頼っていた時期に、7割の層を活用しきったところにあったのではないか」と塩野氏は推測します。

つまり、長期雇用慣行や年功型賃金などを通じて、多くの人々に生活の安定を与え、第一層と第二層に含まれる約9割の人々の力を活用した。そこに日本経済の発展の一因があるというのです。

塩野氏は、成果主義の導入は、安定を奪い、第二層の人々を委縮させ、能力がうまく発揮できない状態に置くことにつながったのではないかと懸念します。そして日本の経済力の低下は、多くの普通の人々の能力を活かしきるような条件づくりを怠ったためだと論じます。

塩野氏の議論はシンプルですが、だいたいそのとおりだと思います。

ただ、「安定」という言葉は意味するところが少し狭すぎる気がしますので、私なりに塩野氏の議論に手を加えれば、次のように言えるでしょう。

2割の人々(第一層)は、環境にあまり左右されずに能力を磨き、発揮できる。
7割の人々(第二層)は、環境がある程度整えられてはじめて、能力を磨き、発揮できる。
1割の人々(第三層)は、環境が整えられても能力を発揮することができない。

ここでいう「環境」には、言語や文化、社会制度などが含まれます。「環境」がうまく整えられれば、安定感や将来への見通しが得られます。

大多数の人々は、「環境」が整えられてはじめて、落ち着いて能力を育み、発揮できるようになります。

ところで、ここで注意すべきは、第一層の2割の人と、第二層の7割の人のどちらが有能かは一概には言い難いということです。

自動車に喩えれば、第一層の人々は、どんな悪路でもへっちゃらな四輪駆動車です。四輪駆動車は、悪路でも走れるという意味で環境に左右されにくいですが、常にベストな車というわけではありません。例えば、悪路でも走れるようにいろんな装置を搭載していますので、車体は大きく重くなりがちですし、価格も高くなります。大きな騒音も出します。小回りも聞きません。

第二層の人々は、いわゆるセダンといいますか、普通車です。悪路だとあまり使えませんが、舗装がある程度行き届いた街中ではまったく問題なく走れます。普通車のほうが四輪駆動車よりも、小回りが利き、燃費が良く、価格も安いということはめずらしくありません。

F1などのレーシングカーも、環境に左右されやすいという点で、第二層に含まれるでしょう。悪路だとまるで使い物になりませんが、段差のない完璧に舗装された道路やさまざまな調整をするスタッフ等の条件が揃えば、つまり環境さえうまく整えられれば、信じられないほどの速度で走ります。

四輪駆動車と普通車とレーシングカーのいずれが優れた車であるかは、時と場合によるでしょう。

通常、我々は、舗装道路を作るのをあきらめ、すべての車をどんな悪路でもものともしない四輪駆動車とか戦車とかばかりを作ろうなどとは決して考えません。レーシングコースのような完璧な道路を作るのはコストも手間もかかり過ぎますのでそこまではしませんが、あまりデコボコではない、ある程度の舗装道路を作ります。巷で良くみられるごく普通の車が性能を発揮しやすい環境をなるべく整えようとするのが常識的だといえるでしょう。

ですが最近は、この「環境作り」のところが軽視されているようにみえます。人間は誰でも、多かれ少なかれ環境に依存する存在です。例えば、普段、「環境」を意識しないで暮らしているアメリカのバリバリのエリートであっても、言語や文化のまったく異なる日本社会に連れてこられたら、十分に能力を発揮できない場合が大半だと思います。

政府の重要な役割とは、ある国のなるべく多くの人々が安心して能力を磨き、発揮できる環境を作り出し、維持し、発展させることでしょう。ここでの「環境」とは、当然ながら、言語や文化、歴史によって異なります。つまり国ごとに変わってきます。

日本人は、本来、この「環境作り」が非常にうまい国民だったはずです。

少し前までの日本人は、「人間は環境に左右されやすい存在である」という認識を持ち、いろいろな人の境遇を踏まえ、意見を聞き、よりよい環境とは何かを模索してきました。そして、皆で相互に協力して目標となる状態を作り出し、整え、なるべく多くの人々の活力をできる限り引き出すように努めてきたのです。それが日本社会の発展につながりました。

しかし最近の日本では、「人間は環境から独立した存在であり、環境いかんに左右されるべきではない」というアメリカのエリート層の一部が好むような浅薄な人間観が流布しています。

日本人がせっかく秀でているはずの、多数の人々が能力を発揮できる「環境作り」の努力を半ば放棄し、7割の第二層の存在を認めず、これらの人々を2割の第一層の人々に改造することばかりに精を出しています。いわば普通車(F1カーも含む)をできる限り四輪駆動車に改造するぞと意気込んでいます。

当然ながら、この改造の試みはうまくいかず、また「環境作り」もほぼ止めてしまった状態なので、結局、多数の人々が落ち着いて能力を磨き、発揮することのできない停滞した社会を作り出してしまっています…。(F1カー的な、ずば抜けた潜在能力を持つ一部の人々も、才能を発揮できません…)。

ここ約20年間の新自由主義的改革は、いってみればそのような無益な試みだったんジャマイカ…
(_-ω-`)ウーム

などと、考えておりましたら、一向に年末の片づけが進みません…

散らかった部屋で、資料を探し出すのに相変わらず無駄な時間をかけています。
エラそうなことをいっていないで、まずは部屋の整理整頓という自分の身の回りの環境整備から始めないとアカン…などと考えている年の瀬でした…
f(^_^)ポリポリ

長々と駄文を失礼しました。良いお年をお迎えください!
<(_ _)>

PS
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【施 光恒】年末愚考f(^_^)への8件のコメント

  1. ソウルメイト より

    秀逸な譬えで深く感銘を受けました。塩野七生さんと言えば、古代ローマ帝国の興亡についての考察を数々の著作に記しておられますが、なぜ今日イタリア半島の一地域に過ぎないごく狭い範囲に居住した部族が地中海沿岸からヨーロッパの大半に及ぶ地域にまでその支配を及ぼし得たのかについての問いは、今日でも重要な示唆に富むと思います。(ある民族の興亡は、支配領域の広狭、人口の多寡、資源のあるなしに必ずしも依存するものではない、というような)。その塩野さんの半言隻区から、想を起こしてこれほどまでの考察につなげられるとは、さすがだと思います。文明論、社会論、産業論、社会論にまたがる壮大な考察に発展するように思いますが、このままで終わりにするのはあまりにも惜しいと思いますので、是非続きを何らかの著作にて読むことか叶うなら幸甚に存じます。

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  2. やまねろん より

    最近ラジオで取り上げられていて「面白い話だなぁ」と聞いておりましたが、今回は車の例えが加わり、鮮明に情景が浮かんできます。本当に、人も物も、適性や用法を考えて活かすべきですよね。「環境作り」についてですが、私は明治維新の頃から、下手になって行ったと思います。そして敗戦、新自由主義の到来に伴い、最早それまでの自分がどうであったのか、何に適していたのか、何を考えていたのかさえ分からない状態に陥っている気がします。混浴と裸体が良い例となるのですが、江戸時代までの日本においては、混浴、裸やそれに近い恰好でいようとも、それは日常の一コマでした。 (※江戸近辺の混浴禁止令は現在でいう性風俗と絡んでおり、江戸の郊外では混浴の公衆浴場が普通に存在していました)しかし、幕末に欧米人がやって来ては、混浴や裸に近い恰好をジロジロ見物しては、けしからんと言い、本国に帰ると「日本は野蛮で未開の国である」と書籍も出して喧伝しました。この時期の政府や官僚は、兎に角「外国に馬鹿にされたくない」意識が強く、欧米に阿るようにして、それまでの日常であった混浴や裸体を取り締まることに躍起となりました。その例が、暑いからと自宅内で服を脱いで裸同然でいた女性が、外からわざわざ覗き込んで来た警察官により逮捕されるという珍事件に現れているでしょう。女性は裸同然で警察官に引っ張り出され、それに同情した近所の人が服を掛けてやるという具合です。それまでの日本は開けっ広げにして、場面や状況に応じて裸の意味が変わる風習。一方で、欧米はひた隠しにして取り繕うことを重視する風習。但し、隠すからこそ本音は裸を見たい、覗きたい、触りたい。当然、裏では春画も買い漁る。しかし、表では野蛮でけしからんと喧しく言う。明治期に来日し、盲目的で無かった外国人は、「この素朴な風習(混浴)は、?無理解でお節介な外国人?によって駆逐されてしまうことだろう」と述べています。簡単に言ってしまえば、空き巣が発生し始めたら、皆が家の戸締りを厳重にするようになるからです。実際には、明治の日本人エリート層が喜び勇んで外国に阿り、庶民を「愚民」扱いしては、?西洋のように教化する?ことに躍起となりました。自分で自分を否定することを選び、捨て去ったまま振り返りも見直しも総括もせずに来た次第です。

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  3. 言起 より

    施先生のメルマガ、毎回読んでいて有意義かつ楽しいので贔屓にさせていただいております。施先生の立ち位置に共感します。来年度も期待しております。ps.トークショーなどのイベント情報はぜひ巻末に記しておいてくださいね(特に大阪での)。

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  4. ゆう より

    行き過ぎたグローバル化には反対ですね。フィリピンや韓国のような国になってもらいたくないです。でもこのままだと冗談でもなんでもなく彼等と同じ道を辿りそうな感じがして不安ですね、

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  5. (仮)端池 碧 より

    初コメントさせて頂きます。私も施さんの意見に同意です。最近はとにかく「優秀」「エリート」「トップ」と言った”平均以上”が良いとされています。当然ながら平均より上は良いのでしょうが、逆に”平均自体”を底上げするのも重要なのではないでしょうか?学校でもAクラスには天才くんがおりテストは全教科100点でも他の子は平均30点。一方Bクラスは天才はいませんが、全教科の平均点は85点。しかも点数は最低75から最高95点。さて、この2つのクラスで何かする場合どちらがよいのでしょうか?戦争の天才ナポレオン率いるフランス軍に対しドイツは凡人100人を集め知恵を絞りました。天才と凡人その結末は・・・・・本来はより良い結果を出す、が少数の天才を育成する(その結果は問わない)に代わってしまったのではないでしょうか?長文・駄文失礼しました。

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  6. 匿各希望 より

    というか、「理想的にうまくいく」ということが稀(というかゼロかもね)であって、たいていは「グダグダ・ダメダメ」が延々と続く中で無常の結果いまに至る(未来も)、なんだと思いますけどね。これは二十年間というスパンどころか百・千でも似たようなもんでしょ。自意識が大きくなって自意識内の世界を観てるつもりでいるなら、まずは目の前の掃除をしっかりやりましょう。・・・なんて思っていたら、最後にその旨が書いてありましたね。はい、すみません。良いお年を。

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  7. レイ より

    施先生のおっしゃることに同感です。私は二十数年前に来日したのですが、あのころの私は日本という環境にいかに適していなかったかがよく分かりました。言葉が通じない、何が何だか分からない状況でした。必要に迫られて日本語を猛勉強し、やがて日本という環境で何とか生きられるようになったのですが、「環境」っていかに大切かがよく分かりますね。よそから来た私は、慣れない環境で苦労するのが当たり前ですが、日本で生まれ育った日本人は恵まれた環境で生活していると思います。が、おっしゃる通り、最近日本がおかしくなりつつあり、せっかくできた良い環境を「破壊」しつつあるような気がしますね。例えば、日本人はせっかく母国語で勉強などできるのに、最近「英語化」とかといって日本の「言語環境」をわざと悪くしているようなことがあったりしまして。日本の皆様に日本の文化や伝統や「環境」をもっと大切にしてほしいと、つくづく思います。

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  8. たかゆき より

    オフロードバイクも捨て難い♪2.5層(たぶん)の僕は、、、F1など高嶺の花セダンにも手が届きませんけどオフロードバイクなら岩山でも登れますし悪路も平気なんたって燃費の安さは桁違い先の震災では_斗雲なみの活躍来たるべき震災でも重宝するものと存じます。いざというときには2層未満から逸材が出現するやも知れず、、と愚考するしだいでございます。

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