From 藤井聡@京都大学大学院教授&内閣官房参与
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●2015年の世界と日本はどうなるのか?
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2017年に10%に増税をするなら、中長期の公共投資プラン、すなわち、例えば、5年で50〜70、80兆円程度(年間10〜14、15兆円程度)の、
「アベノミクス投資プラン」
とでも言うべきものを断行することが必要不可欠である、という事は、前回も申し上げた通りです。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/16/fujii-121/
こうした投資プランがあれば、その直接効果のみならず、民間の需要、投資が誘発されるという間接効果が大きく生じ、デフレと増税ショックを乗り越える力が我が国にもたらされる、一方でそれがなければ、我が国は将来的に「恐慌」とも言いうる状況に陥ることすら危惧される、という次第です。
ただし現状は、こうした「アベノミクス投資プラン」が実際に断行されていく見通しは、極めて立てにくい状況にあります。
なぜなら我が国は、基礎的財政収支(政府の収入と支出の差分)、すなわち、プライマリーバランス(PB)について、次のような強烈な「目標」を掲げているからです。
「PBの赤字を、2020年度に黒字化させる。」
http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPTYE95507A20130606
この目標を達成するためには、必然的に徹底的な「財出削減」が企図されることとなります。
例えば現在、8%増税ショックに対して対処するための補正予算は、3.5兆円程度が予定されている、という旨が報道されています。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20141219-OYT1T50021.html
(まだこれは確定したものではありませんが)この3.5兆円という水準は、昨年度の5.5兆円より2兆円も少ないものです。これはいわば「2兆円のマイナスの財政政策」とも解釈できるものですから、8%増税ショックに対する対処となり得るというよりむしろ、そのショックをさらに拡大する可能性すら危惧されます(無論、別途の手立てがあるなら別ですが….)。
つまり、補正予算や今後の投資計画の水準は、「デフレ脱却」という至極当たり前の動機のみならず、「PB目標を達成する」という別種の動機にも大いに影響を受けているのが実情なのです。
ただし繰り返しますが、PB目標の達成をあまりに重視しすぎると、成長が不能となり、肝心かなめの「税収」が縮減し、最終的には、
「財政が悪化」
してしまう事が危惧されます。
そして実際、過去のデータを見れば、その「危惧」は単なる「危惧」ではなく、「現実」であったことが見えて参ります。
こちらのグラフをご覧ください。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=598259810274966&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
(なお、債務を中央政府のものだけに限定し、かつ、借換債の分も加えた場合のグラフは、こちら。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=597788840322063&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater)
こちらのグラフは、デフレに突入した1998年以降のPB(プライマリーバランス)と、債務対GDP比(名目)の推移を示しています(このグラフにおける債務対GDP比(名目)とは、中央政府の累積債務の、GDPに対する比率を意味しています。なお、データは全て1998年で基準化しています)。
ご覧の様に、98年以降、リーマンショックによる急激なPB悪化時期を除くと、PBは徐々に「改善」しています。
ところが、その「PBが改善している期間」において、債務対GDP比(名目)が改善していたのかと言えば….その真逆に「悪化」(!)してきたのです。
この問題について、こちらのグラフを使って、もう少し詳しく見てみましょう。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=598260493608231&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
(なお、債務を中央政府のものだけに限定し、かつ、借換債の分も加えた場合のグラフは、こちら。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=598124163621864&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater)
こちらには、「PBの変化率」と「債務対GDP比(名目)の変化率」との関係を示しています。
ご覧のように、経済ショックがあった期間を除くと、98年以降、PB改善が債務対GDP比(名目)の改善に明確に結びついているのは、たった2年度しかありません。一方で、PBが改善しているけど、債務対GDP比(名目)が悪化している期間は、実に8年度もあるのです。
これらの結果は、少なくともデフレ下では、PBの改善に気にするあまり財出を縮小してしまえば、名目GDPが必然的に縮小すると同時に、税収も縮小し、累積債務がさらに拡大する事を示しています。
その結果、こちらには、PBの改善を企図すればする程に、債務対GDP比(名目)が「悪化」してしまうのです。
. . . . .
以上をまとめると、次のように言えるのではないかと、筆者は考えます。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=598134973620783&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=1&theater
今、我が国政府は「債務対GDP比」を改善することを、財政目標の最重要目標として掲げ、その上で、そのための「手段」として「PBの改善」を「中間目標」として掲げています。
しかし、1998年のデフレ突入以後、「PBを改善」すればするほどに、「債務対GDP比(名目)」が悪化しているのが実態です。
この事実は、PB改善目標なるものが財政規律を守る上で、「極めて不合理」である可能性を、明確に示しています。
そもそも国際的に、PBを目標に掲げている国家は、日本一国だけなのであり、それ以外の諸外国は皆、債務対GDP比を、財政目標に直接掲げているのが実態なのです。
http://www.mof.go.jp/english/international_policy/convention/g20/20130906_fiscaltemplate_aes.pdf
(なお、2002年、小泉首相、竹中担当大臣のご判断でPB目標が日本に導入されてしまった、というのがその経緯です)。
恐らくは他の国々は、PB目標を掲げている限り財政政策を機動的に遂行していくことが不可能となることを知っており、自らの手足を縛るようなPB目標を掲げる事を回避し、「債務対GDP比」を直接の目標に掲げることが合理的であると判断しているものと考えられます。
折りしも、安倍総理は成長と財政再建の両者を同時に達成することを目標としているのです。その点を考えますと、諸外国と同様、成長に明らかにマイナスの影響を及ぼす危惧の高いPBを目標に据えるのではなく、「成長」と「財政再建」の両者を評価し得る「債務対GDP比(名目)」を目標に据えることが得策であることは明らかです。
ついては我が国においても、政府の手足を縛り、挙げ句に財政悪化をすら導く、いわば「毒矢」のような「PB目標」から、グローバルスタンダードとも言いうる「債務対GDP比(名目)」を直接目標に掲げることが、日本の未来の命運を分ける最重要課題の一つなのではないかと、筆者は考えています。
是非とも、本件についての前向きな議論が我が国においても活発化し、日本の成長と財政再建が共に達成させ得る合理的な「財政目標」が設定されますことを、心から祈念いたしたいと思います。
PS
財政再建の目的とは、本当に政府債務の削減なのか?
なぜ、不合理なことが行われているのか?
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【藤井聡】「PB目標」は「財政悪化」を導いている。への5件のコメント
2014年12月24日 8:17 PM
60年代終わりのギャグなら 「あっとおどろくためごろ-」、 最近ではNMB48からAKB48に移籍した まーちゅんこと小笠原茉由がコジハルこと小嶋陽菜 の「えっ」と驚き白眼をむく物真似があるのですが、 「PB目標を絶対目標にして 債務対GDP費の改善はかる」なんてことをわが国政府が考えているとj初めて知って、「えつ」とコジハルのように白眼をむいてる状態です。株式会社ならブレ−クイ−ブン達成が目的で利益は要らない、ROEなんて知ったことかと経営陣が言っているのと同じ。当期利益はすべて債務返済にまわせということです。政府と書けば政(まつりごと)の府で卑弥呼の時代を思い浮かべてしまいますが、英語では GOVERNMENTで GOVERNは舵取りに由来しています。 日本政府は国家の舵取り、 あるいは国家の経営をするところのはず。企業経営なら、 売り上げを増やし、従業員の所得を確保し会社としての利益を上げて成長させるのが経営です。日本政府は国家経営の中核組織として第一にGDPを増加させること, そのために企業の生産財にあたる国の公共財に投資をすること、そして公共財への投資にあたって投資の為の資金調達の源泉として税収と債務の割合をどうするのが健全なのかを考えるのが基本でしょう。日本政府のやっていることは 帳尻合わせるのに必死で合法の範囲でバランスシ−トをいじくりながらの合法の範囲の粉飾報告で誤魔化し続け、問題の核心を放置悪化させて結局解散になる会社の経営陣のようです。 「なぜ帳尻を合わせるのが困難になったか」 言い換えれば問題の核心が「経営」そのものであるならこの企業は誤魔化しながら間違った経営を続けて、その行き着くとこは破綻です。日本国の経営では国債は円建なので債務上の破綻はないにしても、日本社会が破綻します。
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2014年12月26日 12:42 AM
12月23日の日本放送「ザボイスそこまで言うか!」という番組で、評論家の宮崎哲弥さんが藤井教授の名を上げてこの件を取り上げていました。彼も藤井教授に賛成の立場で「日本と同じPB目標はかつてチリが一時的に採用したことがある以外どこの国も採用していない」と言っていたのを聞き、とても驚き財務省への不信感が増すばかりでした。いったい何故、他の先進国が全く導入してもいないPB目標なる珍妙なものを、2002年に小泉首相と竹中担当大臣はわざわざ日本に導入したのでしょう?小泉氏は経済の専門家ではありませんから、明らかに竹中氏こそがその責任者。そしてデフレが続き、倒産、自殺、貧困家庭、生活保護費が増加し続けてもこれを放置していたのは財務省。彼らは責任者として、この件で国民が納得できる説明をする義務があります。そして、明らかに失政を犯したならそれを認めて修正する責任があります。財務省と竹中氏に取材し、原因と責任を究明する記事が書ける新聞や経済誌が日本にあれば良いのですが、万が一藤井教授の提言をマスメディアが無視したら、それは財務省と竹中氏の権力が今の日本でそれ程強大だと晒したも同然。もう財務省解体しかない!と、多くの国民が思うことでしょう。
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2014年12月27日 5:35 AM
何時、日本は破産したん ?今、政府が遣ろうとしてる事は、会社で言うたら倒産した後の更生法に伴う更生計画そのものやんけ。(最終的には何処かの子会社化………。)借金、借金、言うけど日本に借金無いやんけ。高度成長期に頑張った日本人が莫大な貯金をしてくれたカネを苦しい時に引き出して何が悪いねん。その為の貯金やろ。(内部留保)無駄遣いはアカンけど、生きたカネ使わなどうすんねん。減税処置は遣らなアカンけど、給付金なんか只の死に金や。(一時の物)生きたカネとは、カネがカネを生むと同じく将来役立つ物に投資すると言う事や。(国土強靭化=設備投資)間違ったらアカンのは『カネが在るから物が在る』ではなく『物が在るからカネが在る』。所詮カネなんか物が無ければ只の紙切れと同じや。それにカネの価値なんか一寸先は闇、ルーブル見たら解るやろ。リフレ派もロジックは同じなんやけど、民間と国家を分けて考えるからアカンねん。金融政策=民間企業に財政出動(投資、雇用)を促す為の政策。財政政策=政府が投資、雇用、をする政策。つまり金融政策も財政政策もどちらも財政出動やらなアカンと言う事。民間も政府も同じ事をやればええだけの話や。後はバランスの問題。
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2014年12月28日 11:26 AM
営利企業上がりの民間人が選挙から選ばれるのだから財政収支は数年で均衡させるのは常識だし政府会社の目的は黒字だから株主(議員)の利益を最大化させるために社員(国民)を如何に競争させて安く使うかを考えるのは当然か。政府はNPOだし寿命は選挙の度に伸びるから赤字は(内国債なら)100年先に返しても良いと思うが人の想像力は簡単に時間と死を越えられないのだろう。デフレ脱却と財政再建を「同時」に達成しようとすれば資本主義は既に自滅して発展途上国になってるか金融経済に依存する格差社会になるだろうか。政府は財政再建を目的にしないで欲しいです。デフレ脱却して国内投資が進めば赤字企業も黒字になって自然に税収も増えるし成長も後から付いてくるでしょう。藤井さんの仰る通り是非政府には長期的な公共投資の見通しを示して貰いたいです。
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2014年12月28日 6:53 PM
「手段」と「目的」PBの改善が 手段ではなく目的にすり替わってはいませんか?もしそうだとすればPB原理主義原理主義者とは話が通じない議論はかみ合わないというのが僕の認識でございます。ならばどうするか?皆様に目を覚ましていただくしかありません。目を覚まさなければどうなるか?QOLの低下無知は罪、、 罪には罰がもれなく付いてまいります。
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