From 適菜収@哲学者
——————————————————–
●三橋貴明公式チャンネルに最新Videoが登場
https://www.youtube.com/user/mitsuhashipress/videos
——————————————————–
全体主義は上から下への一方的な権力の行使ではなくて、自発的に行動する大衆が存在してこそ、成立する。アレントも『全体主義の起原』で言っていますね。
「十九世紀の初頭以来、多くのすぐれた歴史家や政治家が大衆時代の到来を予言してきた。前世紀の半ば以来、大衆心理学に関して膨大な書物が現れ、民主主義と独裁、モッブ支配と専制の間の親近性についての、古代にはきわめてよく知られていた古い教えをありとあらゆる形で述べ立ててきた。
疑いもなくヨーロッパの政治学者たちは、少なくともヤーコプ・ブルクハルトとニーチェ以後は、デマゴーグと軍事的独裁の擡頭についても、迷信、軽信、愚行、残虐の跋扈についても準備ができていた筈である。これらの予言は今やすべて現実となった。
しかし大抵の予言がそうであるように、それらは予言者が予期しなかった仕方で実現したのである。
彼らがほとんど予見していなかったこと、もしくはその本来の結果について正しく見通せなかったことは、
徹底した自己喪失という全く意外なこの現象であり、自分自身の死や他人の個人的破滅に対して大衆が示したこのシニカルな、あるいは退屈しきった無関心さであり、そしてさらに、抽象的観念に対する彼らの意外な嗜好であり、何よりも軽蔑する常識と日常性から逃れるためだけに自分の人生を馬鹿げた概念の教える型にはめようとまでする彼らのこの情熱的な傾向であった」
結局、大衆社会の腐敗の成れの果てにおいて、安倍晋三や橋下徹みたいなのが腐臭を放ちながら表に出てきたということ。
しかし、
「なんで『国民のために、お国のために』なんてケツの穴が痒くなるようなことばかりいうんだ? 政治家を志すっちゅうのは、権力欲、名誉欲の最高峰だよ」
「自分の権力欲、名誉欲を達成する手段として、嫌々国民のために奉仕しなければいけないわけよ」
「僕は強い人の力を借りて騒ぐのが得意。国に対して言いたい放題できるのは、公明党の先生方が後ろにいてくださるから」
こういうことを言っている外道が、衆院選に出てくるというのは、今の時代を象徴していますね。
で、今回もバンドの話。
※※※
【身近なことを唄う】
山田 バンドブームは10年に一度くらいは来るよ。これも循環なんですよ。65年くらいにビートルズやベンチャーズなどのエレキブームが発生する。不思議なことにバンドブームの後には必ずアコースティックブームが来るんですよ。あの頃も、三上寛みたいな関西フォークが60年代終わりに出てきた。
適菜 GSが嫌いな人たちが「内容がない」と反発しはじめた。
山田 彼らの後に「フォークも説教臭い」ということになり、ニューミュージックが台頭する。それでディスコブームをはさみながら、パンクやニューウェーブが出てくる。いわゆる、お化粧ロック。ビジュアル系の走りですね。日本の場合タイムラグがあって、マーク・ボランが流行ったのは80年代でしょう。小林克也の『ベストインUSA』の「タイムマシーン」というコーナーで、70年代のアートロックのビデオクリップを流すわけ。それでデヴィッド・ボウイが化粧して出てくると、「あれはなんだ」という話になる。
適菜 日本の場合、グラムロック的なバンドってなんだろう?
山田 ずっと遅れてきてルナシーみたいなビジュアル系みたいになってしまう。深い意味でのグラムロックは日本では発生しなかった。
適菜 清志郎の格好は、マーク・ボランやジョニー・サンダースに影響を受けたんじゃないの?
山田 いや、あれは罰ゲームだったらしいよ。
適菜 えっ、そうなの?
山田 清志郎が演奏中にポカをやったんで、「次のステージは化粧して出ろ」ということになった。それがウケたので続けたらしい。RCサクセションは、フォーク時代はほとんど売れなかった。名盤『シングルマン』も全然売れなくて、破廉ケンチも脱退してしまう。
適菜 『シングルマン』は当時廃盤になってましたからね。それで音楽評論家の吉見佑子が動いて、再発売にこぎつけた。廃盤にしていたポリドールも「こんな名盤を廃盤にしていてすいませんでした」って謝罪したという。
山田 76年頃は、ああいうものは売れなかったんだろうね。
適菜 一曲目の「ファンからの贈り物」にはタワー・オブ・パワーが参加したり。
山田 清志郎は80年代にお化粧をして復活する。清志郎みたいに説教臭いメッセージを出していても、フォークという形態だとウザいと思われるけど、ロックの場合は意外とマスに受け入れられるという状況があったと思う。
適菜 清志郎の歌詞はストレートですからね。
山田 金持ちになりたいとか、デートしたいとか。
適菜 平和や反核がどうこうとか。それで当時、反核運動を批判していた吉本隆明が誤解して「RCの歌詞をそのままストレートに解釈してはいけない。あれには自嘲的な響きがある」みたいなことを言いだして。清志郎を擁護したつもりだろうけど、本人が「歌詞にはなんの裏もない」ってことを言っているんですよ。清志郎は、ストレートに愛と平和を唄うことが、カッコいいことだと思っていた人だからね。
山田 だから、身近なことを歌えばいいんだよ。
適菜 矢野顕子の「ラーメン食べたい」とか。
山田 野菜が食べたいとか。
適菜 そこで不思議なのが、90年代以降のJポップで「ウッフーン……このトキメキを」みたいな歌詞が異常に多いことです。日常生活で「トキメキ」なんて言葉、使わないじゃないですか。というより、正常な人間が忌避するワードですよね。
山田 「トキメキ」とか観念的すぎるよ。
適菜 「トキメキ」とか言う場合、なんかいろいろ大事なものを飛び越えてしまっている気がする。
山田 大昔から「若者の言葉遣いが貧困だ」と言われているけど、逆に言えば、才能のある人は、内田裕也みたいに「ロックンロール、シェキナベイビー」でいいんですよ。
適菜 内田裕也なんて、才能がなくても、それでOKなんだから。年越しイベント「ニューイヤーロックフェスティバル」に出てくる人、ほとんど飯食えてないんじゃないですか?
山田 オレ、実はあのイベントに出たことあるんですよ。そのときは、真黒毛ボックスというホーンセクションのあるバンドでアルト・サックスを吹いた。内田裕也やシーナ&ロケッツやジョー・山中くらいの大トリで出てくるような人は、まがりなりにも音楽で飯を食っているけど、それ以外は食えてない。
適菜 そうだろうな。
山田 あのイベントで面白いのは、大トリのバンドは序盤でやるんですよ。後半になると、客はみんな初詣に行っちゃうから。
適菜 正月早々、あの手のロックは見たくないな。
山田 尊敬はできないよね。音楽的に売れたのは、「コミック雑誌なんていらない」くらいでしょう。あれで食えていること自体が奇跡だよ。
適菜 映画『水のないプール』で、ブリーフはいて半ケツ出しているイメージしかないな。
山田 あの人の音楽には気迫は感じますけどね。「どうにかして日本の音楽シーンを変えてやろう」と考えている善意の人なんだろうけど。ジョー山中さんも、「人間の証明」くらいしかオレも知らなくてさ。安岡力也はGSあがりで、プレスリーのそっくりさんですからね。それでVシネマで俳優をやったり。そう考えると、音楽一本で飯を食うということは、いかに大変かということだね。だから、最初から食おうと思ってはいけない。
適菜 内田さんも「ロックは英語で歌え」とか、つまらないこと言うから食えなくなる。
山田 この前、鮨屋に行ったら職人が黒人だったの。それが許せないわけではないけど、違和感はぬぐえなかった。だから、オレたちが英語で唄ってアメリカでツアーをしたとしても、「何やってんだ」って思われるのが関の山だよ。
適菜 だから、大昔に終わった話なんですよ。
山田 逆に今、日本の若者は英語で唄わなくなった。そういう意味では、70年代、80年代に比べて成熟したんだろうね。成熟したのか、日本の音楽だけで満足しているのか、どちらかはわからないけど。
【ミック・ジャガーと脳内麻薬】
山田 ローリング・ストーンズもレッド・ツェッペリンもヤードバーズも、アメリカのブルースに大きな影響を受けている。チャック・ベリーやマディ・ウォーターズを聴いていたイギリスの若者が、ブリティッシュ・ロックを作り出すわけです。
適菜 当時は、アメリカの白人の若者より、イギリスの若者のほうがブラック・ミュージックを聴いていた。アメリカでは大手メディアは黙殺していましたからね。
山田 でも、イギリスの若者は、ブルースが自国の文化ではなかったので精神的に屈折していく。ストーンズも、そういう若者だったわけです。
適菜 だから、彼らには自嘲的な面がありますね。「ロックなんて、子供だましのモンキービジネス」という。
山田 それは半分は本音で、モテたい、ブイブイ言わせたい、ほめられたい、という衝動がエンジンになっていたわけでしょう。
適菜 今でもそれだけだと思います。よく、ミック・ジャガーがドラッグをやめて、ジョギングするようになったことを批判する奴がいるじゃないですか。「ロックンローラーが健康になってどうするんだ」「ストーンズは堕落した」って。でも、走ると脳内麻薬がドバドバ出てくるんですよ。
山田 あれはドラッグを自家培養しているのか。
適菜 だから、今でも薬中なんですよ。しかも、ジョギングは身体に悪いらしい。実際、ジョギング健康法の提唱者のジム・フィックスは、ジョギングが原因で死んでいますしね。ジョギングを始めると、気分がいいのでやめられなくなる。
山田 オレもタバコと缶コーヒーがやめられない。やめようとは思っているんだけどねえ。だから、それをバンド活動に昇華させたら面白いんじゃないですか。マーシャルのアンプにギターをつなげて、ばかでかい音を出しただけで、天下をとったような気持ちになるからね。チューニングのあってないヘボいギターでいいんですよ。でも、鳴らした瞬間に「ああ、これか……なるほどなあ」となる。昔の若者が車やバイクに乗ったのも同じことなんだよ。
適菜 ローリング・ストーンズがやっていることって結局そういうことなんだよね。
山田 原始的な衝動を音にしている。
適菜 日本でドラッグをやると逮捕されますよね。
山田 若者にはあまりお勧めできないねえ。
適菜 ローリング・ストーンズを目指すなら、とりあえずジョギングから始めてみるというのも一つの方法だと思うんですよ。
山田 それでホノルル・マラソンに参加してみたり。
適菜 急がば回れということもありますからね。
【綾戸智絵とリッチー・ブラックモアに学ぶ障害ビジネス】
適菜 最近、いいドラマーだなと思ったのは、スウェーデンのバンド・マッツ&モルガンのモルガン・オーギュレン。フランク・ザッパの影響も強く受けている。
山田 そう考えると、ザッパは偉大だな。
適菜 キーボードのマッツは目が見えない。彼の演奏もなかなかいい。
山田 目が見えないと、芸能に行くからね。高橋竹山みたいに。
適菜 ブルースの世界もそうですね。ブラインド・ブレイクとかブラインド・レモン・ジェファーソンとか、名前からして、そのままですからね。
山田 綾戸智絵っているじゃない。
適菜 下品な歌を歌うおばさん。あれはどうしようもないね。
山田 あの人は、離婚したりガンになったりして、一時期声が出なくなったらしい。それを乗り越えて今に至るという物語があるの。日本人はそういうのが好きでしょう。
適菜 お涙ちょうだい的な。筆談ホステスとかね。だから、バンドを結成する際には、そういう物語を捏造してもいいかもしれない。
山田 だって、筆談ホステスだって耳が聞こえているかもしれないし。多かれ少なかれ、人間はそういう物語の中で生きているんだから。「ゴッホの絵が60億円」というのも、いろいろな物語を積み上げているうちに、いつの間にかそうなってしまったわけで。
適菜 ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアも、「指が動かなくなる病気が進行している。次のアルバムはないかもしれない」(註・諸説あり)なんて浪花節で散々煽っておいて、その後に何枚もアルバム出してますからね。
山田 そもそも最初からあまり指が動いていないからね。
適菜 ははは。
山田 リッチーが若い頃、クラシックとハードロックのどちらを取るかを散々悩んだという語があって、ディープ・パープルのファンはそれが好きなんだよね。「結局、僕はストラトを選んだんだ」って。でも、実際はクラシック界ではモノにならなっただけでしょう。それでも憧れの三大ギタリストになってしまう。ロック少年は、ああいう物語に魅かれるんだよ。
適菜 バンドを組むにあたっては、病気の友達に声をかけるというのも一つの方法ですね。指が動かないとか腱鞘炎とか。XJAPANのヨシキだって、ドラムもピアノも下手だけど、こまめにヘルニアや腱鞘炎になるところがファンにはたまらないんでしょう。そもそも鍵盤の基礎ができていないから、腱鞘炎になるんだろうけど。
山田 だから、そういうのを利用したほうがいいですよ。
適菜 でも、耳が聞こえないとバンドはムリですね。
山田 いや、目の見えない写真家もいるからね。
適菜 心の目で見ているのかな。
山田 心眼で音を奏でるんですよ。皮膚でバイブレーションを感じながら。人によっては、そういうCD買うぜ。皮肉っぽい話になるけど、日本人はそういうものをありがたがりますよ。大江健三郎の息子のCDとか。
適菜 大江光。
山田 あれは、使えるものはなんでも使うという話。でも、オレたちがやろうとしていることは、もう一面では「そういうものにダマされるな」ってことでしょう。光さんの音楽を聴いて、あなたは本当に感動しましたかと。
適菜 「綾戸智絵を聴いて、本当にいいと思うのか?」と問い詰めたいね。
山田 リッチーの指が動かないなら、そんなCD買わなくていいんだよ。
適菜 しょぼい音楽しかやっていないのに、若死にしたという理由だけで評価されているミュージシャンは多いでしょう。反感買うから誰とは言いませんが。
山田 24時間テレビのマラソンと同じで、頭がいい人が「感動」を量産するわけだね。
適菜 だから、綾戸智絵と24時間テレビは同じ構造なんですよ。まわりが泣いているから、一緒に泣いたりするんだけど、冷静になったらどうして泣いていたのかが分からなくなる。スーザン・ボイルの茶番劇と同じ。綾戸智絵は三流です。
追記・この対談のだいぶ後にになって、佐村河内守さんという魂をゆさぶるミュージシャンが一世を風靡した。
※※※
【新刊のご案内】
『なぜ世界は不幸になったのか』11月25日頃発売です。1300円です。
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106471489/
☆呉智英先生との対談『愚民文明の暴走』5刷。
http://amzn.to/1rhMUtT
PS
消費増税が18ヶ月後に決定! 日本経済は底割れへと向かうのか?
http://youtu.be/FYzYGcCtZpI
【適菜収】ポンコツ解散への5件のコメント
2014年11月22日 3:06 PM
当然のことですが、ゲーテやニーチェをリスペクトするのは悪いことではありません。ただ、ゲーテやニーチェに親しむという営為に過剰な期待はかけるべきではない、ということを言いたい。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2014年11月23日 3:05 AM
『ドイツ大学の自己主張』の著者は、ニーチェから一体何を学んだのだろうかw
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2014年11月24日 3:53 PM
ブルクハルトは広く読まれた。ニーチェも広く読まれた。それでも、ヒトラーを止めることはできなかった。論理的思考力の錬磨(「抽象的観念」「馬鹿げた概念」)も事態を悪化させるだけだった。そのことを考えれば、ゲーテを読むことで、ニーチェを読むことで、古典に親むことで、学びを深めることで、全体主義の温床とされる「大衆社会の病理」なるものから免れうるかのように言うのは、おめでたいオタメゴカシでしかないことがよくわかります。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2014年11月25日 4:23 PM
・和光同塵が大衆を救うかも・小林克也は「ベストヒットUSA」・グラムロックといえば沢田研二・ミックジャガーの成功は耳を髪で隠してから・スティービーワンダーは観客の投げたビール瓶をよけたと聞く・佐村河内は20年位早かった
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2014年11月26日 8:52 PM
今回の解散で(おそらく与党の若手が)フライング万歳をやったみたいですね。あれは勝ちが見えている選挙への歓声だとは思いますが私には亡国へ向かう歓喜の声に聞こえました。過去築き上げてきた資産があるので仮に消費税を10%にしても、すぐには瓦解しないものと思いますが先生方の言うとおり確実に国富を削ることでしょう。>「自分の権力欲、名誉欲を達成する手段として、嫌々国民のために奉仕しなければいけないわけよ」嬉々として国民の嫌がることを推進するAは内政においてまったくダメでしたが、嫌々でも国民のために奉仕してくれるなら(あくまで夢想ですが)Hでもいいとさえ最近になって思えますね。野党も消費増税法案撤廃を掲げてAの消費税延期+景気条項削除の欺瞞を指摘して選挙で戦えばチャンスがあるかもしれませんが、余計な政策論をあれこれつけて結局理解されないまま終わる人が多そうですね。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
コメントを残す
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です