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2014年9月10日

【佐藤健志】近代日本に魂はあるか

From 佐藤健志@評論家・作家

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●知らないと怖いチャイナ・リスクの実態とは?
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先週は、メアリー・シェリーの有名な小説『フランケンシュタイン』を取り上げ、この作品が持つ政治的な意味合いについて考えました。

しかるに『フランケンシュタイン』は、この百年間、繰り返し映画化されてきた。

小説そのものの映画化はもとより、メアリー・シェリーがこの物語を書くにいたる過程を描いた『ゴシック』(ケン・ラッセル監督、1986年)のような作品もあります。
あるいは小説の内容と、メアリー・シェリーの人生を混ぜ合わせる形でタイムトラベル物に仕立てた『フランケンシュタイン 禁断の時空』(ロジャー・コーマン監督、1990年)のような作品も。

『フランケンシュタイン』の著作権はすでに切れているため、いろいろアレンジすることが許されるのです。
現在、公開中の『アイ・フランケンシュタイン』(スチュアート・ビーティー監督)も、そのような新しいフランケンシュタイン物語。

同作品におけるフランケンシュタインの怪物(「アダム」という名がついています)は、不死身のうえ、超人的な体力を持った存在。
そんなアダムが、現代の世界で、地上の覇権をめぐる天使と悪魔の抗争に巻き込まれる。

劇中、重要なポイントになるのは、アダムに魂があるかどうか。
アダムは死体をつなぎ合わせて、人工的につくられたわけですが、生命に魂を吹き込むことができるのは、本来、神だけのはずなのです。

悪魔はここに目をつける。
魂のない死体(の寄せ集め)が、不死身となって地上を歩き回っているのだぞ!
アダムがどうやってつくられたかを解明できれば、死人をどんどん甦らせることができるはず。

そして魂がない以上、当の死人たちには悪魔が乗りうつることも可能。
これによって「悪魔の心を持った死人の軍団」を組織、人類を滅ぼして地球を制圧するのだ!

悪魔側の総帥ナベリアスという人物は、ハイテク企業(もちろん生物工学)を率いるスーパーリッチとして描かれます。
ついでにナベリアスの計画、生者と死者の境界をなくすという究極の規制緩和で、グローバル支配を確立しようとするもの。
いわば「地獄の新自由主義者」ですな。

逆に天使側は、中世的な雰囲気の聖堂を本拠にするなど、「伝統重視の保守主義者」を思わせる。
その意味で『アイ・フランケンシュタイン』における天使と悪魔の戦いは、現在の世界の状況を反映したものなのですが、さらに興味深いのはアダムと近代日本の類似性。

というのも『国家のツジツマ』で、私は中野剛志さんとこんな話をしたのです。

「(近代化・欧米化の推進にあたり)理屈では、和魂洋才を適用し、西洋の文明を日本の文化でコントロールすれば良い。ただし、言うは易く行うは難しです」

「(文明開化の発想にしたがうと)西洋は文明が進んでいるぶん、東洋より優れていることになる。そんな東洋の魂で、西洋の技をコントロールできますか? 文明開化と和魂洋才は、根本のところで矛盾しているのです」

「裏を返せば、西洋の才を効率的に学ぼうとする場合、和魂は邪魔になってしまう。だから抑え込むしかないわけです。
先達のみなさんには申し訳ないのですが、『和魂洋才』の帰結は、ずばり『無魂洋才』だったと言わざるをえないでしょう」
(130ページ、および142ページ)

近代日本の真実について、もっと知りたい方はこちらをどうぞ。
http://www.vnc-ebook.com

アダム同様、近代日本も、じつは魂を持っていないかも知れない!

しかも、です。
近代日本の国家体制は、分権的な性格の強かった従来のシステムを、中央集権的なシステムへと切り替える形で形成されました。
死体を寄せ集めてつくられたアダムと、よく似ているではありませんか。

のみならず。
福田恆存さんは「文化とはなにか」で、わが国の近代化について、こんな内容の苦言を呈しています。

日本人は西洋文明を学ぶにあたり、各分野で異なる国を手本とした。陸軍はフランスだが、海軍はイギリス。医学をはじめとする学問はドイツで、法律や芸術はふたたびフランス、けれども工業技術はイギリスという具合である。戦後になると、さらにアメリカが大きな手本として付け加えられた。

「人間の顔にたとえて申しますと、あの人の鼻の格好はいいから、鼻はあの人のを、眼はあの人が美しい、口元はあの人が愛らしいというので、まるでモンタージュ写真のように、大勢のいいところをかき集めてくれば、それで美人ができあがるという、はなはだ奇妙な観念にとらわれて、近代日本は刻苦勉励(こっくべんれい)、先進国に追いつこうとあがいてきたのであります」

「(全体の統一性を無視して)いいものさえ集めたら、それで世界一のものができると考え、かつその考えを実行に移してきたのは、世界中でおそらく近代の日本だけがやったことだと、私は思います」
(福田恆存『日本を思ふ』、文春文庫、1995年、349ページ。原文旧かな、表記を一部変更)

いよいよもって、アダムそっくり。

「アダム」の名は、天使の女王リオノアが、神がつくった最初の人間・アダムにちなんでつけたもの。
人工的につくられた最初の人間だから・・・という意味です。
しかし福田さんの主張が正しければ、歴史上かつてない文明の学び方を試みた点で、近代日本も「アダム」でしょう。

論より証拠、「われはフランケンシュタイン」という題名が暗示するとおり、『アイ・フランケンシュタイン』では、アダムのアイデンティティ探しが大きなテーマとなっている。
片や近代日本も、いわゆる「脱亜入欧」に徹するのか、アジア人であることにこだわるのかという二つの方向性の間で揺れ動いたあげく、昭和期の戦争に突入したのです。

戦争に負けた後も、事情は大して変わりません。
『僕たちは戦後史を知らない』から抜粋しましょう。

「日本人は、戦前を本当には否定・反省しないためにこそ、戦前をしきりに否定・反省し始めた」

「自国を肯定したい気持ちと、降伏後の現実を両立させるには、世界観、ないし歴史観を『何でもあり』にするしかなかった、そんな言い方もできるだろう」
(100ページ)

戦後日本のフランケンシュタイン性について、さらに突き止めたい方はこちらをどうぞ。
http://amzn.to/1lXtYQM

そしてアダム同様、現在の日本も、新自由主義的なグローバリズムという「悪魔」と、保守主義的なナショナリズムという「天使」の対立に巻き込まれている。

こうなると映画の内容も、オカルト・アクション・ファンタジーとしての面白さとは別のレベルで、日本の行く末をめぐる寓話のように見えてきます。
天使が悪魔に勝てるかどうかは、アダムに魂があるかどうかにかかっているのですが、同じことはわが国についても言えるでしょう。

われわれに魂はあるのか?

私の公式サイト「DANCING WRITER」(http://kenjisato1966.com)でも、このような近代日本(人)のアイデンティティの問題について、さらに掘り下げています。
ぜひ、あわせてご覧下さい。

ではでは♪(^_^)♪

 

PS
知らないと怖いチャイナ・リスクの実態とは?
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【佐藤健志】近代日本に魂はあるかへの8件のコメント

  1. メイ より

     自分個人を振り返ってみても、矛盾がたくさんあり、消化しきれない情報や感情もあり、そのあたりはアダムのようなツギハギがあるような気がします。でも、そのツギハギの中心に、存在のベースのようなものがあるから、何とかまとまっているのでしょうね。 アダムもきっと、バラバラの肉体をまとめ、動かす何かを持っているから、まとまれているんじゃないかな、と思いました。それが「魂」なのかどうかは、判らないのですが・・。この映画でいう「魂」は、「アイデンティティ」なのか、「強い意志」なのか、人間を人間たらしめる良心や正義感などの「美徳」なのか、その全部なのかな?と考えましたが、詳しくは映画を観なければ判らないですね。 アダムに魂がありますように! 魂というものは、(よく判らないなりに考えるのですが)神様が与えるものかもしれませんが、人生の過程で他人と交流する事で段々と大きく育っていくもの、のようにイメージします。逆に、他人との関係で傷ついたり、迷ったり、魂が汚れて小さくなる事もあるかもしれない、ですよね・・。「自分の魂をダメにしたくない」と乗り越えようとするのは、「自分」?ならば「自分」を持つ事は大切ですね。でも「自分」のみではなく、自分を心配してくれる「誰か」のお蔭で我に返る事もある。そう考えると、人間の成長にとって「他者」がいてくれることは大切に思えます。 他者からは、愛情などの良い影響だけでなく、悪い影響(自分を否定されたり、攻撃されたり、騙され利用されたり、罠にはめられたり等々)も魂を育てる試練として必要かもしれませんが、あまりにも大きい試練だと魂を失う危険もあり、乗り越える事は容易ではないですね。 日本は魂もアイデンティティも見失って、もう瀬戸際というか、絶望的になる事もありますが、過酷すぎる試練をなんとか乗り越えられますように! 少数の先生方が、迷子状態の日本に失望しながら、「それでも」と、想い続けて、ご尽力下さっていて、それが私だけでなく、たくさんの方々や、国の魂に触れているのではないかとも感じます。

  2. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    魂があろうがなかろうが結局は同じこと。というのも、さる女流哲学者がいみじくも指摘したように、「大和魂」の正体とは、煎じつめれば、ほかならぬ「からごころ」なのだからして。

  3. バルハンハルドゥンナ偏屈男 より

    >われわれに魂はあるのか? ”無魂洋才”の言葉はまったく現代(日本人)を現していますね。(魂なんかこれっぽっちも無い私が言える事ではありませんが) 最近、佐藤さんの”未来喪失”(古本)を読み始めてました。まだかじり掛けです。この本これでもかーっと言うくらい凄まじいぶ厚さですね(なんかライフワークを最初に書いてしまったかの如く・・・)。手にして仰天してしまいました。まぁ涼しくなってきたからいいのですが。 今の時代本当の和魂なんて残ってやしないのだろうと思います。明治時代の第一次グローバル(欧?)化、そして対米(中?)戦争後のグローバル(米?)化で2度にわたって欧米化が進められたようなものでしょうから、まして現代はスピードの加速も凄まじいし、とても和魂を(残っているとして)残すことなんて・・・。まして移民加速で人も入り混じり、英語加速で言葉も入り混じり、なんもかも入り混じり、混沌として・・・・なんかホントにブレード・ランナーの世界になりそうな思いが浮かびます。 なんとなく、和魂(残っているとして)て、近代の時間(物理的なもので無く)の流れのスピードの中では、和魂は遠くに取り残されてもう見えない気がしました。 あ、魂、でしたね、和魂のことで書いてしまった(ご了承ください)。

  4. 不破 慈 より

    寄せ集め、に直接関連する話では無いので恐縮ですが。現代では、幕末維新の動乱、戦い抜いた志士達を「己が正義の為に」と解釈するようですね。中学時代に初めて耳にし、首を傾げました。当時、日本人が意識していたのは「天」と思いますが。そもそも、当時の日本にあった「(正)義」とは、儒教からの用語で、義理人情の「義」や、義によって助太刀致すの「義」です。自身の信条を絶対とし、反する他者を断罪するは、西欧的な対立二元、一神教の概念です。日本人は外人になりました。……否、寄せ集めでしたね(苦笑)

  5. たかゆき より

    無魂悪才♪この国は統合失調症です。なぜこうなったのか?ペリー提督に犯されて以来アメリカという「父」に犯され続けられておりいまもなお休むことなく犯されているから。休むことなく犯される惨じめな姿を正視することはつらいものですがこの国を犯す「父」の行為は悪であると自覚しないかぎり魂を獲得することも病状が快復することもありません(たぶん)

  6. 原幌平晴 より

    魂は物質じゃないからこそ、無くなったり抜けたりするはずがないんですよ。単に見失っているだけ。最初からそこにある。

  7. kazu より

    こんにちは。最近、何かの雑誌で読みましたが、先日のサッカーWカップで強豪国の代表は特定のチーム(例えばドイツであればバイエルンミュンヘン、とか)のメンバーを中心に構成されている一方、日本代表はほぼ寄せ集めだったとのこと。いい選手を寄せ集めれば一番強いチームができる!という発想は、明治維新期の日本に通じるものがあると感じました。代表監督はイタリア人だったのに(笑)

  8. 神奈川県skatou より

    >われわれに魂はあるのか?struggle…歩いたあとに、魂があったことに気づくのかもしれないですね。

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