From 柴山桂太@滋賀大学准教授
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英エコノミスト誌が、日本経済の「賃金の謎 the wages conundrum」について書いています。
http://www.economist.com/news/asia/21611152-even-jobs-grow-scarce-real-wages-continue-fall-feeling-pinch
記事のグラフによると、リーマンショック以後、日本の失業率は順調に下がっていますが、実質賃金も下落傾向にあります。普通、人手不足になると賃金には上昇圧力がかかるはずですが、日本の場合、そうなっていません。
人手不足であるにも関わらず、実質賃金が下がっている。これがエコノミスト誌のいう「賃金の謎」です。
その理由として挙げられているのが、非正規雇用の増加です。記事によると、6月の非正規労働者は、労働者全体の36.8%。少し前まで、非正規は全体の3割と言われていましたが、いまでは4割に近づいているのが現状です。つまり日本では、人手不足分を非正規雇用で埋めているために、実質賃金の伸びが抑えられている、というわけです。
この「賃金の謎」は、景気回復が進めば解消するかもしれません。人手不足がいっそう深刻になれば、正規であれ非正規であれ、賃金を上げて行かざるをえないですから。賃金が上がれば、人々は景気回復を実感するようになり、真の意味でのデフレ脱却に向かうことでしょう。
しかし、懸念材料が二つあります。一つは、景気の先行きが怪しくなってきたということ。13日に発表された4−6月期の実質GDPは、年換算でマイナス6.8%と、大幅な落ち込みとなりました。
増税の影響で消費が減るのは当たり前ですが、設備投資もマイナス2.5%、公共投資もマイナス0.5%と、民間・政府の投資も減っています。加えて、輸出もあまり伸びていません。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H08_T10C14A8MM0000/
これまで日本経済では、円安になるといったん輸出は落ち込むものの、その後、上昇に向かうという「Jカーブ効果」が見られました。しかし、円高が是正されて1年半が経過していますが、いまのところ輸出の伸びは鈍いのが現状です。
この外需の弱さは、一つには世界経済の調子がさえないということもありますが、もう一つ、生産拠点の海外シフトに歯止めがかからないということも大きいようです。下のロイターの記事では、「日本を介さないサプライチェーン網の構築が進んでいる可能性がある」と指摘されています。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0GK0S020140820?pageNumber=2&virtualBrandChannel=14260
これまでのように円安による輸出拡大、という景気回復の道が難しいとなれば、残る道は内需の拡大しかありません。所得を底上げし、消費を増やしていく、というやり方です。しかし、実質賃金は下落し、消費も(増税等の影響で)増えないとなれば、せっかく回復に向かいつつある景気が、いつ足踏み状態に入ってもおかしくないと言えます。
もう一つの懸念材料は、政府がこれから行おうとしている雇用制度改革です。日本経済を持続的な回復に向かわせるには、賃金の上昇が不可欠です。ところが、いまの改革案は、その逆の方向を向いてしまっているように思えてなりません。
例えばホワイトカラー・エグゼンプションは、ホワイトカラーの労働生産性を引き上げることを目的とした政策ですが、現実には残業手当や休日手当の削減を伴います。いまは年収1000万以上となっていますが、いずれ基準は引き下げられることになるでしょう。
人件費を抑えたい企業にとっては望ましいのでしょうが、ホワイトカラー層の賃金抑制は、今の日本にとって本当にプラスになるのでしょうか。いろいろ議論はあると思いますが、少なくとも賃金上昇政策ではないのは明らかです。
それでも、正規社員の賃金を抑えた分、非正規の待遇や賃金が上昇するというのなら、まだいいのですが、果たしてそうなるでしょうか。産業競争力会議は、正規と非正規の中間に当たる部分の「限定正社員」の枠を増やすという雇用制度改革を盛んに提唱しています。例えば勤務地や職種を限定する「地域限定正社員」などです。
この制度によって、非正規の割合が減り、「限定正社員」の割合が増え、かつ正社員の割合が変わらないのであれば、全体とした見た場合の労働者の境遇は改善すると言えます。しかし、非正規の割合は変わらず、「限定正社員」の割合が増え、正社員の割合が減る、ということになる可能性もあります。総人件費の抑制という今の風潮からすると、後者の可能性の方が高いのではないでしょうか。
加えて、一部で議論されている外国人労働者の受け入れ枠拡大、という問題もあります。単純労働者の数を増やし、人手不足を解消していくという政策ですが、これが賃金の引き上げにつながらないのは明らかです。むしろ、せっかく生まれつつある賃金上昇の芽を摘む結果になると思います。
改革派は、実質賃金の伸び悩みを、日本の雇用制度のせいにしたがります。しかし、本当にそうでしょうか。アメリカでも、リーマンショック以後は、緩やかな失業率の低下が見られるものの、実質賃金はほとんど増えていません。これはアメリカに限らず、先進国全体の傾向です。
http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/—publ/documents/publication/wcms_194843.pdf#page=24
上のILO(国際労働機関)のレポートでも、この点が問題視されています。例えば48頁の表を見てみると、1999年から2011年にかけて先進国では、労働生産性が14ポイント増えているのに、実質賃金は6ポイントほどしか増えていません。つまり経済の効率化が進んでも、賃金の上昇は抑えられているという現実があるわけです。
その要因として上げられているのが、技術変化とグローバル化、そして金融化と労働市場改革です。特に後ろの二つ、金融化と、労働市場改革の影響が大きいと分析されています(52頁)。簡単に言えば、株主などへの配当が大きくなり、労働保護が失われていることが、労働者の所得の抑制につながっているということなのです。
労働者の所得が上がらないのに、経済を成長させるとなれば、あとは輸出を拡大するか、バブルを興して消費を増やす(その代わり家計債務は増える)しかありません。現に、中国やドイツは前者の道を、アメリカやイギリスは後者の道を進んでいるように見えます。
日本はどうするのか。前者の道、つまり輸出拡大路線に進むことが(先に見た通り)難しくなっています。バブルを興そうにも、株価は頭打ちで簡単には行きそうにありません。何より、前のバブルの後遺症が残っているので、国民は資産運用にきわめて慎重です。
そうなると残りは、労働者の所得を引き上げていく、その上で消費や国内投資を活性化していくという道しかないように思えます。そしてそれは、日本人の大半が望んでいる選択でもあるでしょう。輸出主導でも債務主導でもない、賃金主導の成長こそ、日本が真に目指すべき道なのです。
PS
ドイツとEUの闇とは?
https://www.youtube.com/watch?v=DID9wg3PIVo
【柴山桂太】賃金の謎への3件のコメント
2014年8月21日 2:37 PM
「賃金主導の成長」。そうなってほしいですが、安倍政権は株主資本主義を志向しているように思えますので難しそうですね。外から内、グローバルからナショナル、供給から需要、といった風に頭が切り替わるべきタイミング(もうずっと前からですが。)だと思いますが、甘利大臣はさらなる消費増税に揺るがぬ意欲を見せており、表現者およびその周囲の方々が予想していた通り、デフレ脱却どころか悪化しかねない情勢だと思います。与党、野党問わず近頃の政治家はとにかくイデオロギー色が強く、状況というものを把握する気があるのか疑問に思える人が多いです。今回紹介いただいたデータも、無視したり首を傾げたくなるような解釈をしたりで、なにやら大本営を想起させる有り様です。もっとも彼らは、理想のために万難を排して突き進んでいるような勇ましい気分なのでしょう。
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2014年8月22日 9:21 AM
読んでて、真綿で首を締めてるような感じに思えてしまいました。何故か、シクラメンのかほり、の替え歌が、それらしくはないけど浮かびました。真綿ぁフリぃしたぁ、(時代錯誤的有識者集団)エコノミンテルンほどぉ、(悪玉菌とは気づかず(あるいはアジェンダ大熊手のように)重宝されるネオリベ宗教スパイ集団)国家詐欺的ぃモノは無いー。(外交スパイはもとより、経済スパイの国家的オレオレ詐欺までをも信じてる、あちこちに繁殖した企業政治家) 別に替え歌でなくてもよさそな支離滅裂コメントでした。‥更に支離滅裂フレーズ思考‥トッブダウンドリルオレオレ詐欺政策目白押し。満員派遣分断経済虐殺御礼。
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2014年8月24日 7:18 AM
文末の「賃金主導の成長」を潰してきたのが、自民党を始めとした新自由主義勢力だったのではないでせうか?ミンス・社民連合もそういう事を掲げて政権交代しましたが、「日本列島は日本人だけのものじゃない」と、特亜に媚びる発言をしたイマジン鳩も内心では、日本列島は「ウォールの民の為」のものだ、とでも言いたかったのでせうか?そういう声(株主資本主義が蔓延して、雇用から配当へを実現してきた腐れ自民の暴走への批判)れを、ネット工作員を使って攻撃してきたのが、穢れ自民だったのでせうか?東京空襲、原爆投下、日本経済イジメ(日米構造協議〜TPPの流れ)による自殺者量産特亜よりもアメの方が日本人を仰山殺してきてるのに、それに頬を被る自称保守さま。ミンスはミンスで余りにも特亜等の外国人にばら撒き過ぎたり、外国人参政権などの主権放棄とも思われる方向に行ったので、けしからんのどすが…一方で、今のアメ政権の行っている小泉改革の焼き直しの様な政策を振り返ると、ミンスに政権交代させた国民の声なき怒りの声みたいなものも見えてくる次第どす(小生は、吐き気を催しながらも自民に入れましたが)。日本人の為の政党って無いのでせうか?(保守が期待する某新党も、緊縮財政至上主義の様な財(米)務省の代弁者のような人も居る様です)今日も頑張って派遣の仕事を探そうかと思いマウス。
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