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2014年7月21日

【三橋貴明】天国と地獄

From 三橋貴明

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【今週のNewsピックアップ】
●天国と地獄
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●移民問題のタブー化を防ぐ
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チャンネル桜のお仕事で、介護サービスの専門家の皆様のところにインタビューに行ってきました。インタビュー映像は本日放映予定の「桜プロジェクト」で流れると思いますが、いずれにせよ介護とは極めて「専門的」かつ高度な対人サービスになります。何しろ、お客様(要介護者)のニーズは個別に異なり、コミュニケーションが困難になりつつある方も少なくないわけでございます。

すなわち、マニュアル的な介護というのは、不可能とは言いませんが、極めて「低品質」にならざるを得ないのです。介護福祉士やヘルパーの方々は、驚くべききめ細やかさで要介護者のニーズを理解し、サービスを提供します。言葉によるコミュニケーションのみならず、仕草、素振り、雰囲気、あるいは「空気」といったサインを見逃さず、要介護者様の「幸福」のためにサービスを提供するのが介護サービスなのです。

率直に言って、日本国民ですら難しい(と、三橋は思いました)きめ細かい対人サービスを、外国人が提供できるとは全く思いません。たとえ、日本語能力に秀でた外国人であっても、要介護者の文化、経験、価値観に根ざした「空気」を読むことは、これはもはや不可能に近いでしょう。

というわけで、介護サービスについて「外国人労働者を大々的に受け入れる」などということは、現場を全く知らない人による「奇想天外な案」としか表現のしようがないのでございます。無論、現在の日本はすでにEPA(経済連携協定)により、介護サービスの実習生(労働者ではありません)を受け入れています。とはいえ、やはり雰囲気、空気等の問題があり、言語堪能で日本の国家資格に受かった人々ですら、本格的な介護サービスを我が国で供給するのは困難とのことでございます。

要するに、介護サービスとは「超アナログ」な世界なのです。ゼロイチでデジタル的に切り捨てられる世界ではなく、マニュアル通りやっても「間違える」のが介護サービスなのです。

どうも、日本国内で「介護サービスに外国人を!」などと言っている人々は、(介護だけではないですが)製造業のラインに立つ仕事と混同しているように思えてなりません。それはまあ、ラインで単純作業に従事するのであれば、外国人でも「マニュアル」に従えば、それなりの仕事をこなすことはできるのでしょう。

とはいえ、介護サービスはもちろんのこと、現実の様々な職種には、すでに単純労働などほとんど存在しません。製造業にしても「単純労働」は次々にロボットに置き換えられ、働く人々の仕事は高度化していっています。
以前、富山に本社がある著名な薬品会社の工場を見せてもらったのですが、製造ラインは全てロボットでした。(従業員の皆様は、主に研究開発や検品を担当されていました)何しろ、チューブの中に薬品を入れる工程すら、全てロボット化されているわけですから、半端ありません。

あの時、三橋は、
「ああ、今後、製造業のライン作業のロボット化は止めることができないなあ・・・。儲かる仕事は、ヒトが動くサービスの分野(製造業の研究開発や検品も含みます)になるのだろう・・・」
と、確信したわけでございます。

それはともかく、現在の介護サービスは離職率が高く、確かに人手不足です。とはいえ、働き手がいないわけではないのです。

何しろ、日本の介護福祉士登録者数は100万人を超えますが、実際に介護職に就いているのは四割にも満たないのでございます。そして、介護職員として働く上での労働条件等の悩みを調査すると、およそ半分の人が、
「仕事内容のわりに賃金が低い」
と、答えています(出典:(財)介護労働安定センター「平成21年度介護労働実態調査」)。
日本の介護サービスの人材不足を埋める手段は明確で、賃金を引き上げることです。そのためには、介護保険料や要介護者の負担を高めない形で、介護報酬を引き上げるしかありません。すなわち、政府の財政出動の出番なのです。

ところが、現実の政府は例により財政均衡主義の呪いに囚われ、介護報酬(や診療報酬も)の抑制に躍起になっています。これでは、介護サービスの労働条件の改善は至難の業になってしまうでしょう

いずれにせよ、現在の介護サービスや土木・建設産業の人手不足問題は、「市場に合わせて人件費を引き上げる」ことで解決します。何しろ、日本人の「仕事の経験者」は数十万人単位で存在しているのです。

それにも関わらず、コミュニケーション能力に劣る外国人で穴埋めしようとしているとなると、
「人手不足の解消とかはどうでもよく、単に働く日本人の人件費を上げたくないだけではないか」
という、疑念を覚えざるを得ないのでございます。

PS
日本は国家存亡の危機を回避できるのか?
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【三橋貴明】天国と地獄への11件のコメント

  1. メイ より

     知人に介護職の人がいるのですが、外国(ほぼフィリピン)から、介護職で来る人が増えた、と聞きました。施設介護でなく、家庭に訪問して行うホームヘルパーの場合、日本人の口に合う食事を作る事が難しいようで、高齢者には脂っこすぎたりで、利用者から少々不満がよせられたりしたそうです。そういった日本の生活習慣に適応できなくて、お国に帰ってしまった方もおられたとか。 施設での仕事は、ホームヘルパーと違い、他にもスタッフがいますし、家庭を訪問して行うよりは、適応しやすいかもしれない、とも話していました。 しかし、推測ですが、ただでさえ介護現場は大変なのに、外国の方が増えて、そのフォローまでしなくてはいけなくなった場合、日本人スタッフの負担が大きくなるのではないかと、心配になります。 そして、もし、反日的な国の方が介護職として入って来る事があるとしたら、なんとなく・・、ありていに言えば、介護される方が心配・・。

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  2. 海外助教 より

    まー、私は何とか上に行けて首が繋がりそうですが、「日本に帰りたい」という点で他人事ではないですね。成長している途上国からは「修士取れれば高給取り」って感じで留学生も来るんですが、先進国では「博士とっても・・・」というところが多いようです。技術者の需要は依然として高いのですが、不景気な先進国では受け皿が無いんですね・・・その結果、相対的に中国などが科学技術でも存在感を増しています。日本は「途上国の技術が追い上げている」とか言われますが、自分で立ち止まっていて「追いつかれる」も無いもんです。はやく景気を回復させ、教育への投資で他国を引き離して欲しいです。(ついでに、俺を日本に帰らせてよ、とポジトーク)ただ、高学歴化と言っても「みんなが大学院に行く」とはならないでしょうね。大学院の基礎科学教育は「非効率」でしょうし。今回の記事の「介護は高度技能」という切り口にもあるように、専門職に必要な知識・資格を研修や専門学校で身に付けていくようになるんじゃないかなあ。技術が加速して、毎年新しい装置が生まれ、その研修が必要になるでしょう。(現在の「Windowsの使い方」みたいな感じで「新パワードスーツの使い方」を学ぶ)「職人さん」が尊敬されるようになりますね。そういう、各人が天職で能力を最大限に発揮できる社会が「幸福な社会」だと思います。

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  3. びちゃらん より

    >やはり、労働法から支えていかないと そう思います。’80年代、労組側が効率主義を許容し所得に組み込まされてきたし、’00年代以降、ある意味、箍(たが)(現在では死語と化した?)と言えた労働法を政府が外してきてしまった。 普通、樽だったら箍を外された時点で既にバラバラになる気がする。そもそも樽に喩えている私の考えは通用しない時代にはなっているのでしょうけど。

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  4. ななし より

    >現在の介護サービスや土木・建設産業の人手不足問題は、「市場に合わせて人件費を引き上げる」ことで解決します。一応、介護保険法で報酬を引き上げる試みはありました。サービスの単価設定を上げたり、保険の加算項目を増やしたり。しかし、上がった報酬を事業所が吸い取ってしまってヘルパーには行き届かなかったようです。やはり、労働法から支えていかないと介護業界の待遇は悪くなる一方だと思います。地域別の最低賃金を職業別にするとかヘルパーに危険手当をつけるとか、新たに手当項目を作るとか。儲かる仕事なら、きつかろうが何だろうが労働者が集まりますものね。

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  5. あまき より

    分野によって濃淡あるかも知れないが、いま現在、高学歴のひとが職にあぶれつつあるのではありませんか。漏れ伝わるところによれば、日本だけでなく。他人事のようなコメントされてますけれど。

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  6. bundabun より

    >日本の介護福祉士登録者数は100万人を超えますが、実際に介護職に就いているのは四割にも満たないのでございます。動画では、六割だったような。

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  8. 海外助教 より

    少し前、「20年後には仕事の半分が無くなる」という話題がありました。http://www.huffingtonpost.jp/2014/01/19/rise-of-the-machines-economist_n_4629643.htmlこの類の話は繰り返し、色々な所で取り上げられているので、ご存知の方も多いと思われます。この20年という「生産性が伸びすぎる」期間は、まさに「移民問題」と同じタイムスケールで進む問題ですね。「移民が定着したと思ったら要らなくなっていたでござる」という事態が考えられます。これからの世界はエネルギーや食糧が逼迫することは確実で、「生産性の向上」は必要である一方、「あぶれた人間をどう養うか」が今以上に問題となります。失業者も飯を食い、生活がありますから、「国民を養うコスト」は今後の国家の大きな負担となるでしょう。こんな中で「人手が足りないから労働者を増やそう」と安易に考えるのは危険すぎます。気候変動で食糧が高騰したことが「アラブの春」などの政情不安を招いたという分析もありますが、この傾向は今後激しくなり、中国やインドなどは悲惨なことになります。日本では、先に入った中国人移民が「困っている親族を助けたい」と言い出すのは目に見えています。日本は、現在は貧困化、長期的には高学歴化によって人口減少の傾向です。貧困は技術を停滞させ、資源・環境のコストプッシュで社会が耐えられなくなる可能性がありますが、高学歴化は人口減少と生産性向上を両立させうる望ましい傾向と私は考えています。日本の経済を健全化し、増えた所得で教育へ投資して労働力を高度化し、技能者を”パワードスーツ”でサポートしつつ、動きをロボットに教え込む等の”20年”の「流れ」を考えることが必要でしょう。単純な「人が少なくなったら労働力が」という移民推進論には「技術の進歩などを考慮していないのではないか?」と疑問があります。安倍首相はロボット産業にも関心をお持ちのようですが、そのあたりの展望を総合科学技術会議などの「科学畑」の人間との意見交換で得ていないのかな?と残念に思います。

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  9. しきしま より

    >現実の政府は例により財政均衡主義の呪いに囚われ、介護報酬(や診療報酬も)の抑制に躍起になっています。それは残念なことですが、一方でこんな法案(与野党共同の議員立法)も可決されたようで。介護・障害福祉従事者の人材確保のための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法律案http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18601021.htm教えてくださった自民党議員さんによると「これを受けて、介護報酬改訂時に反映される仕組みになる」とのこと。

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  10. 卑民ボヤッキー(筒井作品と竜の子作品が脳内腸詰状態) より

     先日からの、発汗作用の無い犬などは完全にヘタってしまう豪暑の中、民間住宅建築中現場で窓を少しずつ開けて作業に揉んどり打っていた時の事です。 雀と蝉が屋内に入ってきてしまっていて(ガラス窓なので、)、雀は痛いだろうに、窓にぶつかりながらも脱出できないでいました。蝉は養生された床の上に留まったまま(脱出を諦めたのかどうかを聞く事はできませんでした)。 窓を全開にしてから何とか外へ、雀も蝉も羽ばたいて飛んでいってしまいました。 あーあ、行っちゃった。いいことなのか何なのか?と考えてる私は、「はぁ?、何、言ってンの?ちょっとさ、大丈夫ぅ?」巷を石鹸で洗ってる…違った、訂正。世界を席巻している開国貿易狂争営利派遣人からは、気違い扱いなんでしょうね。「ヌハハハハハっ。首を洗って待っててくれ。もうすぐだよ、君を民間刑務所に入れる為の法整備が着々と進んでるよ」 もう嫌です。民民蝉はまだ居たんですか?(書いてたら少しずつ何か違うニュアンスのコメントになってしまいました。大筋は違ってないと思うのですが…)

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  11. ななし より

    元、介護事務の者です。介護業界は、本当に離職率が高いです。それも、自主退社が殆どです。理由は、先生の仰る通りなのですが、求人が多いので気軽に転職できるのも理由の一つです。ここに外国人を投入して、求人の奪い合いをさせたいのか政府の考えは解りませんが、話は単純じゃありません。介護職って、法律や書類との戦いなのです。報酬の出所が「介護保険」なので、監査がお金を取り返しに来るのです。「サービス記録の書き方が間違ってる」だの「あの書類が足りない」だの紙一枚一枚にケチをつけては、一度払った介護報酬を返上させようとするのです。この「紙一枚」、現場でサービスしてる人が書く物もあるので読み書き出来ない人に介護職は務まらないのです。私の職場にも、「外国出身のヘルパー」は居ましたが日系人だったり、日本人と結婚してる人だったので言葉の不自由な人は居ませんでした。それでも「あの人は外国の料理しか作れないからダメ」等の苦情は来てました。お役人とか政治家センセイって、本当に現場を無視しますよね。

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