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2014年7月1日

【藤井聡】「もはやデフレ状況ではない」という言葉について

From 藤井聡@京都大学大学院教授

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●●中国大暴走。日本は国家存亡の危機を回避できるのか?
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http://youtu.be/ns-sXQ-Iey0

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「経済財政運営と改革の基本方針2014」がまとまりました。

これは、日本政府の財政政策方針を打ち立てたもので、日本政府の取り組みの大きな方向を示しています。

言わずもがなですが、どれだけ立派な行政を考えていても、それに付けられる予算が1億円の場合と1兆円の場合とでは、その行政の形は全く変わって来ます。

もちろん、「予算が無くてもできること」は山ほどありますから、予算規模だけで政治の方向が全て決まる、ということは100%あり得ません。

ですが、「予算が無ければできないこと」も山ほどあります。したがって、予算規模は、政治の方向に対して、超絶に巨大な影響を持っている事は、何人たりとも否定できません。

。。。。ということで、やはりこの「経済財政運営と改革の基本方針2014」は、日本の政治の方向に対して、超絶に巨大な影響を持っている、という次第です。

さて、「この基本方針2014」の重要なキーワードの一つが、「もはやデフレ状況になく、デフレ脱却に向けて着実に前進」です。
http://bit.ly/1qK91Kl

======== 特別コラム _A君B君 ========
A君「オレはさぁ、もう貧乏状況じゃないんだ!」
B君「え” っっ? おめぇ、どう見たって貧乏じゃん!?」
A君「違うよ!オレはさぁ、今さぁ、貧乏脱却に向けて着実に前進してんだよ!!」
B君「はぁ? それっておめぇ『オレは貧乏です』言ってんのといっしょじゃん」

(「貧乏」の代わりに「モテナイ野郎」とか「シナゲロ」とか、お好きな言葉を色々とご挿入ください)
============= _閑話休題 ============

もしも、この言葉の前半の「デフレ状況にない」のが現状だと考えるなら、デフレ状況から脱却するための追加的施策(例えば、第一、第二の矢など)は、もう要らないということになります。

が、一方で、後半の「デフレ脱却に向けて着実に前進」中だと現状を認識するなら、その脱却に向けた取り組み(繰り返しますが、例えば第一、第二の矢など)が、必要だ、ということになります。

ですから、「デフレ状況でない」のか「デフレ脱却中」なのかは、政策決定においては極めて重大な判断となります。

で、「デフレなのか、デフレじゃないのか」を考える上で重要となるデータとして挙げられているのが、以下の4つのデータです。

(1)実質GDPが、現政権下で累計4.2%増加
(2)コアコアCPIが、4月時点で、前年比で+1%
(3)有効求人倍率が1.08倍
(4)賃金引き上げ率は過去10年で最高水準の2.08%
( http://bit.ly/1qK91Kl の別紙)

以上はいずれも、「デフレ脱却中」というよりは「もはやデフレ状況ではない」という記述の方をサポートしているように思われます。

ですから、これらデータだけなら、「デフレ脱却に向けて着実に前進」っていう、「まだデフレ中だ!」と言わんばかりの記述なんて不要なのではないか….とも思えてくるかもしれません。

ですがやっぱり、「デフレ脱却に向けて着実に前進」と書かざるを得ない理由は、もちろん、存在しています。

例えば「(1)実質GDPが、現政権下で累計4.2%増加」について。

この数字には、今年の1月以降の、消費税直前の「駆け込み需要」が含まれています。ですが、「駆け込み需要」は、ホントの意味での経済成長とは少々異なるものです。

ですから、その影響が比較的軽微な、昨年1月〜12月までで確認した方が、実際の経済状況は、判断し易い、ということになります。

ついては昨年データで確認しますと、実質GDP成長率は1.5%となります。

もちろん、これだけでも、それなりに好ましい水準だと言えますが、実は、名目で見ると0.9%しか成長していません。

なぜ、名目成長率(0.9%)の方が、実質成長率(1.5%)よりも低いのかというと。。。。昨年は、物価(デフレータ)が0.6%も下がったからなのです。

つまり、実際の(額面上の)GDPは0.9%しか伸びていないけど、
物価が下がる傾向、つまり「デフレ」が0.6%分進んでしまったので、
このデフレ進行分の「下駄」が履かされ、実質GDPは1.5%も伸びたように「見えた」、
というのが、去年の状況な訳です。

いずれにしても、昨年は、物価(デフレータ)が0.6%も下がったということは、デフレが進行している、とういことですね。

======== 特別コラム _A君B君 2========
A君 経済は実質成長率で見なきゃ行かんのだ!名目で見る奴はバカだ!
B君 あっそう。だったら、民主党政権下の2012年と、安倍政権下の2013年じゃぁ、景気はほとんどかわってねぇ、ってことでいいっすよね?
A君 え”……なんで….?
B君 だって、実質成長率は2012年+1.4%、2013年が+1.5%なんですよ。だから、(一応0.1%改善したとはいえ)安倍政権下で、景気がよくなった、何てことは全然ないんじゃないですか?
A君 いやいや、マンデルがフレミングでリカードがワルラスで…..
B君 もう聞いてるだけで恥ずかしいから、アホな事言うの止めろ。2012年〜2013年にかけて、物価・デフレータは0.3%改善してるし、名目GDPも0.4%も改善してる。だから、安倍政権下で、確実に経済状況はよくなってんだよ。だけど、デフレータの「改善」ってのは、「実質GDP計算する時に履かせる下駄」が低くなる事を意味してるだろ?
だから、名目が0.4%改善してても、デフレ−タが0.3%良くなってたら実質で良くなった分ってのは、結局は、0.4%からデフレ−タの改善分を割り引いた「0.1%」しかねぇんだよ。
兎に角、デフレの時に、実質で見ろ、実質で見ろっていうのやめろ。デフレの時は、名目とデフレータを見るのが大事なんだよ。
A君 お前は経済学を知らないバカだ! 経済は実質成長率で見なきゃ行かんのだ!名目で見る奴はバカだ!
B君 マジ、おめぇうぜぇな。
============= _閑話休題 ============

次に、「(2)コアコアCPIが、4月時点で、前年比で+1%」について

やはり、物価上昇を見るにしても、今年の1〜3月期は駆け込み需要があり、4月は消費税増税がありますから、4月時点で判断するのは、景気状態を判断するにあたって、適切とは言えない疑義が濃厚です。

それを踏まえると、物価も必ずしも十分に改善していると判断することは、適切でない可能性も考えられます。

さらに、「(3)有効求人倍率が1.08倍」についてですが、確かに、この数字は好ましい数字ですが。。。。「正社員」のみでみた有効求人倍率は未だ、0.61という水準です。
https://www.hellowork.go.jp/news/news.html (2013年6月3日時点)

これは、正社員になりたい人が100人いるとすると、なれない人が約40人程度いる、ということを意味しています。

最後に、「(4)賃金引き上げ率は過去10年で最高水準の2.08%」ですが、これもまたもちろん好ましい数字ですが。。。。

2人以上の勤労者世帯の実収入は、今年の4月で、前年の同じ月と比べ、−7.1%、という数字が報告されています。ちなみに、3月は−3.3%ですから、消費税増税の4月の方がさらに、この数字は悪化しています。
http://tokyo.thepage.jp/detail/20140530-00000005-wordleaf

。。。。

以上、いかがでしょうか?

いずれにしても、万一、「もはやデフレ状況ではない」という事が絶対的に真であるなら、何も無理をして、必死になって「第二の矢」なんて打つ必要なんて、さらさら無くなりますよね。

ホントに、そう判断していいのかどうか。。。。

読者の皆さんも、できれば色々な数字を包括的にご確認いただき、それに対して適正な解釈を加えつつ、「もはやデフレ状況ではない」と言えるのかどうか。。。。是非、一度、ご検討になってみてください。

以上、ご紹介まで!

PS
コラムの「A君」みたいな人に辟易しておられる方、是非一度、「文学」についてもお考えになってみて下さい。
http://doboku-ch.jp/chikudo.html

いやいや、もうちょっと「日本人」の事考えようよ….という方はこちら。
http://doboku-ch.jp/

PPS
日本人が知らない中国の戦略とは?
http://youtu.be/ns-sXQ-Iey0

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【藤井聡】「もはやデフレ状況ではない」という言葉についてへの15件のコメント

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  2. プー太郎 より

    藤井先生は、「政府」が「もはやデフレではない」と発表した際に、「政府」があげた4つの根拠を、それに基づいて検証してます。このメルマガに「景気動向指数」なる単語が出てこないのは、政府発表資料に出てきていないからです。ある単語について言及しないことを、その単語を知らないと断ずるとは、あの方顔負けのプロパガンダ使いですな。

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  3. 荒川太郎 より

    とぼけ方が下手ですね。嘘つくのが前提で工作を仕掛けてきてますが、バレバレすぎて支持をどんどん失っていることに早く気が付いた方が良いと思います。一番驚いたのは、桜の動画のコメント欄で、ほぼ上念氏、倉山氏の意見と同じことを書いていたのに、彼らのことを「知らない」と断言した人がいました。

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  4. びちゃらん より

     政の哲学、読みました。仰っておられたように口語体?で読みやすかったです。ヒト類が進化するのと一緒に肥大化してきた脳(現代マネー経済人はこれだけになってしまっている気がします)の部分でなく、大元、自然たる脳(+体細胞)の部分が触発される気がしました。 もはやデフレ状況でない・・・と思っている階層の方たちの偏狭な仮想思考理論に強引に合わせようと捻り出した言葉でしかなく、もはや私のような階層には信じられません。ある意味これは虚大な詐欺商法ですよね。もはやクーリングオフもない。 しかも政府が加担している・・・・頭痛が止まりません。(夜分に書き込みスミマセンでした。)

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  7. poti より

    我が国は経済・赤字財政のがけっぷちに立っているだからそこから一歩全身するんだ!by.政府一同尚、安全帯は付いていない模様

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  8. メタモルライン より

    あなたは上念塾に入りなさい。きっと上念塾はあなたを歓迎してくれるでしょう。

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  9. 拓三 より

    大胆な金融緩和による急激な円安、世界情勢による原油高、消費増税による消費の落ち込み、財出の大幅減。今の日本、政府の姿勢「プロパガンダ」だけで、どうにもならん状況が目の前まで来とると言うのに。現状の数値ばかり見て物事判断したら、何か有った時対処できらんで。今有る「過去」材料だけで判断するんは二流弁護士でもできる。政治家たるもの、先を見て色んなカード持っとかな。ただただ、成長戦略と名を化けた大衆に、力を求めることだけは、しない様に、毎朝祈り、マツリゴトをしとります。

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  10. きらきら より

    「デフレ状況ではない」という言葉の話は、ツジツマのところで出てきた言語環境の汚染という話にも繋がるのかと思います。また、自分の立ち位置すら正確に表現できないと、目標との距離感を見誤り、その結果、対策も誤るんでしょうね。それを循環させようものなら、目も当てられない状況になりそうです。話は変わりますが、紹介されている浜崎先生との対談は凄く面白かったです。

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  12. シュワイマー より

    負け惜しみですか?もうリフレ派なんざいらんのですよ?さっさと政治にかかわることなく卑しい本性晒す前に失せて。藤井聡参与がこのことを取り上げるのは、本業だからですよ?国土強靭化を単なる土木工事だとでも?その程度の考えで批判?もういいよ、あなたこそ本業とやらにお戻りし、ストーカー行為はお止めになったら?リフレ派はキチガイの集まり。

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  13. 大川時夫 より

    いつもの事ながらデフレ脱却に向けた政府の取り組みは歯がゆいほど手ぬるい感じを受けます。民間議員どもにかき回されているのははなはだ怪しからんと思うのです。自民党議員の口からもその有様が伺われますが、その他の自民党国会議員は何故昼寝を決め込んでいるのでしょうか、腹立たしい限りです。

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  15. 聖帝サウザー より

    以前より藤井教授に意見申し上げたいと思っておりましたので、思い切ってこの場を借りて提言したいと思います。それは日本人の土建嫌いの理由についてです。あまり触れられてない理由として、戦国武将の嫉妬があると思います。大名は城を作る際、職人を大変に重宝し、棟梁は殿様とサシで会えました。中井正清は父の作った大坂城攻略法を家康に教えて実際に落城させ、従五位下大和守の地位を貰いました。ところが、加藤や福島などの武闘派はこれが面白くない。日本という国は、貞永式目に長らく影響されるなど、鎌倉時代から武人が重要な地位を占めてきました。今なお、日本の組織は武家社会的縦社会であります。また、武人の英雄談も非常に親しまれ、ガンダムなども組織による戦争物語ではなく個人の英雄が活躍する話です。このような我が国において、城大工より英雄のほうが偉いという風潮は当然のことで、彼らの情念が今も生きているのは十分にありうるかと思います。同時に、組織という概念が希薄なわけで、パッケージとしての国土強靭化が理解されずらいのだと思います。

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