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2014年3月25日

【藤井聡】超回復,復興・強靭化と生命力

From 藤井聡@京都大学大学院教授

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本メルマガもここ数回分,ケーザイガク内部の方々や(自称も含めた)エコノミストの方々がおっしゃっている内容に対するレス系ネタが続きましたので,どうしてもチマチマ統計使ったりデータ使ったりしてしまい,恐縮です.

そもそも(レベルの低い偏狭な視野しか持たない“査読者”達にしょーもない誹謗中傷されて落とされちゃう...なんてリスクを最小化するため“だけ”に膨大な時間を費やす)査読付き論文をジャーナルでぶっ通すためでも何でも無いのに,なんでココまでチマチマやってんだか...なんて風に随分と息苦しくなって参りましたので,今回は久々に,もう少し自由な視点から,新ニッポン経済新聞の記事を考えてみたいと思います.

そもそも,人間や社会に関する事柄で,経済に関係の無いものなんて,一つも無い,わけですから,人間や社会のネタを扱ってる限りにおいて,それは全て「新ニッポン」な「経済」ネタになる訳です.

(#ちょうど,UWFも五寸釘デスマッチも皆新ニッポンプロレスを源流としていますから,文字通りの何でもありは,新ニッポンだって事も言えますよね.

でも,やっぱ当方としては,ラジャライオンとの異種格闘技戦に勝る何でもありは無いですから,やっぱ,一番は「王道」であります.ってことで,メチャ暇な方は,http://www.youtube.com/watch?v=eEc-BmXJGMgの4分過ぎから始まる,世界最高の異種格闘技戦をご覧ください.これを見れば,なんで馬場さんがここまで多くの国民に愛されているのかがよく分かる...のなら,あなたももう既それだけで超馬場フリークですw)

閑話休題.

先週土曜日から,三週にわたって,東京MXテレビの西部ゼミナールにて,本メルマガでも何度かご紹介した,震災ゴジラの佐藤健志さんとご一緒いたしました.
http://www.nicovideo.jp/watch/sm23149035

初対面でしたが,西部先生も交えて,ホントに楽しい討論となりました.

で,その番組内だったか外だったか失念してしまいましたが,佐藤さんが,復興・強靭化と「超回復」についてお話をされていたのが,大変に印象に残りました.

「超回復」というのは,筋力トレーニングなどでしばしば言われる概念で,トレーニングをして筋肉を「いじめる」と,筋肉組織が一部破壊される,しかし,その後適切な休養をすると,筋肉が元通りに「復旧」されるだけでなく,より強靱な筋肉となっている....という現象です.

先日,佐藤さんが雑誌VOICEで達増岩手県知事と対談しておられますが,その時も,この超回復という概念を,岩手県の震災復興に当てはめた議論をしておられます.
http://shuchi.php.co.jp/article/1841

このコンセプトには達増知事も賛同しておられ,まさに今,そのコンセプトで岩手の復興を進めておられるとのこと.で,よくよく考えますと,3.11を契機として,「復興」が始められると同時に,それをさらに超越した「強靭化」の議論がはじめられましたが,このプロセス自体が「超回復」と解釈することができるでしょう.

例えば,「列島強靭化論」では,最初の半分で「東日本復活」をまとめ,その後半で「強靭化論」をまとめており,その二つ併せて「列島強靭化論」と申し上げているわけですから,これはまさに,「日本国家の超回復」を目指したものと言えます.
http://amzn.to/1gQbMSk

あるいは,「デフレ脱却」を明確に掲げた「アベノミクス」の議論が生じたのも,民主党政権樹立という,ディープインパクト(!)を契機として始まった「超回復」のプロセスと言えるかもしれません(もちろん,アベノミクスが成功すれば,の話ですがw).

さらにその線で言うと,「一極集中回避,自律・分散・協調型国土を創ろう!」という,一昔前ではなかなか真正面から議論することがしずらかった国土強靱化が今,ナントカ進められているのも,民主党政権時代を起点とする「超回復」プロセスと言える様に思います.

.....っていうか,国土強靱化そのものが,「どんな事が起こっても強くしなやかに乗り越える力(=レジリエンス)を手に入れよう」っていう取り組みですから,これは結局「意図的に超回復力を身に付けよう!」という行政だと言えるでしょう.

さらにさらに言いますと,「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉(を言った,っていうこと事)で有名な物理学者の寺田寅彦氏が,関東大震災直後に,「天災飢餓」という言葉の論考を残しています.

彼は,この「天災飢餓」という言葉を使って,日本は,天災を定期的に喰って生きてきた,だから,天災が「なさ過ぎれば」,飢餓状態に陥って,体調不良に陥ってしまう,と論じています.

例えば彼は,次の様に論じています.

「植物でも少しいじめないと花実をつけないものが多いし,草履虫パラメキウムなどでもあまり天下泰平だと分裂生殖が終息して死滅するが,汽車にでも乗せて少しゆさぶってやると復活する。このように,虐待は繁盛のホルモン,災難は生命の醸母であるとすれば,地震も結構,台風も歓迎,戦争も悪疫も礼賛に値するのかも知れない。」(寺田寅彦「災難雑考」より)

いやぁ...どれだけ,この新ニッポンのリングが自由だって言っても,なかなかココまでシュート(真剣)なワザ(発言)を,この息苦しいゲンダイニッポンで繰り出すのは相当厳しい状況いですが...

それはさておき,寺田氏が言っているのは要するに,定期的にトレーニングをやって体を作ってきた人が,しばらくトレーニングをやめちゃうと体調不良に陥って,不健康になっちゃう...というお話だと言うと分かりやすいと思います.

ちろん,天災に限って言うなら,そんなトレーニングなんてやりたくも何ともない訳ですが,「忘れた頃にやってくる」以上は,仕方無いですよね...だから,この列島に生まれ落ちた以上,我々の運命と見定めて,その運命を宿命と引き受けて生きていく以外に,為す術はない...ということですね....
(例えば,http://www.youtube.com/watch?v=UHeLyKXqGD0 「また,再建しましょう!」)

....

ところで,この超回復,クルマやテレビだったら絶対に起きません.一端壊れれば放っておいても元には戻りません.つまりそれが起こるのは「生き物」だけなのです.

で,「生き物」であっても,「生命力」が弱ければ,どんなわずかな破壊でも,死んでしまう場合もあります.

つまり,超回復が起こるためには,「生命力」としか言い様のないものが必要なのです.

・・・ってことを考えますと,

「レジリエンス・強靱さ」=「超回復力」=「生命力」

なんて図式が成立しそうですね.

ってことで,国土強靱化の取り組みは結局,ニッポンという一つの(有機体としての)国そのものの「生命力」を取り戻そう,っていう運動だ,って言う風に定義することができそうです.

....で....

そんな生命力ってどんなものかというと....再び,佐藤_達増知事対談に戻りますと,佐藤さんが,宮沢賢治を引用しつつ,次の様なお話をしておられます.

「(宮沢賢治と言えば)童話が多く、農村の風土に根差している点で、彼には土着的で純朴なイメージがあります。しかし作品を読み返すと、科学的な視点がふんだんに盛り込まれているのに驚かされる。有名な詩人・佐藤惣之助も、1924年の詩集『春と修羅』をこう絶賛しました。いわく、宮沢賢治は通常の詩や文学の言葉とは無縁だ。気象学や鉱物学、植物学、地質学の言葉で詩を書いている。

『春と修羅』の「序」には、「わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です」と書かれています。人間とは生身の肉体をもった電燈(精神の輝きがあるため)で、それらが交流することで社会が形成される。そして自分は、ブルーの光を放っているというわけです! このセンスや世界観は、SF的なまでにテクノロジカルでしょう。

当方は,宮沢賢治が表現したこの「ブルーの光」こそが,生命力と呼ばれるものではないかと,強く強く感じます.

理系も文系も何もかも含んだ詩人であった宮沢賢治であったからこそ表現できたこの「ブルーの光」は,普通に生まれ,普通に生きてきた人間なら誰もが素直にすっと心に伝わる表現ではないかと....当方は思います.

で!

重要なのは,この光は,互いに共鳴し合う事で,その光を増していく,という点です.
(※ 飛行石に洞窟内の石が反応して光る..っていうあのラピュタの1シーンのイメージですね)

そして,そんな光で満たされた世界こそが,宮沢賢治が理想郷として語った「イーハトーブ」だったのではないかと思います.それは,佐藤さんがおっしゃる様に「あらゆることが可能で、正しいものの種子を宿し、罪や悲しみでさえ美しく輝く世界。」です.

超回復の果てにある私たちの世界は,このイーハトーブなのではないか....この佐藤さんのご指摘は,まさにその通りだと感じました.

.....

ちなみに,宮沢賢治は,当時,日本最初の土木技術者・「井」上勝氏の“思い”(=ブルーの光)に共鳴した日本鉄道会社の「小」川正心氏,三菱の「岩」崎弥太郎氏が,三者で日本最大の農場として作りあげた「小岩井農場」をこよなく愛したそうです.
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2013/09/koiwai_2007.pdf

彼は,イーハトーブの姿を,「三つのブルーの光」によって作りあげられた,この広大な農場の中で,感じ取っていたに違いありません.

・・・・

筆者は,「超回復」=「復興+強靭化」で目指すべき世界は,こうした思想で紡がねばならぬモノだと,思えてなりません.

そうした世界が出来た時に始めて,経世済民(世をおさめ,民を救う)もまた,何の滞りも無く進められることとなるでしょう.

下卑たプロパガンダや俗世の誹謗中傷に対する下らない対応の連続で,自分の中のブルーの光が曇ってしまいそうになるたびに....たまには,自然の中で一息ついたり,おいしいモノたべたり,綺麗な音楽を聴いたりして,その光を大切にいたわってあげるのも大切なんでしょうね(そうじゃないと,ソウルジェムが真っ黒になっちゃった「まどマギ」の「さやか」みたいに魔女....っていうか男の場合ばそんな立派なもんには慣れないですからせいぜい「餓鬼・畜生」の類になってしまうでしょうw).

・・・で.そういうのこそが,復興と超回復のために一番大切な事なんだろうと思います.

....ってことで,これで本日のブルーの光いたわりトークはおしまいです.

ではまた来週!

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【藤井聡】超回復,復興・強靭化と生命力への4件のコメント

  1. メイ より

     先生が、ご自身の必要性はないのに、細かなデータ分析をして下さった事、感謝に耐えません。きっと、すごくお疲れになったのではないでしょうか・・。私はたくさんの事を教えて頂けたように思います。チマチマ、だなんて、とんでもありません。 データさえ示されれば納得するのではなく、そのデータが得られた過程も大切である事、偉い先生でも「色々な意味で」過ちがあり得る事、それを考えないと間違いを信じてしまう事もある、等々いくつも考えさせられました。 そして、今回の投稿では、緻密さから一転して、とても大きい・・。深い呼吸と共に、自分も、何か、とても大きなものの一部である事を思い出した気がしました。 社会は、光が相互作用しあう、大きな有機体だ・・と感じました。 宮沢賢治は、とても深い知性とバランスを持った方だったのですね。 先生におかれましては入院中、少しでもお休みになれたのでしょうか?そうでありますように。  

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  2. プラグマティズムの弟子 より

    少しはお元気になられたようで、安心いたしました。私も筋肉痛を我慢しながら、イケイケドンドンで仕事に取り組んでおります。それを評価するのはあくまでも「他人様」でしかないと思うのであります。自分のためにお時間をお使いくださいますよう願っております。それではまた〜

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  3. TA より

    西部邁ゼミナール拝見しました。藤井さんと佐藤さんは以前から理念がとても似ていると思っていたので、旧知の間柄だと思っていたのですが、あれが初対面とは以外でした。対談中、互いに話を被せるように自論を展開している様子を見るに、息も合っているようで、あの西部先生が少し圧倒されているように見えました。これは次週も楽しみです。

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  4. ザキ より

    藤井先生は現在内閣官房参与であり、日本の将来を担う重責をお持ちです。そのような重い責任を持った方が、自身の経済政策観について論理的根拠を示さないのは如何なものでしょう。内閣官房参与という役職は、一般の政治家より、はるかに経済政策に対してコミットメントできると理解しております。僭越ながら、国家の経済政策を運営する立場にあるということをもう少し自覚して頂きたい、と存じます。お忙しいとは思いますが、どうか思考停止には陥らないで下さい。PSスポーツにおける超回復はデータを使って証明されています。経済で超回復を目指いしたいのなら、統計やデータとのにらめっこは欠かせないのでは?

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