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2014年1月31日

【古谷経衡】“脱成長”の手本が江戸時代という妄想

From 古谷経衡(評論家/著述家 月刊三橋ナビゲーター)

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●三橋貴明の無料動画「日本企業が中国から撤退する本当の理由」
https://www.youtube.com/watch?v=Wzz3dqOIGrY

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最近、”脱成長”というキーワードを掲げ、東京都知事選を戦っている候補がいるという。あえて名指しはしませんが、その候補は東京都庁前の第一声の演説で次のようなことを語っているので、そのまま引用したいと思います。

例えば、日本の人口は今、1億3000万人ですが、あと50年すると9000万人になる。100年たったら4000万人になる。4000万人と言えば江戸時代の人口です。江戸時代の人口とほぼ近い。そういうことになると、これは今までのような大量生産・大量消費、そういう経済成長至上主義というもので、果たして日本という国はやっていけるのかどうか。私は難しいと思います。(2014年東京都知事選挙 細川護煕候補 第一声 <演説全文>THE PAGE 2014.1.23)

これを聞いたときに、あ、また来た。と思いました。また来たというのはどういう意味かというと、「資本主義的な経済成長ではなく、たとえ成長しなくとも心の豊かな国や社会を目指して行こう」という、この手の夢想主義的なことを言う人のイメージの先にあるのが、必ず江戸時代の日本である、という点で、「あ、また来た(笑)」と思った次第です。

必ず絶対確実に、この国の社民的な傾向の言説を持つ人(経済よりも豊かな心(笑)とか)は、日本の未来像を人口が3300万人くらいでそこそこの生活水準で、いわゆる「循環型社会」だったとされる江戸時代をイメージしています。

「江戸時代は人間のし尿も無駄なく肥料に使われ、資本主義や大量消費とは程遠い、ひとびとが何処かのんびりと暮らしていて、時価やお金に追われる現代人よりも心が豊かだった社会」という文脈の中で、「低成長時代」とか「人口減少時代」とか「エコロジー・リサイクル社会」の模範として、必ず江戸時代が引き合いに出されます。

上記の候補の中にある江戸時代のイメージとは、前述したとおり「資本主義とはかけ離れた、脱成長的な心の豊かな社会」だったと思い込んでいるのでしょう。そのようなイメージの刷り込みから、この候補は「脱成長」の具体的な目標を江戸時代に求めたのです。

本コラムの過去号の中でも、私は繰り返し繰り返し強調しておりますが、江戸時代はこういった「脱成長」を良とする人々が思い描く、「牧歌的で、資本主義的な競争のない世界」とは全く逆の時代でした。江戸時代は大開発の時代で、特に江戸時代が始まる17世紀初頭から約100年弱で、全国各地で大規模な新田開発と治水事業が行われ、日本の耕地面積は2倍以上に、人口も2倍近くに増加しました。江戸時代はそもそも、「成長と無縁な時代」なのではなく、日本史上稀にみる「高度成長の時代」であったことをまず前提にしなければなりません。

この候補が言っている江戸時代については、人口の数字の部分だけが間違っていないだけで、他すべてが間違いだらけです。「江戸時代は心の豊かなエコ社会で、資本主義とは無縁」な社会とでも思っているのでしょう。大きな違いです。

当時の大坂(大阪)は、日本中から運び込まれた物資の集積地で、世界初の商品先物取取引が始まっていました。京都・大坂は両市で100万人弱の大都市圏人口(当時のロンドンや、パリ以上)で、日本屈指の大消費地であり、この地域の「大量消費」が日本経済をけん引しました。「江戸時代は大量消費とは無縁」というのは全くのウソでたらめです。

この消費を支えたのは、網の目の物流路です。北は蝦夷(松前)、南は琉球に至る海・陸の大物流網が整えられ、幕府の各種政策によってアジアで最初の近代的資本主義が展開されたのは、何を隠そう江戸時代です。17世紀の段階から日本はすでに農業国ではなく、半工業国の色彩を強く帯びていたのです。

確かに人間のし尿が無駄なく循環してリサイクルされていたのは事実です。ただしそれは現代人の考えるエコロジーの観点から行われていたものではなく、当時の農民(兼業)やし尿業者が商売としてやっていた肥料ビジネスの一環であり、資本主義的な利潤を追求して行っていたものです。江戸時代人の心の優しさが循環型社会を作ったのではありません。

江戸時代は貨幣経済が猛烈に浸潤した時代でした。大まかにいうと東日本は金本位制、西日本は銀本位制で、それぞれが変動相場で交換比率が決定されておりました。しかし、全般的に京都・大坂の近畿地方が日本経済の中心地だったので、銀が優位的でした。その交換を扱ったのが江戸では「銀座」でありまして、いわゆる「両替商」の誕生です。当然そこから「銀行」という単語が出てきます。

「江戸時代は資本主義とは無縁な、心の優しい脱成長社会だった」みたいなイメージは、ほとんど40年前位の考え方で、現在、当然のことですが、歴史学者でこんなことを言う人は存在していません(いたとしたら学会追放か?笑)。当たり前ですが、大学の歴史学科レベルの、近世史学の基礎でも、まずこの定説の否定から始まります。

しかし教科書を含めた、いろいろな教材や映画やドラマ、漫画の中で、「江戸時代は農業社会で貧しかった」みたいなイメージが一般にて定着しているのでしょう。この候補の頭の中も、40年前のイメージでそのまま止まっているのでしょう。だから平然と「脱成長の手本に江戸時代」みたいなことをいう。馬鹿らしくて話になりません。

きたる2月16日(日曜日)14:00 ー17:00に、三橋貴明経済塾第二回のゲスト講師(私も塾生ですが)としての講演では、このあたりの話をやりたいと思い、現在準備中です。お題は『本当はすごい江戸時代−17世紀から経済大国だった徳川日本−』で考えています。教材には、『カムイ伝』という漫画を用いる予定です。この漫画は、江戸時代に関する大変に間違ったイメージを拡散した世紀の大悪書ですが(笑)、このへんをじっくりと。

江戸時代の間違った認識を覆すことは、日本という国を理解するうえで、絶対に避けて通れないものです。ぜひ、興味のある方は2月16日の講演にご参集ください。場所等の詳細は、塾の掲示などをご覧くださいませ。

※本コラムは古谷経衡個人による、市井人が持つ江戸時代観に関する批評的文章であり、公選法が規定する選挙運動等では当然ありません。

PS
三橋無料お試し音声「日本経済激震」。2/10まで
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index2.php

<古谷経衡からのお知らせ>

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【古谷経衡】“脱成長”の手本が江戸時代という妄想への12件のコメント

  1. びちゃらん より

    >江戸時代の間違った認識を覆す このネオジャパネコノミズムタイムズにおいては唯一の時代劇物著述家である立場での話を以後もコンスタントに寄稿していただければ・・・と、ふと、思いましたので過去に失礼しました。 以下、とりとめのない蛇足ではあります。が。 作者が在日か反日かどうかなどは全くもって知らない高卒の流山地男の私で恐縮ではありますが、最近、影丸伝を読みたい衝動に駆られ再び読んでいます、「・・・お前は今迄自身と金しか信用しなかったのだろう・・・」と言う影丸の台詞が、現代の自由主義驀進の行き着く先を表しているような気になる・・・そんなことが腐った脳の中に浮かびながら読み続けています。 この作品、他の歴史認識に間違いはあるのでしょうけども、私は数ある作品等丸ごとは否定することができません。江戸時代三百年(現実の歴史も歪曲虚構作品も)、も肯定できることもあれば否定できることもあると思います。 そんな腐った頭のおじさんの私ではありますが、応援しているつもりの手記でした。 蛇足の追伸 そういえば(古い話を思い起こさせることで恐縮ですけど)以前、NHKでサイ監督の発言に対して番組内ではっきりと反論した京大?の教授は凄かったです。ふと今思い出してしまい書いてしまいました。

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  2. 赤い彗星 より

    古谷様なるほど、そういうことでしたか。ご丁寧にご返信くださりありがとうございました。これからも楽しみにしています。

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  3. 大西 政雄 より

    すいません。その様な義務があることを、今始めて知りました。大学の歴史の教科書の冒頭数ページを暗記している義務が?!九九ですら覚える「義務」など無いと思いますが、、、。歴史学者でこんなことを言う人は存在していません(いたとしたら学会追放か?笑)。だから平然と「脱成長の手本に江戸時代」みたいなことをいう。馬鹿らしくて話になりません。これが、伝えているだけ?!明らかに見下していますよね?馬鹿にしてますよね?馬鹿って使ってますし。伝えるだけならもっと別の言い回しがあったと思いますが、、、。

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  4. 大西 政雄 より

    どうしても、歴史学者に限定したいようですね。2つ目の例示は、歴史学者と関係の無い文脈で語られているんですが、、、。あえて対象を選ぶと「この候補は」ですが。「この候補」の方は歴史学者ですか?そうではないですよね?それとも、家柄だから知っている義務が・・・とおしゃるのですか?随分希薄な義務ですね。貴方の中の勝手な義務を押し付けられて、候補もさぞ迷惑でしょう。文章全体を見て、それがその様に語るすべての人々に対するものか、歴史学者か、この候補か、どこで、どうやって、峻別すべきなのですか?!一般の人が、貴方が思い描いた対象に限定して、話していると考える義務が?しかも、私の話の本質である、無知を良い事に大上段から罵倒する態度については、一切触れられてませんね。貴方は、こう思ったでしょう。歴史学者の所を引用している。この局地戦で勝利して、全体で論破したような雰囲気にしようと。私から見れば、瑣末な事を理由に本質から逃げているようにしか見えません。大体予想がつきます。「私は家柄などといっていない」「罵倒という程のものではない」等々。又、局地戦でしょう。私の話の本質に答えたらどうですか?!

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  5. 古事記 より

    怒りの矛先が間違っていると思います。デマ、嘘を拡げる事に対して江戸の経済、社会状況を伝えているだけと思います。貴方個人や知識の有る無しの人に対しての事では無いと思います。 〇〇氏は曲がりなりにも江戸時代の〇〇家の末裔です過去も現在もその末裔で有る事を利用して来た事も間違いの無い事実です。江戸時代からの名家ならば正しく伝える義務が有ります。

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  6. コバルト600 より

    >現在、当然のことですが、歴史学者でこんなことを言う人は存在していません(いたとしたら学会追放か?笑)。大西さんは歴史学者なんですか?歴史学者として知らないのなら、恥ずかしいという話であって、大西さんを馬鹿にしている話ではないと思いますけど?

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  7. 大西 政雄 より

    歴史学者でこんなことを言う人は存在していません(いたとしたら学会追放か?笑)。だから平然と「脱成長の手本に江戸時代」みたいなことをいう。馬鹿らしくて話になりません。貴方の話を拝読していて、顔から火が出る思いでした。貴方が指摘した通りの誤った江戸時代像を思い描いていたからです。貴方は、江戸時代の経済についてとても詳しくご存知です。一方、私は無知です。恥ずかしい言説を語る馬鹿者です。今、それを知りました。しかし、聞きたい。昨日それを知り得た者は、今日それを知りうるものを、見下すべきであるか、と。今、貴方が教えてくれたので、貴方が語った範囲の事は私の知る所となりました。この時点で、この話における、貴方と私の違いは、先に知ったか後から知ったかだけとなりました。先に知った人間は、そんなに偉いですか?貴方は、見下した。無数に居るであろう。貴方より先に知っている人間に、貴方が無知を罵倒されたら、貴方は心穏やかで居られますか?貴方は、言うでしょう。知っている人間には敬意が払われるべきだと。私は返します。知らない人間にも敬意は払われるべきであると。ちがいますか?貴方は知ってる事だけで、知らない人間を罵倒した。人を傷つける人間は、自分が同様にされても仕方が無いと私は思います。傷つける人間は、同時に傷つけられるべき存在であるからです。そして、貴方が知ってる事だけで自分を誇っているなら。私は、貴方ではなく、テレビか図書館から知りたいです。何故なら知ってるだけで、罵倒したりしないからです。テレビか図書館が貴方と同じか、貴方以上に知っていたとしたら、貴方の存在価値はなんですか?それは、貴方独自の考察。発見でしょう。貴方独自の考察は何処になりますか?無知で馬鹿らしい私に是非教えてください。

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  8. 古谷 より

    赤い彗星さん>江戸後期に大坂40万人、京都30万人で合計70万人という統計があり、都市圏でみたときは100万をゆうに超えてくるようです。

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  9. ポケット より

     40年前と言えば‥‥丁度ワシの幼少期時代。わしゃ完全に脱成長刷り込まれたのか?。そう言えば…全く背が伸びてないっ。 カムイ伝2部では正助は千葉に当たる開拓をしていました‥‥が、もう、差違監督のお陰で執筆中の第三部も陽の目を見るタイミングを失ったのかもしれない。 すみません、思いつきなコメントで。>当時の農民(兼業)やし尿業者が商売としてやっていた肥料ビジネスの一環…実態循環(そう言えばバックトゥザフューチャーのマッドな博士もごみをそのままエネルギーに変換してたなぁ)

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  10. かずまき より

    経済成長ということばからは落ち着いた社会生活が浮かんできません。限られた資源を奪い合うのでなく、分け合うこと、粗末にしないことはあたりまえのことです。だから、「お花畑」と揶揄したり笑いものにすることはもうやめたらよいのに、とおもいます。貨幣経済で取引する社会にあっては、ゆるやかなインフレでないとジリ貧になるだけです。だから物価が緩やかにあがる、給料やかせぎが緩やかに増えてゆくことが不可欠です。しかし、実際に取引する商品やサービス自体は増やさなくていいのです。名目貨幣経済としての経済成長が確保できればいいんです。わたしはそう理解しています。

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  11. らいど より

    銅銭や鉄銭というった希少価値の少ない鉱物を使った貨幣供給は、今現在行われている金融緩和と大して変わりませんしね。

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  12. 赤い彗星 より

    全く仰っているとおりで、江戸時代は非常に経済が発展した時代で、その発展に貨幣の供給が追いつかなくて貨幣改鋳が何度も行われたわけです。ところで>京都・大坂は両市で100万人弱とありますが、100万人なのは江戸で、京都・大坂は30万人程度だったと思いますが。

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